【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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譲らない令嬢

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 対決ではないが、ワーグナー令嬢が掃除や祈りに対しての考えを変えても他の令嬢は頑なに自分達の姿勢を変えなかった。
 授業の方も次第に国の歴史から応用へと変化していく。
 国によって歴史は異なるが、順番が違うだけで似たような事件が起こり時代時代に必要な統率者が生れる。
 そして、その統率者が何故そのような思考に至り実行に移したのかを議論する。
 その政策は成功だったのか失敗だったのか。
 非情とも言える決断を下したことについて、適切だったのか?
 同じ立場となった時、その決断を下せるのか?
 受け身の授業から参加型へと移行する。
 令嬢達と議論していく中で思ったのは、その後に起きた出来事を知っている令嬢達は決められた正解を口にする。
 そこに己の考えがあるとは感じられなかった。
 教育と言うのはひたすら『暗記』『実践』作業なのだが、そこに疑問を持ち自身の考えを口にするのは悪い事ではないと私は思っている……のだが、令嬢達との会話は歴史の本に書いてある内容ばかり。
 教師が六人に増えただけで、議論とは程遠い。

 いつものように授業が終わり一時の休憩を得てから大聖堂へ向かう。
 変わらない日常を過ごしていると、思わぬ訪問者が現れた。

「ケイトリーン嬢」

 掃除中に夢中になり反応が遅れ振り向くと、呼びかけてきた本人はすぐ近くにいた。

「……ジェイコブ王子? 」

 大聖堂に通うようになって初めての王子の訪問だった。
 
「どうなさいました? 」

「聖女様の普段の様子を見て観たくて来てしまったのだが、突然すぎたかな? 」

「いえ、私は問題ありません」

 私は問題ないのだが、他の令嬢達の様子を窺う。
 王子の訪問を私より先に気が付いていたのが、四人の補佐達。
 令嬢達は身なりを整え表情も作り王子の真後ろに待機している。
 私と同じように掃除をしていたワーグナーは少し離れたところで、自身の衣服の汚れを叩いている。

「驚いた。見違えるほど美しくなったな」

 王子の言葉は私に対してではなく、周囲を見回した大聖堂の事を言っている。
 以前は修道士が掃除していたとはいえ、限られた人数で大聖堂以外も掃除し他の仕事も兼用していたので十分とは言えなかった。
 私も、初めて大聖堂を訪れた頃よりかなり綺麗になったと胸を張れて言える。

「ありがとうございます。ワーグナー令嬢と補佐達の使用人でここまでの状態になりました」

「ワーグナー令嬢? 」

 私が使用人だけでなく令嬢の名前も出す。
 貴族令嬢が掃除をしていたと話すと、王子は興味を持ち名前の挙がった令嬢を探す。

「あちらにいる箒を持った令嬢です」

 紹介すると一気に視線がワーグナーに集中する。
 王子は傍にいた令嬢達には見向きもせず、ワーグナーに歩み寄る。

「令嬢が掃除とは感心する」

「いっいえ私はせっせせ聖女様のおおおおお役に立ちたくて」

 突然の王子の訪問に加え、王子の方から声をかけてくるとは予想していなかったワーグナーは明らかに緊張していた。

「やはり、聖女の補佐と立候補するだけ奉仕精神が強いようだな」

「いえっ、そんな……はい」

 私はワーグナーと王子の会話を見守っているのだが、他の令嬢達は次は私の番だと距離を縮めていく。

「そうだ聖女様、紹介したい者がいる」

 ワーグナーとの会話を終えると、王子は本来訪れた要件を思い出し私に声を掛ける。
 
「紹介したい者……」

 確かに今日は王子だけでなく、護衛の騎士も一緒にいる。
 紹介したい者とは騎士の事だろうか?

「私の護衛騎士、ジョシュア・マドリゲスだ。今後王家からの伝達や依頼などあった場合、彼が報告を担当する」

「ジョシュア・マドリゲスです。よろしくお願いいたします」

 紹介されたマドリゲスは高身長で短髪が似合う人だ。

「ケイトリーンです、よろしくお願いいたします……」

 お互い自己紹介が終わると次になんて会話して良いのか分からず沈黙が生れてしまう。

「今日は彼の紹介と今後について司祭と話があるのだが、聖女様も同席を願えないか? 」

「畏まりました」

 忙しい王族がわざわざお越しいただいたのだ、断ることは出来ない。

「聖女様、私も同席いたします」

 私と王子の会話を聞いていたイニアスが同席を願いでる。
 イニアスだけでなく他の令嬢も「参加します」という表情をしている。

「いや、今回は聖女と司祭のみで打ち合わせしたいと思っているので遠慮してくれ。補佐達は引き続き掃除を頼む」

 王子に遠慮するように促され、更に掃除をするように指示を受けるとイニアスは表情を曇らせる。
 王子の言葉は嫌味なのか純粋な想いなのか分からないが、令嬢達には突き刺さった事だろう。
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