ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
128 / 291

暗闇の中の義兄弟(4)

しおりを挟む
「……ありがとうございます」

 エンは深く師団長にお辞儀をしてから私へ向き直り、キツい口調で釘を刺した。

「前に出るなと言ったはずだ。今回はたまたま上手くいったが、ユーリはアンタの手に負える相手じゃない。余計なことはするな!」
「おい、彼女に助けてもらってその言い草はないだろう」

 ルービック師団長に指摘されたエンは眉をしかめた。それでも視線は私へ固定されていた。

「俺が未熟だったことは認める。だが次からは捨て置いてくれ」
「見捨てろってこと? そんなことできる訳がないでしょう!?」
「やるんだ」
「嫌だよ!」
「感情で物事を考えるな」

 この分からず屋め。

「……じゃあ、何であなたは同じく未熟な私を後ろへ下がらせようとしたの? どうして閃光弾の光から護ったの? 放っておけば良かったじゃない」
「……それは」
「同僚を死なせたくなかったからでしょう? 私だって同じだよ」
「……………………」
「自分ができないことを人にやれと言うんじゃないよ。解った? 朴念仁ぼくねんじんさん」
朴念仁ぼくねんじんって……おい」
「ぷっ」

 私とエンのやり取りを聞いていたルービック師団長が噴き出した。この人は笑いの沸点が低い気がする。

「くく……。キミ達は仲良しだな」
「仲良し…………?」

 覆面していても判った。たぶんエンは困惑している。

「師団長! 他に敵兵は見当たりません!」

 周辺を窺っていた兵士二人が、ルービック師団長の元へ戻ってきた。彼らも鎧を脱いでいるけど聖騎士だ。師団長と一緒にギルドへ来た人達だ。

「ご苦労。さてロックウィーナと……エンと言うのかな、キミ達には賊について知る限りのことを話してもらいたい。ユーリとは誰のことだ?」
「……アンダー・ドラゴン首領の側近です」
「何だと?」

 ルービック師団長の顔つきが険しくなった。

「アンダー・ドラゴンに我ら討伐隊の情報が漏れていたのか? ……ふうむ。マシュー、冒険者ギルドのテントへ行ってルパートとエリアスさんを呼んできてくれ」
「はいっ」

 マシューと呼ばれた若い聖騎士はすぐに走っていった。ギルドのテントなら私が呼びに行ったのに。

「エドガー、おまえはグラハム連隊長を呼んでこい。そして犠牲となった兵士のとむらいと、新たな見張りの手配を頼む」
「はっ!」

 今度は中年の聖騎士が闇の中へ走って消えた。

「キミ達は私のテントへ来るんだ。皆が揃った場で改めて、ユーリという男について詳しく教えてもらうぞ?」
「……はい」

 私とエンはルービック師団長の後に続いて、高官用のテントへお邪魔することになった。


☆☆☆


「ウィー、怪我は無いのか!?」

 呼ばれてテントに姿を現したルパートは、私を見るなりそう叫んだ。心配してくれたのは嬉しいけど、この空間で一番偉い師団長にまず挨拶しないと駄目でしょうよ。

「失礼する」

 礼儀作法に厳しい貴族階級のエリアスは師団長に一礼した。かと思ったら大股で私に歩み寄り、椅子に座っている私を中腰で抱きしめた。師団長の前ですよー!!

「マシュー殿に聞いて生きた心地がしなかったぞ。暗殺団とやり合うなんて何て無茶をしたんだ、私のロックウィーナ!」
「いやあの」
「ロックウィーナはエリアスさんの恋人だったのか?」
「違う」

 ルービック師団長の問いかけに答えたのは魔王だった。アルクナイトはルパートと一緒に私からエリアスをペリッとがした。アンタも来たんだね。
 師団長は静かにアルクナイトを観察した。

「……キミとは冒険者ギルドの玄関で一度会ったな。相変わらず凄まじい魔力を放出しているが、名前を伺ってもいいかな?」

 アルクナイトは胸を張って師団長に名乗った。

「どこからどう見ても王侯貴族にしか見えないが、意外にも庶民の出であるさすらいの天才魔術師、ギルドマスターから全幅の信頼を寄せられている美しいアルだ」
「そ、そうか」

 アルクナイトの肩書が余計に長くなっていた。よく噛まずに言えるものだと、私は呆れを通り越して感心した。

「エン、ロックウィーナ、大丈夫だったか!?」
「負傷したのでしたら私が回復します」

 マキアとキースもテントへ入ってきた。あれ、もしかして全員来ちゃったの?

「お姉様!」
「ほっほっほ」

 やっぱり、と思った私の視界に見慣れない美青年が飛び込んできた。サラサラの長い金髪に宝石のような水色の瞳。ルパートと系統が似ているが、そこから更に線を細くしたようなイケメンだ。どちら様?

「あぁぁもう、アスリーの馬鹿! 見張りなんていいからお姉様を護りに行って欲しかったよ!」
「申し訳ございません。わたくしはリーベルト様の護衛として存在しておりますので」

 へ? リーベル……ト?

「えええ!? あなたリーベルトなの!?」

 私は非常にたまげた。化粧を落とすと女のコには見えない。凛とした青年がそこに居たのだ。

「ご無事で良かったウィーお姉様……」

 目が少し赤い彼に、私は防護ベストのポケットに入れていた小さな巾着袋を取り出して見せた。

「大丈夫だよ、私には御守りが有るんだから」
「それは……僕があげた結界石ですか?」
「うん」
「そんなのは一時しのぎに過ぎません。強い攻撃を何度も受けたら粉々に砕けちゃうんです」
「それでも最初の致命傷は防いでくれるんでしょう? 凄く心強いよ」

 リーベルトはキュッと唇を一度結んだ。

「僕がっ……、これからは僕が直接お姉様をお護りします!!」

 決意表明したリーベルトを見てルービック師団長が頷いた。

「なるほど。彼がロックウィーナの恋人だったのか」
「違います」
「違う」
「断じて違う」
「勘違いです」

 ルパート、エリアス、アルクナイト、キースに連続で否定された師団長は「ええ~?」という顔をした。彼の脇に立つ若き聖騎士マシューも。
 不穏な空気が流れてしまったテントへ、中年聖騎士エドガーと一緒にいかつい顔つきの五十代くらいの男性が入ってきた。

「来たかグラハム」
「お待たせしました」

 彼がグラハムと言う名の連隊長か。連隊長とは師団長の一つ下の役職らしい。

「全員揃ったな。緊急軍議を始める。空いている席に着いてくれ」

 テントの中にはイスだけではなくテーブルも置かれていた。

「この者達もですか? ……女人にょにんも混ざっているようですが」

 冒険者ギルドのメンバー、特に私を連隊長は注視していた。あまり気分が良くないな。しかしルービック師団長が言ってくれた。

「暗殺団を退しりぞけてくれたのは冒険者ギルドの二人だ。そして彼女はその内の一人だ」
「……そうでしたか。失礼を」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...