16 / 291
三幕 ギルドへの挑戦状(3)
しおりを挟む
ルパートが話を逸らした。
「レクセンでも本拠地探しはするんだろ? そっちの二人はどうして忙しい中ウチの支部へ来てくれたんだ?」
マスターが苦い口調で言った。
「それはウチの支部が深刻な人手不足だからだ。新人が全く育たん。この十年、現場担当で残ったのはルパートとウィーだけだ」
「アンタが安月給でこき使うから新人が逃げるんだろ」
そうだったね。私の後に何人も採用されたけど、みんな半年くらいで辞めてしまった。酷いのなんて一ヶ月も保たなかった。事務仕事に比べてハードな上に命の危険も有るからね。僅かな危険手当が付くだけでは割に合わないと考えたんだろう。
「通常業務もやっていかなきゃならんから、アンダー・ドラゴンの案件に割ける人員は多くない。だからレクセンから助っ人を回してもらったし、エリアスさんにもまた手を借りることになった」
なるほど、だからエリアスがここに居るのか。
「エリアスさんは宜しいんですか? 昨日以上に危険な任務となりますよ……?」
ギルドから謝礼金が出るといっても大した額じゃない。冒険者として富豪の依頼を受けた方が成功報酬は高い。同じ命を懸けるなら見返りが多い方が良いだろうに。
聞いた私にエリアスは微笑んだ。左手はもちろん握ったままです。
「アンダー・ドラゴンを放っておけば被害はいずれ国中に拡大するだろう。父が護る領地にもな。決して他人事ではないよ」
この人は恩着せがましいことを言わない。善い人なんだよね、本当に。身分違いでさえなかったら素直に恋ができたのに。
「それじゃあ早速……と言いたいところだが、レクセン支部の二人は長距離移動で疲れただろう? 独身寮に部屋を用意したのでそちらで足を休めてくれ。今から案内する」
本拠地探しは時間がかかりそうだから、彼らはしばらくフィースノー支部に宿泊することになるのだ。
「任務開始は本日13時からとする。時刻になったらまたこの会議室に集まってくれ。それまでは自由時間だ」
わぁ、勤務中に自由時間を貰えるのは珍しいな。それだけ大変な任務だからしっかり準備しろということなんだろうけど……。
マスターがレクセン支部の二人を連れて会議室を出ていった後、残った私達も席を立った。
「え、ロックウィーナ?」
「おい、おまえら!?」
キースとルパートがこちらを見て目を丸くしていた。あ、しまった。エリアスと手を繋いだまま立ち上がったから見えちゃったよ。
「ずっと手ェ繋いでいたのか!? 真面目な会議中に何やってんだよこのスカタン!」
ルパートが私の頭を叩こうとした。いつもならスパーンとやられるところだが、今日はエリアスがルパートの手を掴んで止めた。
「女性に暴力を振るうな」
低音ボイスでエリアスに凄まれたが、ルパートは引かなかった。
「……ずっと言いたかったんですが、ウチの職員にちょっかい出すのをやめてもらえませんかね?」
「私も前々から疑問に思って尋ねたかった。ルパート……、おまえはどうして彼女を支配しようとするんだ? 何日か同行して判ったが、おまえとレディは恋人同士ではないのだろう?」
「それはっ……」
「ギルド職員には恋愛禁止のルールでも有るのか?」
「………………」
「無いのなら、私がレディと交流を深めるのを邪魔しないでくれ」
ルパートは忌々し気にエリアスを睨んだ。
「俺はただ、コイツの先輩として心配しているだけです。世間知らずの女は、男の甘言に簡単に騙されて身を崩してしまう」
「それは余計なお節介じゃないか? レディはもう立派な大人だ」
「精神年齢は十代のまま成長していませんよ」
ああん?
「ルパート、それはおまえのことではないのか?」
「え?」
「おまえはまるで、お気に入りの玩具を取り上げられそうになって焦る子供のようだ」
「!…………」
ルパートは顔を真っ赤にした。怒りからか、言い当てられた恥ずかしさからか。
「レディ、また約束の時間に」
エリアスは私の手の甲にキスをしてから会議室を出ていこうとした。
「待てよコラァ!! まだ話は終わってねぇぞ!」
ルパートが乱暴な口調でエリアスを呼び止めた。相手はお貴族様だってば。
エリアスは半分だけ振り返ってルパートを見やった。
「頭を冷やせ」
それだけ言ってさっさと行ってしまった。
「あの野郎!」
ルパートは閉じた会議室の扉にイスを投げ付けた。ガシャンと激しい音が響いた。
「おいウィー、あんな奴にフラフラしてんなよ!」
怒りに任せて肩を掴んできたルパートの手を、私は自分でもビックリするくらい冷たく払い除けた。
「触らないで下さい」
「……ウィー?」
エリアスの言った通りだ。ルパートにとって私は玩具なんだ。
「先輩は私の男関係によく口を出してきますが、もうやめて下さい。私はもう25歳、いい大人なんです」
「おまえが大人ぁ?」
ルパートは鼻で笑った。
「そうです。今まで流してきましたがもう限界です。金輪際私のプライベートに口を挟まないで下さい」
「おいちょっと、何マジになってんの……?」
「迷惑なんです」
私は断言した。ルパートは沈黙して私を見た。
……傷付いた? 私も傷付いたんだよ、六年前にね。
まるで恋人のように接してきて、期待させるだけさせて突き放す。ルパートの常套手段だ。
あんたは私をフッたでしょう? 女として見られないって。それなのに男に騙されそうだから心配だ? ふざけんな。
フラれて泣いた私を見たでしょう? それなのにどうして付き纏うの? どうして距離を置いてくれないの?
もうあんたに振り回されたくない。あんな想いをするのは一度で充分だ。
私は呆然とするルパートとキースを置いて会議室を出た。
「レクセンでも本拠地探しはするんだろ? そっちの二人はどうして忙しい中ウチの支部へ来てくれたんだ?」
マスターが苦い口調で言った。
「それはウチの支部が深刻な人手不足だからだ。新人が全く育たん。この十年、現場担当で残ったのはルパートとウィーだけだ」
「アンタが安月給でこき使うから新人が逃げるんだろ」
そうだったね。私の後に何人も採用されたけど、みんな半年くらいで辞めてしまった。酷いのなんて一ヶ月も保たなかった。事務仕事に比べてハードな上に命の危険も有るからね。僅かな危険手当が付くだけでは割に合わないと考えたんだろう。
「通常業務もやっていかなきゃならんから、アンダー・ドラゴンの案件に割ける人員は多くない。だからレクセンから助っ人を回してもらったし、エリアスさんにもまた手を借りることになった」
なるほど、だからエリアスがここに居るのか。
「エリアスさんは宜しいんですか? 昨日以上に危険な任務となりますよ……?」
ギルドから謝礼金が出るといっても大した額じゃない。冒険者として富豪の依頼を受けた方が成功報酬は高い。同じ命を懸けるなら見返りが多い方が良いだろうに。
聞いた私にエリアスは微笑んだ。左手はもちろん握ったままです。
「アンダー・ドラゴンを放っておけば被害はいずれ国中に拡大するだろう。父が護る領地にもな。決して他人事ではないよ」
この人は恩着せがましいことを言わない。善い人なんだよね、本当に。身分違いでさえなかったら素直に恋ができたのに。
「それじゃあ早速……と言いたいところだが、レクセン支部の二人は長距離移動で疲れただろう? 独身寮に部屋を用意したのでそちらで足を休めてくれ。今から案内する」
本拠地探しは時間がかかりそうだから、彼らはしばらくフィースノー支部に宿泊することになるのだ。
「任務開始は本日13時からとする。時刻になったらまたこの会議室に集まってくれ。それまでは自由時間だ」
わぁ、勤務中に自由時間を貰えるのは珍しいな。それだけ大変な任務だからしっかり準備しろということなんだろうけど……。
マスターがレクセン支部の二人を連れて会議室を出ていった後、残った私達も席を立った。
「え、ロックウィーナ?」
「おい、おまえら!?」
キースとルパートがこちらを見て目を丸くしていた。あ、しまった。エリアスと手を繋いだまま立ち上がったから見えちゃったよ。
「ずっと手ェ繋いでいたのか!? 真面目な会議中に何やってんだよこのスカタン!」
ルパートが私の頭を叩こうとした。いつもならスパーンとやられるところだが、今日はエリアスがルパートの手を掴んで止めた。
「女性に暴力を振るうな」
低音ボイスでエリアスに凄まれたが、ルパートは引かなかった。
「……ずっと言いたかったんですが、ウチの職員にちょっかい出すのをやめてもらえませんかね?」
「私も前々から疑問に思って尋ねたかった。ルパート……、おまえはどうして彼女を支配しようとするんだ? 何日か同行して判ったが、おまえとレディは恋人同士ではないのだろう?」
「それはっ……」
「ギルド職員には恋愛禁止のルールでも有るのか?」
「………………」
「無いのなら、私がレディと交流を深めるのを邪魔しないでくれ」
ルパートは忌々し気にエリアスを睨んだ。
「俺はただ、コイツの先輩として心配しているだけです。世間知らずの女は、男の甘言に簡単に騙されて身を崩してしまう」
「それは余計なお節介じゃないか? レディはもう立派な大人だ」
「精神年齢は十代のまま成長していませんよ」
ああん?
「ルパート、それはおまえのことではないのか?」
「え?」
「おまえはまるで、お気に入りの玩具を取り上げられそうになって焦る子供のようだ」
「!…………」
ルパートは顔を真っ赤にした。怒りからか、言い当てられた恥ずかしさからか。
「レディ、また約束の時間に」
エリアスは私の手の甲にキスをしてから会議室を出ていこうとした。
「待てよコラァ!! まだ話は終わってねぇぞ!」
ルパートが乱暴な口調でエリアスを呼び止めた。相手はお貴族様だってば。
エリアスは半分だけ振り返ってルパートを見やった。
「頭を冷やせ」
それだけ言ってさっさと行ってしまった。
「あの野郎!」
ルパートは閉じた会議室の扉にイスを投げ付けた。ガシャンと激しい音が響いた。
「おいウィー、あんな奴にフラフラしてんなよ!」
怒りに任せて肩を掴んできたルパートの手を、私は自分でもビックリするくらい冷たく払い除けた。
「触らないで下さい」
「……ウィー?」
エリアスの言った通りだ。ルパートにとって私は玩具なんだ。
「先輩は私の男関係によく口を出してきますが、もうやめて下さい。私はもう25歳、いい大人なんです」
「おまえが大人ぁ?」
ルパートは鼻で笑った。
「そうです。今まで流してきましたがもう限界です。金輪際私のプライベートに口を挟まないで下さい」
「おいちょっと、何マジになってんの……?」
「迷惑なんです」
私は断言した。ルパートは沈黙して私を見た。
……傷付いた? 私も傷付いたんだよ、六年前にね。
まるで恋人のように接してきて、期待させるだけさせて突き放す。ルパートの常套手段だ。
あんたは私をフッたでしょう? 女として見られないって。それなのに男に騙されそうだから心配だ? ふざけんな。
フラれて泣いた私を見たでしょう? それなのにどうして付き纏うの? どうして距離を置いてくれないの?
もうあんたに振り回されたくない。あんな想いをするのは一度で充分だ。
私は呆然とするルパートとキースを置いて会議室を出た。
2
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる