王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒

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聖女時代

遅れて来た聖女候補

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 遅れてきた聖女候補を司祭が紹介する。

「皆さんに紹介します。この度、新たな聖女候補として認定した……ソミールさんです。彼女は、こちらの不手際により発覚が遅れてしまいました。本来であれば、フローレンス・バルツァルさんと同時期に教会に通うはずでした。短い間ですが、彼女も聖女候補として教会で学びます。八年の遅れは彼女の失態ではありません。教会としても彼女をサポートしていきますが、皆さんも彼女を助けてあげてください。ソミールさん、皆さんに挨拶を」

「ソミールです。今回聖女候補として判定を受け、八年弱の遅れだけど、皆と一緒に学ぶことが出来て嬉しいです。仲良くしてください」

 笑顔で挨拶するソミール。
 彼女の第一印象は、屈託のない笑顔。
 彼女はファミリーネームを名乗り忘れているわけではない。
 ファミリーネームがない、平民。
 八年遅れで聖女候補となった人物が平民とは想定外。
 聖女の能力欲しさに貴族達が平民聖女候補を愛人・妾として囲っていた為、ここ最近聖女候補は貴族にしか誕生しなかった。
 ソミールの存在に、波乱が起こるのではないかと周囲を見回す。

「……デルフィーナ・スカヴィーノと申します。私が最年長であり、候補者の指揮を執っています。分からないことがあれば、お聞きください」

 デルフィーナ・スカヴィーノは最年長の十七歳。
 子爵令嬢の彼女が候補者を纏めている。

「デルフィーナさん……フィーナさんだね! 私はソミールよ。ソミールって呼んでね。よろしく!」

 衝撃的すぎる自己紹介に笑顔が引き攣る。
 候補者たちは教会の教えに則り、家門ではなく個人名で呼び合っている。
 ソミールの身分にかかわらず、名を呼ぶ許可は与えようと思っていた。
 だがソミールは名前を通り越して、許可なく愛称をつけ呼び始める。
 初対面の平民が、子爵令嬢を躊躇せず愛称を呼ぶ姿に驚きしかなく声が出なかった。

「……ソミール様、よろしくお願いしますね」

 デルフィーナは動揺を見せず、この場にいる年長者だけでなく貴族令嬢として礼儀を見せつける。
 彼女の挨拶を受け、本人自ら気づき修正する事を期待しながら反応を窺う。

「私は、フローレンス・バルツァルと申します。よろしくお願いしますね、ソミール『様』」

 デルフィーナに次いで、歴の長い私が挨拶をする。
 本来であれば、私とソミールは同期。

「あっ! フローレンスさんて、私と同じ十六歳なんだよね?」

「……はい」

「わぁ、大人っぽい。私の周りに貴方みたいに綺麗な人いなかったぁ。フローレンスなら……レンスね! これからよろしく!」

 ……レンス。
 わざわざ『様』を強調したというのに、彼女には伝わらず。
 家族にも親しい友人にも呼ばれたことのない、『レンス』という愛称。
 愛称もだが、平民が貴族を気軽に愛称をつける行為に呆気に取られてしまう。
 あまりの彼女の振る舞いに司祭に視線を送る。

「んん……ソミールさん。聖女候補は全員『様』で呼んでいます」

 私の視線に気づき、司祭が忠告する。

「そうなの? でも……私は八年の遅れです。その遅れを取り返すには、皆を名前で呼んで距離を縮めたいんです。名前に『様』なんてつけたら……なんだか『お貴族様』みたいで、召使になった気分……」

「皆さん、お互いに敬意をもって『様』と呼んでいます」

「聖女候補に敬意はあります……ただ、早く皆と仲良くなりたくて……遅れたのは、私のせいじゃないのに……」

 八年の遅れはソミールのせいではない。
 それを出されると、司祭は眉間に皺を寄せ苦悶の表情。

「……皆さんの、失礼のないように」

 司祭がソミールの主張に折れてしまったので、私たちも本人が改めるのを待つしかないのか?

「はぁい」

 教会内では、聖女候補は皆平等。
 爵位は関係ないと言われている。
 受けてきた教育が違うので仕方がないと自身を抑えるも、どうしても引っかかってしまう。
 訂正できないまま、他の候補者の挨拶に移っていた。

「私はファビオラ・アンギレーリと申します。よろしくお願い致します」

 ファビオラ、十五歳。
 侯爵令嬢。

「えぇー、ファビちゃんは私より年下なの? 確りしてるぅ、偉い偉い」

 偉いと言って、ソミールは侯爵令嬢であるファビオラの頭を撫でる。
 その行動に全員が硬直。
 客観的に見たらおかしな光景だろう。
 貴族よりも平民の方が砕けた言葉で接しているのだから。
 自身より年齢が下の候補者には失礼な言動。

「私はラヴィニア・ジラルディと申します……よろしくお願いします」

 ラヴィニアもファビオラと同じ十五歳。
 この年は、聖女候補が二名誕生した。
 彼女は、伯爵令嬢。
 ソミールに流されることなく、二人も貴族らしく挨拶を交わす。
 私たちが貴族令嬢であるのを名乗っていないとはいえ、礼儀を見せているのだから察してもいいだろう。

「ラヴィニアさんは、ウサギさんみたいで可愛い。ラヴィちゃんだね!」

 願い虚しくソミールは、礼儀を見せるどころか貴族を動物に例える非常識さを披露する。

「初めまして、アルテーア・マレンゴと申します。よろしくお願いします」

 アルテーアは十三歳。
 伯爵令嬢。
 ラヴィニアとアルテーアの間の代は、聖女候補が誕生しなかった。
 
「アルテーアさんは控えめなのね。私がお姉ちゃんになってあげるから遠慮なく頼ってね、テーアちゃん」

 ソミールはアルテーアに対し、姉妹発言をする。

「……フィオレ・クレパルディと申します」

 フィオレは十二歳。
 子爵令嬢。

「フィオレさんを見ていると、近所の子供を思い出す。あの子たちとも仲良かったから、きっと私たち仲良くなれるね。そんな緊張しないで、フィオちゃん」

 令嬢を平民と同一扱い。
 彼女の挨拶を聞いていると、思考が停止する。
 次の順番は、エリベルタ。
 エリベルタは、爵位を重視する令嬢。
 相手が年上だろうと信念を曲げることのない令嬢。

「エリベルタ・ブライアント伯爵令嬢です。私のことは、『ブライアント伯爵令嬢』とお呼びください」

 エリベルタは十歳。
 周囲に忖度せず、はっきり言えるのが彼女の良いところ。
 フィオレとエリベルタの間の聖女候補は、現れなかった。
 エリベルタの発言に対し、普段であれば「教会では爵位は関係なく、聖女候補は皆さん平等です」と諭すのだが、今日はしない。
 ソミールは、あまりにも無礼が過ぎる。
 私たちはエリベルタの行動を支持するが、司祭はどうなのかを窺う。
 司祭は私たちの視線に気づくも、エリベルタを咎めることはしなかった。

「ブライアント……伯爵令嬢? ふぅ……貴方は一番幼く皆さん優しいから注意出来なかったかもしれないけど、私は違うわよ。教会では皆、聖女候補の一人で同格なの。爵位は関係ないのよ」

 溜息をしてからの諭すような口調。
 ソミールの言葉は、普段私たちが下位貴族を軽視するエリベルタに言っている言葉。
 ここで、ソミールに言われると複雑な思いが胸を占める。
 
「貴方は勘違いしています。私たちは聖女候補である前に貴族です」

「何度もいうけど、教会に身分は関係ないの。皆が、神に仕える存在なのよ」

「私は貴族であることに誇りを持っております。それを忘れる事はありません」

「エリベルタちゃん。そんな考えじゃ孤立しちゃうよ?」

「それは貴方のことです」

「……もしかして、今まで一人で寂しかったの? 大丈夫、これからは私がいるから。私は貴方の味方だよ」

「話が全く通じませんね。私は貴方と仲良くするつもりはありません。今後、私と彼女を関わらせないようにしてください」

 そう宣言できるエリベルタが、心底羨ましく思ってしまった。
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