安全第一異世界生活

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番外編・それぞれの日々

212話 番外編 異世界の嫌がらせと不審な気配(紬木視点)

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白亜の城の一角。
赤い絨毯が隙間なく敷かれたこの廊下は、豪奢な城の雰囲気によく似合っている――が、そのせいで足音が吸い込まれ、誰もいないように静まり返っている。
私は裾を乱さぬよう気をつけながら、しかし下品に見えない程度に速足で、ウィル様のもとへ急いでいた。
……ずっと、後ろに気配がある。
足音はしない。姿も見えない。けれど、確かに“何か”が――。
息を整え、廊下を曲がる。ようやくウィル様の執務室前にたどり着き、扉の前に立つ護衛がこちらに気づいた。

「妃殿下、お一人でどうされましたか?」

鎧を着た騎士が怪訝そうに声をかけてくる。その視線が私の背後に向けられたのを見て、思わず振り返った。
……何もいない。
それでも、あの気配だけはまだ、そこに残っている気がした。
私は小さく息を吐き、ウィル様への取次ぎをお願いした。

すぐに部屋に入れてもらえた私は、ウィル様に両手を広げて抱きしめられた。部屋には、ウィル様付きの側近と護衛、メイドが居て、皆の視線が私達に集まった。

そして感じていた背後の気配はそのまま―――

ウィル様が王座を継いでまだ2カ月。私を唯一の妃だと宣言し、私の様な黒髪の者達を虐げることは王の意にそわないとはっきり宣言をした。そのおかげか城内にいる時はあからさまな嫌がらせなどはされなくなったけれど、やはりすぐに皆の意思が変わることは無く、小さな嫌がらせは続いている。現に私と日常的に側に居るはずの侍女は、異世界人だからとか、黒髪がとかいろいろ言われて、いまだ決まっていない―――。

「お忙しいときに申し訳ありませんウィル様」

「構わないよ。愛しの君がせっかく会いに来てくれたんだもの、私の顔を見に来てくれたのかい?」

「朝早く朝食も取らずに執務に呼ばれて行かれたので、少しでも何か食べていただきたくて、サンドイッチを作ってきたのです」

ウィル様に持っていた小さなバスケットを渡すと、受け取ったウィル様は嬉しそうに笑って私の額に口づけた。

「僕の事を気にかけてくれてありがとう。優しい伴侶に恵まれて僕は幸せだな」

そう言って私にウィンクするウィル様。その幸せそうな笑顔に顔に熱がこもるのが分かる。そんな顔反則ですよ―――。。
そんな私に視線が突き刺さった。この類の視線はあれだ、この世界に来てから受けてきた悪意の視線―――。
私は顔を上げウィル様と視線を合わせ「お茶を入れていただきましょう」と微笑んで声を掛けた。

ウィル様は嬉しそうにバスケットを抱え、室内を見回してメイドに「お茶の用意をお願い」そう言って部屋の中央に置かれているソファに座りその横をポンポンと叩いた。

「食べ終わるまでそばに居てくれるだろ?」

そう甘えたようにおっしゃるウィル様に私が抗えるはずもなく―――
そっと隣に腰を下ろした―――瞬間、先ほどと同じ悪意のある視線が注がれた。
あぁ、ウィル様のお仕事の部屋にさえ私を忌み嫌う方が居る事にやるせない気持ちに目線を下げ、小さなため息を吐いた。
そんな姿の私をウィル様が見ていることも気づかずに―――。

少しして私とウィル様の前に紅茶が置かれ、湯気とともにふわりと広がる、やわらかな茶葉の香り。紅茶を置いたメイドは一礼するとすぐに定位置の壁際に控えるように戻った。

私は視線をメイドに向ける。あぁ…青い髪のメイドさん―――。
どこかの貴族のご令嬢で大変見目麗しい方ですけれど、お茶の入れ方はあまりお上手では無いようで、以前出されたものは飲めないくらいとても渋いお茶でした―――少しして、他の方も同じような事があってようやくあれが嫌がらせだと気づいたのですが。ミホが居たら呑気だ!警戒心が足りない!と心配されるでしょうね。
あの方も、他の方もですが、皆さんウィル様に気づかれる事無く、さらっとウィル様の目の前で嫌がらせするのが、豪胆ですよね。まぁ日本に居た時もそういう事は、チラホラありましたけれど―――
そんな事を思いながら紅茶に手を伸ばした瞬間、私の目の前のカップを大きな手がサッと取り上げカップに口をつけて固まった。

「ウィル様?それは、その…私のカップ」

ウィル様はニコリと微笑み、そのままコクリと一口飲んでから、ことりとカップを置いた。口を手で押さえ、眉間に深い皺を刻んだウィル様は、自分の側近と護衛にメイドを取り押さえさせた。部屋の外の護衛騎士にすぐさま鑑定師を呼ぶように指示した。鑑定士が来るまで、ウィル様はずっとメイドに視線を向け、厳しい表情をしていた。
青髪のメイドは美しい顔を恐怖にひずませ、出来心だったと騒いでいる―――
バタバタと鑑定師が部屋に到着し、すぐさまお茶の鑑定をした結果、
お茶の中には凄く、スゴ――――ク渋い成分のある草が入れられていた。

絶句。

あの渋さは草だったのか!!

「ほんと自分の育った国だけど―――こういう陰湿さ、本当に嫌になるよね。
このメイドの家の当主を今すぐ城に呼べ。メイドは地下牢に入れろ」

かなり怒り心頭といったオーラを放ちながら、きびきびと指示をしていくウィル様。
私は目の前で起きていく事柄をボーっと眺めながら思った

―――すごく渋い成分の草―――草…草かぁ――
そうか―――陰湿?陰湿と言えば陰湿だけどなんかね―――
こっちだとそう言う嫌がらせなんだ―――
そう思うとおかしくなって、クスクスと笑いが込み上げてきた。突然笑い出した私に、ウィル様はびっくりしながら聞いてきた。

「どうした?」

「いえ――フフフ、こちらの方はやる事がお可愛らしいですね」

私の言葉に目を大きく見開いて驚いたウィル様―――そのお顔可愛らしい。そんなお顔の眉間に皺が寄って、途端に瞳には怒りの炎がくすぶっているような、そんな様相で私に言った。

「あんな糞渋いものを僕の愛しの妻に飲ませようとしていることが可愛らしいなんてなんでそうなるんだ!!」

くすぶった怒りを放ったその言葉は私を大切に思っているから出た言葉で、その言葉がとても嬉しくそして愛おしかった。

「いえ、ほらただの渋い草なんですよね。可愛らしいじゃないですか。ただの嫌がらせなんですよ―――前回あの方のお茶を飲んだ時渋くて渋くて」

「前回もこんな事をしていたのか!」

ウィル様は私の言葉にメイドに怒鳴りつけ、メイドは小さく「ヒッ」と悲鳴を上げた。その恐怖に歪む彼女への言葉は無情なものとなった。

「私―――そのメイドなのにお茶の入れ方が本当に下手な方なんだなって思っていたんです」

なぜか先ほどまで張り詰めていた怒りの気配が霧散するように皆さんが口々に

「下手…」

「下手――」

「下手か―――」

あまりにも下手下手と連呼するのでついつい声を出して笑ってしまいました。ご本人まで「下手…」と顔面蒼白なまま声を漏らした。

「フフフフ私実家が茶園の経営もしておりましたので、少しお茶にはうるさいんです。日頃入れ慣れていない者にお茶をお願いすると彼女の様なお茶になったののを思い出して、修行しなおした方が良いと思っていたのです」

私の言葉に周りの方々も、ウィル様もくすっと笑いを漏らした。その時だったそれまで室内に存在し続けていた実態のない気配が膨れ上がりキラキラと目に見えた存在に変わった。

『君に決めた!!』

小さな子供の様な高い声でまるで世界で人気を博した某アニメの主人公の様なセリフを発し、私の目の前に現れたのは、小さな羽の生えた、おとぎ話で聞く妖精の様な愛らしい姿の少年だった。

『これからよろしくね異世界からの渡り人』

私だけではなく、部屋に居たすべての人間たちが固まった。

―――魔法がある世界だから、どんなことが起きてもおかしくはない。
そう思っていたけれど、まさか「物語が終わった」と信じていた自分の前に、
新たな登場人物が現れるなんて――。

シンデレラでいえば、「王子様と幸せに暮らしましたとさ」その“あと”の物語。
目の前の妖精との出会いが、何かの始まりを告げる前触れのように思えてならない。

……同じ異世界人として、彼女に聞いてみたい。
この妖精さん――いったい、どうしたらいいのでしょうか?
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