ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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六幕  アジトを探れ!(5)

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 はーやく来い来い連絡係。長い時間待ち続けたくないな。退屈なのもそうだけど、男性の中に女性一人だと用足しに行きづらいんだよね。これは切実な問題だ。
 長時間の出動では途中でトイレ休憩が挟まれる。パートナーに周辺を警戒してもらう中で、交代で見えない所で用を足すことになるのだけど……。ちょっとでも戻るのに時間がかかると、ルパートの馬鹿は嬉しそうに「ウンコ? ウンコ?」とはやし立ててくる。マジで死ねよ。

「……新しい奴が来た」

 監視当番のエンが望遠鏡を覗きながら知らせた。

「まだ若い男。でも立ち振る舞いがチンピラとは違う」
「連絡係か?」

 ルパートもエンから渡された望遠鏡で確認した。

「あーなるほど、あれは三下さんしたのチンピラじゃねーわ、相当な使い手だな。連絡係かどうかは判らねーが、アンドラの組織でそれなりの地位に居る奴だろうな」
「多少の情報は持っていそうですね。どうしますか? このまま観察を続けますか?」
「いや、それだと動きが出るまで時間がかかりそうだ。夜になると地の利が無いこちらが不利になる」
「ではアジトにお邪魔してお話を伺いましょう」

 キースの言い方は丁寧だが、要はアジトに突入して力技で相手をねじ伏せる、そういう意味である。

「私もそれがいいと思う。外に居る男達が四人。小屋の中にも誰か居るかもしれないが、あの広さで共同生活をしているのなら一人か二人だろう。これ以上人数が増える前に片付けた方がいい」

 エリアスが上半身を前に倒して、背中に担いでいた大剣を抜いた。

「……凄い。アレを振るうのか」

 扱いが難しそうな大剣をエンは感心したように眺めた。エリアスは凄いんだよ、重力無視であの重い剣をブンブン振り回すからね。銀色に輝く抜き身の刃が見る間に赤く染まっちゃうんだから。

「ロックウィーナ、キミはここに残っていた方がいい」
「そうだな。おまえにはまだ無理だ」

 立ち上がって戦闘準備をしようとした私は、エリアスとルパートの両方から止められた。

「え、でも……」
「相手はモンスターじゃねぇ、人間だ。場合によっては殺さなきゃならなくなる。悪党だろうが人殺しをおまえはできるのか?」

 自信が無かった。モンスター相手の戦闘経験すら少ない私が、はたして先に鋼が付いた鞭を人間相手に打てるだろうか?

「エン、おまえは人を斬った経験が有るか?」
「有ります」

 エン……まだ21歳なのに。落ち着いているルパートとエリアスも人を斬ったことが有るんだね。

「よし。では俺とエリアスさん、エンの三人でアジトを奇襲する。残りの者はここで待機だ」

 仕切るルパートにマキアが異を唱えた。

「俺も行けます! 奇襲組に加えて下さい!」
「場所が悪い。ここは林ん中で、あそこに在るのは丸太小屋だ。お得意の火魔法を使ったら一面大火事になるぞ?」
「あ」

 マキアも残ることになった。

「んじゃ行ってくる。いい子で待ってろよ? キースさん、二人を頼むな」
「ええ。気をつけて」

 襲撃組は身体を低くして、アジトの連中に気づかれないように接近を開始した。

「くそっ……! これじゃ一緒に来た意味が無いじゃんか!」

 マキアが小声で感情を吐露した。そんな彼に私は声をかけた。

「私も悔しいよ。訓練は欠かさないし七年間もギルドで働いているのに、実戦になるといつも後方に下げられるの」

 私の方を振り返ったマキアへ尚も言った。

「でも、待機組にだって役割は有るから。前衛がピンチになったらすぐに援護に出なくちゃ。その為に今は三人の動きをしっかり目で追うことにする」

 マキアが頷いた。

「うん、そうだよね……」

 そして彼はアジトの方角へ目を凝らした。
 低姿勢でアジトに向かっていた襲撃組は、距離がだいぶ縮まったところで身体を起こしスビートを上げて、一気にアンダー・ドラゴン構成員の前におどり出た。

「うおっ!?」

 驚いたチンピラくん達が武器を構える前に、エンが投げ付けた何かが彼らの肩に次々と刺さった。痛そうだ。

「……投げナイフ?」

 呟いた私にマキアが解説した。

「あれはクナイと呼ばれる東方の武器だよ。エンは忍びと言う集団に属していたそうだ」

 忍び? 知ってる、本で読んだ! 諜報活動も暗殺もできる戦闘のスペシャリストだって書いてあった。エンは忍者だったのか!! にんにん!
 肩を押さえたチンピラ達の鳩尾みぞおちに、ルパートとエリアスが蹴りを叩き込んで沈めた。こっちも痛そう。

「畜生、冒険者ギルドの回し者か!?」

 ただ一人、連絡係かもしれない男は投げられたクナイをかわして、腰のさやから自身の剣を二本抜いた。エンは投擲とうてきをやめて残ったクナイをこちらも二本、両手にそれぞれ持った。
 両者とも双剣使いらしいが、リーチの長さでは相手に分が有った。それが解っているのでエンは迂闊うかつに攻め込めず距離を測った。

「ふんっ」

 二人の間に無粋に割り込んできたのは、強力助っ人エリアスの大剣だった。幅広な上に長くしかも一撃が重い。受け太刀をしたら確実に力負けするので、連絡係っぽい男は逃げ回るしかなかった。
 暫定ざんてい連絡係はなかなかの身のこなしでエリアスの攻撃を避けていたが、そう長くはできないだろう。現にルパートが背後に回って退路を断とうとしていた。

「くっ……」

 これは勝ったね、そう思った私の判断は甘かった。小屋の中に潜んでいたチンピラが飛び出してきて、あろうことかエリアスに向かって火炎瓶を投げたのだった。
 ここ林の中────!!!!

 ガシャン! …………ぼわん。

 エリアスは難無くかわしたが、瓶は彼の背後の木に当たって割れた。瓶に入っていたアルコールのせいで、木は勢い良く炎に包まれた。

「あぁ!? やべッ!!」

 投げた本人が一番アタフタしていた。だよね。早く消火しないと隣接するキミ達の家も燃えちゃうんだもんね。
 襲撃組(この呼び名だとこっちが悪者みたいだ)が愚行を犯したチンピラを呆れた目で見ている間に、連絡係に見える男は私達の方へ向かって逃走した。アジトも仲間も捨てるつもりだ。
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