ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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二幕  困難な救助ミッション(1)

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 ガロン荒野。
 数十年前までは大きな森と村が存在した美しい平原だったそうだが、王都の新区画建造で大量に木材が必要となり、この土地の樹木を無計画に伐採した結果、森を失い強い風が吹き抜ける荒野と化してしまった。
 土地を捨てて転居した住民達の代わりに、放棄された村の建物にはモンスターが棲み付くようになった。
 今回行方不明になった冒険者パーティは、かつて村人だった人物からの依頼で、家に残してきた思い出の品を取りに向かい連絡が途絶えた。つまり彼らは廃村の中、もしくはその近くに居る可能性が高い。

 ピュルルルゥゥゥ…………。まるで女性の悲鳴のような高い音を立てる風の中を、私は身を縮めてビクビクしながら進んでいた。

「レディ、私の手を掴むといい」

 怯える私にエリアスが手を差し出した。正直に言えば握りたい。もっと言えば抱き付きたい。前方に目的地である廃村が見えてきたが、完全に怪奇小説の世界だ。人気の無い朽ちた建物群ってそれだけで怖いんだな。でもエリアスに甘えては駄目だ。

「いいえ、エリアスさんには戦いの為に手を空けていてもらわないと」
「解った。ならば私は貴女のすぐ後ろを歩こう。前には貴女の先輩達が居る。安心して進むんだ」

 わぁ。強くて優しいエリアスが私の背中を護ってくれている。かなり元気が出た。

「……なぁルパート、エリアスさんってお貴族様なんだろう? 何でウィーとイイ感じなんだ?」

 前を歩くセスがルパートに尋ねた。本人は囁いたつもりらしいが、基本的に声がデカイので筒抜けである。対するルパートは小声で返したので聞き取れなかった。

「いや、絶対あの二人はデキてるって。なぁ、キースもそう思うだろ?」

 セスの声がガロン荒野に響く。この強風の中で囁き声が届くってどんだけ声デカイねん。

「セスさん、ちょっと静かにしてくれ」

 ルパートがセスの無駄口を咎めた。そして彼は周囲を見渡して声を張った。

「お出迎えがやってきたぜ! みんな空を見ろ!!」

 ルパートに誘導されて空を見上げると、曇り空に無数の黒い影が発生していた。ルパートは人やモンスターの気配を掴むのが早く、この能力のおかげでここまで何度も戦闘を回避してきた。しかし今度の相手には上空から私達の姿を視認されてしまったので、今から身を隠すことは不可能な模様だ。

「コウモリ系のモンスターだ!」

 叫びながらキースが私の元まで後退した。彼は回復役なので前衛には立てない。

「あいつら夜行性だろう!? 昼間は大人しく寝てろよな!」

 文句を言いながらもセスとルパートは素早く武器を構え、滑空して襲いかかってくるコウモリを叩き落とすように斬った。

 地面に落ちたのは正式名ストームデビルと言うモンスターだった。一体一体は大して強くは無いが、群れで襲ってくる厄介な肉食獣だ。農場で家畜を食い荒らされる被害が後を絶たない。

「数が多い!!」

 大量に湧き出たコウモリくんの内の二体が、後方の私達の方へ飛んできた。

「ウィー、そっち行ったぞ!」
「はい!」

 故郷で狼を追い払った時と同じ、間合いを見定めて落ち着いて。私は鞭をしならせて二体同時に薙ぎ払った。やった、当たった!

「お見事だレディ、後は任せて身を屈めていろ!」

 すかさずエリアスが私とキースを庇うように立ち、大剣を頭の上で風車のようにブンブン振り回して、続いて飛んでくるコウモリ達を次々と細切れにしていった。言われた通りに屈んでいた私とキースの頭に血肉の雨が降り、肉片が鼻の頭にべっとり張り付いたキースの顔が蒼ざめた。私は何かもう慣れちゃったな。一週間でエリアス耐性がしっかり付いたよ。

「おい、キリがねぇぞ!!」

 斧をかかげて山賊にしか見えないセスが苛立ちの声を上げた。斬っても斬っても終わらない。コウモリさんたら大編隊を組んできた。

「……仕方無いな」

 ルパートはすぅっと息を吸い込むと、静かな口調だがよく響く呪文(?)を唱えた。

「風の刃よ、鋭き天空の王の爪よ、我を囲む敵を切り刻め!」

 その瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ気がした。そして風が一層強くなったと思ったら、空中のコウモリ達の身体が一斉に裂けた。

「ひゃっ!?」

 驚く私の横でキースが呟いた。

「かまいたちを起こす魔法だ……。ルパートは風魔法が使えたのか?」

 へ? 今の魔法? ルパートが放ったの?
 ボトボトとコウモリの死骸が落ちてきた。本日の天気、曇り時々コウモリ。

「今ので九割は片付けたよ。あとちょっとだ」
「ルパート、おま……」

 セスはルパートに聞きかけてやめた。
 ハードでブラックな職務の冒険者ギルドにあえて就職する人間には、すねに傷を持つ者が少なくないそうだ。だから自分から言い出さない限りは、お互いの過去を詮索しないことが暗黙の了解になっている。全職員の経歴を把握しているのはギルドマスターだけだ。

「よし、とっとと終わらせようぜ!」

 セスは斧を構え直して残りのコウモリに目線を戻した。ルパートは質問してこなかったセスに軽く微笑んでから、己の剣を再び振るった。
 ……なんだかルパートが私の知っている彼ではないように思えた。

 私は都会で就職したかった。ただそれだけの理由でギルドの採用試験を受けた。その志望動機は珍しいとギルドマスターに言われた。大抵の人間は逃げ場所が欲しくてここへ来るとも……。国と提携して運営しているから重犯罪者は流石に雇えないはずだけど。
 ルパートは普段おちゃらけているから、私と同じタイプだとずっと思っていた。でも彼にも人に知られたくない過去が有るのだろうか? 彼は何かから逃げてギルドへ来たのだろうか?

(七年も組んで一緒に仕事してきたのに……)

 急に判らない人間になってしまったルパートに私は腹を立てた。何だかんだ言っても相棒だと思っていたのは私だけだったのかな……。
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