ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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暗闇の中の義兄弟(3)

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 …………。
 眩しさが消えたのでまぶたを開けて見ると、私から離れたエンが、腰からクナイと呼ばれる東国の短刀を二本抜いて両手に装備し、黒衣の男達の元へ駆けているところだった。

「ぐほっ」

 視力を失った男達に勝ち目は無かった。彼らは自分達が兵士にしたように、今度はエンによってその身体を瞬時に切り伏せられた。

「チッ……」

 黒衣の男四人が大地に沈んだものの、残る一人は咄嗟とっさに目をつむったようでエンが見えていた。それでも不意打ちした閃光弾のダメージが多少残っているようで攻めてこなかった。エンもまた、慎重に相手との間合いを測っていた。

「コイツらは本物の忍びではないな」

 エンが男に語りかけた。男が答えた。

「ああ、素質の有る者を半年間訓練した。それでそこそこ使えるようになったんだが……、おまえの腕には到底及ばなかったようだ」
「残念だったな」

 まるで旧知の仲のような話しぶりだ。私はゆっくりと二人へ向かって前進した。

(え、アレって……)

 近付くことによって黒衣の男の風貌がようやく掴めた。エンとよく似た覆面をした男。そして彼の両手にはエンと同じクナイが握られていた。
 私はこの男を知っていた。タイムループに囚われた前の周回で会っていたのだ。

(嘘、でしょ……)

 忘れることなどできない、目の前に居るエンの仇。

「ユーリ」

 その名をエンは呼んだ。彼と義兄弟の誓いを立てたかつての同胞の名を。
 何てことだ。ユーリとこんな所で再会を果たしてしまうなんて!

「おまえはここで何をしている?」
「………………」

 答えなかったユーリに尚もエンは質問をした。

「アンダー・ドラゴン首領の側近の座は、そんなにも居心地がいいのか?」

 わずかにユーリの眉が動いた。

「……どこまで掴んでいる?」
「さぁな」

 二人の間に存在するのは緊迫した空気のみ。エンはユーリを求めて国を捨て、はるばるこの地までやってきたというのに。
 その時。テントから武器を手にした三人の兵士が姿を現した。ルービック師団長も居る。
 一瞬そちらへ目を移してしまったエンに、ユーリが迷わず襲いかかった。

「くっ……」

 出遅れたエンはユーリが繰り出す連撃に防戦一方となった。双剣で互いに打ち合うが押され気味だったエンは、ついには左手のクナイを弾き飛ばされてしまった。
 仕方無く右手一本で挑むが分が悪かった。ユーリの双剣によって少しずつエンの肉がけずられていった。
 これが忍びと言うものなのか。ユーリに容赦は無い。弟であったエンの肉と共に命もがれていく。
 きっと前の周回でもそうだったのだろう。この速さ、援護したくても魔術師のマキアでは対応できなかったのだ。そして悲しい結果となった。

 しかしこの時間軸にはエンの味方がもう一人居る。私だ。

 パアンッ。

 深夜の草原に鞭がしなる。弧を描いた鞭をユーリが後方ジャンプでかわした。鞭を握り全速力で接近した私を、ユーリはクナイを構えて余裕を持って迎える。

「ロックウィーナ!」
「いけない!」

 エンとルービック師団長の声が重なった。私は鞭を…………ユーリに力いっぱい投げ付けた。

「!?」

 まさか武器を自ら手放すとは予想していなかったでしょう? はっははーん。
 ユーリに一瞬の隙ができた。それで充分だった。
 私はクナイに刺されないようスライディングの姿勢で足払いを仕掛けた。クリーンヒットではなかったが、ユーリの爪先を私の脚が刈り取り、彼は体勢を崩した。
 飛び起きた私は、ユーリの目を狙って裏拳を放った。これは牽制の軽いジャブだ。目と鼻は急所でありながら達人であっても鍛えようがないので、生物はここを攻められると反射的に目を閉じてしまう。
 ユーリもそうなった。

(今だ!)

 私はユーリの鳩尾みぞおち目がけて半回し蹴りを叩き込んだ。

「くはっ」

 小さくうめいて、ユーリは後方の樹の陰へ派手に吹っ飛んでいった。
 ……あれ? 流石に数メートル飛ばすほどの威力は無いはずだけど? それに蹴りは入ったけど脚に伝わる手ごたえが少なかった気がした。
 私は追撃しようとユーリを追ったが、彼の姿は何処にも見当たらなかった。闇に溶けたかのように。

「あれ? あれあれあれ?」

 頭をあちこち動かしてユーリを捜す私の横にエンが並んだ。

「……逃げられたか」
「………………」

 鳩尾みぞおち部分には内臓を護る骨が無い。訓練した人間の攻撃がまともに入っていれば、相手は確実にしばらく動けなくなっていた。ユーリは蹴られる直前に後方へ飛び退いて、ダメージを軽減させることに成功していたのだろう。そしてまんまと逃げられてしまったのだ。

「ごめんなさい。取り逃がしちゃいけない相手だったのに」
「それについてはいい。だが……」
「! えええエン、傷の手当をしなくちゃ!!」

 至近距離で見た彼は身体中血塗ちまみれだった。致命傷は負っていないようだが、放置していい怪我具合では到底ない。

「そこで待ってて、すぐにキース先輩を呼んでくる!」
「私に任せろ」

 この声は……。振り返った私達のすぐ後ろにルービック師団長がたたずんでいた。突然の敵襲だったので腰の剣だけで白銀の鎧は身に着けていない。
 師団長はエンの身体に手をかざした。

「慈愛の神よ生命の女神よ、この者に祝福の息吹を与えたまえ」

 無数に発生した小さな光の粒がエンの身体を包み、彼の傷付いた皮膚を修復していった。聖騎士は魔法を使える騎士だと聞いたが、ルービック師団長は回復魔法の使い手だったんだな。
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