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1.蒼き異才、動き出す
少年、軍と向き合う
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蒼月レイが陸軍省を訪れたのは、昭和十六年(1941年)四月二十三日。
春雨がぱらつく午後、飯田橋の官庁街に姿を現した彼は、まるで「見学の小学生」のように警備兵に怪訝な目で見られた。
「お、おい坊主、ここは立ち入り――」
「蒼月レイです。参謀本部第三課より要請を受けています」
制服姿の兵士が絶句する。
レイの目に、すでに幼さはなかった。整った顔の奥にあるのは、揺るぎない意志と沈着な光。
そのまま軍将校に付き添われ、本部庁舎の最上階――作戦戦略部の密室へと通された。
⸻
室内には、軍服姿の壮年たちがずらりと並んでいた。
中心に座るのは、参謀本部第三課課長・大佐 香取清一郎。
彼は「戦術の鬼」として知られ、若い頃は満州での斬り込み隊長として恐れられた人物だった。
「ほう……君が、噂の“蒼月少年”か」
「香取大佐ですね。今日はお招きいただき光栄です」
少年とは思えない礼儀と冷静さに、一瞬、場の空気が変わる。
香取は笑った。
「随分と落ち着いているな。だがここに呼んだのは見学のためじゃない。――君に、命令を出す」
一同が息をのむ。
「これは国家機密だ。君に与えるのは、『特別分析任務』。情報部と協力し、アメリカおよび中国の戦略構造を独自に解析し、近代戦における“日本の敗因”を理論化してほしい」
「――敗因、ですか?」
レイの目が光る。
「そうだ。我々は今、勝つための方法ではなく、負けない方法を求めている。これが、あの“満州の地獄”を生き抜いた男たちの結論だ」
机に広げられたのは、未発表の戦況地図、捕虜の尋問記録、航空機性能の未承認試験データ――
それらすべてが少年の前に置かれた。
「私の分析に、制約はありますか?」
「ない。ただし、それが我々の常識を壊すものであっても、だ」
「了解しました。では、一週間ください。分析と新提案をまとめます」
香取は驚いたように笑った。
「……本当に、十三歳なのかね、君は」
⸻
その日以降、蒼月レイは表には出ない「影の参謀」として、軍の裏側に出入りするようになる。
帝大の授業の合間を縫っては、地下の軍研究施設――通称**「影の戦略室」**に通い詰めた。
そこには、型破りな研究者たちが集められていた。
「精神論では勝てぬ」と口にして軍に睨まれた物理学者、最新鋭暗号を研究する数学者、燃料効率を追求する機関技術者……
レイは彼らに年齢ではなく「頭脳」で認められ、やがて自然と中心に立つようになる。
彼が手をつけたのは――真珠湾攻撃計画の全面的見直しだった。
「南雲長官の案では、空母部隊の消耗が早すぎる。奇襲に必要なのは“破壊”ではなく、“錯覚”です」
その提案が、のちに戦局を変える“幻の真珠湾作戦”の原型となるのだった。
だが、少年はまだ知らない。
この研究室が、彼の才能を渇望する軍部の一部と、命を狙う保守派の両方の目に映っていたことを――。
春雨がぱらつく午後、飯田橋の官庁街に姿を現した彼は、まるで「見学の小学生」のように警備兵に怪訝な目で見られた。
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一同が息をのむ。
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「ない。ただし、それが我々の常識を壊すものであっても、だ」
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