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「失礼いたしますわ」
イーサンは自宅の執務室にいた。
ここ最近はソフィアがエイナルの元へ行くので油断していたらしい。
ソフィアがノックもせずにいきなり部屋の中に入って来たので、彼は手にしていたペンを落とした。
「………………急にどうしたのだ?」
「少し旦那さまとお話がしたいのですけれど……。あら、どこかへ行かれるのですか?」
「……す、少し外の空気を吸いに行こうかと思っていたところだったのだ」
イーサンは机の上に転がったペンをそのままにして慌てて立ち上がると、壁にかけていた上着を手に取る。ソフィアがやって来たので、どこかへ逃げるつもりなのだろう。
ここまで露骨に避けられるとは呆れてしまう。しかし、逃しはしないとソフィアはすぐさまイーサンの背後に回って上着を奪い取った。
「ではご一緒いたしますわ。どちらまで行かれるのですか?」
「……い、いや、私は一人で行く。君はゆっくりしているといい」
ソフィアはイーサンの腕に上着の袖を通しながら、優しく話しかけた。それに応じる彼の声は震えている。
気配を消して一瞬で背後に回り込んだ。これでソフィアが魔術師なのだということを思い出してもらえただろうか。
しかし、イーサンはソフィアが上着のボタンを留めると、すぐに部屋を出て行こうとする。まだ足りないと思ったソフィアは、部屋の扉に向かって手を伸ばした。扉が開かないように魔術を使って細工をする。
それに気が付いていないイーサンは、ドアノブを回して扉を開けようとした。
「開きませんよ。ご一緒させてくださるとおっしゃっていただきませんとね」
ソフィアは扉に向かって手を伸ばしたまま、イーサンの元まで歩み寄った。彼は何度もドアノブを回してガチャガチャと音をさせている。しかし、扉はびくともしない。
「いつまでも逃げていられると思わないでくださいませ。こういうのはうんざりなのです」
満面の笑みを浮かべてソフィアはイーサンを見上げた。彼は信じられないものを見るような目でソフィアを振り返った。
「ま、まさか魔術か? だが、この屋敷内は魔術が使えないよう結界が張られているのではないのか」
「ああ、結界ですか。たしかにございますが、この程度の結界で私が魔術を使えなくなるということはございませんよ?」
ソフィアはそう言いながら、部屋の中に置かれている花瓶に視線を向けた。ソフィアは花瓶に飾られている花を指差す。すると、エイナルがやっていたようにぐしゃりと花が歪んで床に落ちてしまう。
「旦那さまに真実が伝わっていないとは驚きましたわ。私からお抱えの魔術師に注意しておきましょう。こんなに解析が簡単にできてしまう結界などあっても無意味ですから」
にっこりと笑いかけると、イーサンはようやくドアノブから手を離した。
「どうぞ、私から逃げるのは諦めてくださいませ」
「……わかった。どこにも行かない」
イーサンは盛大にため息をついて執務室の中に戻るとソファに腰掛けた。
「それで、私と話がしたいとはどういうことだ?」
イーサンは逃げることを諦めると、すっかり開き直ったのか面倒くさそうに言った。ソフィアはその態度にむっとして彼の隣にどかりと座った。
「旦那さまは私との関係をどうしたいのですか?」
ソフィアは隣に座るイーサンの目をしっかりと見つめて問いかけた。
離縁したい、そう言われてもよいと覚悟を決めていた。
「私は近いうちに領主の座を失う」
イーサンはソフィアを見返してくることはなく、部屋の壁に向かって話し出す。
「そうなったときに、夫婦としての実態がなければ君はどこへでも行けるだろう」
イーサンはぶっきらぼうに言った。
それを聞いたソフィアは、しばらく黙り込んで考えたあと、大きく息を吐いた。それから、ゆっくりと立ちあがると、イーサンの目の前に移動して彼を見下ろした。
「――っふざけんじゃないわよ!」
ソフィアはこれまでの人生でこんなに大きな声を出したことがない。それくらいの勢いでイーサンを怒鳴りつけていた。
イーサンは自宅の執務室にいた。
ここ最近はソフィアがエイナルの元へ行くので油断していたらしい。
ソフィアがノックもせずにいきなり部屋の中に入って来たので、彼は手にしていたペンを落とした。
「………………急にどうしたのだ?」
「少し旦那さまとお話がしたいのですけれど……。あら、どこかへ行かれるのですか?」
「……す、少し外の空気を吸いに行こうかと思っていたところだったのだ」
イーサンは机の上に転がったペンをそのままにして慌てて立ち上がると、壁にかけていた上着を手に取る。ソフィアがやって来たので、どこかへ逃げるつもりなのだろう。
ここまで露骨に避けられるとは呆れてしまう。しかし、逃しはしないとソフィアはすぐさまイーサンの背後に回って上着を奪い取った。
「ではご一緒いたしますわ。どちらまで行かれるのですか?」
「……い、いや、私は一人で行く。君はゆっくりしているといい」
ソフィアはイーサンの腕に上着の袖を通しながら、優しく話しかけた。それに応じる彼の声は震えている。
気配を消して一瞬で背後に回り込んだ。これでソフィアが魔術師なのだということを思い出してもらえただろうか。
しかし、イーサンはソフィアが上着のボタンを留めると、すぐに部屋を出て行こうとする。まだ足りないと思ったソフィアは、部屋の扉に向かって手を伸ばした。扉が開かないように魔術を使って細工をする。
それに気が付いていないイーサンは、ドアノブを回して扉を開けようとした。
「開きませんよ。ご一緒させてくださるとおっしゃっていただきませんとね」
ソフィアは扉に向かって手を伸ばしたまま、イーサンの元まで歩み寄った。彼は何度もドアノブを回してガチャガチャと音をさせている。しかし、扉はびくともしない。
「いつまでも逃げていられると思わないでくださいませ。こういうのはうんざりなのです」
満面の笑みを浮かべてソフィアはイーサンを見上げた。彼は信じられないものを見るような目でソフィアを振り返った。
「ま、まさか魔術か? だが、この屋敷内は魔術が使えないよう結界が張られているのではないのか」
「ああ、結界ですか。たしかにございますが、この程度の結界で私が魔術を使えなくなるということはございませんよ?」
ソフィアはそう言いながら、部屋の中に置かれている花瓶に視線を向けた。ソフィアは花瓶に飾られている花を指差す。すると、エイナルがやっていたようにぐしゃりと花が歪んで床に落ちてしまう。
「旦那さまに真実が伝わっていないとは驚きましたわ。私からお抱えの魔術師に注意しておきましょう。こんなに解析が簡単にできてしまう結界などあっても無意味ですから」
にっこりと笑いかけると、イーサンはようやくドアノブから手を離した。
「どうぞ、私から逃げるのは諦めてくださいませ」
「……わかった。どこにも行かない」
イーサンは盛大にため息をついて執務室の中に戻るとソファに腰掛けた。
「それで、私と話がしたいとはどういうことだ?」
イーサンは逃げることを諦めると、すっかり開き直ったのか面倒くさそうに言った。ソフィアはその態度にむっとして彼の隣にどかりと座った。
「旦那さまは私との関係をどうしたいのですか?」
ソフィアは隣に座るイーサンの目をしっかりと見つめて問いかけた。
離縁したい、そう言われてもよいと覚悟を決めていた。
「私は近いうちに領主の座を失う」
イーサンはソフィアを見返してくることはなく、部屋の壁に向かって話し出す。
「そうなったときに、夫婦としての実態がなければ君はどこへでも行けるだろう」
イーサンはぶっきらぼうに言った。
それを聞いたソフィアは、しばらく黙り込んで考えたあと、大きく息を吐いた。それから、ゆっくりと立ちあがると、イーサンの目の前に移動して彼を見下ろした。
「――っふざけんじゃないわよ!」
ソフィアはこれまでの人生でこんなに大きな声を出したことがない。それくらいの勢いでイーサンを怒鳴りつけていた。
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