ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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白と黒とピンク(3)

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 エンは一つ空いていた席のイスを片手で引き、リリアナへ提供した。

「どうぞ」
「うふっ、お邪魔しまーす」
「あなたが食堂へ来るなんて珍しいですね」

 ブラック企業の冒険者ギルドにも昼休憩くらい有る。しかしキースの感想通り、いつもリリアナは混み合う食堂が嫌だと言って、カウンター内で軽食をつまんで昼を済ませていた。
 席に着いたリリアナのトレーの中には、日替わりランチの他にチキンナゲットも入っていた。おお、ガッツリいく気だ。私の視線に気づいた彼はエヘッと笑った。

「これから大仕事ですからぁ、しっかり食べておこうと思ったんですぅ」
「え? ギルドに何か大きな依頼が入ったの?」
「やだなぁお姉様。アンダー・ドラゴン本拠地壊滅作戦ですよぉ」
「そっか。事務的にも大変なのね」

 またもや主任のルパートが留守となるので、残った出動メンバーのスケジュール調整とか。

「いえ、私もお姉様達と一緒に行くんですよぉ」
「!」
「?」
「!?」

 さらりとリリアナはとんでもないことを宣言した。

「へ? どゆこと?」

 私の間抜けな返しに、リリアナは抜群の笑顔で答えた。

「私もぉ、アンドラ討伐隊の参加メンバーなんですぅ。これからしばらくは、お姉様と24時間一緒なんですぅ。同じ空気を吸うんですぅ。きゃ♡」
「え、え、えええええ!?」

 何それ、初耳。キースも驚いていた。

「ちょっと待って下さい、ルパートは何も言っていませんでしたよ!?」
「はい。ついさっきマスターと話し合って決まったのでぇ」
「はいっ……? シュターク商会を将来継ぐあなたを、ケイシーは危険な任務に組み込んだのですか!?」
「あ~、私が志願しましたぁ。マスターは渋ったしアスリーにも大反対されて大変でした☆」
「当たり前でしょうに」

 アスリーとはあの執事さんか。

「自由にさせてくれないなら、お姉様を連れて家出するって言ったらアスリーは折れてくれました」

 私が知らない間に、ギルド職員と受付嬢が駆け落ちするところだった。

「マスターに関しては、古くなった水道管の交換を、商会がお友達価格で行うことで話がつきましたぁ」
「水道管……。確かにギルドの水回りは弱いですからね。それなら仕方が無いか……」

 キースは納得した。最近知ったけどけっこう彼は現金な性格だよね?

「しかし思い切りましたね。ロックウィーナを護る為に志願したのですか?」
「ええ。任務もそうですけど、それ以上に危険な男達からお姉様を護る為に。ま・さ・か、キースお兄様までお姉様に告白するとは予想してませんでしたよぉ?」

 リリアナに嫌味を言われたキースは、コップの水を飲んで聞こえないフリをした。

「……アンタはそのナリで戦えるのか?」

 エンが妖精の如き可憐な容姿のリリアナをジロジロ見ていた。不躾《ぶしつけ》な視線だが、決して他の男のようなエロス目的ではない。

「重要な任務だ。足手まといは困る」
「や~んエンさんたら、怖い顔ー。溜まってますー?」
「………………。アンタは男だという話だが、戦士にも術師にも見えない。そんなチャラチャラした格好で付いてくるのか?」
「そりゃ私の本質は商人ですけどー、ちゃんと戦えるのに酷ーい」
「頬を膨らませるな。上目遣いもやめろ」

 険悪な雰囲気となったので、私が間に入った。

「リリアナは銃という強力な武器の使い手なんだよ。私は以前ピンチになった時、銃の狙撃で彼に助けてもらったの」
「コイツが……銃士?」
「えっへん」

 リリアナは大きな胸をそらした。そういえばあそこには何が詰まっているのだろう。

「エンの故郷にも銃が有るの?」
「有るが……。火縄銃は弾込めに時間がかかって実用性が低い。戦場では弓の方が多く用いられているな」
「あはっ、私の銃は最新型ですよぉ。ボルトを操作して短時間で装填そうてん、六発撃てます」
「なっ……。どうして軍属ではない民間人のアンタが、そんな大層な物を持っているんだ!?」
「金の力です」

 リリアナの仮面を外したリーベルトは言い切った。

「金さえあれば大抵の夢が叶います。飛ぶ鳥も落ちるんです」

 めっさゲスいこと言った。だのにキースがうんうん頷いている。

「ですね。下手な信心より世の中ゼニです」

 うわぁ。元僧侶とは思えないお言葉。私は二人に引いたのだが、エンは静かな面持ちだった。

「そうか、それだけの武器を調達できるとは、アンタは優れた手腕を持つ商人なんだな」
「…………え?」

 リーベルトがあれ? という顔をした。

「エンさんは僕をゲスいとか思わないんですか?」

 私は思ったよ。

「思わない。金を生み出すのも才能の一つだろう、誰にでもできることではない。更に銃まで扱えるなんて大したものだ」
「え、あ、ありがとうございます……」

 素直に褒められてリーベルトはモジモジした。はたから見たら甘酸っぱいカップルだ。二人とも男だけど。
 それにしてもエンは心が綺麗だな。私も何度か褒めてもらっている。下心無く、純粋に相手の能力を評価できる人だ。そして今日の日替わりランチは魚料理なんだけど、ナイフで見事に分解して上手に骨をけている。そんな所も何気に凄い。

「……何だ?」

 今度は私がエンに不躾ぶしつけな視線を向けてしまっていた。

「ごめん。エンがあまりにも器用に魚を食べるもんで、感心してつい見ちゃったの」
「ホントだ! エンさんてば前世は猫ですか!?」

 三人に皿を観察されて、流石のエンも居心地が悪そうだった。

「魚が好きだから……。それに、箸が有ればもっと早く食べられる」
「ハシ?」
「ああ知らないか。たいてい木製で、これくらいの長さの細い棒だ。それを二本こう持って……物をつまんで持ち上げるんだ」

 エンが指の動きだけで表現した。エアー箸。

「二本の棒???」
「物をつまむ? トングのようなものでしょうか」

 リリアナとキースはピンと来ていないようだった。異国の文化だ、想像できなくても仕方が無い。
 だというのに私は……箸がどんな物か知っていた。エンの指の動きは私にとって見慣れたものだった。

(………………?)

 おかしいな、エンの出身である東国へは行ったことが無いし、食事はフォーク、ナイフ、スプーンを使っているのに。

「あっと、急いで食べないと待ち合わせに遅刻しますよ」

 キースの注意を受けて全員ハッとした。
 箸についてはきっと本で読んで知っていたのだろう。ほら、私って読書家だから。
 そう結論づけて、私はみんなと同じく食事に専念したのであった。
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