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2.敏腕社長の華麗な駆け引き
007
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冴島社長が帰ると、塔子さんがにこにこ顔で声を弾ませた。
「なかなかのイケメンね。気品もあって、さすが冴島物産の御曹司。わたしが若かったら立候補したいくらい」
なにを勘違いしているのか、塔子さんが「がんばりなさいよ」とわたしの背中をたたいてくる。
若くして結婚した塔子さんは、二十歳そこそこでわたしを産んでいるので、まだ四十代半ば。娘の目から見ても実年齢より若く見え、ごくたまに「姉妹かと思った」と言われることもある。
といっても、「姉妹」というのはすべて相手のリップサービス。だけど塔子さんはそれを真に受けてしまう性格。つまり、思い込みの激しいポジティブ人間なので、困ることもしばしばだ。
「違うから。お金持ちの人の単なる気まぐれだよ」
「そうかしら? 会社の社長さんなんだから相当忙しいはずよ。それなのに気まぐれでわざわざランチに誘うかしら?」
「暇だったのかもよ。社長室でもたいして仕事をしていなかったみたいだし」
「あら、昼間だから仕事しなくちゃいけないってことはないのよ。役員にはタイムカードはないんだから」
「それくらい知ってる」
塔子さんが妙にはしゃいでいるので、落ち着かせようとして言ったのだけれど、悪口みたいになってしまった。
そうじゃなくて。ただ詮索されたくないだけなのに。
こんなことを言うつもりはなかったのにと反省しつつ、相変わらず塔子さんが干渉しようとしてくるので引くに引けない。
「成果を出してるのも知ってるし、すごい人だって思ってるよ。だからこそ、気まぐれにしか思えないの」
「もっと自信を持ちなさいよ、咲都。なんなら、自分からアピールしちゃいなさい」
「塔子さん、いい加減にして。アピールなんて無理だから。そんな失礼なことできないよ」
冴島物産や冴島テクニカルシステムズがどれだけの会社かわかっていないのかな。わたしのような身分の人間はかかわっちゃいけないんだよ。
「もったいないなあ。あんな格好いい人はそうそういないわよ。それに死んだお父さんにも似てる気がするのよ」
「そう? ぜんぜん似てないと思うけど」
「一見、笑顔で人あたりはいいんだけど、世の中の酸いも甘いも吸いつくしたみたいな、ちょっと冷めた目をしてるのよね。でもその余裕がいいのよ」
「顔じゃなくて、そっちね。でもお父さんってそんなだった?」
塔子さんよりひとまわり年上だった父はその辺にいるおじさんとなんら変わらなくて、格好いいと思ったこともない。家では口数は多いほうではなかったけれど、無口でもなくて、ごくごく普通のお父さんだった。
「出会った頃はそうだったの。お店に遊びに行くと愛想よく対応してくれるんだけど、常に一線は引かれてたわ」
「塔子さん、しつこかったからね。お父さんが言ってたもん。変な女子高生に好かれて困ってたって」
父がここで花屋を開業して間もない頃、当時高校生だった塔子さんが客として訪れた。それが両親の出会いだった。
父にひと目惚れした塔子さんは、それ以来ストーカーのようにつきまとったそうだ。花を買わないのに週に何度か、放課後になると店に来ては閉店まで入り浸り、ひとりでしゃべり続け、そして帰っていく。
昔、父からその話を聞いたとき、父は塔子さんのどんなところを好きになって結婚したのだろうと、子どもながらに不思議に思ったものだった。
「とにかく失礼のないようにね」
「塔子さんに言われたくないよ」
午後一時になり、榎本くんが出勤してくると、塔子さんはさっさと休憩に入った。
「なんの話をしていたんですか?」
ハイテンションだった塔子さんのせいで、榎本くんが興味津々に聞いてくる。
「冴島テクニカルさんの生け込みなんだけど、長期プランでやらせてもらえることになったの。これから毎週火曜日の午前中に社長室と役員会議室に伺うことになるから」
「すごいじゃないですか! 咲都さんの仕事が認められたってことですよね」
興奮しながら喜んでくれて、それは榎本くんの純粋な気持ちでうれしい。けれど果たして冴島社長の本音はどうなのだろうと考え、複雑な気持ちだった。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない。ということだから、榎本くんの時給も少しだけど上げられると思う」
「やった! ありがとうございます。俺、これからもこの店でがんばりますね」
榎本くんの笑顔を見ながら、経営者として気が引きしまる思いがした。
将来的には企業との専属契約を増やし、また付加価値を持たせたオリジナル商品を作るなど今まで以上に力を入れたいなと思っている。けれどまずは今頂ける仕事を確実にこなしていき、店の経営を安定させることが先決だ。
今回のように頂いた仕事をしっかりやれば、また次につなげられるかもしれない。これからは出張の仕事をどんどん増やしたい。わたしが店を留守にしても安心して塔子さんにまかせることができるので、それも可能なのだ。
「なかなかのイケメンね。気品もあって、さすが冴島物産の御曹司。わたしが若かったら立候補したいくらい」
なにを勘違いしているのか、塔子さんが「がんばりなさいよ」とわたしの背中をたたいてくる。
若くして結婚した塔子さんは、二十歳そこそこでわたしを産んでいるので、まだ四十代半ば。娘の目から見ても実年齢より若く見え、ごくたまに「姉妹かと思った」と言われることもある。
といっても、「姉妹」というのはすべて相手のリップサービス。だけど塔子さんはそれを真に受けてしまう性格。つまり、思い込みの激しいポジティブ人間なので、困ることもしばしばだ。
「違うから。お金持ちの人の単なる気まぐれだよ」
「そうかしら? 会社の社長さんなんだから相当忙しいはずよ。それなのに気まぐれでわざわざランチに誘うかしら?」
「暇だったのかもよ。社長室でもたいして仕事をしていなかったみたいだし」
「あら、昼間だから仕事しなくちゃいけないってことはないのよ。役員にはタイムカードはないんだから」
「それくらい知ってる」
塔子さんが妙にはしゃいでいるので、落ち着かせようとして言ったのだけれど、悪口みたいになってしまった。
そうじゃなくて。ただ詮索されたくないだけなのに。
こんなことを言うつもりはなかったのにと反省しつつ、相変わらず塔子さんが干渉しようとしてくるので引くに引けない。
「成果を出してるのも知ってるし、すごい人だって思ってるよ。だからこそ、気まぐれにしか思えないの」
「もっと自信を持ちなさいよ、咲都。なんなら、自分からアピールしちゃいなさい」
「塔子さん、いい加減にして。アピールなんて無理だから。そんな失礼なことできないよ」
冴島物産や冴島テクニカルシステムズがどれだけの会社かわかっていないのかな。わたしのような身分の人間はかかわっちゃいけないんだよ。
「もったいないなあ。あんな格好いい人はそうそういないわよ。それに死んだお父さんにも似てる気がするのよ」
「そう? ぜんぜん似てないと思うけど」
「一見、笑顔で人あたりはいいんだけど、世の中の酸いも甘いも吸いつくしたみたいな、ちょっと冷めた目をしてるのよね。でもその余裕がいいのよ」
「顔じゃなくて、そっちね。でもお父さんってそんなだった?」
塔子さんよりひとまわり年上だった父はその辺にいるおじさんとなんら変わらなくて、格好いいと思ったこともない。家では口数は多いほうではなかったけれど、無口でもなくて、ごくごく普通のお父さんだった。
「出会った頃はそうだったの。お店に遊びに行くと愛想よく対応してくれるんだけど、常に一線は引かれてたわ」
「塔子さん、しつこかったからね。お父さんが言ってたもん。変な女子高生に好かれて困ってたって」
父がここで花屋を開業して間もない頃、当時高校生だった塔子さんが客として訪れた。それが両親の出会いだった。
父にひと目惚れした塔子さんは、それ以来ストーカーのようにつきまとったそうだ。花を買わないのに週に何度か、放課後になると店に来ては閉店まで入り浸り、ひとりでしゃべり続け、そして帰っていく。
昔、父からその話を聞いたとき、父は塔子さんのどんなところを好きになって結婚したのだろうと、子どもながらに不思議に思ったものだった。
「とにかく失礼のないようにね」
「塔子さんに言われたくないよ」
午後一時になり、榎本くんが出勤してくると、塔子さんはさっさと休憩に入った。
「なんの話をしていたんですか?」
ハイテンションだった塔子さんのせいで、榎本くんが興味津々に聞いてくる。
「冴島テクニカルさんの生け込みなんだけど、長期プランでやらせてもらえることになったの。これから毎週火曜日の午前中に社長室と役員会議室に伺うことになるから」
「すごいじゃないですか! 咲都さんの仕事が認められたってことですよね」
興奮しながら喜んでくれて、それは榎本くんの純粋な気持ちでうれしい。けれど果たして冴島社長の本音はどうなのだろうと考え、複雑な気持ちだった。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない。ということだから、榎本くんの時給も少しだけど上げられると思う」
「やった! ありがとうございます。俺、これからもこの店でがんばりますね」
榎本くんの笑顔を見ながら、経営者として気が引きしまる思いがした。
将来的には企業との専属契約を増やし、また付加価値を持たせたオリジナル商品を作るなど今まで以上に力を入れたいなと思っている。けれどまずは今頂ける仕事を確実にこなしていき、店の経営を安定させることが先決だ。
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