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17.世界を結ぶ手
帝国の神経網
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1942年11月12日。
東京・永田町。帝国通信省旧本庁跡地。
この日、蒼月レイは非公開の小会議を開いていた。出席者はわずか10名。
いずれも帝国内の通信、情報、行政の要職にある人物たちだった。
目的はただ一つ。
**「帝国を一つに繋ぐ“神経網”を築く」**という壮大な構想の立ち上げである。
「経済が血ならば、通信と情報は“神経”です。
いま我々が構築しようとしている帝国という“身体”において、最も欠けているのが、この“神経系”なのです」
レイは地図を広げながら語った。
そこには、日本列島から朝鮮半島、満州、台湾、さらに東南アジア各地までを貫く巨大な通信網の構想が記されていた。
地図には、既存の陸線(電信・電話線)、無線中継拠点、電波強化局の候補地、海底ケーブルの敷設予定ラインが描かれている。
「これらを5年以内に整備・接続し、各地の中央政府と主要都市、さらに地方の県庁所在地レベルまでを“瞬時に繋ぐ”」
レイは言った。
「戦争は物理の速度で動いていますが、統治と成長は情報の速度で決まります。
いま満州で起きた事故が、東京に伝わるのに1日かかるようでは、帝国とは呼べない」
通信省の技術責任者が口を開いた。
「既存の設備は、部分的には老朽化しています。特に満州と内地の通信は、朝鮮経由の海底ケーブルしか頼れません」
「なので、代替経路を二本確保します」
レイは手元の赤ペンで、新たなルートを線で結んだ。
「一つは、日本海横断の第二海底ケーブル。
もう一つは、朝鮮半島を経て、満州へ至る“無線中継基地網”の構築。
標高の高い地域に中継拠点を設置し、天候によらず情報を伝達できる体制を取ります」
議場の空気が引き締まる。
「そして、通信は“送る”だけでは意味がありません。
次は“受け取った情報をどう使うか”が問われます」
レイは、次のスライドを提示した。
《中央情報局設立構想》
各地から送られてくる気象、人口、物流、産業データを一元的に処理し、政策立案や災害対策、教育分配、医療資源の配置などに活かす中央情報機関の創設である。
「いまの政府は、情報の流れを“紙”で処理しています。
ですが、これでは人間の判断速度に限界がある。
我々は“情報の流れ”そのものを設計し、そこに意味を持たせなければならない」
とりわけ、レイが強調したのは「予測」の力だった。
「たとえば──台湾で降雨量が5年平均を下回った場合、その半年後に米の価格が上がることが多い。
満州で鉱夫の離職率が急増すれば、3ヶ月以内に暴動の危険がある。
こうした“前兆”を数値として把握し、行動につなげるのが我々の目指す情報国家です」
現場のデータは、現場でしか拾えない。
だからこそ、レイは現地の自治を支える“情報端末”の拠点設置を提案した。
—
【帝国情報・通信網の三本柱】
1. 物理接続:電信・電話・無線による主要都市間接続(5年計画)
2. 中央情報局:帝都に一極集中型の情報解析拠点を設置
3. 地域情報端末:県庁所在地ごとに“データ官”を配置し、統計・災害・行政指標を集約
—
さらにレイは、統治機構としての透明性も重視していた。
「この情報網は、我々が国民を“監視”するためにあるのではない。
むしろ、国民が“国家に期待できるようにする”ためにこそ必要なのです」
彼の理想は、“知らされない不安”を帝国内からなくすことだった。
「何が起きているのか、どう動いているのか──
それを知らせることで、人ははじめて“自らを生かす力”を持てる」
また、地域の文化的多様性にも配慮する姿勢は変わらない。
「教育においても、各地域の言語と価値観を尊重した教材を用意します。
共通語は“橋”であって、“鎖”ではありません」
つまり、帝国共通の公用文書は日本語としつつも、日常生活や教育の現場では現地語を基本とし、通信システム内でも多言語対応の設計を導入する方針だった。
午後の議論は活発を極めた。
ある者はコストの問題を挙げ、ある者は既存の組織との兼ね合いを懸念した。
しかし、最後にレイが言った一言で、全てが静まった。
「帝国を一つにするのは、恐怖ではない。言葉です。
“繋がっている”と実感したとき、人は国家と共に歩めるのです」
会議が終わったのは夜10時を過ぎていた。
その後、レイは自らが監修した新型無線通信端末の試験運用を見学するため、翌日から満州に向かうことを決めた。
──次に構築すべきは、“声の届く距離”ではなく、“想いが届く構造”。
帝国という身体に、ついに神経が通いはじめようとしていた。
東京・永田町。帝国通信省旧本庁跡地。
この日、蒼月レイは非公開の小会議を開いていた。出席者はわずか10名。
いずれも帝国内の通信、情報、行政の要職にある人物たちだった。
目的はただ一つ。
**「帝国を一つに繋ぐ“神経網”を築く」**という壮大な構想の立ち上げである。
「経済が血ならば、通信と情報は“神経”です。
いま我々が構築しようとしている帝国という“身体”において、最も欠けているのが、この“神経系”なのです」
レイは地図を広げながら語った。
そこには、日本列島から朝鮮半島、満州、台湾、さらに東南アジア各地までを貫く巨大な通信網の構想が記されていた。
地図には、既存の陸線(電信・電話線)、無線中継拠点、電波強化局の候補地、海底ケーブルの敷設予定ラインが描かれている。
「これらを5年以内に整備・接続し、各地の中央政府と主要都市、さらに地方の県庁所在地レベルまでを“瞬時に繋ぐ”」
レイは言った。
「戦争は物理の速度で動いていますが、統治と成長は情報の速度で決まります。
いま満州で起きた事故が、東京に伝わるのに1日かかるようでは、帝国とは呼べない」
通信省の技術責任者が口を開いた。
「既存の設備は、部分的には老朽化しています。特に満州と内地の通信は、朝鮮経由の海底ケーブルしか頼れません」
「なので、代替経路を二本確保します」
レイは手元の赤ペンで、新たなルートを線で結んだ。
「一つは、日本海横断の第二海底ケーブル。
もう一つは、朝鮮半島を経て、満州へ至る“無線中継基地網”の構築。
標高の高い地域に中継拠点を設置し、天候によらず情報を伝達できる体制を取ります」
議場の空気が引き締まる。
「そして、通信は“送る”だけでは意味がありません。
次は“受け取った情報をどう使うか”が問われます」
レイは、次のスライドを提示した。
《中央情報局設立構想》
各地から送られてくる気象、人口、物流、産業データを一元的に処理し、政策立案や災害対策、教育分配、医療資源の配置などに活かす中央情報機関の創設である。
「いまの政府は、情報の流れを“紙”で処理しています。
ですが、これでは人間の判断速度に限界がある。
我々は“情報の流れ”そのものを設計し、そこに意味を持たせなければならない」
とりわけ、レイが強調したのは「予測」の力だった。
「たとえば──台湾で降雨量が5年平均を下回った場合、その半年後に米の価格が上がることが多い。
満州で鉱夫の離職率が急増すれば、3ヶ月以内に暴動の危険がある。
こうした“前兆”を数値として把握し、行動につなげるのが我々の目指す情報国家です」
現場のデータは、現場でしか拾えない。
だからこそ、レイは現地の自治を支える“情報端末”の拠点設置を提案した。
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【帝国情報・通信網の三本柱】
1. 物理接続:電信・電話・無線による主要都市間接続(5年計画)
2. 中央情報局:帝都に一極集中型の情報解析拠点を設置
3. 地域情報端末:県庁所在地ごとに“データ官”を配置し、統計・災害・行政指標を集約
—
さらにレイは、統治機構としての透明性も重視していた。
「この情報網は、我々が国民を“監視”するためにあるのではない。
むしろ、国民が“国家に期待できるようにする”ためにこそ必要なのです」
彼の理想は、“知らされない不安”を帝国内からなくすことだった。
「何が起きているのか、どう動いているのか──
それを知らせることで、人ははじめて“自らを生かす力”を持てる」
また、地域の文化的多様性にも配慮する姿勢は変わらない。
「教育においても、各地域の言語と価値観を尊重した教材を用意します。
共通語は“橋”であって、“鎖”ではありません」
つまり、帝国共通の公用文書は日本語としつつも、日常生活や教育の現場では現地語を基本とし、通信システム内でも多言語対応の設計を導入する方針だった。
午後の議論は活発を極めた。
ある者はコストの問題を挙げ、ある者は既存の組織との兼ね合いを懸念した。
しかし、最後にレイが言った一言で、全てが静まった。
「帝国を一つにするのは、恐怖ではない。言葉です。
“繋がっている”と実感したとき、人は国家と共に歩めるのです」
会議が終わったのは夜10時を過ぎていた。
その後、レイは自らが監修した新型無線通信端末の試験運用を見学するため、翌日から満州に向かうことを決めた。
──次に構築すべきは、“声の届く距離”ではなく、“想いが届く構造”。
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