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絶望の向こうへ(1)
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エリアスを先頭に、鈴音、私の順で延々と続く螺旋階段を昇っていた。
時おり階下からズウゥゥン……という振動が壁を伝わってくる。大ホールに残った仲間達が人喰い霧相手に激しい戦闘を繰り広げているのだ。
だいぶ昇ってきたので、もはや彼らの声までは私の耳に届かない。みんなはまだ無事だと信じて重くなった脚を動かした。
「ふう、ふう、ふう」
「エリアスさん待って下さい。スズネが限界です」
こちらの世界では健康体として活動できる鈴音だが、戦士ではない少女の脚で長い螺旋階段は相当にキツイようだ。
壁にもたれかかってぐったりする鈴音。エリアスが屈んだ。
「スズネ、私の背に乗れ」
「でも……そんなことしたらエリアスさんが余計に疲れて……」
遠慮する鈴音を問答無用でエリアスが背負った。
「まったく……。この階段しか移動手段が無いとはな。これでは頻繫に最上階と行き来できないだろうに」
「私……二度と現実世界に戻るつもりが無かったんです。そんな私の想いが作用して、宮殿はこんな造りになったんだと思います」
「そうか……。現実世界はキミにとって優しい世界ではないのだな……」
そう言ったきり、鈴音を背負ったエリアスは黙々と階段を昇っていった。私も彼に続いた。
本当に本当に長い階段だ。天国にまで続いているんじゃないかと思わせるくらいに。
体力の塊であるエリアスの呼吸音が乱れ、私の太腿が盛大に悲鳴を上げた頃、ようやく頂上が見えてきた。
「ロックウィーナ、あと少しだ頑張れ!」
「はい!!」
私は気力を振り絞って残りの階段を昇った。もう脚がガクガクだ。
塔の頂上に在ったのは小部屋だった。
「これは……? この小窓は何だ?」
部屋に入り鈴音を降ろしたエリアスは、室内を不思議そうに見回した。
「……世界を映す小窓です。宮殿の一階にも似たような部屋が在って、私はそこで世界を観察していました」
なるほど、モニター画面か。現実世界を知らないエリアスには小窓に見えるんだな。壁という壁に設置されている画面。
「ほとんどの小窓が真っ黒だ」
「もう、その小窓が映す先が存在していないからです」
「………………」
まだ作動しているモニター画面はざっと見た限り二つだけだった。近くの壁にその内の一つが設置されており、私はその画面に目が釘付けとなった。
「みんな!」
それは宮殿大ホールの映像だった。別れた仲間達が霧の巨人兵と戦っている。私の隣にエリアスも並んだ。
画面の中でアルクナイトが放った光の矢が二本、一体の巨人兵の胸にグサグサと突き刺さった。巨人兵が前屈したところへ、ルパートが走り寄り剣で首を刎ねた。
「やった!」
「いいぞ、アルにルパート!」
私とエリアスは歓声を上げたが、すぐに蒼ざめることになった。
倒した巨人がブワッと霧に戻り、その一部がルパートの身体を包んでしまったのだ。
ルパートは横へ飛んで霧の中から身体を移動させたが────遅かった。
彼の左手指先が分解を始めたのだ。
マキアがルパートへ駆け寄ろうとしたがルパートが叫び、マキアは足を止めた。モニター画面の音声機能がオフになっていたので聞こえなかったが、ルパートのことだ、きっと「来るんじゃねぇ!」と叫んだんだろう。
仲間から離れた位置で、ルパートの身体は徐々に分解されていき……最後はバッと散った。結婚式に撒かれる紙吹雪のように。
「ルパート!!」
「嫌あぁ、先輩!!!!」
離れた場所に居る私達には何もできない。そして戦いは継続中だった。
画面の視点が切り替わり他の仲間達の姿も順に映された。十体以上居ると思われる巨人兵相手に、衣服のあちこちに血を滲ませた仲間達が懸命に立ち向かっていた。
アルクナイト、ソル、キース、マキア……。彼らだけだった。エンとユーリが居ない。黒猫も一匹だけになっていた。
「嫌だ……みんな……みんな……」
キースがアップで映された。汗を掻いた彼は大きく肩で息をして苦しそうだ。障壁と治癒魔法の乱発で魔力が尽きかかっている。
「私、下へ戻ります!」
階段へ向かおうとした私をエリアスが抱き留めた。
「馬鹿! 今行った所で何ができる!?」
「でも! でも!!」
愛する人が倒れようとしている。それを黙って見ているしかないなんて。
そして作動しているモニターが二つだけという点が、更に私の胸を掻き乱した。地上を映しているものが無いのだ。つまりそれは、地上全てが霧に呑まれたということを示していて……。
時おり階下からズウゥゥン……という振動が壁を伝わってくる。大ホールに残った仲間達が人喰い霧相手に激しい戦闘を繰り広げているのだ。
だいぶ昇ってきたので、もはや彼らの声までは私の耳に届かない。みんなはまだ無事だと信じて重くなった脚を動かした。
「ふう、ふう、ふう」
「エリアスさん待って下さい。スズネが限界です」
こちらの世界では健康体として活動できる鈴音だが、戦士ではない少女の脚で長い螺旋階段は相当にキツイようだ。
壁にもたれかかってぐったりする鈴音。エリアスが屈んだ。
「スズネ、私の背に乗れ」
「でも……そんなことしたらエリアスさんが余計に疲れて……」
遠慮する鈴音を問答無用でエリアスが背負った。
「まったく……。この階段しか移動手段が無いとはな。これでは頻繫に最上階と行き来できないだろうに」
「私……二度と現実世界に戻るつもりが無かったんです。そんな私の想いが作用して、宮殿はこんな造りになったんだと思います」
「そうか……。現実世界はキミにとって優しい世界ではないのだな……」
そう言ったきり、鈴音を背負ったエリアスは黙々と階段を昇っていった。私も彼に続いた。
本当に本当に長い階段だ。天国にまで続いているんじゃないかと思わせるくらいに。
体力の塊であるエリアスの呼吸音が乱れ、私の太腿が盛大に悲鳴を上げた頃、ようやく頂上が見えてきた。
「ロックウィーナ、あと少しだ頑張れ!」
「はい!!」
私は気力を振り絞って残りの階段を昇った。もう脚がガクガクだ。
塔の頂上に在ったのは小部屋だった。
「これは……? この小窓は何だ?」
部屋に入り鈴音を降ろしたエリアスは、室内を不思議そうに見回した。
「……世界を映す小窓です。宮殿の一階にも似たような部屋が在って、私はそこで世界を観察していました」
なるほど、モニター画面か。現実世界を知らないエリアスには小窓に見えるんだな。壁という壁に設置されている画面。
「ほとんどの小窓が真っ黒だ」
「もう、その小窓が映す先が存在していないからです」
「………………」
まだ作動しているモニター画面はざっと見た限り二つだけだった。近くの壁にその内の一つが設置されており、私はその画面に目が釘付けとなった。
「みんな!」
それは宮殿大ホールの映像だった。別れた仲間達が霧の巨人兵と戦っている。私の隣にエリアスも並んだ。
画面の中でアルクナイトが放った光の矢が二本、一体の巨人兵の胸にグサグサと突き刺さった。巨人兵が前屈したところへ、ルパートが走り寄り剣で首を刎ねた。
「やった!」
「いいぞ、アルにルパート!」
私とエリアスは歓声を上げたが、すぐに蒼ざめることになった。
倒した巨人がブワッと霧に戻り、その一部がルパートの身体を包んでしまったのだ。
ルパートは横へ飛んで霧の中から身体を移動させたが────遅かった。
彼の左手指先が分解を始めたのだ。
マキアがルパートへ駆け寄ろうとしたがルパートが叫び、マキアは足を止めた。モニター画面の音声機能がオフになっていたので聞こえなかったが、ルパートのことだ、きっと「来るんじゃねぇ!」と叫んだんだろう。
仲間から離れた位置で、ルパートの身体は徐々に分解されていき……最後はバッと散った。結婚式に撒かれる紙吹雪のように。
「ルパート!!」
「嫌あぁ、先輩!!!!」
離れた場所に居る私達には何もできない。そして戦いは継続中だった。
画面の視点が切り替わり他の仲間達の姿も順に映された。十体以上居ると思われる巨人兵相手に、衣服のあちこちに血を滲ませた仲間達が懸命に立ち向かっていた。
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「嫌だ……みんな……みんな……」
キースがアップで映された。汗を掻いた彼は大きく肩で息をして苦しそうだ。障壁と治癒魔法の乱発で魔力が尽きかかっている。
「私、下へ戻ります!」
階段へ向かおうとした私をエリアスが抱き留めた。
「馬鹿! 今行った所で何ができる!?」
「でも! でも!!」
愛する人が倒れようとしている。それを黙って見ているしかないなんて。
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