ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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暗闇の中の義兄弟(2)

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☆☆☆


 コンコンコンコン。
 すっかり馬車の中で眠りに落ちていた私は、ノックの音に気づいて重くなったまぶたを上げた。すっかり辺りは暗くなっていたが、窓の外で誰かの手が振られているのが見えた。

「はい」

 時刻は判らないが深夜らしいので、私は静かに馬車の扉を開けた。外に居たのはエンであった。

「俺とアンタで一緒に見張りをすることになった。交代時間だ」
「あれ、ジャンケン勝負は?」

 エンは参加していなかったはずだけど。

「勝ち抜けたのはルパートさんだったが、負けた三名から物言いが付いて無効となった」
「ジャンケン意味無いじゃん」
「ああ。完全に無駄な時間だった。俺がアンタの相手に選ばれた理由は、手を出しそうにないという点だ」
「あの人達は…………」

 みんな賢そうに見えるんだけどな。見た目だけか。

「昼間」
「ん?」

 エンは更に声を潜めた。

「昼間、泣いたようだが」
「………………」
「本当に、大丈夫なのか?」

 口数少ないから冷たそうに見えるけど、彼は仲間思いの人なんだよね。

「うん、もう平気。ありがと」

 暗いからあまり見えなかっただろうが、私は出来得る限りの笑顔で返した。あ、寝起きのブサイク顔だったよ。

「なら、いい」

 私達はテントの東側と西側の二手に別れることになった。これなら誰と組んでも一緒だと思う。つくづくジャンケンらなかったな。

「何か遭ったらすぐに声を出せ」
「解った」

 さてと。
 私は暗闇に目を凝らした。所々に兵団が焚いたかがり火が点在しているが、数が少ない為に視界が狭くなる。都会育ちの人はこの中での活動に困難するだろう。
 ど田舎の広大な丘で、百頭近い羊を世話していた私は視力がとても良かったりする。街灯なんて無い地域なので夜目も利く。

 その私の視界の隅で、微かに影が動いた。一人ではない。四~五人の人間が闇をって音を立てないように移動していた。
 王国兵団の兵士ならあんな隠れるような行動はしないはずだ。
 十五メートル以上距離が開いていたので、向こうは私に気づかなかったか、気づいたとしても私には見えなかったと高をくくったのだろう、そのまま行ってしまった。
 もちろん彼らのことが気になった私は、テントの反対側に居るエンに伝えに行った。

「どうした?」

 自分の持ち場を離れて傍に寄ってきた私を、エンはいぶかしげに見た。

「兵士と思えない人達がこの闇の中に居る」
「……何処だ?」
「北西を移動中。黒衣を着用。人数ははっきりしないけど四、五人」

 報告は端的に。ルパートに仕込まれた。

「夜に目立たないような黒い服か。なるほど怪しいな。俺が様子を見てくるからアンタはここに残って……」
「駄目だよ」

 私はエンの言葉にかぶせて、我らが冒険者ギルドの鉄則を唱えた。

「危険をともなう行動を起こす際は、必ず二人以上で臨むこと」
「…………。だがそれでは、テントを見張る者が居なくなる」
「ほっほっほ。わたくしが代わりに見張りに立ちましょう」
「!」

 不意に登場したのはリリアナの執事を務めるアスリーだった。完全に気配を消して後ろに立たれたので、私は驚いて悲鳴を上げそうになった。対してエンは平常心を保っていた。

「アスリーさんの申し出はありがたいが、しかし……」
「早く行こう。不審者を見失うよ?」

 私は強引にエンの腕を引っ張った。

「……了解した。だがアンタは前に出るなよ?」

 はは。ルパートにいつも言われていることをエンにも言われちゃったよ。やっぱり私の戦闘能力は、一線で活躍してきた彼らと比べてまだまだ低いんだな。

 私達はできるだけ足音を消して謎の集団を追った。

(あれは……)

 二十メートルくらい先に高級そうなテントが張られていた。入口から少し離れた所にかがり火が焚かれて見張りが何人も立っている。きっと兵団の高官が使用しているテントだ。
 テントの手前に木がポツポツ生えて林を形成していて、その陰に潜む者達の輪郭が、揺れるかがり火の灯りによってかすかに浮き上がっていた。

「エン、左前方に誰かが居る」

 私は小さな声で見えたものをエンに伝えた。

「……よくアレを見つけたな」

 私達も別の木に隠れて不審人物達を観察した。

「あのテントはルービック団長のものだ」
「じゃあ、賊らしいあの人達の狙いはルービックさん!?」
「おそらくは」

 何の為に? 考えをまとめる前にエンが慎重に歩を進めた。もっと近付こうというのだろう。私も彼の後に続いた。
 そして距離を半分ほど詰めた頃、私の戦士としての勘が恐ろしい気配を察知した。黒衣の一団から殺気が発せられたのだ。
 まさか……彼らの目的はルービック師団長の暗殺!?

「……っ」

 林から鋭い何かが見張りの兵士に向かって投げられた。炎に一瞬だけ照らされたソレは、見張りの兵士の喉元に正確に刺さり、一気に三人が声も立てずにその場に倒れた。

「なっ、何だぁ!?」

 味方が一瞬の内に殺されてしまい、残りの兵士達は状況把握ができないながらも武器を構えた。その瞬間、林から五人の黒衣の男達がテントヘ向かって飛び出していった。
 斬り合い……にはならなかった。動揺してしまった兵士達はあっさりと、黒衣の集団に身体を切り刻まれて次々に倒されたのだった。

(大変! このままじゃいずれテントの中の師団長も……)

 兵士達の加勢に向かおうとした私はエンに腕を掴まれた。

「行くな。目を閉じていろ!」

 エンはそう言ってふところから取り出した丸い物体を、戦場となったテント前へと投げ付けた。そして私を抱きかかえて護った。

 パンッ。

 乾いた音が響いて、まぶたを閉じているのに眩しい光が私の目を刺激した。

「ぎゃあっ!?」
「ぐあっ」

 向こうで男の声で悲鳴が上がった。エンが投げたのは目くらましに使う閃光弾だった。
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