安全第一異世界生活

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番外編・それぞれの日々

211話 番外編 長期休暇の使い方と友人との旅行(ミハイル視点)

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木枯らしが窓をがたがたと揺らし、数枚だけ残った紅葉した葉が風に舞い飛んでいく。
校庭の木々はすでにほとんどの葉を落とし、立派な枝ぶりが肉眼でもはっきり見える。
そんな冬の足音がすぐそこまで迫る頃――明日からは長期休暇に入るというタイミングだった。

「イル? お前、長期休暇どうするんだ?」

教室でみんなが帰り支度を始めながら長期休暇の話題を出していた時に、レドが僕に声をかけてきた。
僕は首をかしげながら、“長期休暇か”と心の中でつぶやいた――。

「冒険者ギルドランクがDに上がったのをトーさんとカナメに報告に行きたいな」

僕の言葉にレドは不思議そうに首をひねる。

「え?まだ報告してなかったのかよ?いつでもあれで連絡取れるだろ」

そう言ってレドは耳たぶについている黒いイヤーカフをトントンと自分の耳を叩く事で伝えてきた。そのしぐさに僕はフフと顔に笑みを浮かべ、

「そう言うのは、直接言わないと二人にたくさん褒めてもらえないだろう?」

僕が笑いながら伝えるとその言葉にブハッと噴き出すレド。おかしいかな?

「んでもしかして辺境まで旅に出るって事かよ?爺さん達の許可は下りてんのか?お前んち年越しのパーティーとか、そういうの参加しないのか?」

「南の辺境領は王都より随分温かいらしいからお婆様の身体にも優しいだろうからと、お爺様とお婆様も一緒に行くんだよ。護衛もお願いしてる」

「ヘ―――良いな」

レドはそう言って何か考える様に口元に手を持っていき下を向いた。僕は不思議に思いレドに長期休暇の事を尋ねてみた。

「レドはどうするの?ご家族が揃うんでしょ?」

僕の質問に考えながら顔を上げたレドは、まっすぐ僕の顔を見て、

「いや…そうだな。今日親には許可もらってくるからそれで俺も同行させてもらえないか?」

「え?……えぇ!!!」

思いもしなかった事を言ってきたレドの言葉に、僕は大声を上げてしまった。どうしたんだろう?レドの家は家族仲がよいと有名な家なのに、毎年王宮の年越しの舞踊会では話題を独占するようなそんな家なのに…
グレードはミヤノマエ家の末っ子だし、まだ夜会に出られない年齢だけど…年越しの時期にいいのかな?ひとまず帰ったらお爺様にお伝えしよう。

王都の邸に帰ると急いでお爺様にグレードの事を伝えた。するとなんともあっさり受け入れてくれた。

「そうか、そうか。ミハイルは本当に仲の良い友達が出来て、わしは嬉しいぞ。こちらからもミヤノマエ家に伝令を送ろう。明日の出発の時間もあるしな」

あまりにも嬉しそうなお爺様の言葉に違和感を覚えはしたものの、横でお婆様も僕が旅行を一緒に行くほどの仲のいい友人が出来たことを、目に涙をたまえて喜んでくれているので、僕は笑顔のまま口をつぐんだ。

***

翌日旅に出る時間よりもずいぶん早くミヤノマエ家の馬車が我が家にやって来た。中から飛び出してきたのはレド。その後ろからゆっくり馬車を下りてきたのはお兄さんのニコライさん―――。小さなリュックを一つレドに渡している。そのバッグを受け取ると、レドは僕に大きく手を振り、

「おはよぉ――イル!今日からしばらくよろしくな!!」

そう言ったレドの頭にげんこつを落とすニコライさん。

「お前は、自由過ぎる。ホントに不安しかないんだがな…」

弟の自由さに頭を手で覆いながら嘆いている。そんな二人の掛け合いを僕たちはクスクス笑いながら見てしまった。そんな二人に最初に声を掛けたのはお爺様。

「ハハハ、元気が良いのー」

お爺様の言葉にニコライさんは頭を下げ

「おはようございます。ストーティオン伯爵様、朝から愚弟が騒がしくして大変申し訳ありません。本当にご旅行に同行させていただいても良いのでしょうか?」

「構いませんよ。しがない伯爵家の小旅行です。若い子には退屈かもしれませんがのぉハッハハハハハ」

「騒がしい愚弟ですが、イル君と一緒のランクD冒険者です。旅行中は冒険者として扱ってください。グレードも護衛の依頼と思ってしっかり護衛の方たちと一緒に伯爵様達を守るようにな」

お爺様と挨拶と、レドに注意事項を言い聞かせているニコライさんは本当に弟が心配な様子で、レドはそれをうんざり気味に聞きながら反論している。

「分かってるよ。ニコライ兄さんも忙しいのは分かるけど、徹夜はほどほどにして寝ろよ」

弟の自分を思いやる反論に苦笑いを浮かべ、レドの頭を優しく撫でながら返事をする。

「あぁ、心配させないようにちょくちょく家には帰るようにするよ」

「おぅ。俺も頑張る」

頭を撫でられることに恥ずかしいのか、少し赤くなった顔を明後日の方向に向けているレドの様子にクスクス笑うニコライさん。そんなニコライさんが僕の方にも顔を向け、

「イル君、騒がしい弟をよろしく頼むよ。君たちにとってこの旅行が実りあるものとなるように願っている。頑張りなさい」

優しい笑顔を浮かべたニコライさんは、そう言って馬車に乗り込み、朝の王都の通りを走り去っていった。

「ニコライ兄さん、ルクレチア殿下の側近だからさ、いろんな奴が取り入ろうとしたり、脅迫状が来たりしているんだ。
俺、まだ弱いからな。そういうのに巻き込まれないよう、王都を出た方がいいって話があって――急に悪かったな」

昇りたての朝日に目を細め、レドは遠くを見つめるように語った。
勝気な彼の、いつもと違うその横顔に僕は少しだけ肩をすくめ、同じように朝日に顔を向ける。

「全然。僕、友達との旅行、すごくワクワクしてるんだ。レドと一緒だったら、きっといい旅になると思う」

拳を突き出すと、レドも笑って拳を合わせた。

「おう! 俺もそう思ってる!」

ふたりで笑い合うその瞬間、冷たい朝の風も少しだけ温かく感じた。

――“トーさんやカナメに褒めてもらいたい”。

そんな僕のわがままから始まったこの旅行が、
やがて僕たちの未来を大きく変えることになるなんて、
その時の僕たちはまだ知らなかった。

胸の高鳴りを抱えたまま、僕たちは笑い合いながら食堂へ向かった。
旅立ちの朝の光は、眩しいほどに優しかった。
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