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第3章
締め切り確認
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思わず強張ってしまった私を不審そうに見つめながら、先輩は退出しました。
無情にも私の前で閉められたドアを眺めながら深呼吸をして、殿下に向き直りました。
殿下は私を通り越して、ドアに強い眼差し向けていました。
「思わぬところから伏兵が現れたものだ」
艶やかな金の髪をかき上げ、首を軽く振り、私に視線を合わせます。
その顔に先ほどまでの激しい感情は、全く見えません。気持ちを切り替えられたのでしょう。いえ、抑え込んだだけなのかもしれません。
それでも、私は言わずにはいられませんでした。
「ダニエル先輩は信頼できる方です。真っ直ぐな方なのです」
殿下は軽く眉を寄せ苦笑いをなさいました。
「そういう意味で言ったのではないのだが…。」
表情を緩めて続けられます。
「誤解させたようだが、試合での無謀な術に腹立たしさは覚えるが、
彼を疎む気持ちなどない。
むしろ今日の体面で、私にはないものを持っている彼のことは頼もしく思ったぐらいだ」
先輩が認められたのを知り、思わず私の顔は緩んでしまいました。
そうです、先輩は頼りになる方なのです。
殿下はそんな私を見て、「手ごわい伏兵だな」と呟やかれました。
そしてゆったりとした歩みで机に向かい、椅子に腰かけられました。
「さて、シルヴィア、そろそろ僕と君のことについて話をしよう」
こちらに向けられた双眸に強いものはないにもかかわらず、私は目を逸らすことも話題を逸らすことも許されない心地がしました。
「その様子だと、昨夜のことをちゃんと覚えているようだね」
「忘れていたら、なかったことにして下さるのですか」
先輩に煽られたのでしょうか、思ったことが口からこぼれ出ていました。
見慣れた華やかな笑顔が返されます。
「あり得ないね」
殿下は机に肘をつき組んだ手の上に顎を乗せました。
「人生にとっての、国家にとっての大事なことだからね、しっかりと確認しておこう」
「半年後に、私の成人の披露目の会がある。
君がセディを落とせなかった場合、その場で婚約を発表する予定だ」
自分の血の気が引いていくのを感じました。
披露目の会は、諸外国の要人を招く、外交上、極めて重要なものになる予定です。
そんな場所で発表されれば、根回しがされていなくても最早取り消すことのできない状況になります。
「あまりにも一方的ではないですか。私の意思は何も考慮されていないではないですか」
情けないことに声だけでなく口までも微かに震えていました。
殿下は目を伏せた後、私の目の前に立たれました。
魔力が立ち上っています。瞬間移動です。
殿下の魔力の使い方がここまで上手くなっていることに、驚きを覚えました。
私の唇の震えを止めるように、指を置かれます。
「これでも妥協していることに気づいてもらいたい。
君がセディを落とせさえすれば、君の意思は尊重されるのだから」
確固たる意志を持った声と濃い青の瞳が、私を貫きます。
その眼差しは、これ以上の妥協は一切ないことを私に伝えてきます。
部屋の空気は緊張と静寂に満ちています。
「『落とす』とは、どういうことで認めてもらえるのですか」
置かれたままの指に抗って、私は問い質しました。
私は自分の負けを認めました。
声の震えは収まっていましたが、不覚にも目に熱いものがこみ上げてきました。
瞬いてせめて零れるのを止めようとしている私を、殿下は苦しそうな顔で見つめます。
頭を抱き寄せられていました。
離れようとする私の頭を、大きく温かい手が抱え込んで離れることを許しません。
とうとう涙が零れてしまいました。
殿下の手が私の頭をあやすように撫でています。
ここまで追い詰めた本人に慰められることに皮肉を覚えます。
聞こえるか聞こえないかの小さな囁きが降ってきました。
「覚悟はしていたが、やはり君の涙は……」
ご自分の意思を明確に述べることを心掛ける殿下にしては珍しく言い淀んで、その後は続きませんでした。
しばらく頭を撫で続けた殿下は、私が落ち着いたのを見計らって、言葉を紡がれました。
「セディの腕輪が光らなくなった上でセディが君を受け入れれば、君が見事『落とした』と認めよう」
息を呑んだ私をそっと離しながら、殿下はあの極上の笑みを浮かべました。
思わず一歩引いてしまった私に、艶やかな声が投げかけられました。
「半年後が楽しみだよ、私の天使」
私は礼儀も忘れて即座に身を翻し、退出しました。
ドアの外には、騎士だけでなく先輩も立っていました。
私も驚きましたが、先輩も目を見開いています。
自分がどんな顔をしていたのか、今の私は知りたくはありません。
先輩に追及されたくなくて、私は疑問を投げかけました。
「どうして待っていて下さったのですか」
なんということでしょう、私の声はとても固いものでした。これでは、八つ当たりです。
私は深く息を吸い込みました。
「お前を一人にしないよう、守護師から言われている」
先輩はいつもの声で答えて下さいます。
シャーリーの言っていた「実質的な」護衛の方は先輩だったのでしょうか。先輩が付いていて下さるなら、確かに安心です。過保護なくらいです。
先輩と二人で殿下の棟を出たところ、外の明るい日差しが私にいつもの生活を思い出させてくれました。ようやく体も解れていきます。
「少し落ち着いたようだな」
先輩が目を細めて私を見ていました。やはりよく見て下さっています。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
私はいつもの声で答えることが出来ました。
大丈夫です。覚悟は決まりました。
目的はいただけないものがありますが、結果は私にも異存はありません。
セディの腕輪が光らなくなるように、思いつく限りのことをしてみせます。
期限は半年です。
セディを見事『落として』みせます。
殿下、今日は負けましたが、半年後、勝つのは私です。
無情にも私の前で閉められたドアを眺めながら深呼吸をして、殿下に向き直りました。
殿下は私を通り越して、ドアに強い眼差し向けていました。
「思わぬところから伏兵が現れたものだ」
艶やかな金の髪をかき上げ、首を軽く振り、私に視線を合わせます。
その顔に先ほどまでの激しい感情は、全く見えません。気持ちを切り替えられたのでしょう。いえ、抑え込んだだけなのかもしれません。
それでも、私は言わずにはいられませんでした。
「ダニエル先輩は信頼できる方です。真っ直ぐな方なのです」
殿下は軽く眉を寄せ苦笑いをなさいました。
「そういう意味で言ったのではないのだが…。」
表情を緩めて続けられます。
「誤解させたようだが、試合での無謀な術に腹立たしさは覚えるが、
彼を疎む気持ちなどない。
むしろ今日の体面で、私にはないものを持っている彼のことは頼もしく思ったぐらいだ」
先輩が認められたのを知り、思わず私の顔は緩んでしまいました。
そうです、先輩は頼りになる方なのです。
殿下はそんな私を見て、「手ごわい伏兵だな」と呟やかれました。
そしてゆったりとした歩みで机に向かい、椅子に腰かけられました。
「さて、シルヴィア、そろそろ僕と君のことについて話をしよう」
こちらに向けられた双眸に強いものはないにもかかわらず、私は目を逸らすことも話題を逸らすことも許されない心地がしました。
「その様子だと、昨夜のことをちゃんと覚えているようだね」
「忘れていたら、なかったことにして下さるのですか」
先輩に煽られたのでしょうか、思ったことが口からこぼれ出ていました。
見慣れた華やかな笑顔が返されます。
「あり得ないね」
殿下は机に肘をつき組んだ手の上に顎を乗せました。
「人生にとっての、国家にとっての大事なことだからね、しっかりと確認しておこう」
「半年後に、私の成人の披露目の会がある。
君がセディを落とせなかった場合、その場で婚約を発表する予定だ」
自分の血の気が引いていくのを感じました。
披露目の会は、諸外国の要人を招く、外交上、極めて重要なものになる予定です。
そんな場所で発表されれば、根回しがされていなくても最早取り消すことのできない状況になります。
「あまりにも一方的ではないですか。私の意思は何も考慮されていないではないですか」
情けないことに声だけでなく口までも微かに震えていました。
殿下は目を伏せた後、私の目の前に立たれました。
魔力が立ち上っています。瞬間移動です。
殿下の魔力の使い方がここまで上手くなっていることに、驚きを覚えました。
私の唇の震えを止めるように、指を置かれます。
「これでも妥協していることに気づいてもらいたい。
君がセディを落とせさえすれば、君の意思は尊重されるのだから」
確固たる意志を持った声と濃い青の瞳が、私を貫きます。
その眼差しは、これ以上の妥協は一切ないことを私に伝えてきます。
部屋の空気は緊張と静寂に満ちています。
「『落とす』とは、どういうことで認めてもらえるのですか」
置かれたままの指に抗って、私は問い質しました。
私は自分の負けを認めました。
声の震えは収まっていましたが、不覚にも目に熱いものがこみ上げてきました。
瞬いてせめて零れるのを止めようとしている私を、殿下は苦しそうな顔で見つめます。
頭を抱き寄せられていました。
離れようとする私の頭を、大きく温かい手が抱え込んで離れることを許しません。
とうとう涙が零れてしまいました。
殿下の手が私の頭をあやすように撫でています。
ここまで追い詰めた本人に慰められることに皮肉を覚えます。
聞こえるか聞こえないかの小さな囁きが降ってきました。
「覚悟はしていたが、やはり君の涙は……」
ご自分の意思を明確に述べることを心掛ける殿下にしては珍しく言い淀んで、その後は続きませんでした。
しばらく頭を撫で続けた殿下は、私が落ち着いたのを見計らって、言葉を紡がれました。
「セディの腕輪が光らなくなった上でセディが君を受け入れれば、君が見事『落とした』と認めよう」
息を呑んだ私をそっと離しながら、殿下はあの極上の笑みを浮かべました。
思わず一歩引いてしまった私に、艶やかな声が投げかけられました。
「半年後が楽しみだよ、私の天使」
私は礼儀も忘れて即座に身を翻し、退出しました。
ドアの外には、騎士だけでなく先輩も立っていました。
私も驚きましたが、先輩も目を見開いています。
自分がどんな顔をしていたのか、今の私は知りたくはありません。
先輩に追及されたくなくて、私は疑問を投げかけました。
「どうして待っていて下さったのですか」
なんということでしょう、私の声はとても固いものでした。これでは、八つ当たりです。
私は深く息を吸い込みました。
「お前を一人にしないよう、守護師から言われている」
先輩はいつもの声で答えて下さいます。
シャーリーの言っていた「実質的な」護衛の方は先輩だったのでしょうか。先輩が付いていて下さるなら、確かに安心です。過保護なくらいです。
先輩と二人で殿下の棟を出たところ、外の明るい日差しが私にいつもの生活を思い出させてくれました。ようやく体も解れていきます。
「少し落ち着いたようだな」
先輩が目を細めて私を見ていました。やはりよく見て下さっています。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
私はいつもの声で答えることが出来ました。
大丈夫です。覚悟は決まりました。
目的はいただけないものがありますが、結果は私にも異存はありません。
セディの腕輪が光らなくなるように、思いつく限りのことをしてみせます。
期限は半年です。
セディを見事『落として』みせます。
殿下、今日は負けましたが、半年後、勝つのは私です。
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