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第二章「魔石編」
第五十五話「ケットシー」
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「ラインハルト。私ね……ギルドの仲間から虐められているの。私が新米だからか、勇者様は私に重い荷物を持たせて、敵の囮として使うの」
「なんだって……? 勇者がベラを?」
「うん。私は三ヶ月前に地元の村を出てティルヴィングに加入したのだけど、加入してからは自分よりもレベルの高い魔物の討伐クエストばかり押し付けられるの。私、地元の両親を安心させたくて、ファルケンハインで一番大きなギルドに加入したのだけど、今回はの聖剣クエストで荷物持ちをする事になったの」
「それは酷い話だね。ベラ、他のギルドメンバーは今何処に居るんだい?」
「十二階層で休憩しているわ。勇者は夜の間、私を魔物の囮にするの。私は魔物が多い場所に配置されて、朝が来るまで敵の攻撃を食い止め続ける。他の仲間も囮になって死んでいった。みんなレベルの低い子ばかり……」
「信じられない。勇者がそんな事をするなんて。何が勇者だ……ローゼマリー王女はろくな人間を雇っていないんだな」
狂戦士の果実の効果か、瞬く間に頭に血が上り、手が震え始めた。勇者に対する怒りを抑えられそうに無い。やはり勇者は仲間を犠牲にしながら下層を目指しているのか。全く許せない人間だ。それに、ローゼマリー王女や大魔術師は、勇者の非人道的な行いを容認しているのだろうか。信じられない連中だな……。
元々、ローゼマリー王女のダンジョン攻略方法は気に入らなかったが、勇者が自分のギルドメンバーを囮にしているという話を聞くと、ますますクリステルを次期国王にしなければならないという気持ちが高まった。更にベラから詳しく話を聞くと、今回の聖剣クエストには駆け出しの冒険者も多く参加しているらしく、勇者様と共にクエストに挑戦出来るのが光栄だと言っているらしい。
しかし、実際にダンジョンで仲間が囮にされると、低レベルの冒険者達は勇者に対して不信感を抱き始めた。勇者は夜の間、安全に眠れる様に低レベルの冒険者を魔物の餌にしているのだとか。勇者の言いなりになる冒険者は、上層で魔物の攻撃を食い止めてから命を落とす。朝まで敵の攻撃に耐えられれば、再びパーティーに加入する機会を得て、荷物持ちとして勇者と共にダンジョン攻略に参加する。
それも、朝まで魔物の攻撃を耐え続けた者がパーティーの前衛を任せられるらしい。冒険者ギルド・ティルヴィングの実態は、田舎から出てきた無知な冒険者に、ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属しているという肩書を与え、冒険者に大量の魔物を狩らせる。魔物討伐の実績は冒険者個人のものにはならず、全て勇者の手柄として国に報告されているのだとか。
「ベラはどうしてギルドを抜けないんだい?」
「今から抜けても、一人ではダンジョンを出られないから! それに、ギルドを抜ければ、両親を悲しませると思うの。ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属している事を、父と母は心から喜んでいるから」
「一人では出られない? ベラ。実はここより上に層には魔物は居ないんだよ」
「え? 嘘……どういう事?」
「俺達、クリステル第一王女のパーティーが全ての魔物を殲滅したからさ」
「クリステル第一王女? ラインハルトは王女様とパーティーを組んでいるの?」
「そうだよ。個人でこのダンジョンに入っている訳ではないんだ」
「だけど……ドラゴニュートだって五百体以上は残してきたし、オークだって殆ど狩らずに十二階層まで降りたのだけど。全ての魔物を倒したなんて……!」
「ローゼマリー王女のパーティーが魔物を残すから大変だったよ」
「ラインハルトのパーティーは本当に強いのね! 百人くらいで構成されているのかしら」
「俺のパーティーは人間が三人、魔物が三体だよ」
「え……? 嘘でしょう? ドラゴニュートの大群をたった三人と魔物三体で討伐するなんて……!」
ベラはモフモフした小さな手で俺の手を握り、目を輝かせて俺を見つめた。俺は彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに何度も頬ずりをした。
「それなら、私達はいつでもダンジョンから出られるのね!」
「そういう事だよ。辛いならティルヴィングから脱退して、ダンジョンから出た方が良い」
「だけど、ギルドを抜けるには違約金を払わなければならないの」
「違約金? まさか、ギルドを抜けるのにお金が必要なのかい?」
「ええ……ギルドに所属していればそれなりの恩恵があるから。ティルヴィングはファルケンハインで知名度も高いから、武器や防具が格安で買えたり、国が運営する冒険者向けの宿も格安で利用出来るの。その代わり、脱退するには五万ゴールド払わなければならない」
「念のため聞いておくけど、加入するのにもお金が掛かるのかい?」
「ええ。加入には三万ゴールド」
「信じられない悪質なギルドなんだね。徹底的に冒険者から搾取しているという訳か。ベラ、脱退するためのお金を持っているのかい?」
「うんん……お金は持ってないの。クエストでお金を稼いでも、大半は両親に送っているから。今回のクエストを達成出来れば、一人三十万ゴールド貰えるのよ」
「三十万ゴールド? そんな大金を勇者が全ての参加者に分配するだろうか……」
駆け出しの冒険者を三十万ゴールドという大金で釣り、ダンジョンの攻略を始めたら囮として使う。勿論、低レベルの冒険者は魔物を食い止める事すら出来ずに命を落とす。勇者は加入金の三万ゴールドを儲けて、自分達の体力と魔力を温存するために、冒険者を囮にしている。
「ベラ。脱退するためのお金を払うから、今すぐティルヴィングを抜けるんだ。なんなら俺が話を付けても良い」
「本当? ラインハルトはどうして私に優しくしてくれるの……? 誰も私の事を気遣ってくれる人なんて居なかったのに……」
「俺はケットシー族が好きなんだよ。それに、俺の愛する師匠からケットシー族を頼まれているんだ」
「師匠? ラインハルトの師匠ってどんな人なの?」
「救済の賢者、ジル・ガウスだよ」
「まさか! ケットシー族の英雄、賢者様の弟子なの? という事は、賢者の試練を乗り越えたという事?」
「そうだよ。賢者の杖も頂いた。杖は俺の婚約者の贈り物にしたから、手元にはないんだけど。俺はジル・ガウスの弟子なんだ」
「救済の賢者の弟子で、クリステル王女様を守る冒険者……たった三人で六階層まで降りて来られるなんて、やっぱりラインハルトは凄いのね……」
「そうでもないよ。仲間に助けられて何とか生きているんだ。ベラ、君が決断をするなら、俺が君を守るよ。ティルヴィングを脱退するんだ」
「うん……私、ティルヴィングを抜けるわ!」
「よし。俺が何とかしよう。全部俺に任せておくんだ」
「ありがとう……ラインハルト!」
ベラは満面の笑みを浮かべると、俺はベラに手を差し出した。ベラは俺の手を握ると、心地の良い風の魔力が流れた。まるでヘンリエッテさんの様な魔力だな。棍棒を使わずに戦っていたら、きっとブラックウルフ相手に手こずる事も無かっただろう。ベラは武具を買うお金が無かったから、勇者が準備した棍棒を使ってブラックウルフと戦っていたらしい。
俺はグラディウスを抜いてベラに差し出した。それからギルドを脱退するための五万ゴールドを彼女に渡すと、ベラは大粒の涙を流し、何度も頭を下げてお礼を言った。ベラは棍棒を捨ててグラディウスを腰に差すと、全てを吹っ切った様な表情を浮かべて俺を見上げた。
「何からなにまでありがとう。ラインハルト、一つだけ私の願いを聞いてくれるかな?」
「勿論。何でも言ってくれよ。俺は師匠から返しきれない程の恩を受けたんだ、この恩はケットシー族と出会ったら必ず返すと決めていたんだ」
「ありがとう! ラインハルト、私が一人で勇者様にギルドの脱退を伝えても、きっと勇者様は納得しないと思うの。最悪、脱退するためのお金すら受け取らないかもしれない。良かったら一緒に付いて来てくれるかな……?」
「勿論。だけど、その前にベラを仲間に紹介したい。まずは俺の仲間と合流して、勇者の元に戻ろう。すぐに戻らなくても良いんだろう?」
「ええ。きっと勇者は私が死んだと思うでしょう……」
ベラを助ける事に決めた俺は、仲間に事情を話すために、四階層を目指して歩き始めた……。
「なんだって……? 勇者がベラを?」
「うん。私は三ヶ月前に地元の村を出てティルヴィングに加入したのだけど、加入してからは自分よりもレベルの高い魔物の討伐クエストばかり押し付けられるの。私、地元の両親を安心させたくて、ファルケンハインで一番大きなギルドに加入したのだけど、今回はの聖剣クエストで荷物持ちをする事になったの」
「それは酷い話だね。ベラ、他のギルドメンバーは今何処に居るんだい?」
「十二階層で休憩しているわ。勇者は夜の間、私を魔物の囮にするの。私は魔物が多い場所に配置されて、朝が来るまで敵の攻撃を食い止め続ける。他の仲間も囮になって死んでいった。みんなレベルの低い子ばかり……」
「信じられない。勇者がそんな事をするなんて。何が勇者だ……ローゼマリー王女はろくな人間を雇っていないんだな」
狂戦士の果実の効果か、瞬く間に頭に血が上り、手が震え始めた。勇者に対する怒りを抑えられそうに無い。やはり勇者は仲間を犠牲にしながら下層を目指しているのか。全く許せない人間だ。それに、ローゼマリー王女や大魔術師は、勇者の非人道的な行いを容認しているのだろうか。信じられない連中だな……。
元々、ローゼマリー王女のダンジョン攻略方法は気に入らなかったが、勇者が自分のギルドメンバーを囮にしているという話を聞くと、ますますクリステルを次期国王にしなければならないという気持ちが高まった。更にベラから詳しく話を聞くと、今回の聖剣クエストには駆け出しの冒険者も多く参加しているらしく、勇者様と共にクエストに挑戦出来るのが光栄だと言っているらしい。
しかし、実際にダンジョンで仲間が囮にされると、低レベルの冒険者達は勇者に対して不信感を抱き始めた。勇者は夜の間、安全に眠れる様に低レベルの冒険者を魔物の餌にしているのだとか。勇者の言いなりになる冒険者は、上層で魔物の攻撃を食い止めてから命を落とす。朝まで敵の攻撃に耐えられれば、再びパーティーに加入する機会を得て、荷物持ちとして勇者と共にダンジョン攻略に参加する。
それも、朝まで魔物の攻撃を耐え続けた者がパーティーの前衛を任せられるらしい。冒険者ギルド・ティルヴィングの実態は、田舎から出てきた無知な冒険者に、ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属しているという肩書を与え、冒険者に大量の魔物を狩らせる。魔物討伐の実績は冒険者個人のものにはならず、全て勇者の手柄として国に報告されているのだとか。
「ベラはどうしてギルドを抜けないんだい?」
「今から抜けても、一人ではダンジョンを出られないから! それに、ギルドを抜ければ、両親を悲しませると思うの。ファルケンハイン王国で最高の冒険者ギルドに所属している事を、父と母は心から喜んでいるから」
「一人では出られない? ベラ。実はここより上に層には魔物は居ないんだよ」
「え? 嘘……どういう事?」
「俺達、クリステル第一王女のパーティーが全ての魔物を殲滅したからさ」
「クリステル第一王女? ラインハルトは王女様とパーティーを組んでいるの?」
「そうだよ。個人でこのダンジョンに入っている訳ではないんだ」
「だけど……ドラゴニュートだって五百体以上は残してきたし、オークだって殆ど狩らずに十二階層まで降りたのだけど。全ての魔物を倒したなんて……!」
「ローゼマリー王女のパーティーが魔物を残すから大変だったよ」
「ラインハルトのパーティーは本当に強いのね! 百人くらいで構成されているのかしら」
「俺のパーティーは人間が三人、魔物が三体だよ」
「え……? 嘘でしょう? ドラゴニュートの大群をたった三人と魔物三体で討伐するなんて……!」
ベラはモフモフした小さな手で俺の手を握り、目を輝かせて俺を見つめた。俺は彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに何度も頬ずりをした。
「それなら、私達はいつでもダンジョンから出られるのね!」
「そういう事だよ。辛いならティルヴィングから脱退して、ダンジョンから出た方が良い」
「だけど、ギルドを抜けるには違約金を払わなければならないの」
「違約金? まさか、ギルドを抜けるのにお金が必要なのかい?」
「ええ……ギルドに所属していればそれなりの恩恵があるから。ティルヴィングはファルケンハインで知名度も高いから、武器や防具が格安で買えたり、国が運営する冒険者向けの宿も格安で利用出来るの。その代わり、脱退するには五万ゴールド払わなければならない」
「念のため聞いておくけど、加入するのにもお金が掛かるのかい?」
「ええ。加入には三万ゴールド」
「信じられない悪質なギルドなんだね。徹底的に冒険者から搾取しているという訳か。ベラ、脱退するためのお金を持っているのかい?」
「うんん……お金は持ってないの。クエストでお金を稼いでも、大半は両親に送っているから。今回のクエストを達成出来れば、一人三十万ゴールド貰えるのよ」
「三十万ゴールド? そんな大金を勇者が全ての参加者に分配するだろうか……」
駆け出しの冒険者を三十万ゴールドという大金で釣り、ダンジョンの攻略を始めたら囮として使う。勿論、低レベルの冒険者は魔物を食い止める事すら出来ずに命を落とす。勇者は加入金の三万ゴールドを儲けて、自分達の体力と魔力を温存するために、冒険者を囮にしている。
「ベラ。脱退するためのお金を払うから、今すぐティルヴィングを抜けるんだ。なんなら俺が話を付けても良い」
「本当? ラインハルトはどうして私に優しくしてくれるの……? 誰も私の事を気遣ってくれる人なんて居なかったのに……」
「俺はケットシー族が好きなんだよ。それに、俺の愛する師匠からケットシー族を頼まれているんだ」
「師匠? ラインハルトの師匠ってどんな人なの?」
「救済の賢者、ジル・ガウスだよ」
「まさか! ケットシー族の英雄、賢者様の弟子なの? という事は、賢者の試練を乗り越えたという事?」
「そうだよ。賢者の杖も頂いた。杖は俺の婚約者の贈り物にしたから、手元にはないんだけど。俺はジル・ガウスの弟子なんだ」
「救済の賢者の弟子で、クリステル王女様を守る冒険者……たった三人で六階層まで降りて来られるなんて、やっぱりラインハルトは凄いのね……」
「そうでもないよ。仲間に助けられて何とか生きているんだ。ベラ、君が決断をするなら、俺が君を守るよ。ティルヴィングを脱退するんだ」
「うん……私、ティルヴィングを抜けるわ!」
「よし。俺が何とかしよう。全部俺に任せておくんだ」
「ありがとう……ラインハルト!」
ベラは満面の笑みを浮かべると、俺はベラに手を差し出した。ベラは俺の手を握ると、心地の良い風の魔力が流れた。まるでヘンリエッテさんの様な魔力だな。棍棒を使わずに戦っていたら、きっとブラックウルフ相手に手こずる事も無かっただろう。ベラは武具を買うお金が無かったから、勇者が準備した棍棒を使ってブラックウルフと戦っていたらしい。
俺はグラディウスを抜いてベラに差し出した。それからギルドを脱退するための五万ゴールドを彼女に渡すと、ベラは大粒の涙を流し、何度も頭を下げてお礼を言った。ベラは棍棒を捨ててグラディウスを腰に差すと、全てを吹っ切った様な表情を浮かべて俺を見上げた。
「何からなにまでありがとう。ラインハルト、一つだけ私の願いを聞いてくれるかな?」
「勿論。何でも言ってくれよ。俺は師匠から返しきれない程の恩を受けたんだ、この恩はケットシー族と出会ったら必ず返すと決めていたんだ」
「ありがとう! ラインハルト、私が一人で勇者様にギルドの脱退を伝えても、きっと勇者様は納得しないと思うの。最悪、脱退するためのお金すら受け取らないかもしれない。良かったら一緒に付いて来てくれるかな……?」
「勿論。だけど、その前にベラを仲間に紹介したい。まずは俺の仲間と合流して、勇者の元に戻ろう。すぐに戻らなくても良いんだろう?」
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