幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』

Int.39:葬送、戦友よ安らぎと共に眠れ①

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 同じ頃、A組の教室では。地下でそんな戦いが繰り広げられていたとはいざ知らぬ数人が解散後も居残り、談笑しながら何かの作業に興じていた。
「む……?」
 そんな教室の引き戸を、廊下側からガラリと引き開ければ、国崎は教室に残る彼女らの姿を視界内に認め、何事かと困惑したような微妙な色の顔色を浮かべる。
「あら、崇嗣じゃないの♪」
 とすれば、振り返った美桜がにこやかな笑顔で彼を出迎える。彼女の周囲には他にも美弥や霧香の姿もあって、三人はいくつかの机を突き合わせ、何やら小手先の手芸めいた作業を続けているらしい。
「あっ、国崎さん!」
「ふっ……。犠牲者、一人追加だね……」
 困った顔のままで教室の入り口に立ち尽くす国崎の姿を見つけると、美弥と霧香も同じように声を掛けてくれる。
「何をやっている、こんな所で?」
 妙に弛緩した雰囲気の漂う中、国崎がそう問いかけると。すると椅子から立ち上がった美桜が「ちょっと、良いこと思い付いちゃったの」と言いながら、国崎の傍に歩み寄ってくる。
「良いこと?」首を傾げる国崎。それに美桜は「ええ♪」と頷いて、
「百聞は一見に如かず、よ♪ とりあえず、崇嗣も来て来てっ」
 ニコニコと笑顔で言いながら美桜は国崎の手を取ると、そのまま彼の手を強引に引き、元の机の方に戻っていこうとしてしまう。
「うわっ!? お、おい美桜!? 俺はただ、忘れ物を取りに来ただけでだな――――」
「ほらほら、細かいコトは気にしない♪」
 結局、そのまま美桜の手で強引に引きずられてしまい。国崎はワケも分からないままに彼女らの輪の中に吸い込まれ、突き合わせた机たちの前へ適当に持ってきた椅子を置き、そこに腰掛ける羽目になってしまう。
「……折り紙?」
 そうして美桜の手で席に着かされると、机の上で彼女らが作っているそれが折り紙のようなものだったから、国崎は不思議そうに首を傾げた。
「はいっ!」美弥が元気いっぱいに頷く。「鶴ですね。国崎さんは作り方、分かりますかぁ?」
「あ、ああ。一応は……。といっても十何年も作ってないから、手先が覚えているかどうかは微妙なところだ」
 国崎の言葉は嘘ではない。確かに小学生の時分には幾らかこういった折り紙に興じることもあったが、今となっては殆どやり方なんて覚えていないに等しい。まさかこの歳になってこんな光景を目の当たりにするとは思っていなかったから、実のところ国崎は面食らっている。
「しかし、何故こんな物を?」
 困惑を隠すこともなく顔に出し、苦い表情をした国崎が問いかける。すると美桜は「あのね、崇嗣」と、何故か少しだけシリアスな、そして何処か哀しげな顔になってからで話を切り出した。
「まどかちゃんに、何かこう、私たちでしてあげられることはないかなって」
「…………」
 ――――橘まどか。
 昨晩、謎の武装勢力の急襲を受け、撃墜されたA-311小隊の訓練生パイロットの名。そしてその後K.I.A作戦行動中に死亡の判定を受け、名実共に死が確定してしまった彼女の名だ。国崎とて、彼女の死は重く受け止めている。
「まどかちゃんの、ことは……」
「私から、言えることは無いよ……」
 そうすれば、美弥は見るからにしょぼくれた顔で。そして霧香は相変わらずの薄い無表情だが、しかしその中に微かな影を落としながらで頷く。彼女たちや、そして美桜にとっても。彼女の死は……小隊の仲間の、戦友の死は重すぎることだった。
 ――――何も、苦しいのは。何も哀しいのは、白井に限ったことではない。
 国崎にとっても、美桜や美弥、霧香にとっても。そして出来るだけ顔には出そうとしないが、西條を初めとした教官たちにとっても。彼女の……橘まどかの死は、あまりに哀しすぎる現実としてのし掛かっているのだ。特に国崎たち訓練生にとっては、初めて経験する戦友の死となる。その重圧は、想像を絶すると言っても良い……。
 この場では美弥を除き、白井の事情は知らない。幼少期の彼が"まあちゃん"と呼んでいた彼女のことも、そして今際の際にまどかから告げられた言葉の真意も、国崎たちには分からないことだ。故に白井が何故あそこまで失意にまみれているのかは理解出来ないことだが、しかし国崎も美桜も、心の奥底では何となしに察している。
「そのしてやれることが、これってワケか?」
 沈黙が支配しかけた中、国崎はこほんと軽い咳払いをしてから美桜にそう訊く。すると美桜は「そうなの」と元のにこやかな顔を取り戻し頷いて、
「本当に、ささやかなことだけれど。それでも、何かあの娘《こ》にしてあげたかったの。どんな形でも良い。私たちの手で、まどかちゃんを送り出してあげたいと思って」
「私は、後から参加したんですけれどねっ」
「右に同じだよ……」
 どうやら、そういうことらしい。どういう形でするのかは知らないが、これが美桜なりの、彼女たちなりの、まどかを送り出す葬送の儀式ということのようだ。
「……なるほど、そういう事情なら」
 それを悟れば、国崎はふぅ、と小さく息をつきながら言って。そうして、目の前にある新品の折り紙を一枚、手に取った。
「崇嗣、手伝ってくれるの?」
「多分、俺に出来ることはこれぐらいなものだ。俺だって、橘を何かしらの形で見送りたいとは思っていた」
 美桜に訊かれて口にした言葉は、紛れもなく国崎自身の本心だった。堅物の彼とて、まどかのことはちゃんと戦友だと思っていた。だからこそ彼女の死は国崎にとってもショックなことで、そして国崎はそれを乗り越えようと、美桜たちの儀式を手伝おうと決意したのだ。幸いにして、今日はこの後の予定なんて皆無に等しい。
「ふふ、折れるか見物だね……」
「む、馬鹿にするんじゃない。俺にだってこれぐらい――――」
 霧香にほくそ笑まれ、ムキになった国崎が無理矢理に折り鶴を折ってやろうと目の前の折り紙に手を着けるが、
「くっ……!」
 結果としては、無残な物になってしまった。
 そんな酷い格好になり果てた国崎作・折り鶴以下の何かを見て、霧香は「ぶふっ……」と思わず吹き出し。美弥も美弥で「あ、あははは……」と苦笑いをして、そして美桜に至っては「あらあら……」と引き攣った困り顔を浮かべる始末だ。
「う、うるさい! 大体仕方ないだろう、久し振りなんだよこういうことは!」
 顔を赤くしながらぷいっとそっぽを向き、国崎が拗ねる。すると美桜が「しょうがないわね、崇嗣はっ」と何故かご機嫌になると、両の手で国崎の頬を取って無理矢理に顔を自分の方に向かせた。
「ほわぁっ!?」
 振り向かされた先の至近に美桜の顔があったものだから、国崎は湧いたヤカンみたいに真っ赤になる。今にも頭から蒸気が噴き出しそうだ。眼はぐりぐると泳ぎ、思考もぐるぐると回り続けている。
「はわわわ……」
「ふふ……茹でダコだね……」
 そんな国崎の反応を見て、美弥は自分も顔を真っ赤に慌てふためき。そして霧香はといえば、いつもの調子でニヤニヤとほくそ笑んでいる。
「み、美桜……!」
 戸惑う国崎が何とか言葉を紡ぎ出すと、美桜は「ふふ……っ」と笑い、
「私が折り方教えてあげるから……一緒に、折りましょう? まどかちゃんの為に、たっくさん鶴を折るの♪」
 と、頬から離した両手で、今度は国崎の手を取りながらそう言った。
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