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七幕 既視感と重要な選択肢(2)
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「待つ怖さはよく解ります。僕はいつもそうですから。でもケイシー……マスターも、セスもちゃんと戻ってきてくれました。だから大丈夫」
キースが優しい声で安心させようとしてくれている。それなのに私の身体は震えることをやめなかった。
「……うっ!?」
頭に幾つもの光景が絵画のように浮かび上がっては消えていった。
斬り刻まれて全身が血塗れのエン。剣に心臓を串刺しにされたマキア。笑う男の顔。
これは、これは……!
「ロックウィーナ!?」
私はキースの腕を振りほどいて茂みから出た。
「すみませんキース先輩、私……行かなきゃ」
それだけ伝えて私はマキアとエンが走り去った方角へ駆け出した。
私は知っている。このままでは二人が殺されてしまうことを。一度体験したのだ。
(体験? ここへ来たのは初めてのはずなのに?)
私を突き動かすこの想いが何なのか自分自身にも判らなかった。それでも行かなければと、無我夢中で脚を動かした。
二人の姿はとっくに見えなくなっていた。だけれど建物構造から裏口はこちらだろうと当たりを付けて私は走った。
(あの角を曲がった先が裏口……!)
確信を持って私は角を曲がった。そして直面してしまった。残酷な現実に。
「エン!!!!」
裏口は在った。少し開けた空間も。そこに五人の男達に囲まれるようにして、血塗れのエンが転がっていた。更にそこから十メートルくらい離れた所に、マキアが両膝を大地に着けてへたり込んでいた。
「マキア!?」
悲鳴に近い私の呼びかけにマキアが反応した。こちらを見た彼にはまだ傷が無かった。エンが倒されたので戦意喪失していただけのようだ。良かった、間に合った。
でもエンは……? 地面に倒れているエンはピクリとも動かない。
「ロック……ウィーナ、来るな……!」
マキアの忠告のすぐ後に、
「ほぉ、まだ仲間が居たのか」
五人の男の中の一人が私を凝視した。ゾワッと、私の全身が総毛立った。
「しかも女か。中々の上玉だな」
三十代後半くらいのその男は、おそらく五人の中で一番地位が高い人物だ。それだけの威圧感、凄みを持っていた。
修羅場を何度もくぐってきたのか、彼には顔にも腕にも肌の見える所に大小様々な傷痕が残っていた。それさえ無ければ美男子と言ってもいい顔の造りだったが、眼光が鋭くて見つめられても恐怖しか感じなかった。
「おっ、おまえは昨日の小娘!」
別の男が私を指差して睨んだ。あっ、彼は昨日アジトで取り逃がした連絡係だ!
「あっははは、そうかおまえ、あのお嬢さんに鞭で叩かれたのか!」
傷痕だらけの男が心底愉快そうに笑った。連絡係は私に付けられた頬の傷を指でなぞりながら宣言した。
「女、目にもの見せてやるぞ。おまえの身体にも傷を刻んでやる」
怖かったが私は連絡係を睨み返した。気迫で負けてたまるか。犯罪者が偉そうにするな。
「へぇ、この状況で度胸有るなお嬢さん。流石に女だてらに現場に出てくるだけのことは有る」
傷痕だらけの男が私へ一歩近付こうとしたのを、隣に居た男が手を前に出して止めた。彼はエンのように覆面で顔の大半を隠していた。
「ボス、前へ出ないで下さい」
…………ボス!?
私はボスと呼ばれた傷痕だらけの男をまじまじと見つめた。まさか。この男が巨大犯罪組織アンダー・ドラゴンの首領なの!?
傷痕だらけの男は私の表情から私の考えを読み取った。
「そうだよお嬢さん、俺がアンタらがお捜しの相手、アンダー・ドラゴン首領のレスターだ」
そんな。連絡係どころじゃない、最大の賞金首がこんなにあっさり姿を現すなんて。
「まさか、ここがアンドラの本拠地だったの……?」
「何がアンドラだぁ! 勝手に縮めて呼ぶなぁ!!」
連絡係が吠えて私を非難した。首領はクックッと笑った。
「まー長いよな? 縮めたくなる気持ち解るよ。あ、ちなみに名づけ親は先代のボスな。俺は引き継いだだけだから」
先代? そんなに昔から在る組織だったの? 名前が広まったのはここ数年だけど。彼の代になって急激に勢力が増したのだろうか。
「それと残念ながらここは本拠地じゃないぞ。俺が居るのは、昨日部下が可愛いがられたことに対するお礼をする為」
その言葉で私は悟った。私達は待ち伏せされていたのだと。
昨日取り逃がした連絡係が、アジトの一つが冒険者ギルドによって壊滅させられたことを首領に報告したのだ。私達はギルドから支給された防護ベストを着ているから職員だとすぐに判る。それによってアンダー・ドラゴンは、依頼された冒険者ではなくギルド自体が動いたことを知った。
そして考えたのだろう。また近隣のアジトが狙われると。そこで首領自らが、ギルドへ報復をする為に精鋭の部下を引き連れてここで張っていたのだ。
私達が挟み撃ちの作戦を立てることも予想されていた。ルパートとエリアスの襲撃によって、混乱に陥って逃げる構成員を足止めする役だったエンとマキアは、逆に彼らからの不意討ちを受けてきっとまともに戦えなかった。
エン……。エンは生きているのだろうか?
「コイツが気になるか?」
私の視線を辿り、首領は自分の足元に寝転んでいるエンを蹴った。何てことを!
話し方こそ友好的だが、この男はやはり犯罪組織のボスなのだ。蹴られたエンは半回転したが手足はだらりと伸びて動かなかった。
「悪いな。もうコイツが自力で動くことはねぇよ」
「!…………」
噓、噓だ。さっきまで彼は元気だった。彼と別れてからまだ十分も経ってない。
マキアが静かに泣いていた。その姿でエンが絶命したのだと知った私の目にも涙が浮かんだ。
「ま、そんなに悲観するなよ。慕っていた兄貴分に殺されたんだ、本望だろうさ」
「……え?」
私は首領の隣に立つ男へ視線を移した。エンと似た覆面を被った男。彼がエンを? 兄貴分……?
キースが優しい声で安心させようとしてくれている。それなのに私の身体は震えることをやめなかった。
「……うっ!?」
頭に幾つもの光景が絵画のように浮かび上がっては消えていった。
斬り刻まれて全身が血塗れのエン。剣に心臓を串刺しにされたマキア。笑う男の顔。
これは、これは……!
「ロックウィーナ!?」
私はキースの腕を振りほどいて茂みから出た。
「すみませんキース先輩、私……行かなきゃ」
それだけ伝えて私はマキアとエンが走り去った方角へ駆け出した。
私は知っている。このままでは二人が殺されてしまうことを。一度体験したのだ。
(体験? ここへ来たのは初めてのはずなのに?)
私を突き動かすこの想いが何なのか自分自身にも判らなかった。それでも行かなければと、無我夢中で脚を動かした。
二人の姿はとっくに見えなくなっていた。だけれど建物構造から裏口はこちらだろうと当たりを付けて私は走った。
(あの角を曲がった先が裏口……!)
確信を持って私は角を曲がった。そして直面してしまった。残酷な現実に。
「エン!!!!」
裏口は在った。少し開けた空間も。そこに五人の男達に囲まれるようにして、血塗れのエンが転がっていた。更にそこから十メートルくらい離れた所に、マキアが両膝を大地に着けてへたり込んでいた。
「マキア!?」
悲鳴に近い私の呼びかけにマキアが反応した。こちらを見た彼にはまだ傷が無かった。エンが倒されたので戦意喪失していただけのようだ。良かった、間に合った。
でもエンは……? 地面に倒れているエンはピクリとも動かない。
「ロック……ウィーナ、来るな……!」
マキアの忠告のすぐ後に、
「ほぉ、まだ仲間が居たのか」
五人の男の中の一人が私を凝視した。ゾワッと、私の全身が総毛立った。
「しかも女か。中々の上玉だな」
三十代後半くらいのその男は、おそらく五人の中で一番地位が高い人物だ。それだけの威圧感、凄みを持っていた。
修羅場を何度もくぐってきたのか、彼には顔にも腕にも肌の見える所に大小様々な傷痕が残っていた。それさえ無ければ美男子と言ってもいい顔の造りだったが、眼光が鋭くて見つめられても恐怖しか感じなかった。
「おっ、おまえは昨日の小娘!」
別の男が私を指差して睨んだ。あっ、彼は昨日アジトで取り逃がした連絡係だ!
「あっははは、そうかおまえ、あのお嬢さんに鞭で叩かれたのか!」
傷痕だらけの男が心底愉快そうに笑った。連絡係は私に付けられた頬の傷を指でなぞりながら宣言した。
「女、目にもの見せてやるぞ。おまえの身体にも傷を刻んでやる」
怖かったが私は連絡係を睨み返した。気迫で負けてたまるか。犯罪者が偉そうにするな。
「へぇ、この状況で度胸有るなお嬢さん。流石に女だてらに現場に出てくるだけのことは有る」
傷痕だらけの男が私へ一歩近付こうとしたのを、隣に居た男が手を前に出して止めた。彼はエンのように覆面で顔の大半を隠していた。
「ボス、前へ出ないで下さい」
…………ボス!?
私はボスと呼ばれた傷痕だらけの男をまじまじと見つめた。まさか。この男が巨大犯罪組織アンダー・ドラゴンの首領なの!?
傷痕だらけの男は私の表情から私の考えを読み取った。
「そうだよお嬢さん、俺がアンタらがお捜しの相手、アンダー・ドラゴン首領のレスターだ」
そんな。連絡係どころじゃない、最大の賞金首がこんなにあっさり姿を現すなんて。
「まさか、ここがアンドラの本拠地だったの……?」
「何がアンドラだぁ! 勝手に縮めて呼ぶなぁ!!」
連絡係が吠えて私を非難した。首領はクックッと笑った。
「まー長いよな? 縮めたくなる気持ち解るよ。あ、ちなみに名づけ親は先代のボスな。俺は引き継いだだけだから」
先代? そんなに昔から在る組織だったの? 名前が広まったのはここ数年だけど。彼の代になって急激に勢力が増したのだろうか。
「それと残念ながらここは本拠地じゃないぞ。俺が居るのは、昨日部下が可愛いがられたことに対するお礼をする為」
その言葉で私は悟った。私達は待ち伏せされていたのだと。
昨日取り逃がした連絡係が、アジトの一つが冒険者ギルドによって壊滅させられたことを首領に報告したのだ。私達はギルドから支給された防護ベストを着ているから職員だとすぐに判る。それによってアンダー・ドラゴンは、依頼された冒険者ではなくギルド自体が動いたことを知った。
そして考えたのだろう。また近隣のアジトが狙われると。そこで首領自らが、ギルドへ報復をする為に精鋭の部下を引き連れてここで張っていたのだ。
私達が挟み撃ちの作戦を立てることも予想されていた。ルパートとエリアスの襲撃によって、混乱に陥って逃げる構成員を足止めする役だったエンとマキアは、逆に彼らからの不意討ちを受けてきっとまともに戦えなかった。
エン……。エンは生きているのだろうか?
「コイツが気になるか?」
私の視線を辿り、首領は自分の足元に寝転んでいるエンを蹴った。何てことを!
話し方こそ友好的だが、この男はやはり犯罪組織のボスなのだ。蹴られたエンは半回転したが手足はだらりと伸びて動かなかった。
「悪いな。もうコイツが自力で動くことはねぇよ」
「!…………」
噓、噓だ。さっきまで彼は元気だった。彼と別れてからまだ十分も経ってない。
マキアが静かに泣いていた。その姿でエンが絶命したのだと知った私の目にも涙が浮かんだ。
「ま、そんなに悲観するなよ。慕っていた兄貴分に殺されたんだ、本望だろうさ」
「……え?」
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