33 / 257
六幕 アジトを探れ!(6)
しおりを挟む
「そっちへ行ったぞ、気をつけろウィー!!」
ルパートが叫びながら連絡係っぽい男の後を追ったが、男の脚は恐ろしく速かった。あっという間に私達の側まで来てしまったのだ。30歳ちょいの見た目をした男は嫌な笑みを浮かべて、見つけた私に近付いた。きっと人質にする気だ!
バァンッ!!
伸ばした男の手は見えない壁によって弾かれた。キースの障壁魔法だ。防御しかできないが相手を怯ませるには充分だ。その隙に私の鞭がうなった。
バシュッ!
男の頬に赤い横線が引かれた。鞭の先が彼の皮膚を切り裂いたのだ。私を非戦闘員だと思って舐めていたでしょう? 出動時はお豆扱いだけど、訓練ではルパートにもセスにも時々マスターにもしごかれているんだぞ。
「このっ……小娘が!!」
激昂して私に双剣の切っ先を向けた男に、マキアが短く呪文を唱えて応戦した。
「炎の球よ、彼の者を撃て!」
二つの火球が空中で生まれて、連続で男を目がけて飛んでいった。
「あちっ」
ファイヤーボールは男の肌を掠めて大地に落ち、草木を燃やした。マキアとしたら我慢していたのにチンピラに火を放たれたので、もういいや俺もやっちゃえという心境になったのだろう。あちあちあち。火に触れていないのに熱い。至近距離での炎は凶器です。
男の背後を捉えたルパートが剣を振ったが、これもかわして男は再び逃走した。身のこなしはSランクだな。
ルパートは私の元に留まり、エンが走って男を追跡した。エリアスは火炎瓶を投げたチンピラに当て身を入れて気絶させた後、小屋の中にまだ人が居ないか探っていた。
「ウィー、斬られてないか!?」
引っ張って炎から遠ざけ、まず私の身を案じてくれたルパートにドギマギした。
「は、はい、無傷です。キース先輩が護ってくれて、マキアが追い払ってくれたので」
ふうっと安堵の息を吐いたルパートに、ありがとうを言うべきだろうか? 彼が私を妹のように慕ってくれているのは事実みたいだ。でも今までの経緯が有るから素直にお礼を言うのは照れ臭いんだよね。
あーだこーだ迷っているところに、肩を落としてエンが戻ってきた。
「すみません引き離されました。俺が走り負けるなんて……」
「それでいい、深追いは危険だ。奴さんの脚は世界大会上位ランクだ。あの脚が有るからアンドラの連絡係に選ばれたんだろうから」
やっぱり連絡係で間違いなかったか。どう呼ぼうか苦労していたんだよね。奴を取り逃がしてしまったことは痛手になるな。
「おまえ達はエリアスさんに合流してくれ。キースさん、俺とアンタで火を消そう」
「ですね。これ以上火が広がる前に魔法で何とかしましょう」
私達は指示通りエリアスの元へ行った。気を失っているチンピラ達の傷を止血した上で、後ろ手を縛って戦闘力を奪った。彼らは歩かせてフィースノーの街まで連れていき、駐留している王国兵に引き渡す。
ルパートは風魔法で、キースは障壁魔法で、炎の周囲の空気を遮断して消火活動に勤しんだ。可燃性の空気は温度を下げないと大きな爆発が起きるらしく、二人はとても慎重に作業していた。
「魔法はあんな風にも使えるんだな……」
「まぁな。補助系の魔法は攻撃力が低いけど、利便性は高いって魔法学校の先生が言ってた。まー賢さが無いと使いこなせないから、俺は単純な火魔法を選んだけど」
エンとマキアの会話を聞き流しながら、私は縛ったチンピラを見下ろして愚痴た。
「下っ端の構成員だけでは、また大した情報は手に入らないでしょうね」
あと少しだったのに。あそこで火炎瓶を投げる馬鹿さえ居なければ大物を捕まえられたのに。
嘆いた私にエリアスが優しく言った。
「そうとは限らないぞ? コイツらは本拠地の場所を知らないだろうが、知っているであろう連絡係と接触していた。奴の情報を引き出せれば一歩前進だ」
「ああ、そうですね!」
直結はしないかもしれないけれど、連絡係の素性を調べていくことで本拠地に近付ける可能性が有る。
「何はともあれ、今日もお互い無事で良かった」
グイっとエリアスは私を引き寄せた。完全に油断していた私はもちろん彼に抱きしめられた。今度は力加減をしてくれたらしく息苦しくなかった。でも気を遣うところはそこじゃない。
「おおぃ! 何してやがる!?」
十メートル先で消火活動をしていたルパートが怒鳴った。エリアスはしれっと答えた。
「友人同士の抱擁だ。気を散らせると魔法のコントロールを失って暴発するぞ」
「だったら俺の前でイチャつくんじゃねぇ!! いや、隠れてイチャつくのはもっと駄目だ!!」
「いやらしい表現はよせ。ただのフレンドリーシップだ」
ヤバイヤバイヤバイ。力加減が絶妙なので心地良い。このままエリアスに全てを委ねてしまいそうだ。足元がフワフワしてきた。
「フレンドリーシップ……。じゃあロックウィーナと友達になれた俺もやっていいのかな?」
「いい訳がないだろう」
便乗しようとしたマキアにエンが冷静に突っ込んだ。良かった、まともな感覚の人が居たよ!
四人のチンピラが倒れて火が燻りルパートの怒号が響く林の中、エリアスはなかなか私を放してくれなかった。
ルパートが叫びながら連絡係っぽい男の後を追ったが、男の脚は恐ろしく速かった。あっという間に私達の側まで来てしまったのだ。30歳ちょいの見た目をした男は嫌な笑みを浮かべて、見つけた私に近付いた。きっと人質にする気だ!
バァンッ!!
伸ばした男の手は見えない壁によって弾かれた。キースの障壁魔法だ。防御しかできないが相手を怯ませるには充分だ。その隙に私の鞭がうなった。
バシュッ!
男の頬に赤い横線が引かれた。鞭の先が彼の皮膚を切り裂いたのだ。私を非戦闘員だと思って舐めていたでしょう? 出動時はお豆扱いだけど、訓練ではルパートにもセスにも時々マスターにもしごかれているんだぞ。
「このっ……小娘が!!」
激昂して私に双剣の切っ先を向けた男に、マキアが短く呪文を唱えて応戦した。
「炎の球よ、彼の者を撃て!」
二つの火球が空中で生まれて、連続で男を目がけて飛んでいった。
「あちっ」
ファイヤーボールは男の肌を掠めて大地に落ち、草木を燃やした。マキアとしたら我慢していたのにチンピラに火を放たれたので、もういいや俺もやっちゃえという心境になったのだろう。あちあちあち。火に触れていないのに熱い。至近距離での炎は凶器です。
男の背後を捉えたルパートが剣を振ったが、これもかわして男は再び逃走した。身のこなしはSランクだな。
ルパートは私の元に留まり、エンが走って男を追跡した。エリアスは火炎瓶を投げたチンピラに当て身を入れて気絶させた後、小屋の中にまだ人が居ないか探っていた。
「ウィー、斬られてないか!?」
引っ張って炎から遠ざけ、まず私の身を案じてくれたルパートにドギマギした。
「は、はい、無傷です。キース先輩が護ってくれて、マキアが追い払ってくれたので」
ふうっと安堵の息を吐いたルパートに、ありがとうを言うべきだろうか? 彼が私を妹のように慕ってくれているのは事実みたいだ。でも今までの経緯が有るから素直にお礼を言うのは照れ臭いんだよね。
あーだこーだ迷っているところに、肩を落としてエンが戻ってきた。
「すみません引き離されました。俺が走り負けるなんて……」
「それでいい、深追いは危険だ。奴さんの脚は世界大会上位ランクだ。あの脚が有るからアンドラの連絡係に選ばれたんだろうから」
やっぱり連絡係で間違いなかったか。どう呼ぼうか苦労していたんだよね。奴を取り逃がしてしまったことは痛手になるな。
「おまえ達はエリアスさんに合流してくれ。キースさん、俺とアンタで火を消そう」
「ですね。これ以上火が広がる前に魔法で何とかしましょう」
私達は指示通りエリアスの元へ行った。気を失っているチンピラ達の傷を止血した上で、後ろ手を縛って戦闘力を奪った。彼らは歩かせてフィースノーの街まで連れていき、駐留している王国兵に引き渡す。
ルパートは風魔法で、キースは障壁魔法で、炎の周囲の空気を遮断して消火活動に勤しんだ。可燃性の空気は温度を下げないと大きな爆発が起きるらしく、二人はとても慎重に作業していた。
「魔法はあんな風にも使えるんだな……」
「まぁな。補助系の魔法は攻撃力が低いけど、利便性は高いって魔法学校の先生が言ってた。まー賢さが無いと使いこなせないから、俺は単純な火魔法を選んだけど」
エンとマキアの会話を聞き流しながら、私は縛ったチンピラを見下ろして愚痴た。
「下っ端の構成員だけでは、また大した情報は手に入らないでしょうね」
あと少しだったのに。あそこで火炎瓶を投げる馬鹿さえ居なければ大物を捕まえられたのに。
嘆いた私にエリアスが優しく言った。
「そうとは限らないぞ? コイツらは本拠地の場所を知らないだろうが、知っているであろう連絡係と接触していた。奴の情報を引き出せれば一歩前進だ」
「ああ、そうですね!」
直結はしないかもしれないけれど、連絡係の素性を調べていくことで本拠地に近付ける可能性が有る。
「何はともあれ、今日もお互い無事で良かった」
グイっとエリアスは私を引き寄せた。完全に油断していた私はもちろん彼に抱きしめられた。今度は力加減をしてくれたらしく息苦しくなかった。でも気を遣うところはそこじゃない。
「おおぃ! 何してやがる!?」
十メートル先で消火活動をしていたルパートが怒鳴った。エリアスはしれっと答えた。
「友人同士の抱擁だ。気を散らせると魔法のコントロールを失って暴発するぞ」
「だったら俺の前でイチャつくんじゃねぇ!! いや、隠れてイチャつくのはもっと駄目だ!!」
「いやらしい表現はよせ。ただのフレンドリーシップだ」
ヤバイヤバイヤバイ。力加減が絶妙なので心地良い。このままエリアスに全てを委ねてしまいそうだ。足元がフワフワしてきた。
「フレンドリーシップ……。じゃあロックウィーナと友達になれた俺もやっていいのかな?」
「いい訳がないだろう」
便乗しようとしたマキアにエンが冷静に突っ込んだ。良かった、まともな感覚の人が居たよ!
四人のチンピラが倒れて火が燻りルパートの怒号が響く林の中、エリアスはなかなか私を放してくれなかった。
1
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる