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二幕 困難な救助ミッション(4)
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☆☆☆
村の反対側の待ち合わせ場所には、肌と衣服を赤く染めたエリアスとセスが既に到着していた。
「二人とも、怪我をしたのですか!?」
キースは慌てたが、私には見慣れた光景だった。二人とも普通に立っているので大丈夫だろう。あの血はおそらく……、
「これ全部返り血。エリアスさんてばマジでつえーわ」
やっぱり。
「探索中にな、ダークストーカーが出たんだよ!」
セスが興奮気味に言った。
ダークストーカーとは黒い身体と赤い角を持つ人型悪魔だ。音も無く近付いてきて、鋼鉄の爪で獲物を何度も何度もしつこく切り裂く。素早い上に短い距離なら瞬間移動もできるという厄介なモンスターだ。
「奴は瞬間移動で神出鬼没だから、俺の斧は空振りばかりだったんだけどな、エリアスさんは何と目を閉じて気配だけで捉えたんだ。大剣で一閃だぞ!? ダークストーカーの身体が真っ二つに割れて血とか内蔵とかドバーッと」
詳しく説明せんでいい。生で見なくて良かった。
「レディ、無事のようでなによりだ」
「エリアスさんも」
私とエリアスは互いに微笑んだ。死人が出ているのでテンションはそんなに上がらないが、それでも知り合いの無事は嬉しいものだ。
「おお、生存者が居たのか!?」
セスはキースの背中のシモーヌに気づいた。
「はい、魔術師のシモーヌさんです。先輩、そちらの区域には誰かいましたか……?」
セスは気まずそうにシモーヌから目を逸らした。
「うん……二人見つけたが駄目だったよ。傷の付き具合から見てダークストーカーに殺られたんだろう。書類に有った風貌をしていたから、行方不明のパーティメンバーで間違い無い」
セスの報告を聞いて、シモーヌが身体を震わせながらキースにしがみ付いた。かける言葉が見つからない。
「こっちも彼女の他に遺体を発見した。ダグと言う名前の冒険者だ。これで捜索対象者は全員確認できた」
「そうか……。じゃあ任務は完了だな。ギルドへ戻ろう」
キースの背中ですすり泣くシモーヌを囲むように陣形を取って、私達は帰路についた。
行方不明者の捜索に向かっても、発見時には亡くなっていることの方が断然多い。一人でも救助できたことは喜ばしいことのはずなのに。私の胸はチクチク痛んでいた。
仲間を失ったシモーヌの今後を考えてしまうのだ。「彼は……私の……」。あの時シモーヌは何を言いかけたのだろう。ダグと言う男性はシモーヌにとってどういった存在だったのだろう。
「余計なことは考えるな」
ルパートが私にだけ囁いた。私が任務中に落ち込むと彼はいつもこの言葉をかけてくる。
うん。冒険者ギルドには大勢の人が訪れる。その内の何割かはミッション中に命を落とす。いちいち気に留めていたらこちらの身が保たない。
解っている。でも割り切れない感情というものは存在するのだ。
「……先輩、リーベルトと言う少年を覚えていますか?」
「ん? ……ああ、あのガキか」
五年前、別の任務で出動した私とルパートは偶然、Dランクフィールドでリーベルトと名乗る迷子の少年を保護した。当時の彼は14歳。冒険者に登録できる年齢は16歳からである。
どうして冒険者ではない彼が人里離れた所に独りで居たのか? 酷い話だが義理の姉に置き去りにされたそうだ。
リーベルトは大商会を経営する親の元に産まれた。しかし母が病死して、父が後妻として迎えた女とその連れ子が欲深い人物だった。
義母と義姉は先妻の子供で後継ぎのリーベルトを殺害して、商会を自分達のものにしようと画策したのである。
リーベルトは義姉とその従者によって無理やり馬車に乗せられた。そして彼らはモンスターが徘徊する森までリーベルトを運び置き去りにした。
武器も水も食糧も、地図さえも渡されずに放り出された少年は、モンスターに怯えながらたった独りで丸二日間危険地帯を彷徨った。
生きた状態で私達と出会えたのは奇跡に近かった。
義姉はピクニックに出かけたものの、勝手な行動を取ったリーベルトが行方不明になったと主張していたらしいが、生還したリーベルト本人によって真実が明かされて、共謀者であった義母と一緒に投獄された。
商会の問題はそれで片付いた。でも……。
私は忘れない。私の背中でずっと震えていたリーベルトのことを。発見時の彼は心身共に衰弱していたので私が背負った。
彼の命は助かった。しかし身内に裏切られて殺されかけた心の傷を背負って、これからの長い人生を生きていかなければならないのだ。
「彼はもう19歳ですね。……元気にしているでしょうか」
「余計なことは考えるな」
同じことをルパートに言われた。
私は口を噤んで、風の中の荒野を進んだ。
村の反対側の待ち合わせ場所には、肌と衣服を赤く染めたエリアスとセスが既に到着していた。
「二人とも、怪我をしたのですか!?」
キースは慌てたが、私には見慣れた光景だった。二人とも普通に立っているので大丈夫だろう。あの血はおそらく……、
「これ全部返り血。エリアスさんてばマジでつえーわ」
やっぱり。
「探索中にな、ダークストーカーが出たんだよ!」
セスが興奮気味に言った。
ダークストーカーとは黒い身体と赤い角を持つ人型悪魔だ。音も無く近付いてきて、鋼鉄の爪で獲物を何度も何度もしつこく切り裂く。素早い上に短い距離なら瞬間移動もできるという厄介なモンスターだ。
「奴は瞬間移動で神出鬼没だから、俺の斧は空振りばかりだったんだけどな、エリアスさんは何と目を閉じて気配だけで捉えたんだ。大剣で一閃だぞ!? ダークストーカーの身体が真っ二つに割れて血とか内蔵とかドバーッと」
詳しく説明せんでいい。生で見なくて良かった。
「レディ、無事のようでなによりだ」
「エリアスさんも」
私とエリアスは互いに微笑んだ。死人が出ているのでテンションはそんなに上がらないが、それでも知り合いの無事は嬉しいものだ。
「おお、生存者が居たのか!?」
セスはキースの背中のシモーヌに気づいた。
「はい、魔術師のシモーヌさんです。先輩、そちらの区域には誰かいましたか……?」
セスは気まずそうにシモーヌから目を逸らした。
「うん……二人見つけたが駄目だったよ。傷の付き具合から見てダークストーカーに殺られたんだろう。書類に有った風貌をしていたから、行方不明のパーティメンバーで間違い無い」
セスの報告を聞いて、シモーヌが身体を震わせながらキースにしがみ付いた。かける言葉が見つからない。
「こっちも彼女の他に遺体を発見した。ダグと言う名前の冒険者だ。これで捜索対象者は全員確認できた」
「そうか……。じゃあ任務は完了だな。ギルドへ戻ろう」
キースの背中ですすり泣くシモーヌを囲むように陣形を取って、私達は帰路についた。
行方不明者の捜索に向かっても、発見時には亡くなっていることの方が断然多い。一人でも救助できたことは喜ばしいことのはずなのに。私の胸はチクチク痛んでいた。
仲間を失ったシモーヌの今後を考えてしまうのだ。「彼は……私の……」。あの時シモーヌは何を言いかけたのだろう。ダグと言う男性はシモーヌにとってどういった存在だったのだろう。
「余計なことは考えるな」
ルパートが私にだけ囁いた。私が任務中に落ち込むと彼はいつもこの言葉をかけてくる。
うん。冒険者ギルドには大勢の人が訪れる。その内の何割かはミッション中に命を落とす。いちいち気に留めていたらこちらの身が保たない。
解っている。でも割り切れない感情というものは存在するのだ。
「……先輩、リーベルトと言う少年を覚えていますか?」
「ん? ……ああ、あのガキか」
五年前、別の任務で出動した私とルパートは偶然、Dランクフィールドでリーベルトと名乗る迷子の少年を保護した。当時の彼は14歳。冒険者に登録できる年齢は16歳からである。
どうして冒険者ではない彼が人里離れた所に独りで居たのか? 酷い話だが義理の姉に置き去りにされたそうだ。
リーベルトは大商会を経営する親の元に産まれた。しかし母が病死して、父が後妻として迎えた女とその連れ子が欲深い人物だった。
義母と義姉は先妻の子供で後継ぎのリーベルトを殺害して、商会を自分達のものにしようと画策したのである。
リーベルトは義姉とその従者によって無理やり馬車に乗せられた。そして彼らはモンスターが徘徊する森までリーベルトを運び置き去りにした。
武器も水も食糧も、地図さえも渡されずに放り出された少年は、モンスターに怯えながらたった独りで丸二日間危険地帯を彷徨った。
生きた状態で私達と出会えたのは奇跡に近かった。
義姉はピクニックに出かけたものの、勝手な行動を取ったリーベルトが行方不明になったと主張していたらしいが、生還したリーベルト本人によって真実が明かされて、共謀者であった義母と一緒に投獄された。
商会の問題はそれで片付いた。でも……。
私は忘れない。私の背中でずっと震えていたリーベルトのことを。発見時の彼は心身共に衰弱していたので私が背負った。
彼の命は助かった。しかし身内に裏切られて殺されかけた心の傷を背負って、これからの長い人生を生きていかなければならないのだ。
「彼はもう19歳ですね。……元気にしているでしょうか」
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