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四幕 キースの瞳(2)
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「私……フラれたから諦めようとしたんです。気持ちを切り替えて仕事に集中しようって。でもルパート先輩ったら、相変わらずベタベタ触るわ他の男と話すと怒るわで意味が解らないんです」
「……酷い野郎ですね」
「二年くらいつらかったけど、流石に今は恋心が消えました。その代わりに強い嫌悪感が生まれましたけど」
「そうなるのは当然です。後ろから刺さなかったあなたは立派です」
また聖職者が物騒なことを言った。
「せめて相棒として頑張ろうと思ったのに、ルパート先輩は自分の過去も魔法が使えることすら話してくれなくて。私のこと信用してないんですよ……。私については根掘り葉掘り、下着の色まで聞いてくるくせして!」
「クズじゃないですか」
「そうなんです! ルパート先輩はウンコですよね!?」
「下痢便野郎です」
ぶはっ。私とキースは同時に噴き出した。ああ、キースが解ってくれたおかげで、私の凝り固まった悩みが雪解けのように消えていく気がする。話して良かった。
……ん?
キースが私の頭を優しくポンポンと撫でた。長い前髪から覗く瞳が私を捉えている。急に恥ずかしくなってきた。
「覚えていますか? あなたがギルドに採用された歓迎会の日。僕とあなたは髪と瞳の色が似ているので、まるで兄妹だってマスターにからかわれて」
「あ、はい!」
マスターのニュアンス的には兄妹ではなく兄弟だったけどね。あの頃の私は陽に焼けて真っ黒だったし、短髪でよく男の子に間違われていた。
「僕はずっとね、あなたがギルドへ来てから本当の妹のように思っているんですよ。そして妹には笑っていて欲しい」
「キース先輩……」
私もキースを兄のように想い慕ってきた。そんな所も一緒だったなんて嬉しいな。
それはそうと、こんな至近距離でキースと見つめ合うなんて初めてだ。ていうかベッドの上に男性と二人きりの状況が初めてだ。ええと、どうしよう?
「ねぇ、ロックウィーナ。もし……」
キースが何やら言い終わる前に部屋の扉が開いた。
「おいウィー、話が……」
ルパートだった。奴はベッドに並んで腰かけていた私とキースを見て口をあんぐりと開けた。そして数秒後に怒鳴ってきた。
「おいっ、何やってんだよ!! とりあえず離れろ! キースさん、コイツの部屋に何の用!?」
断りも無く部屋に入ってきておいてえらそうに。私よりも先にキースが反論した。
「おまえに関係有るのか? ルパート」
「……えっ?」
「ノックもせずに女性の部屋に入るとは非常識極まりないな」
ソイツ昨日はピッキングもしましたよ。
「あれ? キースさんてば性格変わってねぇ……?」
口調がトゲトゲしくなったキースにルパートはたじろいた。キースは立ち上がってルパートの元まで歩いた。
「僕は出るからおまえも出ろ。ロックウィーナはしばらく独りにしてやれ」
「え、ああ……」
キースはルパートを部屋の外へ押し出した後、振り返って私に微笑んだ。
「それではまた後で。昼食はしっかり摂って下さいね」
「はい……」
私は深く感謝しながら、部屋から出ていくキースの後ろ姿を見送った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
私(ロックウィーナ)が居ない所で、こんなやり取りが有ったそうです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「キースさん……」
ロックウィーナの部屋を後にした後、ルパートは気まずそうに、そして何かを言いたげにキースを見た。
「……僕の部屋へ来い。弁明が有るなら聞いてやる」
不機嫌そうに背中を向けて歩き始めたキースから、あからさまな怒りをぶつけられたルパートは少し躊躇った。
(話はしたい。だが安易に付いていっていいものか……)
キースは回復魔法と障壁魔法の使い手だ。味方のサポートに回ってこそ真価を発揮する能力。一対一の勝負なら、攻撃型で優れた能力を持つルパートが負けることはまず無いだろう。
しかし以前ギルドマスターが呟いた言葉をルパートは思い出していた。キースには「決まる確率はそこそこだが、相手の心臓を狙う一撃必殺の技が有る」と。
(まだ俺はその技を見たことが無い。物理的なものなのか呪文なのか、正体が判らないと対処が難しい。マスターははぐらかして詳しく教えてくれなかったからな。禿め)
「どうした? 来ないのか?」
既にキースは自室の前に立ってドアを開けていた。砂糖菓子目当てで何度も訪問した見慣れた部屋。穏やかなキースは人畜無害だ。ニコニコして厨房でこしらえた手作り菓子を振る舞ってくれる。
しかし今のキースは全身から禍々しい怒りのオーラを、ルパートに向けて大放出していた。
「もう一度聞くぞ? どうする?」
「……行くよ。お邪魔します」
ルパートは心を決めた。さっき見たロックウィーナは泣き顔だった。そしてキースはルパートに対して怒っている。
(アイツが泣いたのは俺が原因なんだよな……? キースさんと何を話したんだろう)
それを確かめたくてルパートはキースの部屋へ入った。
「そこへ座れ」
高圧的にキースはルパートにいつものイスを勧めた。来客が多い彼の部屋には折り畳めるイスが数脚用意されている。ルパートが腰かけた真向かいに、机を挟んでキースも座った。
「……酷い野郎ですね」
「二年くらいつらかったけど、流石に今は恋心が消えました。その代わりに強い嫌悪感が生まれましたけど」
「そうなるのは当然です。後ろから刺さなかったあなたは立派です」
また聖職者が物騒なことを言った。
「せめて相棒として頑張ろうと思ったのに、ルパート先輩は自分の過去も魔法が使えることすら話してくれなくて。私のこと信用してないんですよ……。私については根掘り葉掘り、下着の色まで聞いてくるくせして!」
「クズじゃないですか」
「そうなんです! ルパート先輩はウンコですよね!?」
「下痢便野郎です」
ぶはっ。私とキースは同時に噴き出した。ああ、キースが解ってくれたおかげで、私の凝り固まった悩みが雪解けのように消えていく気がする。話して良かった。
……ん?
キースが私の頭を優しくポンポンと撫でた。長い前髪から覗く瞳が私を捉えている。急に恥ずかしくなってきた。
「覚えていますか? あなたがギルドに採用された歓迎会の日。僕とあなたは髪と瞳の色が似ているので、まるで兄妹だってマスターにからかわれて」
「あ、はい!」
マスターのニュアンス的には兄妹ではなく兄弟だったけどね。あの頃の私は陽に焼けて真っ黒だったし、短髪でよく男の子に間違われていた。
「僕はずっとね、あなたがギルドへ来てから本当の妹のように思っているんですよ。そして妹には笑っていて欲しい」
「キース先輩……」
私もキースを兄のように想い慕ってきた。そんな所も一緒だったなんて嬉しいな。
それはそうと、こんな至近距離でキースと見つめ合うなんて初めてだ。ていうかベッドの上に男性と二人きりの状況が初めてだ。ええと、どうしよう?
「ねぇ、ロックウィーナ。もし……」
キースが何やら言い終わる前に部屋の扉が開いた。
「おいウィー、話が……」
ルパートだった。奴はベッドに並んで腰かけていた私とキースを見て口をあんぐりと開けた。そして数秒後に怒鳴ってきた。
「おいっ、何やってんだよ!! とりあえず離れろ! キースさん、コイツの部屋に何の用!?」
断りも無く部屋に入ってきておいてえらそうに。私よりも先にキースが反論した。
「おまえに関係有るのか? ルパート」
「……えっ?」
「ノックもせずに女性の部屋に入るとは非常識極まりないな」
ソイツ昨日はピッキングもしましたよ。
「あれ? キースさんてば性格変わってねぇ……?」
口調がトゲトゲしくなったキースにルパートはたじろいた。キースは立ち上がってルパートの元まで歩いた。
「僕は出るからおまえも出ろ。ロックウィーナはしばらく独りにしてやれ」
「え、ああ……」
キースはルパートを部屋の外へ押し出した後、振り返って私に微笑んだ。
「それではまた後で。昼食はしっかり摂って下さいね」
「はい……」
私は深く感謝しながら、部屋から出ていくキースの後ろ姿を見送った。
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私(ロックウィーナ)が居ない所で、こんなやり取りが有ったそうです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「キースさん……」
ロックウィーナの部屋を後にした後、ルパートは気まずそうに、そして何かを言いたげにキースを見た。
「……僕の部屋へ来い。弁明が有るなら聞いてやる」
不機嫌そうに背中を向けて歩き始めたキースから、あからさまな怒りをぶつけられたルパートは少し躊躇った。
(話はしたい。だが安易に付いていっていいものか……)
キースは回復魔法と障壁魔法の使い手だ。味方のサポートに回ってこそ真価を発揮する能力。一対一の勝負なら、攻撃型で優れた能力を持つルパートが負けることはまず無いだろう。
しかし以前ギルドマスターが呟いた言葉をルパートは思い出していた。キースには「決まる確率はそこそこだが、相手の心臓を狙う一撃必殺の技が有る」と。
(まだ俺はその技を見たことが無い。物理的なものなのか呪文なのか、正体が判らないと対処が難しい。マスターははぐらかして詳しく教えてくれなかったからな。禿め)
「どうした? 来ないのか?」
既にキースは自室の前に立ってドアを開けていた。砂糖菓子目当てで何度も訪問した見慣れた部屋。穏やかなキースは人畜無害だ。ニコニコして厨房でこしらえた手作り菓子を振る舞ってくれる。
しかし今のキースは全身から禍々しい怒りのオーラを、ルパートに向けて大放出していた。
「もう一度聞くぞ? どうする?」
「……行くよ。お邪魔します」
ルパートは心を決めた。さっき見たロックウィーナは泣き顔だった。そしてキースはルパートに対して怒っている。
(アイツが泣いたのは俺が原因なんだよな……? キースさんと何を話したんだろう)
それを確かめたくてルパートはキースの部屋へ入った。
「そこへ座れ」
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