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幕間 少女の夢(2)
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☆☆☆
支度と朝食を済ませ、寮から冒険者ギルドのエントランスホールへ移った私は、ギルドマスターに呼ばれて彼の元へ行った。マスターの側にはルパートと、他に先輩二名が揃っていた。
「おはようウィー。早速だが出動してもらう」
頭皮が眩しいマスターがこう言う時は、行方不明者の捜索と相場が決まっている。
「四人パーティの冒険者達が期間を過ぎても戻ってこない。ウィーとルパート、キースとセスの四名で捜索に向かってくれ」
やはり捜索か。しかし年長者で筋骨隆々な斧使い、二人の子持ちであるセスが待ったをかけた。
「捜索対象が四人、こっちも四人。肩を貸すなり背負うなりすると、モンスターが出た時に戦う人間が居ないぞ?」
マスターが腕組みをして返した。
「十中八九、手が空く者が出る。捜索場所はガロン荒野だ」
「ああ……」
みんなの間に重い空気が流れた。ガロン荒野は攻略難易度Bに指定されるフィールドだ。強いモンスターが生息する地域。行方不明者の内、何人かは既に命を落としているだろうとマスターは判断したのだ。
回復魔法が得意なキースも同意した。
「あそこで行方不明となると……、パーティは全滅したかもしれませんね」
「ああ。Bランクの依頼を受けたのは今回が初めてだったらしい」
冒険者に無謀な挑戦をさせない為に、上位ランクの仕事は望んでもすぐには受けられない決まりとなっている。受注するには下位ランクの依頼で実績を作らなければならないのだ。Cランクの依頼を最低でも十回以上成功させた者にしか、Bランクの依頼は回さないようにしている。
「ランクが上がると一気にモンスターが強くなるからな……」
「だが、全員まだ生存しているかもしれねーぜ?」
ルパートがマスターに食ってかかった。
「ルパート、俺だって世話した冒険者には生きていてもらいたいが……」
「希望的観測でものを言ってるんじゃねーよ。全員が生存していて彼らを運搬するとなると、セスさんの言った通り戦える人間が居なくなる。負傷者を庇いながらモンスターの相手なんかしたら、捜索対象者と俺達、最悪八人全員が死ぬことになっちまうぞ?」
ルパートの言い方は冷たく聞こえるかもしれないが、彼の言っていることは正しいと私も思った。
「捜索対象者が全員生存している可能性は低いが……、確かに」
生存者が多いほど危険が増してしまうなんて、因果な商売だよね。
「だから最低でもあと一人は戦士が必要だ。相当な腕を持っているヤツな。でなきゃ二人」
「しかし今日は他に出動できる者が居ないんだ。隣街の支部から助っ人を頼むとなると時間がかかるし」
時間が過ぎるほど要救助者の生命が危険に曝《さら》される。
「なら私が行こうか?」
落ち着いた張りの有る声が横から届いた。聞こえてきた方を見やると、カウンターの外にエリアスが立っていた。
「エリアスさん!?」
驚いて私は素っ頓狂な声を上げてしまった。もう関われないと思っていた彼がそこに佇んでいた。
「すまない、話し声が聞こえてしまった」
「聞こえたんじゃなくて、聞いてたんでしょ?」
エリアスはルパートの皮肉を完全にスルーした。
「ギルドマスター、戦士が必要なら私が隊に加わろう」
「え、そりゃあ、Aランクの依頼もこなせるエリアスさんが協力してくれるのなら百人力だが、ギルドの裏方仕事を貴族の方に頼む訳には……」
エリアスはAランク冒険者なのか。凄い。好きにならないように、できるだけ彼の関連資料は読まないようにしていたから知らなかった。
だったら彼とパーティをかつて組んでいた皆さんもそれなりに稼いでいたはずだけど……。ああそうか、冒険者を辞めて堅実な仕事に就いたのは家族の為か。30歳前後は結婚したり子供ができたりする年代だ。家庭を持ったら危険な仕事は避けたくなるよね。配偶者や子供を残して死にたくないもの。
「緊急事態なのだろう? 貴族も庶民も関係無い」
「ですがね……」
及び腰のマスターにルパートが進言した。
「人手は絶対に必要なんだから、ありがたく申し出を受けようぜマスター。ご本人の意志なんだから問題無いよ。過去にも冒険者と一緒に任務に当たったことは有った。きちんと契約して、規定に基づいた謝礼金を支払えばいいんだ」
「私は人命救助に協力したいだけだ。別に金は要らない」
ルパートは眉間に皺を寄せた。
「いいえ。働いてもらった分の金は確実に支払います。……あなたに借りは作りたくないんで」
エリアスは何故かフッと笑った。
「そういうことか。いいだろう、今回は協力ではなく任務として同行しよう」
よく解らない二人のやり取りだが、エリアスが一緒に来てくれることになった。
現在ギルドの主戦力であるセスでさえ元Bランク冒険者だったというのに、Aランク冒険者であるエリアスの加入は頼もしい限りだ。それに……また彼と居られるのが嬉しかった。釣り合わないって自覚しているのに、私ってば未練がましい女だったんだな。
「ウィー、Bランクのフィールドだ。浮ついた気持ちは捨てて気を引き締めろよ!」
「あっ、はい!」
ルパートに心の中を見透かされたようでドキリとした。でもそうだよね、私の担当は基本Cランク以下のフィールドでの作業だから、今回はいつものようにはいかない。Bランクフィールドに赴いたのはこの七年間で数える程度、それも大勢の先輩と一緒での出動だった。Aランクに至っては未踏だったりする。
うん、しっかり気を引き締めないと……!
支度と朝食を済ませ、寮から冒険者ギルドのエントランスホールへ移った私は、ギルドマスターに呼ばれて彼の元へ行った。マスターの側にはルパートと、他に先輩二名が揃っていた。
「おはようウィー。早速だが出動してもらう」
頭皮が眩しいマスターがこう言う時は、行方不明者の捜索と相場が決まっている。
「四人パーティの冒険者達が期間を過ぎても戻ってこない。ウィーとルパート、キースとセスの四名で捜索に向かってくれ」
やはり捜索か。しかし年長者で筋骨隆々な斧使い、二人の子持ちであるセスが待ったをかけた。
「捜索対象が四人、こっちも四人。肩を貸すなり背負うなりすると、モンスターが出た時に戦う人間が居ないぞ?」
マスターが腕組みをして返した。
「十中八九、手が空く者が出る。捜索場所はガロン荒野だ」
「ああ……」
みんなの間に重い空気が流れた。ガロン荒野は攻略難易度Bに指定されるフィールドだ。強いモンスターが生息する地域。行方不明者の内、何人かは既に命を落としているだろうとマスターは判断したのだ。
回復魔法が得意なキースも同意した。
「あそこで行方不明となると……、パーティは全滅したかもしれませんね」
「ああ。Bランクの依頼を受けたのは今回が初めてだったらしい」
冒険者に無謀な挑戦をさせない為に、上位ランクの仕事は望んでもすぐには受けられない決まりとなっている。受注するには下位ランクの依頼で実績を作らなければならないのだ。Cランクの依頼を最低でも十回以上成功させた者にしか、Bランクの依頼は回さないようにしている。
「ランクが上がると一気にモンスターが強くなるからな……」
「だが、全員まだ生存しているかもしれねーぜ?」
ルパートがマスターに食ってかかった。
「ルパート、俺だって世話した冒険者には生きていてもらいたいが……」
「希望的観測でものを言ってるんじゃねーよ。全員が生存していて彼らを運搬するとなると、セスさんの言った通り戦える人間が居なくなる。負傷者を庇いながらモンスターの相手なんかしたら、捜索対象者と俺達、最悪八人全員が死ぬことになっちまうぞ?」
ルパートの言い方は冷たく聞こえるかもしれないが、彼の言っていることは正しいと私も思った。
「捜索対象者が全員生存している可能性は低いが……、確かに」
生存者が多いほど危険が増してしまうなんて、因果な商売だよね。
「だから最低でもあと一人は戦士が必要だ。相当な腕を持っているヤツな。でなきゃ二人」
「しかし今日は他に出動できる者が居ないんだ。隣街の支部から助っ人を頼むとなると時間がかかるし」
時間が過ぎるほど要救助者の生命が危険に曝《さら》される。
「なら私が行こうか?」
落ち着いた張りの有る声が横から届いた。聞こえてきた方を見やると、カウンターの外にエリアスが立っていた。
「エリアスさん!?」
驚いて私は素っ頓狂な声を上げてしまった。もう関われないと思っていた彼がそこに佇んでいた。
「すまない、話し声が聞こえてしまった」
「聞こえたんじゃなくて、聞いてたんでしょ?」
エリアスはルパートの皮肉を完全にスルーした。
「ギルドマスター、戦士が必要なら私が隊に加わろう」
「え、そりゃあ、Aランクの依頼もこなせるエリアスさんが協力してくれるのなら百人力だが、ギルドの裏方仕事を貴族の方に頼む訳には……」
エリアスはAランク冒険者なのか。凄い。好きにならないように、できるだけ彼の関連資料は読まないようにしていたから知らなかった。
だったら彼とパーティをかつて組んでいた皆さんもそれなりに稼いでいたはずだけど……。ああそうか、冒険者を辞めて堅実な仕事に就いたのは家族の為か。30歳前後は結婚したり子供ができたりする年代だ。家庭を持ったら危険な仕事は避けたくなるよね。配偶者や子供を残して死にたくないもの。
「緊急事態なのだろう? 貴族も庶民も関係無い」
「ですがね……」
及び腰のマスターにルパートが進言した。
「人手は絶対に必要なんだから、ありがたく申し出を受けようぜマスター。ご本人の意志なんだから問題無いよ。過去にも冒険者と一緒に任務に当たったことは有った。きちんと契約して、規定に基づいた謝礼金を支払えばいいんだ」
「私は人命救助に協力したいだけだ。別に金は要らない」
ルパートは眉間に皺を寄せた。
「いいえ。働いてもらった分の金は確実に支払います。……あなたに借りは作りたくないんで」
エリアスは何故かフッと笑った。
「そういうことか。いいだろう、今回は協力ではなく任務として同行しよう」
よく解らない二人のやり取りだが、エリアスが一緒に来てくれることになった。
現在ギルドの主戦力であるセスでさえ元Bランク冒険者だったというのに、Aランク冒険者であるエリアスの加入は頼もしい限りだ。それに……また彼と居られるのが嬉しかった。釣り合わないって自覚しているのに、私ってば未練がましい女だったんだな。
「ウィー、Bランクのフィールドだ。浮ついた気持ちは捨てて気を引き締めろよ!」
「あっ、はい!」
ルパートに心の中を見透かされたようでドキリとした。でもそうだよね、私の担当は基本Cランク以下のフィールドでの作業だから、今回はいつものようにはいかない。Bランクフィールドに赴いたのはこの七年間で数える程度、それも大勢の先輩と一緒での出動だった。Aランクに至っては未踏だったりする。
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