追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka

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【第1章】追放と絶望の夜

第5話「奇跡の三日間」

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一日目。
「もっと左だ! そこの岩盤を崩せ!」
グレンの指示が、坑道に響く。
二十人の作業員が、ツルハシを振るい続けている。
私は入口で、水と食料の配給を管理していた。
「エリシア様、本当に鉱石は出るんですか?」
若い男が、不安そうに訊いてくる。
「出るわ」
私は、自信を持って答えた。
「必ず」
根拠? ある。グレンの三十年分のデータと、前世の知識。そして――何より、私自身の執念。
「でも、もう五時間も掘ってますけど……」
「大丈夫。信じて」
私は、男の肩を叩いた。
「あなたの労働は、必ず報われる」
男は、少し表情を緩めた。
「……わかりました」
坑道に戻っていく背中を見送りながら、私は小さく息をついた。
正直、不安がないわけじゃない。
でも、リーダーが不安を見せたら、全てが崩壊する。
「エリシア」
ミラが、汗だくで戻ってきた。
「街から追加の食料、持ってきたよ」
「ありがとう」
私は、荷物を受け取った。
「ミラも休んで。あなたも疲れてるでしょう」
「アンタこそ」
ミラが、じっと私を見た。
「昨日から、ほとんど寝てないでしょ」
「……少しは寝たわよ」
二時間くらい。
「嘘つき」
ミラが笑った。
「まあいいや。アタシも寝ない」
「無理しないで」
「アンタが言うな」
二人で笑った。
不思議だ。たった数日前まで、私たちは他人だったのに。

二日目。
「くそっ、また岩盤だ!」
作業員の一人が、ツルハシを投げ捨てた。
「もう無理だ。こんなの、当たるわけない」
疲労が、チームに暗い影を落とし始めていた。
「待って」
私は、その男の前に立った。
「あと少しなの」
「あと少し? 昨日も同じこと言ってたじゃないか!」
男が怒鳴った。
「俺たちは、ただでさえ体力がないんだ。こんな無駄な労働、もう続けられない」
周囲の作業員も、ざわめき始めた。
このままでは、チームが崩壊する。
「皆さん」
私は、全員を見渡した。
「少しだけ、私の話を聞いてください」
静寂。
「私も、皆さんと同じです。追放され、全てを奪われた」
私は、自分の囚人服を示した。
「三日前まで、私は鉱山なんて見たこともなかった。ツルハシの持ち方すら、知らなかった」
何人かが、驚いた顔をした。
「でも、私には夢がある。この街を、この国を変えたい。そのためには――」
私は、坑道の奥を見た。
「あの先にある鉱石が、絶対に必要なんです」
「夢じゃ腹は膨れない」
さっきの男が、再び言った。
「そうね」
私は頷いた。
「だから、約束します」
私は、自分の手のひらを差し出した。
そして――。
「氷よ、我が意志に従え」
掌に、氷の結晶が浮かび上がった。
「これは、私の魔力で作った氷」
私は、その氷を地面に置いた。
「もし三日目の終わりまでに鉱石が見つからなかったら――」
私は、全員の目を見た。
「私の全ての魔力を使って、皆さんのために水と氷を作り続けます。この冬を越えるまで、毎日」
ざわめきが広がった。
「魔力を使い果たせば、死ぬかもしれないのに?」
グレンが心配そうに言った。
「構いません」
私は、微笑んだ。
「私は、皆さんを信じた。だから、皆さんにも、私の覚悟を見せます」
長い沈黙。
そして――。
「……わかった」
さっきの男が、ツルハシを拾い上げた。
「あと一日だけ、信じてみるか」
「俺も」
「私も」
次々と、声が上がった。
「ありがとう」
私は、深く頭を下げた。
「必ず、報いてみせます」

三日目。
誰もが、限界だった。
「グレンさん、どうですか?」
私は、汗だくの老人に訊いた。
「……もう少しだ」
グレンの手が震えている。
「地層の色が変わってきた。鉱脈は、すぐそこにある」
「でも……」
ミラが、作業員たちを見た。
皆、倒れる寸前だ。
「あと二時間が限界」
私は、時間を計算した。
日没まで、あと三時間。
「総力戦よ」
私は、ツルハシを手に取った。
「私も掘ります」
「エリシア!?」
ミラが驚いた。
「馬鹿言うな、令嬢が掘れるわけ――」
「やってみなければ、わからないでしょう」
私は、壁に向かってツルハシを振り下ろした。
ガンッ!
衝撃が腕に響く。手が痺れる。
でも、もう一度。
もう一度。
「……ったく」
ミラも、隣でツルハシを握った。
「アンタが掘るなら、アタシも掘るよ」
二人で、必死に掘り続ける。
すると――。
「俺たちも!」
作業員たちが、再び動き出した。
「令嬢が掘るのに、俺たちが休むわけにはいかねえ」
「そうだそうだ!」
坑道中に、ツルハシの音が響き渡った。
二十人以上が、一つの目標に向かって掘り続ける。
まるで、オーケストラのように。
一時間後。
「待て!」
グレンが叫んだ。
「皆、手を止めろ!」
全員が、動きを止めた。
グレンは、壁に手を当てている。
「この感触……間違いない」
彼は、慎重にツルハシを振るった。
パキッ。
小さな音。
そして――。
「光ってる……」
ミラが呟いた。
壁の奥から、青い光が漏れている。
「皆、下がれ!」
グレンが叫んだ。
彼は、渾身の力を込めてツルハシを振り下ろした。
ガァンッ!
岩盤が崩れた。
そして――。
「あ……」
全員が、言葉を失った。
壁の向こうに広がっていたのは――。
青く輝く結晶の洞窟。
「魔鉱石……」
グレンが、震える声で言った。
「三十年……三十年探し続けた……」
老人の目から、涙が溢れた。
「やった……!」
ミラが飛び跳ねた。
「やったよ、エリシア!」
作業員たちも、歓声を上げている。
抱き合い、泣き、笑っている。
私は――。
「ありがとう」
小さく呟いた。
誰に対してでもない。
運命に。神に。そして、ここにいる全ての仲間に。
「エリシア」
グレンが、私の前に立った。
「お前さんは、本物だ」
彼は、深く頭を下げた。
「この恩は、一生忘れん」
「顔を上げてください」
私は、グレンの肩に手を置いた。
「これは、皆で成し遂げたことです」
洞窟の中に入る。
壁一面、天井、床――全てが魔鉱石で覆われている。
「これだけあれば……」
私は、素早く計算した。
「王国全土に供給できる。いえ、近隣諸国にも」
「すごい量だ……」
ミラが、呆然としている。
「ねえ、これって……」
「ええ」
私は頷いた。
「ノルディアは、一夜にして王国で最も豊かな土地になる」
そして――。
「私たちの戦いは、これからよ」
私は、仲間たちを振り返った。
「皆、今夜は休んで。明日から、採掘体制を整えます」
「「「おおおお!」」」
歓声が、坑道中に響き渡った。

その夜。
鉱山の入口で、私は一人星を見上げていた。
三日間の戦い。
信じられないほど、濃密な時間だった。
「やったわね」
ミラが、隣に座った。
「ええ」
「これで、ルシアン様にも認めてもらえる?」
「……さあ、どうかしら」
私は、微笑んだ。
「でも、一つだけ確かなことがある」
「何?」
「私たちは、奇跡を起こした」
魔鉱石の青い輝きが、坑道の奥から漏れている。
希望の光。
「明日、ルシアン陛下に報告に行くわ」
「大丈夫? まだ四日あるけど」
「ええ。でも、早めに報告して、次の段階に進みたいの」
私は立ち上がった。
「さあ、寝ましょう。明日は、もっと忙しくなるわよ」
「了解」
ミラも立ち上がる。
「ねえ、エリシア」
「何?」
「アンタと一緒で、良かった」
ミラが、照れ臭そうに笑った。
「アタシ、生まれて初めて思った。『明日が楽しみ』って」
その言葉が、胸に沁みた。
「私も」
私は、ミラの頭を軽く撫でた。
「あなたと出会えて、良かった」
二人で、テントに戻る。
明日は、新しい戦いが始まる。
でも、もう恐れはなかった。
なぜなら――。
「私には、仲間がいる」
それが、何よりも強い武器だから。
満天の星空の下、ノルディアは静かに眠っていた。
だが、この小さな鉱山で起きた奇跡が、やがて王国全体を揺るがすことになる。
それは、まだ誰も知らない。
ルシアンも。王宮の貴族たちも。
そして、私を追放したあの者たちも――。
「覚えていなさい」
私は、夜空に向かって呟いた。
「これは、まだ序章に過ぎないのよ」
冷たい風が、私の頬を撫でた。
まるで、運命が応えるように。
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