32 / 291
六幕 アジトを探れ!(5)
しおりを挟む
はーやく来い来い連絡係。長い時間待ち続けたくないな。退屈なのもそうだけど、男性の中に女性一人だと用足しに行きづらいんだよね。これは切実な問題だ。
長時間の出動では途中でトイレ休憩が挟まれる。パートナーに周辺を警戒してもらう中で、交代で見えない所で用を足すことになるのだけど……。ちょっとでも戻るのに時間がかかると、ルパートの馬鹿は嬉しそうに「ウンコ? ウンコ?」と囃し立ててくる。マジで死ねよ。
「……新しい奴が来た」
監視当番のエンが望遠鏡を覗きながら知らせた。
「まだ若い男。でも立ち振る舞いがチンピラとは違う」
「連絡係か?」
ルパートもエンから渡された望遠鏡で確認した。
「あーなるほど、あれは三下のチンピラじゃねーわ、相当な使い手だな。連絡係かどうかは判らねーが、アンドラの組織でそれなりの地位に居る奴だろうな」
「多少の情報は持っていそうですね。どうしますか? このまま観察を続けますか?」
「いや、それだと動きが出るまで時間がかかりそうだ。夜になると地の利が無いこちらが不利になる」
「ではアジトにお邪魔してお話を伺いましょう」
キースの言い方は丁寧だが、要はアジトに突入して力技で相手をねじ伏せる、そういう意味である。
「私もそれがいいと思う。外に居る男達が四人。小屋の中にも誰か居るかもしれないが、あの広さで共同生活をしているのなら一人か二人だろう。これ以上人数が増える前に片付けた方がいい」
エリアスが上半身を前に倒して、背中に担いでいた大剣を抜いた。
「……凄い。アレを振るうのか」
扱いが難しそうな大剣をエンは感心したように眺めた。エリアスは凄いんだよ、重力無視であの重い剣をブンブン振り回すからね。銀色に輝く抜き身の刃が見る間に赤く染まっちゃうんだから。
「ロックウィーナ、キミはここに残っていた方がいい」
「そうだな。おまえにはまだ無理だ」
立ち上がって戦闘準備をしようとした私は、エリアスとルパートの両方から止められた。
「え、でも……」
「相手はモンスターじゃねぇ、人間だ。場合によっては殺さなきゃならなくなる。悪党だろうが人殺しをおまえはできるのか?」
自信が無かった。モンスター相手の戦闘経験すら少ない私が、はたして先に鋼が付いた鞭を人間相手に打てるだろうか?
「エン、おまえは人を斬った経験が有るか?」
「有ります」
エン……まだ21歳なのに。落ち着いているルパートとエリアスも人を斬ったことが有るんだね。
「よし。では俺とエリアスさん、エンの三人でアジトを奇襲する。残りの者はここで待機だ」
仕切るルパートにマキアが異を唱えた。
「俺も行けます! 奇襲組に加えて下さい!」
「場所が悪い。ここは林ん中で、あそこに在るのは丸太小屋だ。お得意の火魔法を使ったら一面大火事になるぞ?」
「あ」
マキアも残ることになった。
「んじゃ行ってくる。いい子で待ってろよ? キースさん、二人を頼むな」
「ええ。気をつけて」
襲撃組は身体を低くして、アジトの連中に気づかれないように接近を開始した。
「くそっ……! これじゃ一緒に来た意味が無いじゃんか!」
マキアが小声で感情を吐露した。そんな彼に私は声をかけた。
「私も悔しいよ。訓練は欠かさないし七年間もギルドで働いているのに、実戦になるといつも後方に下げられるの」
私の方を振り返ったマキアへ尚も言った。
「でも、待機組にだって役割は有るから。前衛がピンチになったらすぐに援護に出なくちゃ。その為に今は三人の動きをしっかり目で追うことにする」
マキアが頷いた。
「うん、そうだよね……」
そして彼はアジトの方角へ目を凝らした。
低姿勢でアジトに向かっていた襲撃組は、距離がだいぶ縮まったところで身体を起こしスビートを上げて、一気にアンダー・ドラゴン構成員の前に躍り出た。
「うおっ!?」
驚いたチンピラくん達が武器を構える前に、エンが投げ付けた何かが彼らの肩に次々と刺さった。痛そうだ。
「……投げナイフ?」
呟いた私にマキアが解説した。
「あれはクナイと呼ばれる東方の武器だよ。エンは忍びと言う集団に属していたそうだ」
忍び? 知ってる、本で読んだ! 諜報活動も暗殺もできる戦闘のスペシャリストだって書いてあった。エンは忍者だったのか!! にんにん!
肩を押さえたチンピラ達の鳩尾に、ルパートとエリアスが蹴りを叩き込んで沈めた。こっちも痛そう。
「畜生、冒険者ギルドの回し者か!?」
ただ一人、連絡係かもしれない男は投げられたクナイをかわして、腰の鞘から自身の剣を二本抜いた。エンは投擲をやめて残ったクナイをこちらも二本、両手にそれぞれ持った。
両者とも双剣使いらしいが、リーチの長さでは相手に分が有った。それが解っているのでエンは迂闊に攻め込めず距離を測った。
「ふんっ」
二人の間に無粋に割り込んできたのは、強力助っ人エリアスの大剣だった。幅広な上に長くしかも一撃が重い。受け太刀をしたら確実に力負けするので、連絡係っぽい男は逃げ回るしかなかった。
暫定連絡係はなかなかの身のこなしでエリアスの攻撃を避けていたが、そう長くはできないだろう。現にルパートが背後に回って退路を断とうとしていた。
「くっ……」
これは勝ったね、そう思った私の判断は甘かった。小屋の中に潜んでいたチンピラが飛び出してきて、あろうことかエリアスに向かって火炎瓶を投げたのだった。
ここ林の中────!!!!
ガシャン! …………ぼわん。
エリアスは難無くかわしたが、瓶は彼の背後の木に当たって割れた。瓶に入っていたアルコールのせいで、木は勢い良く炎に包まれた。
「あぁ!? やべッ!!」
投げた本人が一番アタフタしていた。だよね。早く消火しないと隣接するキミ達の家も燃えちゃうんだもんね。
襲撃組(この呼び名だとこっちが悪者みたいだ)が愚行を犯したチンピラを呆れた目で見ている間に、連絡係に見える男は私達の方へ向かって逃走した。アジトも仲間も捨てるつもりだ。
長時間の出動では途中でトイレ休憩が挟まれる。パートナーに周辺を警戒してもらう中で、交代で見えない所で用を足すことになるのだけど……。ちょっとでも戻るのに時間がかかると、ルパートの馬鹿は嬉しそうに「ウンコ? ウンコ?」と囃し立ててくる。マジで死ねよ。
「……新しい奴が来た」
監視当番のエンが望遠鏡を覗きながら知らせた。
「まだ若い男。でも立ち振る舞いがチンピラとは違う」
「連絡係か?」
ルパートもエンから渡された望遠鏡で確認した。
「あーなるほど、あれは三下のチンピラじゃねーわ、相当な使い手だな。連絡係かどうかは判らねーが、アンドラの組織でそれなりの地位に居る奴だろうな」
「多少の情報は持っていそうですね。どうしますか? このまま観察を続けますか?」
「いや、それだと動きが出るまで時間がかかりそうだ。夜になると地の利が無いこちらが不利になる」
「ではアジトにお邪魔してお話を伺いましょう」
キースの言い方は丁寧だが、要はアジトに突入して力技で相手をねじ伏せる、そういう意味である。
「私もそれがいいと思う。外に居る男達が四人。小屋の中にも誰か居るかもしれないが、あの広さで共同生活をしているのなら一人か二人だろう。これ以上人数が増える前に片付けた方がいい」
エリアスが上半身を前に倒して、背中に担いでいた大剣を抜いた。
「……凄い。アレを振るうのか」
扱いが難しそうな大剣をエンは感心したように眺めた。エリアスは凄いんだよ、重力無視であの重い剣をブンブン振り回すからね。銀色に輝く抜き身の刃が見る間に赤く染まっちゃうんだから。
「ロックウィーナ、キミはここに残っていた方がいい」
「そうだな。おまえにはまだ無理だ」
立ち上がって戦闘準備をしようとした私は、エリアスとルパートの両方から止められた。
「え、でも……」
「相手はモンスターじゃねぇ、人間だ。場合によっては殺さなきゃならなくなる。悪党だろうが人殺しをおまえはできるのか?」
自信が無かった。モンスター相手の戦闘経験すら少ない私が、はたして先に鋼が付いた鞭を人間相手に打てるだろうか?
「エン、おまえは人を斬った経験が有るか?」
「有ります」
エン……まだ21歳なのに。落ち着いているルパートとエリアスも人を斬ったことが有るんだね。
「よし。では俺とエリアスさん、エンの三人でアジトを奇襲する。残りの者はここで待機だ」
仕切るルパートにマキアが異を唱えた。
「俺も行けます! 奇襲組に加えて下さい!」
「場所が悪い。ここは林ん中で、あそこに在るのは丸太小屋だ。お得意の火魔法を使ったら一面大火事になるぞ?」
「あ」
マキアも残ることになった。
「んじゃ行ってくる。いい子で待ってろよ? キースさん、二人を頼むな」
「ええ。気をつけて」
襲撃組は身体を低くして、アジトの連中に気づかれないように接近を開始した。
「くそっ……! これじゃ一緒に来た意味が無いじゃんか!」
マキアが小声で感情を吐露した。そんな彼に私は声をかけた。
「私も悔しいよ。訓練は欠かさないし七年間もギルドで働いているのに、実戦になるといつも後方に下げられるの」
私の方を振り返ったマキアへ尚も言った。
「でも、待機組にだって役割は有るから。前衛がピンチになったらすぐに援護に出なくちゃ。その為に今は三人の動きをしっかり目で追うことにする」
マキアが頷いた。
「うん、そうだよね……」
そして彼はアジトの方角へ目を凝らした。
低姿勢でアジトに向かっていた襲撃組は、距離がだいぶ縮まったところで身体を起こしスビートを上げて、一気にアンダー・ドラゴン構成員の前に躍り出た。
「うおっ!?」
驚いたチンピラくん達が武器を構える前に、エンが投げ付けた何かが彼らの肩に次々と刺さった。痛そうだ。
「……投げナイフ?」
呟いた私にマキアが解説した。
「あれはクナイと呼ばれる東方の武器だよ。エンは忍びと言う集団に属していたそうだ」
忍び? 知ってる、本で読んだ! 諜報活動も暗殺もできる戦闘のスペシャリストだって書いてあった。エンは忍者だったのか!! にんにん!
肩を押さえたチンピラ達の鳩尾に、ルパートとエリアスが蹴りを叩き込んで沈めた。こっちも痛そう。
「畜生、冒険者ギルドの回し者か!?」
ただ一人、連絡係かもしれない男は投げられたクナイをかわして、腰の鞘から自身の剣を二本抜いた。エンは投擲をやめて残ったクナイをこちらも二本、両手にそれぞれ持った。
両者とも双剣使いらしいが、リーチの長さでは相手に分が有った。それが解っているのでエンは迂闊に攻め込めず距離を測った。
「ふんっ」
二人の間に無粋に割り込んできたのは、強力助っ人エリアスの大剣だった。幅広な上に長くしかも一撃が重い。受け太刀をしたら確実に力負けするので、連絡係っぽい男は逃げ回るしかなかった。
暫定連絡係はなかなかの身のこなしでエリアスの攻撃を避けていたが、そう長くはできないだろう。現にルパートが背後に回って退路を断とうとしていた。
「くっ……」
これは勝ったね、そう思った私の判断は甘かった。小屋の中に潜んでいたチンピラが飛び出してきて、あろうことかエリアスに向かって火炎瓶を投げたのだった。
ここ林の中────!!!!
ガシャン! …………ぼわん。
エリアスは難無くかわしたが、瓶は彼の背後の木に当たって割れた。瓶に入っていたアルコールのせいで、木は勢い良く炎に包まれた。
「あぁ!? やべッ!!」
投げた本人が一番アタフタしていた。だよね。早く消火しないと隣接するキミ達の家も燃えちゃうんだもんね。
襲撃組(この呼び名だとこっちが悪者みたいだ)が愚行を犯したチンピラを呆れた目で見ている間に、連絡係に見える男は私達の方へ向かって逃走した。アジトも仲間も捨てるつもりだ。
2
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる