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三幕 ギルドへの挑戦状(1)
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「お姉様ぁん!」
朝。いつものように冒険者ギルドのエントランスホールへ出勤した私に、甘ったるい声を発してリリアナが文字通り飛び付いてきた。僅かな助走で五メートルくらい跳躍したぞ。彼女は元陸上選手か何かか?
まともに受け止めると大層な衝撃となるので、リリアナの身体を斜め横に誘導する形でかかる力を逃がした。ギルドの出動班に七年も在籍すると体さばきの達人となる。
「昨日は危険度が高い出動だったと聞きましたぁ。私が居たら絶対に阻止していたのにぃ! あの禿ちゃびんマスターったら!!」
後ろにギルドマスター居るよ。今朝も窓から差し込む陽で頭皮がツヤツヤ輝いている。
そういえばリリアナは昨日非番で休みだったな。
「お怪我とかしませんでしたかぁ?」
「大丈夫だよ。……一人保護できたしね」
「それにしては暗いお顔ですぅ」
「うん……」
昨日私はギルド職員の先輩三名とエリアスさんを加えた隊で、行方不明になっていた冒険者パーティの捜索に出向いた。
「捜索対象は四人だったのに、生き残っていたのはたった一人だったんだ」
「……そうみたいですね。報告書を読みました」
流石にリリアナも声のトーンを落とした。
「でもでもっ、一人だけでも助けられて良かったですよぉ」
「そうなんだけど……シモーヌさん、助かった女性の今後を考えると気の毒で……」
「お姉様は優しいから……」
ルパートに忠告されたのに。私は気持ちの切り替えができていなかった。
「何だかさ、昔保護した少年のことを思い出しちゃった」
「少年ですかぁ?」
「うん。リリアナがギルドに就職するずっと前に出会った少年。彼はシモーヌさんとは違う境遇だったけど……。迎えの人が来ても泣きじゃくって、私の手を握って離さなかったんだ」
彼は安全であるはずの家の人間に殺されかけたのだ。家に帰りたくないと叫んで、他人の私に縋り付いて離れようとしなかった。三人がかりで無理やり引き剝がした時の罪悪感といったら。
「……その子の名前は?」
「リーベルト。今はもう立派な青年になっただろうね」
「………………」
「どうかした?」
「あ、いえ。五年も経ったんですからぁ、きっとその子は吹っ切れて新しい人生を元気に歩んでいますよ!」
「だったらいいな」
「そうだ、今日も出動が有るそうですよぉ。禿が呼んでました」
ハゲ……。リリアナは無茶苦茶モテるのに、男性に対してとても素っ気ない。同性の私には過剰なほどのスキンシップをしてくるのに。更に、私だったら絶対に見せびらかしているであろう立派な質量のおっぱい所持者なのに、首まで隠れる露出の少ない服装で肌を隠している。フワフワした見かけに反して身持ちの堅い女性なのだ。
それでも上司でかつてSランク冒険者だったという噂のマスターを、禿ちゃびん呼ばわりはマズイと思うな。
あれ、そういえば私、リーベルト少年に出会ったのが五年前だってリリアナに言ったっけ?
「おはようさんウィー」
リリアナへ確認する前にマスターから声をかけられてしまった。まぁいい。リリアナは仕事に関しては真面目だから、過去の報告書を読んでリーベルトのことを知っていたのだろう。
「おはようございます。今日も出動だと聞きましたが?」
「そうなんだ。説明するから会議室で待っていてくれ」
会議室? 大人数での出動なんだろうか。
「はい。マスターは?」
「俺はここで客を出迎えてから行くよ」
客? よく判らないが言われた通り私は会議室へ向かった。
会議室にはルパート、キース、そしてエリアスが居た。何だろう? 昨日のミッションの反省会でもするのだろうか。
☆☆☆
「待たせたな」
会議室の扉を開けてマスターがやってきたのは、それから二十分後のことだった。
マスターの後ろには見知らぬ二人の男性の姿が有った。
「そちらへ座ってくれ」
会議室の長テーブルを挟んで、男性達は既に着席していた私達の対面にそれぞれ腰かけた。
「マスター、彼らは?」
ルパートの問いに上座のマスターが答えた。
「レクセン冒険者ギルドの職員だ。我々フィースノー支部と合同で任務に当たることになった」
「え? 別の支部と合同任務?」
レクセンは私達が住むフィースノーの隣街だ。隣と言っても峠を二つ越えなければならないので、それなりに距離は在る。街の規模としては同程度だが、レクセンの方が王都に近いぶん流行に敏感で、フィースノーよりも洗練された都市らしい。残念ながら私はまだ行ったことが無い。
「初めまして、俺はマキア。火魔法を得意とする23歳の魔術師です。よろしく」
二人のレクセン職員の内、スリムな男性の方が頭を下げて自己紹介をした。魔法属性を象徴するかのような赤い髪が印象的な青年だ。
「…………エン。21歳」
残った方がボソリと呟いた。エンと言うのが彼の名前だろうか? 鼻と口を覆面で隠しているので表情がイマイチ窺えない。唯一明かされている目元は切れ長で涼しげだ。
無愛想な彼を同僚であるマキアがフォローした。
「すみません、エンは話すのが苦手で。でも腕は立ちますから」
「構わねぇよ。こっちも名乗らねーとな。俺は出迎えた時も言ったがここのギルドマスターをしているケイシーだ。おまえら、そっちから順に自己紹介しろ」
マスターに指示された端のキースが頷いた。
「僕はキース。回復魔法の使い手です。29歳」
「……ルパートだ。もうすぐ28歳。剣士……いや魔法剣士だ」
昨日魔法を披露したルパートは自分のことを魔法剣士だと称した。それを聞いたマスターに驚いた様子は無かった。ああ、マスターは全職員の経歴と特技を把握しているんだったな。ルパートはギルドへ来る前は何をしていたのだろう?
おっと私の番だ。
「ロックウィーナです。25歳で、使用武器は鞭です」
マキアが食い付いた。
「女の人で現場に出るって凄いですね! ウチの支部では女性職員は事務仕事ばかりです」
私ではなくルパートが胸を張った。
「コイツは俺様が直々に鍛えているからな」
「ルパートさんって凄い人なんですか!?」
マキアはキラキラした瞳でルパートを見つめた。素直な青年のようだ。
「まぁ元聖騎士様だからな」
マスターがペロッと暴露した。
「へっ!?」
「聖騎士!?」
ルパートが聖騎士!? ちびっ子達の憧れの的であるあのエリート騎士!?
朝。いつものように冒険者ギルドのエントランスホールへ出勤した私に、甘ったるい声を発してリリアナが文字通り飛び付いてきた。僅かな助走で五メートルくらい跳躍したぞ。彼女は元陸上選手か何かか?
まともに受け止めると大層な衝撃となるので、リリアナの身体を斜め横に誘導する形でかかる力を逃がした。ギルドの出動班に七年も在籍すると体さばきの達人となる。
「昨日は危険度が高い出動だったと聞きましたぁ。私が居たら絶対に阻止していたのにぃ! あの禿ちゃびんマスターったら!!」
後ろにギルドマスター居るよ。今朝も窓から差し込む陽で頭皮がツヤツヤ輝いている。
そういえばリリアナは昨日非番で休みだったな。
「お怪我とかしませんでしたかぁ?」
「大丈夫だよ。……一人保護できたしね」
「それにしては暗いお顔ですぅ」
「うん……」
昨日私はギルド職員の先輩三名とエリアスさんを加えた隊で、行方不明になっていた冒険者パーティの捜索に出向いた。
「捜索対象は四人だったのに、生き残っていたのはたった一人だったんだ」
「……そうみたいですね。報告書を読みました」
流石にリリアナも声のトーンを落とした。
「でもでもっ、一人だけでも助けられて良かったですよぉ」
「そうなんだけど……シモーヌさん、助かった女性の今後を考えると気の毒で……」
「お姉様は優しいから……」
ルパートに忠告されたのに。私は気持ちの切り替えができていなかった。
「何だかさ、昔保護した少年のことを思い出しちゃった」
「少年ですかぁ?」
「うん。リリアナがギルドに就職するずっと前に出会った少年。彼はシモーヌさんとは違う境遇だったけど……。迎えの人が来ても泣きじゃくって、私の手を握って離さなかったんだ」
彼は安全であるはずの家の人間に殺されかけたのだ。家に帰りたくないと叫んで、他人の私に縋り付いて離れようとしなかった。三人がかりで無理やり引き剝がした時の罪悪感といったら。
「……その子の名前は?」
「リーベルト。今はもう立派な青年になっただろうね」
「………………」
「どうかした?」
「あ、いえ。五年も経ったんですからぁ、きっとその子は吹っ切れて新しい人生を元気に歩んでいますよ!」
「だったらいいな」
「そうだ、今日も出動が有るそうですよぉ。禿が呼んでました」
ハゲ……。リリアナは無茶苦茶モテるのに、男性に対してとても素っ気ない。同性の私には過剰なほどのスキンシップをしてくるのに。更に、私だったら絶対に見せびらかしているであろう立派な質量のおっぱい所持者なのに、首まで隠れる露出の少ない服装で肌を隠している。フワフワした見かけに反して身持ちの堅い女性なのだ。
それでも上司でかつてSランク冒険者だったという噂のマスターを、禿ちゃびん呼ばわりはマズイと思うな。
あれ、そういえば私、リーベルト少年に出会ったのが五年前だってリリアナに言ったっけ?
「おはようさんウィー」
リリアナへ確認する前にマスターから声をかけられてしまった。まぁいい。リリアナは仕事に関しては真面目だから、過去の報告書を読んでリーベルトのことを知っていたのだろう。
「おはようございます。今日も出動だと聞きましたが?」
「そうなんだ。説明するから会議室で待っていてくれ」
会議室? 大人数での出動なんだろうか。
「はい。マスターは?」
「俺はここで客を出迎えてから行くよ」
客? よく判らないが言われた通り私は会議室へ向かった。
会議室にはルパート、キース、そしてエリアスが居た。何だろう? 昨日のミッションの反省会でもするのだろうか。
☆☆☆
「待たせたな」
会議室の扉を開けてマスターがやってきたのは、それから二十分後のことだった。
マスターの後ろには見知らぬ二人の男性の姿が有った。
「そちらへ座ってくれ」
会議室の長テーブルを挟んで、男性達は既に着席していた私達の対面にそれぞれ腰かけた。
「マスター、彼らは?」
ルパートの問いに上座のマスターが答えた。
「レクセン冒険者ギルドの職員だ。我々フィースノー支部と合同で任務に当たることになった」
「え? 別の支部と合同任務?」
レクセンは私達が住むフィースノーの隣街だ。隣と言っても峠を二つ越えなければならないので、それなりに距離は在る。街の規模としては同程度だが、レクセンの方が王都に近いぶん流行に敏感で、フィースノーよりも洗練された都市らしい。残念ながら私はまだ行ったことが無い。
「初めまして、俺はマキア。火魔法を得意とする23歳の魔術師です。よろしく」
二人のレクセン職員の内、スリムな男性の方が頭を下げて自己紹介をした。魔法属性を象徴するかのような赤い髪が印象的な青年だ。
「…………エン。21歳」
残った方がボソリと呟いた。エンと言うのが彼の名前だろうか? 鼻と口を覆面で隠しているので表情がイマイチ窺えない。唯一明かされている目元は切れ長で涼しげだ。
無愛想な彼を同僚であるマキアがフォローした。
「すみません、エンは話すのが苦手で。でも腕は立ちますから」
「構わねぇよ。こっちも名乗らねーとな。俺は出迎えた時も言ったがここのギルドマスターをしているケイシーだ。おまえら、そっちから順に自己紹介しろ」
マスターに指示された端のキースが頷いた。
「僕はキース。回復魔法の使い手です。29歳」
「……ルパートだ。もうすぐ28歳。剣士……いや魔法剣士だ」
昨日魔法を披露したルパートは自分のことを魔法剣士だと称した。それを聞いたマスターに驚いた様子は無かった。ああ、マスターは全職員の経歴と特技を把握しているんだったな。ルパートはギルドへ来る前は何をしていたのだろう?
おっと私の番だ。
「ロックウィーナです。25歳で、使用武器は鞭です」
マキアが食い付いた。
「女の人で現場に出るって凄いですね! ウチの支部では女性職員は事務仕事ばかりです」
私ではなくルパートが胸を張った。
「コイツは俺様が直々に鍛えているからな」
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