ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
271 / 291

崩壊の足音(2)

しおりを挟む
 話し声が聞こえていたようで、キースの左手は前髪にセットされていた。これ以上エリアスとルパートが余計なお世話を焼いたら、即座に前髪を掻き上げて魅了する気だ。

「二人ともいろいろと助言をしてくれてありがとう、ロックウィーナが世話になったね」
「うっ……」
「ああロックウィーナ、今夜も逢いに来てくれて嬉しいよ」
「くぅっ……」

 禁呪を使われた訳ではないのに、ルパートとエリアスは右手でそれぞれ心臓を押さえた。

「さぁロックウィーナ、部屋にお入り」
「ま、待て……!」

 すがるエリアスをキースは冷たく一瞥いちべつした。

「何?」

 魅了が怖いエリアスはキースと目を合わせられずに呟いた。

「我々は決してキミ達の仲を邪魔しようとしているのではない。ただ仲間として、ロックウィーナやキース殿ともっと親睦を深めたいと思っただけだ」
「そう、そうなんだよ! 俺達にやましい気持ちは無いから」
「へぇ、ロックウィーナだけではなく、僕とも仲良くなりたいの?」
「当たり前だろ、俺達は仲間だ。みんなで楽しく過ごそうぜ!」

 キースはニッコリした。

「僕は構わないよ。でも何をしたらいいんだろう。プライベートなお喋りは食事中に行っているから、話し足りないってことは無いよね?」
「う……」

 最も手っ取り早い友好手段「会話」を封じられた。ルパートが歯軋りしたが勇者はめげなかった。

「……ジェンガをしよう」
「はい?」
「ジェンガだ。楽しいバランスゲームだ。スズネの部屋を改装した時に出た木材が有るはずだ。それを積み上げてみんなで競おう」
「いいねぇジェンガ! 俺上手いよ? 天井近くまで積んじゃうよ? そっからドンドン引き抜いちゃう!」
「……………………」

 流石のキースも言葉を失った。デートの邪魔をする為に、21時にジェンガをしようと提案した29歳と28歳の男達を憐れんだのだろう。私も泣きそうだ。

 ダダダダダダダ!!!!

 その何とも言えない鬱な空気をはらったのはギルドマスターの荒々しい足音だった。

「あれケイシー、今夜もギルドに泊まるのかい?」

 マスターは家庭を持っているので基本は家に帰るが、多忙な時期は治療室のベッドを使って泊まり込みで仕事をする。
 眉間に三本もしわを刻んだマスターは、キースの質問には答えず指示を出した。

「キースにルパート、至急みんなを会議室へ集めてくれ。屋根裏部屋のスズネにも声をかけてな」

 それだけ伝えてまた乱暴な足取りで彼は階下へ去っていった。残された私達は顔を見合わせた。

「……何だ?」
「判らないけど……、ケイシーのあの顔を見る限り緊急事態が起きたようだ。言われた通りにみんなを会議室へ集めよう」
「ロックウィーナ、キミはスズネを呼んできてくれるか?」
「はい!」

 私達は散って仲間達に声をかけた。こんな時間に何だろう。
 とても嫌な予感がしたが、現実はその予感を上回る深刻さだった。


「王都が落ちた」

 向かった会議室には聖騎士三人組が揃っていた。険しい表情をしたルービックが発した第一声により、久し振りだと懐かしむ感情が吹っ飛んだ。

「王都……陥落……? そんな馬鹿な」
「嘘だろ? だって王都には大勢の兵が居るじゃないか!」

 エンとマキアが引きった顔で否定の言葉を述べた。

「王都は霧の巨人兵に敗れたのか?」

 アルクナイトの確認にルービックが重々しく頷いた。

「そうだ。国王陛下と王太子殿下は崩御された」
「ち…………」

 アルクナイトは腕を組んでイスの一つに座った。
 正に悪夢を見ているような気分だった。王都には第二師団と第七師団を除く国の全ての兵力が集中していたのだ。
 私達は王都を攻めあぐねた霧の巨人兵が、フィースノーや他の都市へ攻略対象を切り替えると予想していた。それがまさか……。王都すらかなわなかった相手に、地方都市が勝てるとはとても思えない。
 そんな状況でもアルクナイトは冷静だった。

「王都周辺も霧に呑まれたのだろう。現存している街の中で、武力らしきものを保持しているのは何処と何処だ?」
「無事なのはラグゼリア王国南方に位置する地域だけだ。大きな街はここフィースノー、レクセン、そして建設途中の港街だけとなった」
「ちょっと待ってくれ!」

 エリアスが会話に乱入した。

「父が統治するディーザ領はどうなった!? アルの魔王領は!?」

 ルービックは苦しそうに告げた。

「ディーザ陥落の報は、二日前に王都に入っていたそうだ。王都からの早馬が知らせてくれたよ。ディーザ領と隣接している魔王領もおそらくは……」
「くそぉ!!!!」

 エリアスが叫び、アルクナイトは唇を噛んだ。
 そんな。そんな。エリアスとアルクナイトが帰る場所を失ってしまった。

「スズネ!?」

 私にしがみ付いていた鈴音が会議室の床にへたり込んだ。

「私が運ぼう」

 使い魔猫に呼ばれたのだろう、宿屋から駆け付けてくれたソルがスズネを抱き上げてイスに座らせた。立ち尽くしていた私達もそれぞれイスを選んでテーブルに着いた。
 皆はまるで死刑判決を受けるような顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...