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昔からソフィアが落ち込むと、エイナルはこうして慰めてくれた。
ソフィアは彼が触れた場所に手を置いて投げやりに笑う。
――もう少し触れていて欲しいというのは、たぶん言っちゃいけないわよね。
ソフィアは肩から手を離して涙を拭った。
いつまでもここにいたら、エイナルにもっと甘やかしてもらいたくなる。今の自分がそんなことを求めたら、彼を困らせるだけだというのはわかる。
「……悪いわね。やっぱり書類整理は手伝えないわ。私は旦那さまにもう一つだけ言い忘れていたことを思い出したから屋敷に戻ります」
「…………へえ、それは何でしょうか?」
結婚することを受け入れて、色んなことを諦めた。
もし、学園を卒業できていたらどんな未来が待っていたのだろう。考えても無駄だと分かっていても、どうしても想像したくなるときがある。
「恋がしたいの」
ソフィアがはっきりとそう言うと、エイナルが目を丸くして驚いた顔をする。
もし、一緒に働けることができていたら、そう考えて願ってしまうことだ。
「私はまだ旦那さまのことをよく知らないもの。だからね、旦那さまだって私のことをご存知ないはずだわ。それってね、これから恋ができる可能性があるってことじゃないかしら」
もう初恋は叶わない。けれど、ここでイーサンを相手に新しい恋をするチャンスはあると信じたい。
「本当はね、恋愛をして結婚するのが理想だったの。でもね、結婚が先っていうのもありなんじゃないかしら」
ソフィアがエイナルに同意を求めると、彼は顔をほころばせて笑う。
「いつもの調子が戻ってきたみたいっすね」
「いつまでもうじうじしていられないもの。励ましてくれてありがとう。今度こそちゃんと旦那さまとお話をしてくるわ」
「それがいいと思います。つか、逃げられそうになったら容赦なく拘束してやればいいですよ」
エイナルは意地悪く笑いながら、執務机の上に飾られている一輪の花を指さした。すると、花がぐしゃりと歪んで崩れ落ちる。花びらがひらひらと宙を舞った。
「もう、せっかく飾ってくれたお花に何てひどいことをするのよ」
「これくらいしても文句は言われないくらい、奥さまは無礼なことをされてるって言いたいのです」
ソフィアは床に落ちた花を拾い上げると、手をかざして魔力を込める。花を元の状態に戻してから丁寧に飾りなおした。
「怒ってくれているのは嬉しいけれど、旦那さま相手にこんなことをやれって言うの?」
「潰せとまでは言いません。ですが、話をしている間くらい手足を拘束して逃げられないようにしたっていいじゃないですか」
エイナルはそう言うと、また不機嫌そうに顔を歪めた。
「そもそもソフィアお嬢さまを馬鹿にするってのが、うちの一門全員を敵にしているって気付いてますかね。ここらで魔術師に舐めた態度を取るのがどういうことかってのをわからせておいた方がいいですって」
そこまで一気に捲し立ててから、エイナルは大きく息を吐いた。
「……ま、それで離縁されたって堂々とご実家に戻ったらいいんですよ」
「そんな粗相をしても帰っていいのかしらね。離縁させられた娘なんて修道院行きじゃない?」
「大丈夫ですよ。この件に関しては師匠だって猛省すべきなんです。それでも帰ってくるなって言うなら俺が嫁に貰ってやりますよ」
「っば、馬鹿なこと言わないでよ!」
「はは、冗談ですよ」
エイナルが笑ってソフィアのおでこを指で弾いた。
「――っ痛い! なんでこんなことするのよ」
「……んー、俺からの激励だと思ってください」
ソフィアがおでこを抑えて文句を言うと、エイナルが早く出ていけとでもいうように手を振った。彼はそのまま目の前の書類を手に取って読み始めてしまう。
「……よし! それじゃあもう一回だけ頑張ってみるわ。本当にもうこれで最後」
ソフィアはエイナルに背を向けて部屋を出て行こうとする。しかし、部屋の扉に手をかけてその場に立ち止まると彼を振り返った。
「あのね、その。……もしまた落ち込んでしまうときがあったら、そのときは励ましてくれる?」
エイナルは手にしていた書類から視線を上げた。
「俺でよろしければいつでもどうぞ。話を聞いて励ますくらいならできますから」
エイナルはそれだけ言うと、再び書類に視線を落とした。
ソフィアは彼が触れた場所に手を置いて投げやりに笑う。
――もう少し触れていて欲しいというのは、たぶん言っちゃいけないわよね。
ソフィアは肩から手を離して涙を拭った。
いつまでもここにいたら、エイナルにもっと甘やかしてもらいたくなる。今の自分がそんなことを求めたら、彼を困らせるだけだというのはわかる。
「……悪いわね。やっぱり書類整理は手伝えないわ。私は旦那さまにもう一つだけ言い忘れていたことを思い出したから屋敷に戻ります」
「…………へえ、それは何でしょうか?」
結婚することを受け入れて、色んなことを諦めた。
もし、学園を卒業できていたらどんな未来が待っていたのだろう。考えても無駄だと分かっていても、どうしても想像したくなるときがある。
「恋がしたいの」
ソフィアがはっきりとそう言うと、エイナルが目を丸くして驚いた顔をする。
もし、一緒に働けることができていたら、そう考えて願ってしまうことだ。
「私はまだ旦那さまのことをよく知らないもの。だからね、旦那さまだって私のことをご存知ないはずだわ。それってね、これから恋ができる可能性があるってことじゃないかしら」
もう初恋は叶わない。けれど、ここでイーサンを相手に新しい恋をするチャンスはあると信じたい。
「本当はね、恋愛をして結婚するのが理想だったの。でもね、結婚が先っていうのもありなんじゃないかしら」
ソフィアがエイナルに同意を求めると、彼は顔をほころばせて笑う。
「いつもの調子が戻ってきたみたいっすね」
「いつまでもうじうじしていられないもの。励ましてくれてありがとう。今度こそちゃんと旦那さまとお話をしてくるわ」
「それがいいと思います。つか、逃げられそうになったら容赦なく拘束してやればいいですよ」
エイナルは意地悪く笑いながら、執務机の上に飾られている一輪の花を指さした。すると、花がぐしゃりと歪んで崩れ落ちる。花びらがひらひらと宙を舞った。
「もう、せっかく飾ってくれたお花に何てひどいことをするのよ」
「これくらいしても文句は言われないくらい、奥さまは無礼なことをされてるって言いたいのです」
ソフィアは床に落ちた花を拾い上げると、手をかざして魔力を込める。花を元の状態に戻してから丁寧に飾りなおした。
「怒ってくれているのは嬉しいけれど、旦那さま相手にこんなことをやれって言うの?」
「潰せとまでは言いません。ですが、話をしている間くらい手足を拘束して逃げられないようにしたっていいじゃないですか」
エイナルはそう言うと、また不機嫌そうに顔を歪めた。
「そもそもソフィアお嬢さまを馬鹿にするってのが、うちの一門全員を敵にしているって気付いてますかね。ここらで魔術師に舐めた態度を取るのがどういうことかってのをわからせておいた方がいいですって」
そこまで一気に捲し立ててから、エイナルは大きく息を吐いた。
「……ま、それで離縁されたって堂々とご実家に戻ったらいいんですよ」
「そんな粗相をしても帰っていいのかしらね。離縁させられた娘なんて修道院行きじゃない?」
「大丈夫ですよ。この件に関しては師匠だって猛省すべきなんです。それでも帰ってくるなって言うなら俺が嫁に貰ってやりますよ」
「っば、馬鹿なこと言わないでよ!」
「はは、冗談ですよ」
エイナルが笑ってソフィアのおでこを指で弾いた。
「――っ痛い! なんでこんなことするのよ」
「……んー、俺からの激励だと思ってください」
ソフィアがおでこを抑えて文句を言うと、エイナルが早く出ていけとでもいうように手を振った。彼はそのまま目の前の書類を手に取って読み始めてしまう。
「……よし! それじゃあもう一回だけ頑張ってみるわ。本当にもうこれで最後」
ソフィアはエイナルに背を向けて部屋を出て行こうとする。しかし、部屋の扉に手をかけてその場に立ち止まると彼を振り返った。
「あのね、その。……もしまた落ち込んでしまうときがあったら、そのときは励ましてくれる?」
エイナルは手にしていた書類から視線を上げた。
「俺でよろしければいつでもどうぞ。話を聞いて励ますくらいならできますから」
エイナルはそれだけ言うと、再び書類に視線を落とした。
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