ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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幕間  銀色の少年(2)

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 全員が息を吞んだ。
 魔王!? 目の前に居るあの少年が!?
 目をいた私達に応えるように、銀髪のアルクナイトは怪しく微笑んだ。美しいが、絶対権力者にのみに許される見下すような笑み。
 伝説の魔王と視線を合わせてしまった皆は震え上がったに違いない。私以外は。私はというと、

「はあぁぁぁぁぁ!?」

 最大限に不機嫌となり、思わず魔王を指差して疑問を口にした。

「何で魔王が私の首を絞めてんのよ!?」
「ちょっ……、ロックウィーナ!」
「挑発しちゃ駄目だよ。アイツの魔力マジでヤバイから!!」

 キースとマキアが慌てて私を止めようとしたが、理不尽な目に遭った怒りの方が勝ってしまった。

「だっておかしいでしょーよ。魔王だよ? 世界の軍隊相手に戦った魔王。そんな人がこんな片田舎で何で女の首を絞めてんのよ!?」
「いけませんってロックウィーナ、落ち着いて」
「ほら俺の腕見て。鳥肌凄いだろ? アイツの魔力を感知して身体中がブルってるんだよ。だから大人しくしておこうよ」
「だって意味解んないんだもん。しかもさ、トイレのすぐ後に襲われたんだよ? 女子のトイレ近くに出没する魔王って何。そんなの居る!?」

 そもそも魔王がどういうものか私には判らないが、トイレ後を狙われた恨みは忘れない。

「は、殺されかけたのにどんだけ元気だ」

 当の魔王が一番私に引いていた。エリアスが怒りに満ちた声で尋ねた。

「アルクナイト貴様、彼女の用足しを覗いたのか……?」

 アルクナイトは腕組みをしてエリアスに目線を合わせた。

「小娘の排泄行為などに興味は無いわ。おまえはいつも微妙にズレているな、エリー」
「その名で呼ぶな!」
「どうしてだ。おまえも俺をアルと呼べば良いではないか。昔のように」

 この辺りで魔王に怯えていたキースとマキアがおや? という表情になった。

「魔王とエリアスさん、妙に親しそうじゃないですか……?」
「エリーとかアルとか呼び合ってんのな。何で?」
「いつもとか、昔がどうとかも言っていましたよ」
「相当の仲っぽいッスね」

 井戸端会議に興じる主婦と化したキースとマキアに、背中越しにエリアスが説明をした。

「アルクナイトは私の父が所有する領地の近くに住んでいるんだ。あの外見に騙されて、子供の頃に魔王と知らずに友人になってしまった。今は断じて違うがな!」
「え、友達……?」

 キースとマキアはかつての私とルパートのように、一拍置いてから驚愕した。

「ええええええ!?」
「エン聞いた? 魔王とエリアスさんダチだって! 幼馴染みだってさー!!」

 衝撃の事実を聞かされて、キースとマキアのテンションも私同様におかしくなった。

「やかましい連中とつるんでいるんだな、エリー」
「誰のせいだ。ロックウィーナに手をかけたこと、決して許さない」
「未遂だ。見逃せ」

 アルクナイトの身体がふわりと浮いた。風魔法?

「あっ、待て逃げるな!」

 エリアスが飛びかかったが、それよりも早く魔王は手の届かない空中まで浮上した。そして後ろ向きになり、腰をクネクネと動かした。

 ま・た・な。

 彼のお尻は空のキャンバスにそう文字を描いた。

「……ルパート先輩、かまいたちの魔法でアレを切り刻んで頂けますか?」
「……俺もそうしたいところだがやめておこう。どうせ放った魔法は相殺そうさいされる」

 私達が冷めた目で見守る中、魔王アルクナイトは鳥のように空を飛んで彼方かなたへ去っていった。何しに来たんだいったい。

「ロックウィーナ、首が……!」

 魔王の指の形に肌が赤く腫れてしまったようだ。冷静になったキースが回復魔法をかけてくれた。私の周りにみんなが集まった。

「すまない、来るのが遅れて。アルクナイトの気配に気づいた時に私は離れた所に居たんだ。そのせいでキミを危険な目に遭わせてしまった」
「それでもエリアスさんが気づいてくれて良かったぜ。しっかし何で魔王がウィーを狙ったんだ? ウィー、魔王との間に何か有ったのか?」
「いいえ、急に首を絞めてきたんです」

 魔王に狙われる心当たりがまるで無かった私は、頭を横に振って否定した。
 エンが口を挟んだ。

「その後の行動が最悪だ。強敵相手にあおるような真似はするな」
「……ごめんなさい」

 確かに魔王と呼ばれる存在に暴言を吐くなんて正気の沙汰じゃない。言い訳をするが、私は今までモンスターにもチンピラ達にも喧嘩を売ったことなんて無い。
 でも……。

 みんなが緊張して対峙した魔王アルクナイト。私は彼に恐怖心を不思議と抱かなかった。どうしてだろう? 恐怖どころか懐かしいという感覚が生まれているのは。
 以前に彼と親しく会話したことが有るような……、そんな既視感が私の中には在ったのだ。
 それにアルクナイトは、エリアスがまだ遠くに居る時点で私の首にかけた指の力を抜いていた。苦悶の表情と共に。

(意味解んない)

 私は魔王が飛んでいった方角を眺めた。それで答えが出ることはなかったけれど。 
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