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幕間 銀色の少年(1)
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一時間半後、私達は昨日と同じメンバーで二つ目のアジトへ向けて出発した。
目的の建物はフィースノーの街から、およそ八キロメートル先の距離に在るとされる。私達は七キロほどを馬車で進み、そこで小休止を挟んでから、残りの一キロを目立たないように徒歩で進む計画を立てた。
「すまないがここで俺達が戻るまで待っていてくれ。それと馬車はあの小さな丘の陰に隠しておいた方がいい」
予定の七キロ地点でルパートが御者に指示を出した。情報通りにこの先にアンダー・ドラゴンのアジトが存在するなら、街へ向かう犯罪者と出くわす危険が有る。
「ヤバイと思ったら俺達を待たずに逃げていい」
注意喚起されても御者は落ち着いていた。ギルド御用達の彼は荒っぽい仕事に慣れているのだ。頼もしいな。
「んじゃ俺達が周辺を警戒しているから、年少組は休憩に入っていいぞ。トイレも済ませておけ。十分後に交代な」
年齢で分けられるなら私も年少組か。トイレ行っておかないと。
えーと、適した場所は……うん、丘の反対側に回ればみんなの視界から隠れられそうだ。樹も生えているしね。私は小さな丘に沿って走った。いいよなー、男連中はそこら辺で立ってできるから。女はこういう時に面倒だよね。
……………………。
無事に用を足して、私は丘を逆回りしてみんなの元へ戻ろうした。しかしみんなの姿が見える一つ手前のカーブで、私は進むこと遮られた。
「えっ!?」
銀色の髪を持つ身なりの良い少年が立っていた。突然現れた少年に当然だが私は驚いた。
「あなたは……誰?」
周囲に目を凝らしても彼以外の人物は見当たらない。旅人のような装備も持っていない。街から七キロも離れたこんな場所に少年が独りで?
一瞬、五年前に保護したリーベルト少年を思い出したが、目の前の少年は迷子に当てはまらない気がした。とても落ち着いているのだ。
「こんな所でどうしたんですか……?」
伏し目がちな少年は私の質問に答えなかった。その代わりに右手を静かに伸ばしてきた。私の首へ。
「ぐっ…………!?」
迂闊だった。相手が12歳位に見える少年だからと油断してしまった。私は容易く少年の右手によって気道を塞がれてしまった。
(何て力……!)
私は両手を使って少年の指を開こうと奮闘したのだが、右手一本の少年に力負けしていた。
何なのコイツ!? まさかアンドラの構成員!?
(こんのぉ!)
私は右脚で少年の脛を蹴り上げようとしたが、見透かされていたようであっさり避けられた。
「……く、くぅぅ……ぐっ」
苦しい。目と鼻の奥が熱い。噓でしょ、私ここで彼に絞め殺されるの!? やめて。どうして私を? アンタ誰なの!?
霞んできた目を懸命に開けて、私は状況を掴もうとした。
「!………………」
どうしてだか、首を絞めている側の少年が苦しそうに顔を歪めていた。そして徐々に指の力が緩まっていった。
「ロックウィーナ!!」
私の名前が叫ばれた。低いその声はエリアスのものだった。彼は大地を蹴り猛スピードで私の元まで駆け付けると、手を放した少年に向けて大剣を構えた。
「ロックウィーナ、奴に何をされた! 無事か!?」
私はエリアスに応じられなかった。急に酸素が供給されて、喉がむせて激しく咳込んでしまったのだ。
「ウィー!?」
「ロックウィーナ!」
やや遅れて他のみんなも走って到着した。キースとマキアが私を後方へ下がらせて、ルパートとエンも抜刀して少年を牽制した。
「何だこのガキ、いつの間にこんな近くまで来たんだ。俺の風魔法で感知できなかったぞ?」
「……只者じゃない。気配が通常の人間と違う」
ルパートとエンは私が襲われている場面を見た訳ではないのに、初対面の少年を敵と認定していた。キースとマキアも強張った顔で少年を凝視していた。……気配が違う?
エリアスがみんなに忠告をした。
「気をつけろ、コイツは全系統の魔法を使えるんだ。身体に常にバリアを張っていて、大抵の攻撃は相殺される。ルパートの風魔法も届く前に消されたんだ」
「エリアスさん、このガキのことを知ってるんですか?」
その質問には答えず、息を吸い込んだエリアスは、
「アルクナイト、彼女にいったい何をした!!」
少年に大声で怒鳴った。アルクナイト?
「アルクナイト……? その名前って……は? おいおい噓だろ?」
ルパートが何度もエリアスと少年を見比べた。それは付けてはならない禁忌の名前だったのだ。私も幼い頃にアルクナイトの名前を知ることになったが、故郷の学校で使った歴史の教本、その中に書かれていた固有名詞だった。
忌々しそうにエリアスが言った。
「魔王アルクナイト。三百年前に世界を混乱に陥れた張本人だ」
目的の建物はフィースノーの街から、およそ八キロメートル先の距離に在るとされる。私達は七キロほどを馬車で進み、そこで小休止を挟んでから、残りの一キロを目立たないように徒歩で進む計画を立てた。
「すまないがここで俺達が戻るまで待っていてくれ。それと馬車はあの小さな丘の陰に隠しておいた方がいい」
予定の七キロ地点でルパートが御者に指示を出した。情報通りにこの先にアンダー・ドラゴンのアジトが存在するなら、街へ向かう犯罪者と出くわす危険が有る。
「ヤバイと思ったら俺達を待たずに逃げていい」
注意喚起されても御者は落ち着いていた。ギルド御用達の彼は荒っぽい仕事に慣れているのだ。頼もしいな。
「んじゃ俺達が周辺を警戒しているから、年少組は休憩に入っていいぞ。トイレも済ませておけ。十分後に交代な」
年齢で分けられるなら私も年少組か。トイレ行っておかないと。
えーと、適した場所は……うん、丘の反対側に回ればみんなの視界から隠れられそうだ。樹も生えているしね。私は小さな丘に沿って走った。いいよなー、男連中はそこら辺で立ってできるから。女はこういう時に面倒だよね。
……………………。
無事に用を足して、私は丘を逆回りしてみんなの元へ戻ろうした。しかしみんなの姿が見える一つ手前のカーブで、私は進むこと遮られた。
「えっ!?」
銀色の髪を持つ身なりの良い少年が立っていた。突然現れた少年に当然だが私は驚いた。
「あなたは……誰?」
周囲に目を凝らしても彼以外の人物は見当たらない。旅人のような装備も持っていない。街から七キロも離れたこんな場所に少年が独りで?
一瞬、五年前に保護したリーベルト少年を思い出したが、目の前の少年は迷子に当てはまらない気がした。とても落ち着いているのだ。
「こんな所でどうしたんですか……?」
伏し目がちな少年は私の質問に答えなかった。その代わりに右手を静かに伸ばしてきた。私の首へ。
「ぐっ…………!?」
迂闊だった。相手が12歳位に見える少年だからと油断してしまった。私は容易く少年の右手によって気道を塞がれてしまった。
(何て力……!)
私は両手を使って少年の指を開こうと奮闘したのだが、右手一本の少年に力負けしていた。
何なのコイツ!? まさかアンドラの構成員!?
(こんのぉ!)
私は右脚で少年の脛を蹴り上げようとしたが、見透かされていたようであっさり避けられた。
「……く、くぅぅ……ぐっ」
苦しい。目と鼻の奥が熱い。噓でしょ、私ここで彼に絞め殺されるの!? やめて。どうして私を? アンタ誰なの!?
霞んできた目を懸命に開けて、私は状況を掴もうとした。
「!………………」
どうしてだか、首を絞めている側の少年が苦しそうに顔を歪めていた。そして徐々に指の力が緩まっていった。
「ロックウィーナ!!」
私の名前が叫ばれた。低いその声はエリアスのものだった。彼は大地を蹴り猛スピードで私の元まで駆け付けると、手を放した少年に向けて大剣を構えた。
「ロックウィーナ、奴に何をされた! 無事か!?」
私はエリアスに応じられなかった。急に酸素が供給されて、喉がむせて激しく咳込んでしまったのだ。
「ウィー!?」
「ロックウィーナ!」
やや遅れて他のみんなも走って到着した。キースとマキアが私を後方へ下がらせて、ルパートとエンも抜刀して少年を牽制した。
「何だこのガキ、いつの間にこんな近くまで来たんだ。俺の風魔法で感知できなかったぞ?」
「……只者じゃない。気配が通常の人間と違う」
ルパートとエンは私が襲われている場面を見た訳ではないのに、初対面の少年を敵と認定していた。キースとマキアも強張った顔で少年を凝視していた。……気配が違う?
エリアスがみんなに忠告をした。
「気をつけろ、コイツは全系統の魔法を使えるんだ。身体に常にバリアを張っていて、大抵の攻撃は相殺される。ルパートの風魔法も届く前に消されたんだ」
「エリアスさん、このガキのことを知ってるんですか?」
その質問には答えず、息を吸い込んだエリアスは、
「アルクナイト、彼女にいったい何をした!!」
少年に大声で怒鳴った。アルクナイト?
「アルクナイト……? その名前って……は? おいおい噓だろ?」
ルパートが何度もエリアスと少年を見比べた。それは付けてはならない禁忌の名前だったのだ。私も幼い頃にアルクナイトの名前を知ることになったが、故郷の学校で使った歴史の教本、その中に書かれていた固有名詞だった。
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