女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

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新天地

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 ソレは、昼飯の後に供された。俺を纏う残り香に気付かぬ弥一では無かったのである。全員に四分割されたソレを渡して行くと、皆が皿に顔を近付け匂いを肺に詰めて行く。それ程迄に、ソレの臭気はシルケ人の心を惹き付ける物であった。

「食わないと、奪われるぞ?」

「「「!?」」」

俺の号令で皆がソレに齧り付く。歯と歯で挟んだその瞬間、ソレは音も無く分かれ口の中へと運ばれる。ジャムの酸味と甘味に止め処無く溢れ出る唾液はスポンジと混ざり合い、舌で転がすだけで全てを溶かして食道へと嚥下されて行った。

「自画自賛だが、美味いな…」

何時も口にしてる甘味は和菓子的な甘さだが、これは洋菓子的な甘さ。体がこの甘味を欲しているのが解るともう言葉が出ない。口は食事する為にあるのだから。
そしてそれは皆も同意見であろう。静かに、愛おしげに味わって居る。そして皆、全員が完食する迄動けないで居た。不穏な動きをすれば命の遣り取りに発展する事に、気付いてしまったからだ。

「カケル、コレは幻術か何かか?」

最初に口を開いたのはムームード。口を湿らそうと水を飲もうとして躊躇ったのは、口の中を濯ぎたく無かったからだろう。

「有り合わせの材料で作っただけなんだがな」

「公王様の晩餐会でも見た事も味わった事も無い菓子だったぞ…」

「そんな物、食べたの?私…」「私達、今生きてるの…かな?」

「作った俺だってびっくりだよ」

「翔、後二個はあるよな?」

「「「!?」」」

弥一の奴、この場で暗算しやがった!

「無い。残ったのは全て妻達の元へ送った。余らせると殺し合いになり兼ねんからな」

「私はカケルを信じますよ。数リットですが気配が消えましたからね。その時に《転移》等したのでしょう」

「確かに、居なくなってたな」

「その、転移?した時食べた、とか…」

「それは無いわね。この人のお妾さん、怖いから」

「ヘンプシャーさん…」

三組女子の言葉を否定したヘンプシャーは、水を一気に煽って息を吐いた。

「良し。今のは夢だ!貴族に知れて拷問されても俺達にゃ説明すら出来ん!それで良いな!?」

「「「おうっ」」」

夢の時間は終わった。

「夢の中に居た気分よ…」

翌日のヘンプシャーは、甘い香りがした。女共、早く出て来い。


 そして更に翌日、漸くバルタリンドに戻って来た。なる早の行程だったがだいぶ掛かったな。付き添いの依頼はもうしたくないぜ…。

世話になった馭者とホルスト達に別れを告げてギルドに入り、事務処理を行う。人数が多いから地下でやるそうだ。

『パパ大好き~お土産は~?』

『早く抱っこしてほし~な~』

移動中に集めた収集品の検品や金の遣り取りの最中、ずっとこの調子で愛娘が可愛い。悪魔に魂を売ってしまったのかも知れん。我儘っ娘になる前に何とかしなければ…。

「では冒険者の皆様は此処で解散です。付き添いの方々も振込みが終わりましたら適宜解散してください。それでは皆様、お疲れ様でした」

職員がそう言うと、小さなグループに分かれて階段を上がって行く。

「翔、ちと良いか?」

「何ぞ?」

「正直言って、俺どんくらいやれそうだ?俺的にはチュートは終わったと思ってっけど」

お手頃価格達が階段へと向かう中、弥一は俺に問う。

「無茶したら普通に死ぬ。街中でも下手すりゃ人に殺されるだろう」

「まだそんな程度かぁ」

「だが、独り立ちするなら新天地に送ってやっても良いぞ?ハーレム作るんだろ?」

「まだそんな金も力も無いけどな。でも出会いのチャンスは見逃したく無いぜっ」

「…分かった。では行くか」

「風呂のある場所で頼む」

俺と弥一は《転移》した。

 そこは、聳え立つ壁にどデカい門を構えた街。中に入るとキレイに固められた床が敷かれ、木の匂い漂う新居が立ち並ぶ街であった。

「ムルシエレル、何か此処、他の街と何か違うな」

弥一は違いの分かる男のようだ。




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