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11.太陽みたいな彼
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(side 輝)
翌日は土曜日。休日なので、わたしと冬馬くんは昼頃までベッドのなかでのんびりと過ごしていた。
あれから結局、明け方まで抱き合った。朝までというのは初めてではないけれど、以前と違うのは「好き」という気持ちを言葉や仕草でたくさん伝え合えたこと。身体だけでなく心までも満たされて、いまも至福の時間が続いている。ふわふわと波間を漂っているような感覚だった。
だけどそんなゆるい時間のなかで「ピンポーン」とインターフォンが鳴り、現実に引き戻された。
「誰だろう?」
わたしは急いで服を着て玄関を開ける。すると、エプロンを身に着けた若くて格好いい男の子が立っていた。
「小松崎輝さんのお宅ですね?」
「はい、そうですけど」
「『FLORAL《ふろーらる》はるな』です。藤城様からご依頼のお花のお届けに参りました」
「お花? 藤城さん?」
藤城さんって、冬馬くんから?
不思議に思いながら受け取ると、部屋に戻って冬馬くんに尋ねた。
「お花屋さんが、『藤城様から』だって言ってたんだけど。これ冬馬くんからのプレゼント?」
「花? 俺じゃないよ」
「でもお花に挟んであるカードにも『藤城』って書いてあるよ。わたし、冬馬くん以外に藤城さんっていう人、知らないんだけど」
冬馬くんじゃないとすると、いったい誰から?
「でもうれしい。このお花、すごく好きなんだあ」
「それ、ガーベラだよな?」
「ウインタータイムっていうの。お花の芯が黒くて花びらが真っ白なのが特徴なんだ」
冬馬くんは「へえ」と感心があるのかないのかわからない反応だ。
男の人はこんなもんだよね。花にはあまり興味はないものだ。
「あっ! もしかして、その花を贈ってきたの、うちのおふくろかもしれない。少し前に輝の家の住所を聞かれたから教えたんだよ」
「どういうこと?」
冬馬くんのお母さんには前に一度お会いしている。でもなんで急に花を届けてくれたんだろう。
「母の日のプレゼントのお礼だよ。おふくろがあのスカーフをすごく気に入ってさ。それでなにかお礼をしたいって言ってた」
「でもわたしがプレゼントしたわけじゃないよ。それなのにお礼だなんて」
「いいから遠慮なくもらってやって。よっぽどうれしかったんだよ」
こんなに素敵なブーケをいただいて逆に申し訳ないくらい。でもやっぱりお花をもらうのはいいものだな。冬馬くんのお母さんの気持ちが伝わってくる。
冬馬くんはもともとお母さんと仲がいいけれど、わたしと一緒に母の日のプレゼントを選んだことも話していたんだ。わたしのいないところで、わたしのことを考えてくれていたのかと思ったら感動してしまう。
「そういえば引っ越しのとき、おふくろが勘違いしちゃって、俺が輝とつき合ってるって思い込んでいたんだよ。違うって言ったらちょっとがっかりしてたな」
一緒に引っ越し蕎麦の準備をしたときかな。あのときそんなふうに思ってくれたんだ。
「明るくて、やさしいお母さんだよね。冬馬くん、お母さんに似てるね。目とか輪郭とかも」
「顔は似てるってよく言われる。でも声は親父とそっくりらしいよ」
「冬馬くんの声、好きだよ。ちょっと低めなんだけど、あったかくて、ほっとする」
ウインタータイムを花瓶に生けて、テーブルに飾った。純白の花びらがウェディングドレスみたいにかわいらしくて、きれいだった。
「その花、輝のイメージだな。凛としていて、可憐で、すごくきれいだよ」
冬馬くんがさりげなく、すごいことを言う。
「そ、そうかな? ほめすぎじゃない?」
「輝は昔からそんなイメージだよ。おふくろもそう感じたんじゃないかな」
「……だとうれしいな」
「そういえば、なにげに意気投合してたよな」
引っ越しの手伝いをしに行った日。冬馬くんのお母さんはひとり暮らしをする冬馬くんをすごく心配していた。社会人なのにいまだにチャラチャラしていることも気になっていたみたい。でも、「冬馬くんはとても思いやりがあって、みんなから頼りにされるほど信頼が厚いですよ」と話したら、心底ほっとしたような顔をしていた。「ありがとう」と何度もお礼を言われ、恐縮するばかりだった。
「あれは意気投合というか……普通に話してただけだよ。……あっ、お母さんにお礼のお礼しなきゃ」
「礼なんていらないって。その代わり、今度うちの実家においでよ。おふくろ、喜ぶと思う」
「うん」
「輝の実家にも行っていい? 『おつき合いさせていただいてます』って言わせて」
「うん。ありがとう」
穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。冬馬くんの一つひとつの言葉に胸がいっぱいになった。
もうすぐ七月。窓の外は夏の空が広がり、窓辺に明るい日差しがそそがれていた。
冬馬くんは太陽みたいな人だ。わたしの進むべき道を照らしてくれる。いつもわたしを見守ってくれて、戸惑ったり迷ったりしていると、「こっちだよ」と手を差し伸べて導いてくれる。
あの頃はこんな未来が待っているとは思わなかった。
ありがとう、冬馬くん。わたしも冬馬くんに負けないように毎日を精いっぱい生きて、冬馬くんの力になれるようにがんばるね。
「今日の昼ごはんは俺が作るよ。和食と洋食どっちがいい?」
「じゃあ、洋食で」
「了解。きのことチーズのリゾットなんてどう?」
「おいしそう!」
どうか、ふたりの未来がずっとずっと輝いていますように。
《完》
翌日は土曜日。休日なので、わたしと冬馬くんは昼頃までベッドのなかでのんびりと過ごしていた。
あれから結局、明け方まで抱き合った。朝までというのは初めてではないけれど、以前と違うのは「好き」という気持ちを言葉や仕草でたくさん伝え合えたこと。身体だけでなく心までも満たされて、いまも至福の時間が続いている。ふわふわと波間を漂っているような感覚だった。
だけどそんなゆるい時間のなかで「ピンポーン」とインターフォンが鳴り、現実に引き戻された。
「誰だろう?」
わたしは急いで服を着て玄関を開ける。すると、エプロンを身に着けた若くて格好いい男の子が立っていた。
「小松崎輝さんのお宅ですね?」
「はい、そうですけど」
「『FLORAL《ふろーらる》はるな』です。藤城様からご依頼のお花のお届けに参りました」
「お花? 藤城さん?」
藤城さんって、冬馬くんから?
不思議に思いながら受け取ると、部屋に戻って冬馬くんに尋ねた。
「お花屋さんが、『藤城様から』だって言ってたんだけど。これ冬馬くんからのプレゼント?」
「花? 俺じゃないよ」
「でもお花に挟んであるカードにも『藤城』って書いてあるよ。わたし、冬馬くん以外に藤城さんっていう人、知らないんだけど」
冬馬くんじゃないとすると、いったい誰から?
「でもうれしい。このお花、すごく好きなんだあ」
「それ、ガーベラだよな?」
「ウインタータイムっていうの。お花の芯が黒くて花びらが真っ白なのが特徴なんだ」
冬馬くんは「へえ」と感心があるのかないのかわからない反応だ。
男の人はこんなもんだよね。花にはあまり興味はないものだ。
「あっ! もしかして、その花を贈ってきたの、うちのおふくろかもしれない。少し前に輝の家の住所を聞かれたから教えたんだよ」
「どういうこと?」
冬馬くんのお母さんには前に一度お会いしている。でもなんで急に花を届けてくれたんだろう。
「母の日のプレゼントのお礼だよ。おふくろがあのスカーフをすごく気に入ってさ。それでなにかお礼をしたいって言ってた」
「でもわたしがプレゼントしたわけじゃないよ。それなのにお礼だなんて」
「いいから遠慮なくもらってやって。よっぽどうれしかったんだよ」
こんなに素敵なブーケをいただいて逆に申し訳ないくらい。でもやっぱりお花をもらうのはいいものだな。冬馬くんのお母さんの気持ちが伝わってくる。
冬馬くんはもともとお母さんと仲がいいけれど、わたしと一緒に母の日のプレゼントを選んだことも話していたんだ。わたしのいないところで、わたしのことを考えてくれていたのかと思ったら感動してしまう。
「そういえば引っ越しのとき、おふくろが勘違いしちゃって、俺が輝とつき合ってるって思い込んでいたんだよ。違うって言ったらちょっとがっかりしてたな」
一緒に引っ越し蕎麦の準備をしたときかな。あのときそんなふうに思ってくれたんだ。
「明るくて、やさしいお母さんだよね。冬馬くん、お母さんに似てるね。目とか輪郭とかも」
「顔は似てるってよく言われる。でも声は親父とそっくりらしいよ」
「冬馬くんの声、好きだよ。ちょっと低めなんだけど、あったかくて、ほっとする」
ウインタータイムを花瓶に生けて、テーブルに飾った。純白の花びらがウェディングドレスみたいにかわいらしくて、きれいだった。
「その花、輝のイメージだな。凛としていて、可憐で、すごくきれいだよ」
冬馬くんがさりげなく、すごいことを言う。
「そ、そうかな? ほめすぎじゃない?」
「輝は昔からそんなイメージだよ。おふくろもそう感じたんじゃないかな」
「……だとうれしいな」
「そういえば、なにげに意気投合してたよな」
引っ越しの手伝いをしに行った日。冬馬くんのお母さんはひとり暮らしをする冬馬くんをすごく心配していた。社会人なのにいまだにチャラチャラしていることも気になっていたみたい。でも、「冬馬くんはとても思いやりがあって、みんなから頼りにされるほど信頼が厚いですよ」と話したら、心底ほっとしたような顔をしていた。「ありがとう」と何度もお礼を言われ、恐縮するばかりだった。
「あれは意気投合というか……普通に話してただけだよ。……あっ、お母さんにお礼のお礼しなきゃ」
「礼なんていらないって。その代わり、今度うちの実家においでよ。おふくろ、喜ぶと思う」
「うん」
「輝の実家にも行っていい? 『おつき合いさせていただいてます』って言わせて」
「うん。ありがとう」
穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。冬馬くんの一つひとつの言葉に胸がいっぱいになった。
もうすぐ七月。窓の外は夏の空が広がり、窓辺に明るい日差しがそそがれていた。
冬馬くんは太陽みたいな人だ。わたしの進むべき道を照らしてくれる。いつもわたしを見守ってくれて、戸惑ったり迷ったりしていると、「こっちだよ」と手を差し伸べて導いてくれる。
あの頃はこんな未来が待っているとは思わなかった。
ありがとう、冬馬くん。わたしも冬馬くんに負けないように毎日を精いっぱい生きて、冬馬くんの力になれるようにがんばるね。
「今日の昼ごはんは俺が作るよ。和食と洋食どっちがいい?」
「じゃあ、洋食で」
「了解。きのことチーズのリゾットなんてどう?」
「おいしそう!」
どうか、ふたりの未来がずっとずっと輝いていますように。
《完》
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★johndoさん
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