婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第307話 イナリVSトリスタン王子

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「ふはははっ! またお前か! 昨日、見逃してやったと言うのに愚かだな!」
「ふっ。魔王の力を得たという以上、放ってはおけぬ」
「魔王の力を使いこなせるようになった俺様に、挑もうとする事が如何に無謀か教えてやろうではないか」

 イナリが凄い速さで動き、トリスタン王子に向かって行った。
 だけど、トリスタン王子もイナリと同じくらいの速さで動いている!?
 二人の動きを目で追うのが精一杯で、私たちだけでなく、教会の大部屋に居た各国の精鋭さんたちも動きを止めた。

「あの銀髪の男は何者なのだ!? 魔王と同等の速度で渡り合うなんて」
「いや、それより魔王の速度……あんな速さで動けたのか。あんなのに、どうやって勝てというんだ」
「今までは高笑いを上げながら、雷を撃ってきただけだったが、あの速さで動かれたら……正直、お手上げだ」

 おそらく、各国を代表して来ている凄い人達なのだろうけど、その人たちが絶望する程の戦いなんだ。
 普段からイナリが凄い速さで魔物を倒しているから慣れてしまっていたけど、やっぱり人の域を越えた戦いなのかもしれない。
 そう思ったところで、トリスタン王子が距離を取って動きを止める。

「くらえっ!」
「くっ……」
「ふはははっ! 多少、動きが速かろうと、雷を越える事は出来まい!」

 トリスタン王子がかざした手から黒い雷が放たれ、イナリが貫かれる。
 慌てて駆け寄り、神水を生み出したのだけど……トリスタン王子の声が響き渡った。

「アニエス! その男と共に消えろっ!」
「えっ……」

 トリスタン王子が再び手をかざし、視界に黒い何かが飛び込んでくる。
 だけど、何の痛みも衝撃も感じない?

「お姉さん! 間に合って良かった!」
「これは……ミアちゃん!? ありがとう!」

 黒い何かはミアちゃんが生み出した土の壁が防いでくれたようで、私もイナリも新たなダメージは負っていない。
 とはいえ、先程の一撃があるので、ミアちゃんが出してくれた壁の内側で、イナリに神水を飲んでもらった。

「アニエス。すまぬ」
「お礼ならミアちゃんに」
「そうだな。ありがとう」

 イナリが素直にお礼を言ったところで、ミアちゃんが照れ隠しのように口を開く。

「えっと、土の壁で雷を防ぐ事は出来るけど、イナリもバカ王子も速過ぎるよっ!」
「うむ。だが、一つわかった事がある。どうやら奴は、動きながら雷の力を放つ事は出来ないようだ」

 確かにイナリの言う通りなのかも。
 もしも動きながら雷を放って来られたら、イナリはともかく私たちは避ける事が出来ないもの。
 とはいえ、あの攻撃は速過ぎるので、動きながらじゃなくても避けられなさそうだけど。

「だけど、トリスタン王子がイナリと同じくらいの速さで動けるなんて……どうすれば良いんだろう」
「それについては、我とコリンの策がある。ただ、使う為に条件があり、かつ一度しか使えないだろう」
「じゃあ、その一度に賭けるしかないのね」

 私の言葉にイナリが頷き、再び高速でトリスタン王子と渡り合う。
 その間、コリンが弓矢を構えたまま、ジッと二人の戦いに目を向けている。
 もしかして、二人の策って、コリンが矢でトリスタン王子を射抜く事なの!?
 幾らコリンが弓の練習をしていたとはいっても、あの速さのトリスタン王子を射抜くのは無理じゃない!?
 ど、どうするつもりなのっ!?
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