ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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エピローグ(2)

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『あの~魔王様、兄貴を見ませんでしたか?』

 次男猫のローウェルが少年姿でキョロキョロしていた。

「あそこだ。猫の姿で美人な女冒険者の膝の上に乗っている」
『あのエロ兄貴……! すみません、連れ戻してきます』
「あ、ローウェル、アナシスと一緒にベールボーイを務めてくれてありがとう」

 私が礼を言うと、ローウェルは真面目な顔のまま返した。

『お安い御用。ロックウィーナ、今日は輝くように綺麗です』

 まぁ。不意に褒められて頬が熱くなった。男達がまたヒソヒソし出した。

「おいおい、猫も要注意だぞ……」
「ほっほっほ。そう言えばユーリ、レクセンの新領主殿は今日ここへ来ないのかな?」

 アスリーが話題を変えてくれた。ユーリがメインのランプ肉をナイフで切りつつ答えた。

「いや~。今はまだあの人、みんなに合わせる顔が無いってさ。でも祝いの手紙は預かってロックウィーナに渡したぜ。なぁ?」
「うん」

 レクセンの新領主とはレスター・アークのことである。
 鈴音が設定を変えてくれたようで、レスターの両親は事件に巻き込まれることなく、今も仲の良い夫婦として健在だ。レスターは年老いた父親からつい最近、領主の地位を引き継いだのだ。
 そして彼には旧世界の記憶が有る。だから両親が生存している新世界に最初とても戸惑ったそうだ。しかしユーリの支えを受けて立ち直り、良い領主となることで旧世界で犯した罪を償おうとしている。
 私とキースはそんな彼を結婚式に招待したのだが、今回は見合わせたいとの返答が、祝いの言葉と品と共に届けられた。

 更にレスターの変化はルパートの幼馴染み、ギルにも影響を与えた。
 闇墜ちしなかったレスターはアンダー・ドラゴンに入らなかった。アンダー・ドラゴンはレスターの加入により急成長した犯罪組織だ。この新世界にも組織は存在しているが規模が小さく、地方でひっそり活動しているそうな。
 騎士時代にルパートと仲違いしたギル……。そこまでは旧世界と同じだが、ギルはアンダー・ドラゴンの構成員と知り合わなかったので、犯罪に手を染めずに済んだのだ。
 現在ギルは冒険者として各地で活動している。元は試験に合格した騎士なので腕は確かだ。そこそこ有名になって、たまにここフィースノーのギルドにも顔を出してくれる。彼と仲直りしたルパートが嬉しそうに迎えている。

「あ、俺が好きな曲だ!」

 明るくアップテンポな曲が会場の公園に鳴り響く。市民楽団に依頼して楽器を演奏してもらっているのだ。マキアが席を立って隣のテーブルへ向かった。

「ミラ、踊ってくれない?」
「え? 私? ガサツなもんでさ、踊りなんて知らないよ?」
「大丈夫、簡単なステップのヤツ教えるよ。俺がリードするから」
「うん……。じゃ、宜しく」

 まんざらでもない顔でミラはマキアの手を取った。私が投げたガーベラで作ったブーケはミラがキャッチしていた。もしや次の花嫁は……。

「マリナ、私達も踊ろうか」
「はい、エドガー様♡」

 あはは。その前にこちらのカップルが先だな。婚約したらしいし。

「ふーん、ワンコがずいぶんと積極的じゃないか」
「もうこれからは後悔しないように生きるそうです」
「そういう忍者、おまえは誰か誘わないのか?」
「俺は……とうぶん恋はいいです。マキアが能力を爆上げしてきたんで、負けないようにしばらくは修行に専念しないと。ユーリ、相手してもらえるか?」
「悪い。俺は明日レクセンへ帰らないと」

 現在ユーリはレクセンの冒険者ギルド所属なのである。レスターが領主としての地位を盤石にするまでは、彼の近くに居てサポートしたいみたいだ。
 ルパートがワイングラスをかたむけながら聞いた。

「エリアスさんも近々ディーザ領へ帰っちまうんだよな?」
「まぁな。もうすぐ三十歳、そろそろ貴族の責務を果たさないとな」
「……寂しくなるよ、アンタと会えなくなるのは」

 ルパートは素直な言葉を口にした。エリアスが応じた。

「私もだ。短い間だったが旅に出て本当に良かったと思っている。アル以外で私に対等な友ができるとは思わなかった」
「最初は喧嘩ばっかだったけどな、俺達」
「仲が良いほどやる……というヤツさ」

 エリアスとルパートは笑い合って互いのグラスを合わせた。

「離れていてもルパート、おまえは私の友人だ。何か遭ったら知らせろ、必ず駆け付ける」
「俺もだ。アンタの危機には助太刀すると誓う」
「永遠の友情に、乾杯!」

 しれっと最後に魔王が混ざっていた。

「……魔王様はこれからどうなさるんで?」
「俺も魔王領に帰ることになるだろうな。寂しいか? チャラ男」
「ま、まぁ」
「仕方が無いな。たまには様子を見にきてやるから、冒険者ギルドの俺の部屋はそのまま残しておけよ」

 アルクナイトも帰っちゃうのか。彼は空を飛べるから一日で往復できるけど。それでもやっぱり寂しいな。
 でも生きている限り人には変化が訪れる。これが自然なことなんだ。

「けっこうな人数が踊り出しましたね。お姉様、僕達も踊りましょう!」

 楽しそうなマキア達につられて踊りの参加者が増えていた。青年として正装しているリーベルトが私へ手を差し出した。改めて、男装の彼は俳優のようにスマートだ。

「ははは、リーベルト。せっかくだけどの相手は僕が務めるよ」
「ふふふ、キースお兄様、結婚早々嫉妬ですか? 夫はどっしりと構えて度量の大きさを示さないと」
「そうだよな。俺と踊ろう、ロックウィーナ」
「おい忍者、貴様とうぶん恋はいいと言っていたではないか。舌の根の乾かぬ内に何をしている!」
「ロックウィーナ、ここは俺と一発キメようぜ」
「言い方がいやらしいぞ、ユーリ!」

 男達がまた争い出した。こうなるともう私そっちのけとなる。そして彼らは喧嘩しているのに楽しそうに見えるのだ。だから最近では、「私をダシにしてじゃれ合ってない?」と疑惑の念を抱くようになった。
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