ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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暗闇の中の義兄弟(1)

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「なっ……、なっ、なっ、なっ」

 明らかに泣いた後である私の顔を見たリリアナは、眼球が飛び出るんじゃないかってくらい目を見開き、出発時間ギリギリに私と一緒に馬車へ帰ってきたマキアを睨みつけた。
 ゴトンゴトンゴトン。
 荒野の舗装されていない道を馬車が走り出すと同時に、リリアナはマキアを問い詰めた。

「あなた! お姉様に何をしたんですか! ナニをしたんですか!?」
「ナニって……、言葉のニュアンスが微妙にエロいよ」
「誤魔化すんじゃありません! ナニをナニしてお姉様を襲ったんですか!?」
「うひゃっ!? そんなコトしないよ、真っ昼間だよ!?」
「暗かったらしてたんですか!? そうなんですね!?」

 唾を飛ばす勢いのリリアナに詰め寄られたマキア。今回は読書をしていないエンが静かな口調でフォローした。

「マキアは嫌がる女相手に無理いするような奴じゃない」
「エン……」

 感動しているマキアの斜め前の座席で、リリアナは少しばかり落ち着きを取り戻した。

「あなたが原因じゃありませんでしたか……。早とちりしてすみませんでした」

 ちゃんとゴメンナサイできるリリアナは根は良い子。

「じゃあお姉様はいったいどうして……」
「あ、泣かせたのは俺なんだけどね」
「やっぱりアンタかい!!」
「ヒィッ!」

 男の野太い声に戻ったリリアナに怒鳴られ、マキアは隣に座るエンにしがみ付いた。慣れた様子でエンはマキアをがしていた。
 私が場を収めるべきだな。

「リリアナ、マキアが悪いんじゃないよ。私が勝手に泣いちゃったの」
「どうして?」
「ええと……思い出し泣き?」

 思い出し笑いが有るんだから、思い出し泣きが有ったっていい訳だ。

「俺が自爆した時のことを思い出させちゃったんだよ」

 マキアが馬鹿正直に打ち明けた。エンの眉間にしわが刻まれた。
 時間のループを知らないリリアナとアスリーは当然ピンと来ていない様子だ。

「自爆って? 何か相当に恥ずかしいことやらかしたんですか? お姉様が思い出して泣いちゃうレベルの」
「えっ……あ、そうそう! 消し去りたい黒歴史なんだ。だから内容は秘密ね」

 マキアが慌ててぼやかした。

「えー、お姉様はご存知なんですよねぇ? マキアさんとお姉様の間の内緒話ってことですかぁ?」
「俺も知っている。マキアにとって本当に忘れたい過去だから、どうか掘り返さないでやってくれ」

 エンがリリアナの嫉妬をらした。

「ま……、そういう事情なら了解です」

 リリアナがとりあえず納得してくれたので、馬車内は平穏を取り戻した。気が緩んだらまた涙が復活しそうになった。最近涙もろいな。
 涙目を隠す為に、窓の外を眺めている風を装って顔を傾けた。対面に座るマキアには横顔が見えてしまっただろうけど。
 そのせいか次の休憩まで、マキアの馬車内の発言が少なかった。


☆☆☆


 夕刻。隊が進軍を止めたのはゴルマリ平原だ。昨日と違ってCランクのモンスターが出現するので、強い警戒が必要なフィールドだ。しかし大量の馬車を停められて、尚且つテント張りに適した平らな地形がここ以外に無かった為、今夜は見張りを増やして野営にのぞむこととなった。

 ミラとマリナがまた冒険者ギルドのテントエリアを訪れてくれて、大人数で夕食を共にしたのだが、

「私達さぁ、深夜の見張り番に選ばれちゃったのよねぇ」
「だからロックウィーナ、夜はアンタと一緒に寝られないんだ。もちろんテントに来るのは構わないんだけど。トイレも」

 そう言われて私はちょっと気落ちしてしまった。親しい二人が居ない状態で、女性兵士のテントを使わせてもらうのは居心地が悪そうだな。贅沢な悩みだけど。
 私の心情を察したルパートが発言した。

「今夜はウィー、ギルドの馬車の中で寝な。俺達のテントすぐ側に寄せてあるから安全だろ」

 エリアスもルパートの意見を後押しした。

「それがいい。近くに居てくれた方がモンスターが出た際に護りやすい」

 私もその方が気楽かな。ありがたく提案を受けることにした。
 夕食を摂ったミラとマリナは、見張りに備えて今の内に仮眠を取るとかで早々に引き上げて行った。

「冒険者ギルドも夜の見張り番を立てますよね?」
「そうだな」
「じゃあ私も仮眠を取っておこうっと。急いで寝る前の準備を済ませておかなくちゃ」

 兵士の彼女達に続いて立とうとした私を、ルパートが引き留めた。

「いやおまえはゆっくり寝ていろよ。見張りは俺達が交代でやるから」
「そんな訳にはいきませんよ。私だって仕事で来ているんですから」
「真面目なところはキミの素晴らしい美徳だな。よしロックウィーナ、私と一緒に見張りをしようか」

 さりげなく自分を売り込んできたエリアス。キースがニコニコ牽制した。

「ロックウィーナの相手役には僕が適任ですね。防御障壁を張れますから」
「バリアなら俺様だって張れるわ。自分を特別視するな白」

 割り込んできた魔王にもキースは笑顔を崩さなかった。

「全体的な魔力量ではあなたに到底及びませんが、障壁と治癒能力に関しては僕の方が上ですから」
「特化した能力で図に乗るな。オールマイティに能力を伸ばせてこそ真の天才。好き嫌いはいけないと親に教えられなかったのか? 悔しかったら攻撃魔法を使ってみろ」
「ほっほっほ」
「あ、決まる確率は魅了よりも低いですが即死魔法なら使えますよ? 僕が世話になった寺院は古い建物で、虫やらネズミやらがちょいちょい湧いたんですよね」
「即死魔法って……おま、それ禁呪、禁呪────!!!!」
「人間相手に使うと大罪らしいですね。この国の法律では害虫や害獣駆除ならセーフだそうで。ちゃんとそこら辺は調べてから使っているので大丈夫です」
「ソル──! ここにおまえ以上にヤバイ奴が居るぞ──!!」

 キースが恐ろしいことを言ってのけている横で、ルパートとエリアスが「どっちがロックウィーナと一緒に見張りをするかジャンケン」を始めていた。

「ほっほっほ」
「こらエリーにチャラ男、俺達抜きで勝手に始めるな! それと執事の笑い声が微妙にウザイ」
「本当、抜け駆けはやめて欲しいですね。心の臓を永遠に止めますよ?」

 収拾がつかなくなったので私は一抜けすることにした。

「見張りの順番が決まったら教えて下さいね~。これから三十分は身体を清めたり着替えたりするので、馬車へは絶対に近付かないで下さいよ?」

 水瓶みずがめから洗面器に水を移した私を男達はハッと見たが、すぐにまたジャンケン勝負に戻った。平和だった。

 この時はまだ。
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