ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
37 / 291

幕間  銀色の少年(2)

しおりを挟む
 全員が息を吞んだ。
 魔王!? 目の前に居るあの少年が!?
 目をいた私達に応えるように、銀髪のアルクナイトは怪しく微笑んだ。美しいが、絶対権力者にのみに許される見下すような笑み。
 伝説の魔王と視線を合わせてしまった皆は震え上がったに違いない。私以外は。私はというと、

「はあぁぁぁぁぁ!?」

 最大限に不機嫌となり、思わず魔王を指差して疑問を口にした。

「何で魔王が私の首を絞めてんのよ!?」
「ちょっ……、ロックウィーナ!」
「挑発しちゃ駄目だよ。アイツの魔力マジでヤバイから!!」

 キースとマキアが慌てて私を止めようとしたが、理不尽な目に遭った怒りの方が勝ってしまった。

「だっておかしいでしょーよ。魔王だよ? 世界の軍隊相手に戦った魔王。そんな人がこんな片田舎で何で女の首を絞めてんのよ!?」
「いけませんってロックウィーナ、落ち着いて」
「ほら俺の腕見て。鳥肌凄いだろ? アイツの魔力を感知して身体中がブルってるんだよ。だから大人しくしておこうよ」
「だって意味解んないんだもん。しかもさ、トイレのすぐ後に襲われたんだよ? 女子のトイレ近くに出没する魔王って何。そんなの居る!?」

 そもそも魔王がどういうものか私には判らないが、トイレ後を狙われた恨みは忘れない。

「は、殺されかけたのにどんだけ元気だ」

 当の魔王が一番私に引いていた。エリアスが怒りに満ちた声で尋ねた。

「アルクナイト貴様、彼女の用足しを覗いたのか……?」

 アルクナイトは腕組みをしてエリアスに目線を合わせた。

「小娘の排泄行為などに興味は無いわ。おまえはいつも微妙にズレているな、エリー」
「その名で呼ぶな!」
「どうしてだ。おまえも俺をアルと呼べば良いではないか。昔のように」

 この辺りで魔王に怯えていたキースとマキアがおや? という表情になった。

「魔王とエリアスさん、妙に親しそうじゃないですか……?」
「エリーとかアルとか呼び合ってんのな。何で?」
「いつもとか、昔がどうとかも言っていましたよ」
「相当の仲っぽいッスね」

 井戸端会議に興じる主婦と化したキースとマキアに、背中越しにエリアスが説明をした。

「アルクナイトは私の父が所有する領地の近くに住んでいるんだ。あの外見に騙されて、子供の頃に魔王と知らずに友人になってしまった。今は断じて違うがな!」
「え、友達……?」

 キースとマキアはかつての私とルパートのように、一拍置いてから驚愕した。

「ええええええ!?」
「エン聞いた? 魔王とエリアスさんダチだって! 幼馴染みだってさー!!」

 衝撃の事実を聞かされて、キースとマキアのテンションも私同様におかしくなった。

「やかましい連中とつるんでいるんだな、エリー」
「誰のせいだ。ロックウィーナに手をかけたこと、決して許さない」
「未遂だ。見逃せ」

 アルクナイトの身体がふわりと浮いた。風魔法?

「あっ、待て逃げるな!」

 エリアスが飛びかかったが、それよりも早く魔王は手の届かない空中まで浮上した。そして後ろ向きになり、腰をクネクネと動かした。

 ま・た・な。

 彼のお尻は空のキャンバスにそう文字を描いた。

「……ルパート先輩、かまいたちの魔法でアレを切り刻んで頂けますか?」
「……俺もそうしたいところだがやめておこう。どうせ放った魔法は相殺そうさいされる」

 私達が冷めた目で見守る中、魔王アルクナイトは鳥のように空を飛んで彼方かなたへ去っていった。何しに来たんだいったい。

「ロックウィーナ、首が……!」

 魔王の指の形に肌が赤く腫れてしまったようだ。冷静になったキースが回復魔法をかけてくれた。私の周りにみんなが集まった。

「すまない、来るのが遅れて。アルクナイトの気配に気づいた時に私は離れた所に居たんだ。そのせいでキミを危険な目に遭わせてしまった」
「それでもエリアスさんが気づいてくれて良かったぜ。しっかし何で魔王がウィーを狙ったんだ? ウィー、魔王との間に何か有ったのか?」
「いいえ、急に首を絞めてきたんです」

 魔王に狙われる心当たりがまるで無かった私は、頭を横に振って否定した。
 エンが口を挟んだ。

「その後の行動が最悪だ。強敵相手にあおるような真似はするな」
「……ごめんなさい」

 確かに魔王と呼ばれる存在に暴言を吐くなんて正気の沙汰じゃない。言い訳をするが、私は今までモンスターにもチンピラ達にも喧嘩を売ったことなんて無い。
 でも……。

 みんなが緊張して対峙した魔王アルクナイト。私は彼に恐怖心を不思議と抱かなかった。どうしてだろう? 恐怖どころか懐かしいという感覚が生まれているのは。
 以前に彼と親しく会話したことが有るような……、そんな既視感が私の中には在ったのだ。
 それにアルクナイトは、エリアスがまだ遠くに居る時点で私の首にかけた指の力を抜いていた。苦悶の表情と共に。

(意味解んない)

 私は魔王が飛んでいった方角を眺めた。それで答えが出ることはなかったけれど。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...