ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼

文字の大きさ
15 / 16
10.彼女に夢中

015

しおりを挟む
(side 冬馬)


 輝と初めて会ったのは入社式の日。紺色のスーツに白いブラウスの輝は初々しくて、どこにでもいる普通の女の子に見えた。俺はずっとギャル系とか意識高い系の女の子とばかり遊んでいたから新鮮に思えた。
 だけどずっと見ていると、背筋がしゃんと伸びて、立ち振る舞いも凛としていて、初々しさとかけ離れた表情を見せはじめた。すごくきれいな子だなと思った。「大学はどこ?」たしかこれが最初の会話だったと思う。「自己紹介で言ったよ」と輝は淡々と答えた。
 こう言っちゃなんだけど、俺は女の子にはモテるほうだし、たいていの女の子は俺が話しかけるとニコニコとうれしそうにする。だから輝の不躾な態度にイラッとしたし、こんな女とは一生友達になれないとこのときは思った。
 実際、輝は新入社員のなかで浮いていた。といっても輝が優秀すぎてまわりが引いていたといったほうがいいんだけど。その気配を感じてか、輝は積極的に人と打ち解けようとしなかった。関連会社を含めるとかなりの大人数なので、浮いてしまう人間がひとりやふたりいてもおかしくないが、そんな姿を毎日見ていたら逆にすごく気になってしまった。

 よし! こうなったら手なずけてやる!

 それからの俺は輝の気を引くために必死だった。同期の連中を巻き込んで飲み会を企画し、輝を誘った。一度ふたりきりで誘ったらあっさり断られたからだ。
 なんで俺はこんなにムキになってんだ? そのときはわからなかった。
 それから輝はだんだんと俺に懐いてきた。最初はおとなしい子だと思っていたら、そうでもなくて、けっこうよく笑う。そしてやさしい。
 俺が酔っぱらって、言うつもりがなかった過去の恋愛を愚痴まじりで吐き出してしまったら、真剣な目でこう言ってくれた。「その女の子も藤城くんを傷つけたことに胸を痛めていたのかな。だから藤城くんはいまも忘れられずにいるんだね」と。
 なんでわかるんだろう。沙耶ははたから見たら最低な女の子だと思うけど、俺から見たらとてもか弱くて、すぐ傷ついてしまうような繊細な女の子。セフレの関係だったときも沙耶は苦しんでいた。それは元彼に対しての想いだとずっと思っていた。
 でも違った。それは俺に対してだった。「冬馬先輩を縛りつけてしまってごめんなさい」と泣きながら謝ってくれた。沙耶は俺への罪悪感を抱えたまま、迎えにきたあいつのところに戻った。

 一方、輝は沙耶とはぜんぜん違って、意志が強くて、びっくりするくらい要領もよくて、ひとりでもたくましく生きていけそうな子。でも、まじめすぎるところがあって、損な役まわりも少なくなかった。時間外の雑用なんかもしょっちゅう押しつけられていたっけ。だけど文句ひとつ言わず、たいていのことはよしとして受け入れてこなしているのを見ていたら、その根性を俺も見習わなきゃとか思っちゃって。同期だけど尊敬する面も多かった。

「入社式か。けっこう前からなんだな」
「なんの話?」

 再びまどろみはじめていた輝がもう一度目を開けて俺を見た。

「いつから輝を気になり出したんだろうって考えてた」
「入社式? わたし、冬馬くんのこと、ぜんぜん印象に残ってないんだけど」

 輝は豪快に笑う。
 こいつ、ムカつく! 俺だけ輝に夢中みたいじゃん。
 これ以上笑えないように、乱暴にキスをしてやった。男の威厳というものを見せてやる、みたいな?
 でも輝の口からもれてくる甘い声にのまれていくのは俺のほう。だんだんと本気のキスになって、俺は輝の虜なんだと改めて思い知らされる。

「好きだよ。俺、本気だから」

 声に出したくて伝えた俺の気持ち。

「わかってる」

 輝は甘ったるい声とキスで返してくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

元恋人と、今日から同僚です

紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。 仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。 「今日から、この部署に配属になった」 そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。 かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。 仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。 恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。 仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。 元恋人と同僚になった二人。 仕事から始まる新しい恋の物語。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

【完結】刺客の私が、生き別れた姉姫の替え玉として王宮に入る

nanahi
恋愛
『王太子の側室である姉姫が側近の子をみごもった。このことが知れたら一族は破滅だ。苦肉の策として、双子の妹である私が替え玉として王宮に送られることになる。幼い頃、家族と生き別れ、刺客として育てられた私だが、大切な姉姫のためにも、王太子にさとられないよう側室として振る舞うのだ』 だが、妹の思惑とは裏腹に、王太子と王太子の命を狙う凄腕の刺客をまじえた、奇妙な三角関係が始まる── 初めて書いた短編連載です。読んでくださった皆様ありがとうございました。

処理中です...