レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

文字の大きさ
55 / 64
第二章「魔石編」

第五十五話「ケットシー」

しおりを挟む
「ラインハルト。私ね……ギルドの仲間から虐められているの。私が新米だからか、勇者様は私に重い荷物を持たせて、敵の囮として使うの」
「なんだって……? 勇者がベラを?」
「うん。私は三ヶ月前に地元の村を出てティルヴィングに加入したのだけど、加入してからは自分よりもレベルの高い魔物の討伐クエストばかり押し付けられるの。私、地元の両親を安心させたくて、ファルケンハインで一番大きなギルドに加入したのだけど、今回はの聖剣クエストで荷物持ちをする事になったの」
「それは酷い話だね。ベラ、他のギルドメンバーは今何処に居るんだい?」
「十二階層で休憩しているわ。勇者は夜の間、私を魔物の囮にするの。私は魔物が多い場所に配置されて、朝が来るまで敵の攻撃を食い止め続ける。他の仲間も囮になって死んでいった。みんなレベルの低い子ばかり……」
「信じられない。勇者がそんな事をするなんて。何が勇者だ……ローゼマリー王女はろくな人間を雇っていないんだな」

 狂戦士の果実の効果か、瞬く間に頭に血が上り、手が震え始めた。勇者に対する怒りを抑えられそうに無い。やはり勇者は仲間を犠牲にしながら下層を目指しているのか。全く許せない人間だ。それに、ローゼマリー王女や大魔術師は、勇者の非人道的な行いを容認しているのだろうか。信じられない連中だな……。

 元々、ローゼマリー王女のダンジョン攻略方法は気に入らなかったが、勇者が自分のギルドメンバーを囮にしているという話を聞くと、ますますクリステルを次期国王にしなければならないという気持ちが高まった。更にベラから詳しく話を聞くと、今回の聖剣クエストには駆け出しの冒険者も多く参加しているらしく、勇者様と共にクエストに挑戦出来るのが光栄だと言っているらしい。

 しかし、実際にダンジョンで仲間が囮にされると、低レベルの冒険者達は勇者に対して不信感を抱き始めた。勇者は夜の間、安全に眠れる様に低レベルの冒険者を魔物の餌にしているのだとか。勇者の言いなりになる冒険者は、上層で魔物の攻撃を食い止めてから命を落とす。朝まで敵の攻撃に耐えられれば、再びパーティーに加入する機会を得て、荷物持ちとして勇者と共にダンジョン攻略に参加する。

 それも、朝まで魔物の攻撃を耐え続けた者がパーティーの前衛を任せられるらしい。冒険者ギルド・ティルヴィングの実態は、田舎から出てきた無知な冒険者に、ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属しているという肩書を与え、冒険者に大量の魔物を狩らせる。魔物討伐の実績は冒険者個人のものにはならず、全て勇者の手柄として国に報告されているのだとか。

「ベラはどうしてギルドを抜けないんだい?」
「今から抜けても、一人ではダンジョンを出られないから! それに、ギルドを抜ければ、両親を悲しませると思うの。ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属している事を、父と母は心から喜んでいるから」
「一人では出られない? ベラ。実はここより上に層には魔物は居ないんだよ」
「え? 嘘……どういう事?」
「俺達、クリステル第一王女のパーティーが全ての魔物を殲滅したからさ」
「クリステル第一王女? ラインハルトは王女様とパーティーを組んでいるの?」
「そうだよ。個人でこのダンジョンに入っている訳ではないんだ」
「だけど……ドラゴニュートだって五百体以上は残してきたし、オークだって殆ど狩らずに十二階層まで降りたのだけど。全ての魔物を倒したなんて……!」
「ローゼマリー王女のパーティーが魔物を残すから大変だったよ」
「ラインハルトのパーティーは本当に強いのね! 百人くらいで構成されているのかしら」
「俺のパーティーは人間が三人、魔物が三体だよ」
「え……? 嘘でしょう? ドラゴニュートの大群をたった三人と魔物三体で討伐するなんて……!」

 ベラはモフモフした小さな手で俺の手を握り、目を輝かせて俺を見つめた。俺は彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに何度も頬ずりをした。

「それなら、私達はいつでもダンジョンから出られるのね!」
「そういう事だよ。辛いならティルヴィングから脱退して、ダンジョンから出た方が良い」
「だけど、ギルドを抜けるには違約金を払わなければならないの」
「違約金? まさか、ギルドを抜けるのにお金が必要なのかい?」
「ええ……ギルドに所属していればそれなりの恩恵があるから。ティルヴィングはファルケンハインで知名度も高いから、武器や防具が格安で買えたり、国が運営する冒険者向けの宿も格安で利用出来るの。その代わり、脱退するには五万ゴールド払わなければならない」
「念のため聞いておくけど、加入するのにもお金が掛かるのかい?」
「ええ。加入には三万ゴールド」
「信じられない悪質なギルドなんだね。徹底的に冒険者から搾取しているという訳か。ベラ、脱退するためのお金を持っているのかい?」
「うんん……お金は持ってないの。クエストでお金を稼いでも、大半は両親に送っているから。今回のクエストを達成出来れば、一人三十万ゴールド貰えるのよ」
「三十万ゴールド? そんな大金を勇者が全ての参加者に分配するだろうか……」

 駆け出しの冒険者を三十万ゴールドという大金で釣り、ダンジョンの攻略を始めたら囮として使う。勿論、低レベルの冒険者は魔物を食い止める事すら出来ずに命を落とす。勇者は加入金の三万ゴールドを儲けて、自分達の体力と魔力を温存するために、冒険者を囮にしている。

「ベラ。脱退するためのお金を払うから、今すぐティルヴィングを抜けるんだ。なんなら俺が話を付けても良い」
「本当? ラインハルトはどうして私に優しくしてくれるの……? 誰も私の事を気遣ってくれる人なんて居なかったのに……」
「俺はケットシー族が好きなんだよ。それに、俺の愛する師匠からケットシー族を頼まれているんだ」
「師匠? ラインハルトの師匠ってどんな人なの?」
「救済の賢者、ジル・ガウスだよ」
「まさか! ケットシー族の英雄、賢者様の弟子なの? という事は、賢者の試練を乗り越えたという事?」
「そうだよ。賢者の杖も頂いた。杖は俺の婚約者の贈り物にしたから、手元にはないんだけど。俺はジル・ガウスの弟子なんだ」
「救済の賢者の弟子で、クリステル王女様を守る冒険者……たった三人で六階層まで降りて来られるなんて、やっぱりラインハルトは凄いのね……」
「そうでもないよ。仲間に助けられて何とか生きているんだ。ベラ、君が決断をするなら、俺が君を守るよ。ティルヴィングを脱退するんだ」
「うん……私、ティルヴィングを抜けるわ!」
「よし。俺が何とかしよう。全部俺に任せておくんだ」
「ありがとう……ラインハルト!」

 ベラは満面の笑みを浮かべると、俺はベラに手を差し出した。ベラは俺の手を握ると、心地の良い風の魔力が流れた。まるでヘンリエッテさんの様な魔力だな。棍棒を使わずに戦っていたら、きっとブラックウルフ相手に手こずる事も無かっただろう。ベラは武具を買うお金が無かったから、勇者が準備した棍棒を使ってブラックウルフと戦っていたらしい。

 俺はグラディウスを抜いてベラに差し出した。それからギルドを脱退するための五万ゴールドを彼女に渡すと、ベラは大粒の涙を流し、何度も頭を下げてお礼を言った。ベラは棍棒を捨ててグラディウスを腰に差すと、全てを吹っ切った様な表情を浮かべて俺を見上げた。

「何からなにまでありがとう。ラインハルト、一つだけ私の願いを聞いてくれるかな?」
「勿論。何でも言ってくれよ。俺は師匠から返しきれない程の恩を受けたんだ、この恩はケットシー族と出会ったら必ず返すと決めていたんだ」
「ありがとう! ラインハルト、私が一人で勇者様にギルドの脱退を伝えても、きっと勇者様は納得しないと思うの。最悪、脱退するためのお金すら受け取らないかもしれない。良かったら一緒に付いて来てくれるかな……?」
「勿論。だけど、その前にベラを仲間に紹介したい。まずは俺の仲間と合流して、勇者の元に戻ろう。すぐに戻らなくても良いんだろう?」
「ええ。きっと勇者は私が死んだと思うでしょう……」

 ベラを助ける事に決めた俺は、仲間に事情を話すために、四階層を目指して歩き始めた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...