レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第五十四話「六階層」

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 六階層を降りると魔物の呻き声が聞こえてきた。狂戦士の果実の効果で、俺の精神はまだ興奮しており、魔力と体力があり余っている。フローラとクリステルが休んでいる間に、なるべく多くの魔物を狩り、彼女達の負担を軽減出来る様に働かなければならない。

 六階層は森林の様な空間になっており、空気が非常に澄んでいる。まるで本当に野外に居る様だが、天井が石で作られているので、ここが室内だという事が分かる。背の高い木には紫色の葉が付いており、葉は辺りに優しい光を放っている。日光がない場所でも育つ植物なのだろうか……。

 深い森の様な空間をゆっくりと進むと、冒険者の持ち物が散乱していた。この場所でも魔物に殺害された冒険者が居るのだろう。鋭い爪で切り裂かれた服が落ちており、服には血が染み込んでいる。死体が無い事から、この空間に住む魔物が人間を殺めて食す、悪質な魔物だという事が想像出来る。

 低い呻き声が辺りから聞こえており、敵は一定の距離を取りながら俺を尾行している。どうやら俺の出方を伺っている様だが、攻撃を仕掛けるつもりはないのだろう。相手の強さを感じ取り、自分よりも弱い者を襲い、自分よりも相手が強ければ逃げ出す。きっとそういう魔物だろう。五階層に居たドラゴニュートの方が遥かに強い魔力を持っている。

 魔剣を抜いた状態で薄暗い空間を歩く。辺りから複数の足音が聞こえる。狼系の魔物だろうか、四本の足が交互に動いている。狂戦士の果実によって俺の精神は極限にまで研ぎ澄まされ、周囲に潜む魔物の動きが手に取るように把握出来る。旅で蓄積した疲れは嘘の様に消え、まるで魔王城を出てアイゼンシュタインを目指していた頃の様な、清々しい気分だ。

 高ぶる気持ちを鎮めながら六階層を進むと、奥の方から鈍い音が響いた。この空間に俺以外の人間が居るのだろうか。狼系の魔物の鳴き声と、武器が魔物を叩く音が聞こえる。攻撃の速度は非常に遅く、魔物相手にかなり手こずっている様だ。

 魔物の数は三十体程だろうか、五階層のドラゴニュートよりも遥かに弱い魔物の群れが何者かを襲っている。俺は魔剣を握り締め、深い森を駆けた。すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。ブラックウルフが小さな獣人を取り囲んでおり、背の低い獣人は自分の体よりも大きな棍棒を手にしている。

 ブラックウルフの返り血を浴びていて獣人の容姿がよく分からないが、背中には巨大な鞄を背負っており、鞄を守る様にブラックウルフに対して棍棒を振り回している。冒険者なのだろうか、辺りに仲間の姿はなく、たった一人でブラックウルフの攻撃を受け続けている。

 武器を扱う技術は悪くないのだが、小さな体には合わない棍棒を持っているからか、攻撃の速度が非常に遅い。だが、獣人の棍棒は的確にブラックウルフの頭部を叩き、ブラックウルフは棍棒の攻撃を恐れ、獣人と距離を取りながら攻撃の機会を伺っている。

 どうして一人で大きな鞄を持ち、体に合わない棍棒を使用してブラックウルフと戦闘を行っているのだろうか。理由は全く分からないが、俺は獣人に加勢する事にした。身長は師匠よりも低く、大体百十センチ程だろうか。全身に血を浴びているので、どんな種類の獣人かは分からないが、頭部には毛に包まれた耳が生えている。

「大丈夫か!」

 俺が叫ぶと、ブラックウルフの群れが攻撃の手を止めた。瞬間、獣人の棍棒がブラックウルフの頭部を叩いた。ファルケンハイン王国からダンジョンの攻略を許可されているという事は、実力がある冒険者なのは間違いないだろう。しかし、防具すら身に着けておらず、何とも弱々しい戦い方だ。何か一人で狩りをしなければならない事情があるのだろう。

「助けて……!」

 獣人は女だったのか、高い声が森に響くと、俺はブラックウルフを飛び越えて獣人の隣に着地した。近くで顔を見てみると、獣人はケットシー族だった。不意に師匠を思い出して懐かしくなり、何だか心が明るくなった。やはり俺は心の底から師匠の事が好きなのだな。

「一人でよく頑張ったね。俺が来たから大丈夫だよ」
「だけど……こんなにブラックウルフが居る! とても二人では狩れないわ!」
「大丈夫だよ。ケットシーのお嬢さん」

 少女はつり目気味の猫目を大きく見開くと、目には涙が浮かんだ。やはりケットシーとは愛らしい生き物だな。俺は師匠からケットシー族と出会ったら助けるようにと言われている。何が何でも俺がこの少女を守り抜いてみせる。ブラックウルフは俺に対して爆発的な咆哮を上げたが、自分の弱さを隠すために人間を脅かそうとしているのだろう。恐怖心すら沸かないブラックウルフの咆哮は、俺にとっては無意味だ。

 一体のブラックウルフが大きく跳躍をし、鋭い爪を振り上げて攻撃を仕掛けて来た。俺は瞬時に左手をブラックウルフに向けて、炎の矢を飛ばした。炎の矢が精確にブラックウルフの心臓を貫くと、仲間を殺されたブラックウルフが次々と襲い掛かってきた。

 俺はケットシーの少女を守る様に彼女を左手で抱き、右手に持った魔剣で襲い掛かるブラックウルフを切り裂いた。三十体程のブラックウルフでは俺の魔装に触れる事すら出来ず、瞬く間に全てのブラックウルフを仕留める事が出来た。

 俺はケットシーの少女を地面に降ろすと、彼女は俺に深々と頭を下げた。可愛らしい笑みを浮かべながら尻尾を振っている。まずは返り血を浴びた体を洗い流さなければならないな……。

「随分返り血を浴びているんだね。体を洗おうか」
「え……? どうやって?」
「ちょっと我慢するんだよ」

 俺はウォーターの魔法で水を作り出し、ファイアの魔法で水をお湯に変えた。ケットシーの少女は暫くお湯をで体を洗うと、美しい灰色の毛が現れた。師匠が幼い頃はこんな見た目だっただろうなと、ふと師匠の姿が脳裏に浮かんだ。少女は鞄からタオルを取り出して体を拭くと、すっかり気分を良くしたのか、満面の笑みを浮かべて俺を見上げた。

 俺はそんな彼女の頭を撫でると、彼女は何度も俺の手に頬ずりをした。このモフモフした可愛らしい感じがとても懐かしい。やはり俺はケットシー族が好きなのだろう。少女は何度も俺の手に顔をなすりつけると、急に恥ずかしくなったのか、毛に包まれた小さな手で顔を隠した。

「助けてくれてありがとう……私は冒険者ギルド・ティルヴィングのベラ・グロス」
「俺は冒険者ギルド・レッドストーンのラインハルト・フォン・イェーガーだよ」
「ラインハルトって呼んでも良い……?」
「勿論。俺もベラって呼ばせて貰っても良いかな」
「ええ。良いわ。ラインハルトが来てくれなかったら、私はブラックウルフに殺されていた……本当にありがとう!」

 ベラは何度も頭を下げて俺にお礼を言った。俺はそんなベラを制止して、彼女の小さな肩に手を置いた。彼女は澄んだ青い目で俺を見つめると、俺は彼女の頭を撫でた。ケットシー族は頭を撫でられるのが好きだ。人間と触れ合い、不安な時は何度も頬ずりをする。俺はそんな習性を知っているからか、ベラの頭を何度も撫でると、彼女は俺の胸に顔を埋めて、静かにすすり泣いた……。
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