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10.彼女に夢中
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(side 冬馬)
輝と初めて会ったのは入社式の日。紺色のスーツに白いブラウスの輝は初々しくて、どこにでもいる普通の女の子に見えた。俺はずっとギャル系とか意識高い系の女の子とばかり遊んでいたから新鮮に思えた。
だけどずっと見ていると、背筋がしゃんと伸びて、立ち振る舞いも凛としていて、初々しさとかけ離れた表情を見せはじめた。すごくきれいな子だなと思った。「大学はどこ?」たしかこれが最初の会話だったと思う。「自己紹介で言ったよ」と輝は淡々と答えた。
こう言っちゃなんだけど、俺は女の子にはモテるほうだし、たいていの女の子は俺が話しかけるとニコニコとうれしそうにする。だから輝の不躾な態度にイラッとしたし、こんな女とは一生友達になれないとこのときは思った。
実際、輝は新入社員のなかで浮いていた。といっても輝が優秀すぎてまわりが引いていたといったほうがいいんだけど。その気配を感じてか、輝は積極的に人と打ち解けようとしなかった。関連会社を含めるとかなりの大人数なので、浮いてしまう人間がひとりやふたりいてもおかしくないが、そんな姿を毎日見ていたら逆にすごく気になってしまった。
よし! こうなったら手なずけてやる!
それからの俺は輝の気を引くために必死だった。同期の連中を巻き込んで飲み会を企画し、輝を誘った。一度ふたりきりで誘ったらあっさり断られたからだ。
なんで俺はこんなにムキになってんだ? そのときはわからなかった。
それから輝はだんだんと俺に懐いてきた。最初はおとなしい子だと思っていたら、そうでもなくて、けっこうよく笑う。そしてやさしい。
俺が酔っぱらって、言うつもりがなかった過去の恋愛を愚痴まじりで吐き出してしまったら、真剣な目でこう言ってくれた。「その女の子も藤城くんを傷つけたことに胸を痛めていたのかな。だから藤城くんはいまも忘れられずにいるんだね」と。
なんでわかるんだろう。沙耶ははたから見たら最低な女の子だと思うけど、俺から見たらとてもか弱くて、すぐ傷ついてしまうような繊細な女の子。セフレの関係だったときも沙耶は苦しんでいた。それは元彼に対しての想いだとずっと思っていた。
でも違った。それは俺に対してだった。「冬馬先輩を縛りつけてしまってごめんなさい」と泣きながら謝ってくれた。沙耶は俺への罪悪感を抱えたまま、迎えにきたあいつのところに戻った。
一方、輝は沙耶とはぜんぜん違って、意志が強くて、びっくりするくらい要領もよくて、ひとりでもたくましく生きていけそうな子。でも、まじめすぎるところがあって、損な役まわりも少なくなかった。時間外の雑用なんかもしょっちゅう押しつけられていたっけ。だけど文句ひとつ言わず、たいていのことはよしとして受け入れてこなしているのを見ていたら、その根性を俺も見習わなきゃとか思っちゃって。同期だけど尊敬する面も多かった。
「入社式か。けっこう前からなんだな」
「なんの話?」
再びまどろみはじめていた輝がもう一度目を開けて俺を見た。
「いつから輝を気になり出したんだろうって考えてた」
「入社式? わたし、冬馬くんのこと、ぜんぜん印象に残ってないんだけど」
輝は豪快に笑う。
こいつ、ムカつく! 俺だけ輝に夢中みたいじゃん。
これ以上笑えないように、乱暴にキスをしてやった。男の威厳というものを見せてやる、みたいな?
でも輝の口からもれてくる甘い声にのまれていくのは俺のほう。だんだんと本気のキスになって、俺は輝の虜なんだと改めて思い知らされる。
「好きだよ。俺、本気だから」
声に出したくて伝えた俺の気持ち。
「わかってる」
輝は甘ったるい声とキスで返してくれた。
輝と初めて会ったのは入社式の日。紺色のスーツに白いブラウスの輝は初々しくて、どこにでもいる普通の女の子に見えた。俺はずっとギャル系とか意識高い系の女の子とばかり遊んでいたから新鮮に思えた。
だけどずっと見ていると、背筋がしゃんと伸びて、立ち振る舞いも凛としていて、初々しさとかけ離れた表情を見せはじめた。すごくきれいな子だなと思った。「大学はどこ?」たしかこれが最初の会話だったと思う。「自己紹介で言ったよ」と輝は淡々と答えた。
こう言っちゃなんだけど、俺は女の子にはモテるほうだし、たいていの女の子は俺が話しかけるとニコニコとうれしそうにする。だから輝の不躾な態度にイラッとしたし、こんな女とは一生友達になれないとこのときは思った。
実際、輝は新入社員のなかで浮いていた。といっても輝が優秀すぎてまわりが引いていたといったほうがいいんだけど。その気配を感じてか、輝は積極的に人と打ち解けようとしなかった。関連会社を含めるとかなりの大人数なので、浮いてしまう人間がひとりやふたりいてもおかしくないが、そんな姿を毎日見ていたら逆にすごく気になってしまった。
よし! こうなったら手なずけてやる!
それからの俺は輝の気を引くために必死だった。同期の連中を巻き込んで飲み会を企画し、輝を誘った。一度ふたりきりで誘ったらあっさり断られたからだ。
なんで俺はこんなにムキになってんだ? そのときはわからなかった。
それから輝はだんだんと俺に懐いてきた。最初はおとなしい子だと思っていたら、そうでもなくて、けっこうよく笑う。そしてやさしい。
俺が酔っぱらって、言うつもりがなかった過去の恋愛を愚痴まじりで吐き出してしまったら、真剣な目でこう言ってくれた。「その女の子も藤城くんを傷つけたことに胸を痛めていたのかな。だから藤城くんはいまも忘れられずにいるんだね」と。
なんでわかるんだろう。沙耶ははたから見たら最低な女の子だと思うけど、俺から見たらとてもか弱くて、すぐ傷ついてしまうような繊細な女の子。セフレの関係だったときも沙耶は苦しんでいた。それは元彼に対しての想いだとずっと思っていた。
でも違った。それは俺に対してだった。「冬馬先輩を縛りつけてしまってごめんなさい」と泣きながら謝ってくれた。沙耶は俺への罪悪感を抱えたまま、迎えにきたあいつのところに戻った。
一方、輝は沙耶とはぜんぜん違って、意志が強くて、びっくりするくらい要領もよくて、ひとりでもたくましく生きていけそうな子。でも、まじめすぎるところがあって、損な役まわりも少なくなかった。時間外の雑用なんかもしょっちゅう押しつけられていたっけ。だけど文句ひとつ言わず、たいていのことはよしとして受け入れてこなしているのを見ていたら、その根性を俺も見習わなきゃとか思っちゃって。同期だけど尊敬する面も多かった。
「入社式か。けっこう前からなんだな」
「なんの話?」
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「いつから輝を気になり出したんだろうって考えてた」
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「わかってる」
輝は甘ったるい声とキスで返してくれた。
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