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8の扉 デヴァイ
分散
しおりを挟む「じゃあ、石じゃなくてもいいって事じゃないですか。」
「まあ、そうなるな。」
この、狭い小部屋へ集められているのはラガシュ、レシフェ、千里と俺だ。
中央の机に並べられた沢山の石とガラス、その其々に力を込めさせたウイントフークは、俺達の目の前で実験をして見せたのだ。
石と、ガラス。
その、まじないの強さにはそう違いが、無い事を。
「俺達は結局は………」
「でもそうすれば姫があまり危険では………なく、ならない?」
「いや、あいつはまじないも強い。それはあまり関係無かろうよ。」
「そうですね……… 」
ラガシュとレシフェが秤に夢中になっている間、千里だけは崩れそうな壁際で皆の事をただ、見ていた。
「どうしたんだ?何か?」
「いいや?面白くなってきたな、と思ってな。」
「まあ………そう、だな?」
コイツは、ヨルの石だ。
所謂俺も、似た様なものだから言いたい事は分からんでも、ない。
これまでの前提が覆される、事。
「石」ありき、「力」ありきの世界で。
「石以外」も、「力を持つ」であろう、事。
しかし、ヨルを見てれば自ずと解るのだ。
あの子は、きっと。
「こういう事」を、解ってるんだろう。
「物」を「モノ」として見なく、それぞれ大切にしていること、何であっても何かが「宿る」であろうこと。
「それ」に人の想いや力が込もっているなら、尚更。
「それ」に共鳴して、あの子の「なにか」と「反応」すること。
ずっとヨルの、何が違うのか、どう不思議なのかと思っていたが。
なんとなく自分の中にあった疑問が、千里とウイントフークの話でしっくりきた。
あの二人が「ヨルのまじないは純度が高い」と、言っていたからだ。
「ああ、それは僕も分かります。混じり気がないと、「どれ」とも相性を選ばないんですよね。だから厄介でもあるんですけど。」
「違いないな。どうなんだ、その辺り?他に目をつけている奴は?」
「それなんですけど………」
若者二人がヨルの心配をしている間、悪巧みをしている大人達は一番強い組み合わせを考えている様である。
「基本的には石の方が。強い、のか。」
「いや、多分「何で出来ているか」よりも。「元々持っているもの」の、違いだと思うぞ。」
「ほう。詳しく。」
「いや、それなら本人に訊いた方がいいかもしれないな。あいつの世界は、また特殊だ。」
「ふむ。じゃあちょっと呼んでこい。」
無言で出て行った千里。
何でもアゴで使うウイントフークに苦笑しつつも、若者達の話にも耳を傾ける。
なんだか話題がズレているからだ。
「だから………俺は、まあ諦めた訳じゃ、ないが。しかし。」
「まあ解りますよ、アレは。キツイですよね。僕はまあ、姫が幸せであれば誰でもいいんですけどね。」
「レナなんか、どうだ?お前達相性はいいと思うがな?」
「おま、余計な事言うなよ?絶対、ヨルが聞いたら食い付くからな………。」
俺の揶揄いに慌てて手を振るレシフェ、ラガシュは他人事だと笑っているがどうなんだろうか。
そうしているうちに、ノックの音がして本人が登場した。
千里に連れられた、ヨルだ。
「えっ。何ですか、この集まり………。」
レシフェが居るのが意外だったのだろう。
しかし、机の上の秤を見て大きく頷いている。
確かにレシフェの力は強いからな。
あいつもきっと、試したかったに違いないのだ。
「で?どうだったんです??」
「それはまた後で。で、お前の石なんだが。」
「え?」
「この世界の石と、何が…どこが、違うと、思う?多分、そっちの方が素材として力があるんだ。なんとなくは分かるだろう?」
「そう、ですね………。」
そうして考え込み始めたヨル。
ウイントフークは再び秤を弄り始め、若者二人はじっと、ヨルの答えを待っていた。
俺はその間もニヤニヤしている千里を、観察していたけどな。
暫くじっと考えていたヨルは、答えを出す前に幾つか質問を始めた。
「あの、それって別に。石じゃなくても、いいですよね?多分、なんかこっちとあっちの、違い?みたいな??」
「まあ、そうでもあるな。お前の思った事で、いいんだ。」
「うん………じゃあ。」
再び少し、考えると首を捻りつつも話し始めたヨル。
みんなが一人の少女を取り囲んで、目が輝いている様子がなんだかおかしい。
「うーん、多分、ですけど。この前も言ったじゃないですか、自然が多いって。それも、あるかな…あと、思うのは。そのチカラを貰える、「源」があるからじゃないかと、思うんですけど………。」
「「「源?」」」
男達が、ハモっている。
「そう、ですね。結局、こっちって。循環してないし、自然も無いし。ここなんて、空が、無い。宇宙も、無い、のかな??多分、私の世界って大地とか空から力を貰うんですよ。なんか、そもそも降り注いでるっていうか。そう、「お日さま」みたいに燦々と。なんか、そういうのが無いんですよね………こっちには………ラピスはあるけど………なんだろ、やっぱり「繋がり」か………。でもやっぱり自然を神と崇める風習は………。」
一人、ブツブツ言い始めたヨルを放って。
勿論、男達の興味はその「源」へ移っていた。
「お前、それは知っているのだろう?どんなものなんだ、源とは。」
「物じゃ、ないんだ。しかしアレの概念は特別だな、やはり。」
「俺は分かる気がするな。ほら、「アレ」に近くないか?俺の………」
「ああ、ブラックホールな。解らなくもないが、それは消す方だろう。」
「いや、概念で言えば、当たらずとも遠からず。その前の所謂原初の状態なのだろうが。「何も無いが全てがある」に、近いからな。」
「成る程?ていうか、僕にも解る様に説明して下さい。」
俺にもサッパリ、解らないが。
そのヨルの答えにウイントフークと千里は納得したらしく、示されたラガシュがヨルを連れ部屋を出て行った。
残ったレシフェと俺は、顔を見合わせて。
とりあえずは二人の話の成り行きを、見守る事にしたのだ。
まあ、口を挟もうにもよく分からなかったんだがな。
「しかし結局。結果的に「源」とは「万物のエネルギー源」という事だ。それがあるから、潤沢なんだろうな、きっと。」
「ヨルはどうしてそんな事を知っている?」
「さあ?まあ、色々と抱えてるからな、依るも。」
「ふむ。」
「しかし、向こうの世界でも。綻びは、起き始めている。やはり繋がっていない訳では、無いんだ。」
「まあ、でなきゃあいつがここへ来てない、って事だろうな。」
「まぁな。」
「とりあえず、その「源」は、いいとしても。それがあるから、力も強く、材料としても申し分ないものが出来る。しかし、全てがこちらの材料だと………」
「そうだな。まじないが、ものを言う。」
「実際、アレを外して試せないのか?」
いきなり口を挟んだレシフェに。
振り返った千里の瞳が恐ろしくて、俺はすぐに目を逸らした。
あれは。
……………レシフェが消えなくて、良かった。
「………本気じゃない。」
「わかっている、が。」
「ああ。大丈夫だ。」
何やら通じ合った二人は、とりあえず仲直り?をした様だ。
仕方が無いと、溜息を吐いたウイントフークが場を纏める。
「とりあえず。ヨルの力は腕輪が無くとも。強いだろうよ。それは、分かるだろう?」
「ああ。」
「それを踏まえて、「石でなくとも力がある」という事を徐々に拡めるんだ。銀にも協力させるし、力の元となるものが分散すれば。………さて、どうなるかな。」
なにやら楽しそうでもあるのは、気の所為ではないだろう。
無言でそのまま部屋を出て行った千里、バツの悪そうなレシフェは戻って来たラガシュに愚痴り始めた。
「ああ、それはあなたが悪いですよ。姫からあれを奪おうなんて。」
ラガシュにもそう言われ、慌てて弁解していたけどな。
まあ俺も「アレ」が無かったらどうなのか、気にならなくも、ない。
しかし。
見ていれば、解るが。
あの子は「腕輪」や「石」など、関係無く。
「ああなのだろう」と思えるし、きっとそれが真実の筈だ。
同じ石になったから、解ることも、ある。
あの、石達が進んであの子の手伝いをしているであろう事は、な。
そうしていつの間にか実験に加わっている若者達を横目に。
奥にある、本の間で休む事にしたのだ。
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