レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第五十三話「狂戦士」

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 俺はフローラとクリステルをジェラルドに任せて、五階層の攻略を始める事にした。ジェラルドの強さなら、間違いなく二人を守る事は出来るだろう。最近は殆ど睡眠時間が無いので、意識は朦朧とし、体力も魔力も限界に近い。

 マナポーションを一口飲んで魔力を回復させると、魔装を身に着けてから魔剣を背負った。腰にグラディウスを差すと、ジェラルドが階段まで送ってくれた。彼の体に触れて、二人を頼むと言うと、ジェラルドは静かに頷いた。

 今は休んでいる時間が惜しい。フローラには『焦らずにゆっくり進もう』と言ったが、四階層の魔物の数から察するに、ローゼマリー第二王女のパーティーは、殆ど魔物を狩らずに下層を目指して進んでいるのだろう。実質、ダンジョン内の魔物は俺達が全て討伐している様なものだ。

 ドラゴニュートのリーダーを残したまま、仲間を死なせて下層に潜るという発想自体が理解出来ない。全くローゼマリー王女は何を考えているのだろうか。それに、勇者や大魔術師はローゼマリー王女の独りよがりなダンジョンの攻略方法について、注意や指摘をしないのだろうか。

 冒険者ギルド・ティルヴィングのマスターでもある勇者は、自分のギルドに所属する冒険者を死なせてまで、第二王女を国王にしたいのだろうか。何か裏で密約でも交わされているのだろうか。ローゼマリー王女が国王に指名されたら、ティルヴィングにクエストを優先的に依頼するなど。想像しても真実を知る事は出来ないが、仲間を死なせる様なギルドに先を越されているという事実が、俺の自尊心を傷つけるのだ。

 五階層に続く階段を降りると、そこには四階層よりも遥かに広い岩場が広がっていた。ここがダンジョンの中だという事を忘れてしまう程の広大な空間に息を呑み、背の高い木々には黒い果実が生っている。ダンジョン内に生息する魔物は、五階層に生る果実を食べて生きているのだろうか? ジェラルドがオークの肉を食べていた事から、ドラゴニュートがオークを狩り、オークは三階層に生えていた草を食べていたのではないかと予想出来る。

 ゴツゴツした岩の様な肌をした木には、黒い果実が生っており、俺は黒い果実を一つ取ってみると、果実からは赤い魔力が流れ出した。何か特別な効果を持つ果実なのだろうか。黒い果実を割ると、非常に水々しく、甘い香りがしたので、俺は果実を齧ってみた。シュルスクの果実よりも甘みが強く、果実が持つ力が失われていた体力を一気に回復させてくれた。

 食べれば食べる程、体力と魔力が回復し、体が火照ってくる。まるで中毒の様に、一心不乱に果実を食べ続けると、次第に気分が高まり、興奮を抑えられなくなった。果実に心を奪われた様に、次々と黒い果実を食べ続けると、周囲から強い視線を感じた。

 敵が潜んでいるのだろうか。殺意が籠もった無数の視線が俺に注がれている。それでも俺は果実を食べ続け、敵の出方を待った。ついさっきまでは眠気で意識が朦朧としており、体力も低下していたから気分も優れなかったが、今は頭が冴え渡り、敵の気配が手に取るように分かる。

 精神は研ぎ澄まされ、心臓の鼓動は次第に早くなり、果実を持つ手が震え出した。これ以上食べると体が壊れそうだ。俺は地面に果実を投げ捨て、黒い果実を踏み潰した。危ない……。すっかり果実に心を奪われていた。強い中毒性がある果実の力により、俺の体には魔力が溢れ、力がみなぎっている。

 魔剣を抜くと、周囲に潜んでいた魔物が姿を現した。ドラゴニュートだ。数は二百体程だろうか。既に四階層に戻る階段は塞がれており、魔物の群れが俺を取り囲む様に一斉に飛び上がった。手には長い槍を持っており、四階層のドラゴニュートよりも遥かに体格が良い。

 果実の持つ効果だろうか、無数の敵を前にしても恐怖心は一切沸かず、頭には血が上り、魔剣を持つ手が震えている。俺は興奮を抑えきれず、敵の群れに切り込んだ。俺はふと、以前父が話していた、狂戦士が好んで食べる果実の話を思い出した。ダンジョン内に生る特殊な力を持つ果実で、一つ食べれば体力と魔力が体にみなぎり、二つ食べれば気分が高揚する。三つ以上食べれば精神を奪われ、敵味方関係無く襲い始める。

 間違いない、俺が食べたのは狂戦士の果実だ。ファルケンハインまでの旅で体も心も憔悴し切っていたからか、狂戦士の果実を食べたお陰で、俺は最高の体調を取り戻した。気持ちは高ぶっているが、敵の動きがはっきりと目視出来る。ドラゴニュートの素早い槍の攻撃を右手に持つ魔剣で受け、左手でグラディウスを抜いて斬りつける。

 両手に持った剣で高速の連撃を放ち、次々と敵を切り刻む。ドラゴニュートは上空からファイアの魔法を放ってくるが、俺自身が強い炎の使い手だからか、自分よりも遥かに弱い次元の炎では俺の体が燃える事はない。むしろ、ドラゴニュートの炎は俺の気分を更に高揚させ、体内の火属性の魔力を高めてくれる。

 俺はグラディウスと魔剣を鞘に戻し、両手を頭上高く掲げて魔力を込めた。一瞬で脳裏に魔法の完成形を描く。無数の炎の槍を想像し、魔法を唱えると、三十本近くの炎の槍が現れた。ファイアボルトよりも遥かに威力が高く、二メートル近い巨大な炎の槍が一斉に空を裂くと、空を旋回する無数のドラゴニュートを次々と貫き、敵の命を奪った。

 それから再び魔剣を抜き、武器に魔力を流した。赤い魔力が魔剣を包み込むと、俺は敵の群れに対して魔剣を振り下ろした。魔剣から放たれた赤い魔力は鋭い刃へと姿を変え、巨大な魔力の刃が無数のドラゴニュートを一撃で切り裂いた。

 ドラゴニュートは俺に近づく事を恐れ、遠距離からファイアの魔法を放ち、槍での攻撃を仕掛けてきているが、敵の戦い方は俺にとって都合が良い。ファイアボルトを飛ばすだけで複数の敵を一度に倒せるからだ。

 精神の高ぶりを抑えながら、敵の攻撃を瞬時に防御し、魔剣で切り裂く。空を飛ぶ敵にはファイアボルトの雨を降らせて無数の風穴を開ける。勝負は一瞬でケリがついた。広い空間には強化石や召喚石が散乱しており、粉々に砕けた防具や、へし折れた槍が落ちている。ドラゴニュートの槍では俺の魔剣の攻撃に耐えられなかったのか、俺は無意識の内に敵の槍を叩き折っていた。

 強化石は全部で百九十、召喚石は十個ある。全ての魔石を持ち運ぶのは荷物になるので、俺はヴォルフを召喚し、強化石を全てヴォルフに使った。残った十個の召喚石は懐に仕舞っておこう。

 魔獣クラスの魔物の強化石では、成長したヴォルフを殆ど強化出来なかったが、それでも彼のステータスはわずかに上昇している。

『LV.88 ヴォルフ』
 力…880 魔力…820 敏捷…880 耐久…800
 装備:なし
 装飾品:アイゼンシュタインの首輪
 魔法:アイス アイスストーム

 ヴォルフは広い空間を楽しそうに駆けると、狂戦士の果実に鼻を近づけた。流石に魔物が食べるとどうなるのか分からないので、俺はヴォルフに果実を食べない様にと伝えると、彼は寂しそうに俯いた。その代わり、ダンジョンの攻略が終わったら好きな物を食べさせると約束すると、彼は満々の笑みを浮かべ、何度も俺の頬を舐めた。

 しばらくヴォルフの背中に乗って五階層を探索し、潜んでいたドラゴニュートを討伐した。それから六階層に続く階段を見つけたので、俺はヴォルフを召喚石に戻し、一人で六階層に続く階段を降り始めた……。
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