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【第1章】追放と絶望の夜
第6話「冷血王の評価」
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朝日が、雪原を赤く染めていた。
私は、できる限り身なりを整えて城へ向かった。
といっても、持っているのは追放時の囚人服と、ミラが調達してくれた古いマントだけ。
「エリシア、本当に今日行くの?」
ミラが心配そうに訊いてくる。
「まだ四日あるのに」
「早い方がいいわ」
私は、手に持った小袋を確認した。
中には、昨夜採取した魔鉱石のサンプル。親指大の青い結晶が三つ。
「それに――」
私は、城の方を見た。
「ビジネスは、タイミングが全てよ」
前世で学んだこと。成果は、最も効果的なタイミングで見せる。
早すぎず、遅すぎず。
そして今が、そのタイミング。
「じゃあ、アタシも――」
「ミラは、鉱山に残って」
私は、ミラの肩を叩いた。
「グレンさんと一緒に、採掘計画を立てておいて。私が戻ったら、すぐに動き出せるように」
「……わかった」
ミラは、不安そうな顔をしている。
「でも、気をつけてね。ルシアン様、怖いから」
「大丈夫」
私は微笑んだ。
「私だって、結構怖いのよ」
冗談めかして言ったが、ミラは笑わなかった。
「本当に、気をつけて」
「ええ」
私は、城へと歩き出した。
城の門を潜ると、衛兵が槍を構えた。
「止まれ。追放者が、何の用だ」
「辺境王に、報告があります」
私は、冷静に答えた。
「エリシア=ハーランド。一週間の試練を受けている者です」
衛兵たちが、顔を見合わせた。
「まだ四日目だろう。期限前に来るとは――」
「失敗した、と報告に来たのか?」
もう一人の衛兵が、嘲笑うように言った。
「いいえ」
私は、まっすぐ彼らを見た。
「成功した、と報告に来ました」
「……何?」
衛兵たちが、呆気にとられた顔をした。
「たった三日で、何を――」
「それは、陛下に直接申し上げます」
私は、動じずに答えた。
「取り次いでいただけますか?」
衛兵たちは迷っていたが、やがて一人が城の中に入っていった。
五分後。
「……陛下が、会うそうだ」
衛兵が、信じられない、という顔で言った。
「入れ」
私は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
城の中を進む。
三日前に通った、あの大広間。
扉が開く。
「エリシア=ハーランド、参りました」
私は、玉座の前で膝をついた。
「顔を上げろ」
ルシアンの声。
顔を上げると、彼は玉座に座ったまま、私を見下ろしていた。
銀色の瞳。
そこには、好奇心と――わずかな警戒が混じっている。
「期限より四日早いな」
「はい」
「失敗を報告しに来たのか?」
「いいえ」
私は、立ち上がった。
「成功を報告しに参りました」
ルシアンの眉が、わずかに動いた。
「三日で、何を成し遂げた?」
「これを」
私は、小袋を取り出し、中身を床に広げた。
三つの青い結晶が、朝日を受けて輝いた。
「……魔鉱石?」
ルシアンが、わずかに身を乗り出した。
「はい。ノルディア第一鉱山の、最深部で発見しました」
「あの廃鉱から?」
「ええ。そして――」
私は、彼の目を見た。
「これは、ほんの一部です。実際の鉱脈は、この千倍以上の規模です」
静寂。
ルシアンは、しばらく魔鉱石を見つめていた。
そして――玉座から立ち上がった。
「詳しく話せ」
私は、三日間の全てを報告した。
グレンとの出会い。二十人の作業員の雇用。採掘計画。そして、鉱脈の発見。
ルシアンは、黙って聞いていた。
「……信じられん」
報告が終わると、彼は呟いた。
「三十年も見つからなかった鉱脈を、たった三日で」
「グレンさんの三十年分のデータがあったからこそです」
私は、謙虚に答えた。
「私は、それを分析し、統合しただけです」
「それができる者が、どれだけいる?」
ルシアンが、私に近づいてきた。
距離が縮まる。
彼の存在感が、圧倒的に迫ってくる。
「エリシア=ハーランド」
低い声で、私の名を呼んだ。
「お前は、何者だ?」
「……追放された、令嬢です」
「嘘をつくな」
ルシアンの目が、私を射抜く。
「貴族令嬢が、鉱山開発の知識を持っているはずがない。地質を読み、人を動かし、三日で結果を出す――そんな人間は、この国に片手で数えるほどしかいない」
鋭い。
この男、本当に鋭い。
「では、陛下は何だと?」
私は、目を逸らさなかった。
「私が、何者だと思いますか?」
ルシアンは、私の顔を見つめた。
長い沈黙。
「……わからん」
彼は、わずかに笑った。
「だが、面白い」
初めて見た、本物の笑顔。
冷血王と呼ばれる男が、本当に笑った。
「エリシア、お前の価値は証明された」
ルシアンは、玉座に戻った。
「一週間の試練は、合格だ」
「ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「では、ここに留まることを許可します。そして――」
ルシアンが、側近に何か指示を出す。
側近が、一通の書類を持ってきた。
「これは?」
「鉱山の開発権だ」
ルシアンが言った。
「お前に、ノルディア第一鉱山の全権を委任する」
「え……」
予想外の展開に、私は言葉を失った。
「ただし」
ルシアンの目が、鋭くなった。
「採掘した魔鉱石の三割は、国庫に納めること。残りは、お前の自由にしていい」
三割。
計算する。それでも、十分すぎるほどの利益になる。
「……ありがとうございます」
「礼を言うのは早い」
ルシアンが立ち上がった。
「これは、試練の続きだ」
「続き?」
「そうだ」
彼は、窓の外を見た。
「鉱石を掘るだけなら、誰でもできる。だが――」
振り返る。
「それを金に変え、この国を豊かにできるか。それが、お前の本当の価値を決める」
なるほど。
これは、経営手腕を試されているのだ。
「わかりました」
私は、書類を受け取った。
「必ず、結果を出してみせます」
「期待している」
ルシアンが、わずかに笑った。
「それと――」
「はい?」
「この城に、部屋を用意させる」
「え?」
「あの廃墟では、仕事にならんだろう」
ルシアンが、淡々と言った。
「これから、お前は鉱山開発の責任者だ。相応の待遇を用意する」
「でも、私は追放者――」
「この国では、私が法だ」
ルシアンが、断言した。
「お前の過去など、どうでもいい。今、お前がこの国に必要な人材であること。それだけが重要だ」
その言葉が――。
不思議と、胸に響いた。
「……ありがとうございます」
私は、心から礼を言った。
城の一室。
案内された部屋は、質素ながらも清潔で、暖炉もある。
「三日前とは、大違いね」
窓から、街が見える。
ノルディア。
極寒の辺境。
でも、もうここは――。
「私の、戦場」
鉱山開発権の書類を、机に広げる。
次にやるべきこと。
リストアップしていく。
採掘体制の確立
品質管理システムの構築
流通ルートの開拓
商人ネットワークの構築
加工技術の開発
やることは山ほどある。
でも――。
「楽しい」
心から、そう思った。
前世では、会社の利益のために働いていた。
でも今は、違う。
この国の人々のため。
そして、私自身のため。
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
扉が開き――ミラが飛び込んできた。
「エリシア! 聞いたよ! 部屋もらえたんだって!?」
「ええ」
私は笑った。
「それに、鉱山の開発権も」
「すごい!」
ミラが飛びついてきた。
「やったね、エリシア!」
「これからよ」
私は、ミラを離した。
「ミラ、あなたに頼みたいことがあるの」
「何?」
「私の秘書になって」
「秘書?」
ミラが、きょとんとした顔をした。
「そう。これから忙しくなる。スケジュール管理、書類整理、連絡調整――全部、あなたに任せたい」
「で、でも、アタシ、字もあんまり読めないし――」
「教えるわ」
私は、ミラの手を取った。
「読み書き、計算、全部。必要なスキルは、全て教える」
「……本気?」
「本気よ」
私は、微笑んだ。
「あなたは、私の最初の仲間。そして、最も信頼できるパートナー」
ミラの目に、涙が浮かんだ。
「エリシア……」
「どう? やってくれる?」
「……うん!」
ミラが、力強く頷いた。
「やる! 絶対、やる!」
「ありがとう」
二人で、笑い合った。
窓の外、雪が降り始めていた。
でも、この部屋の中は――暖かかった。
その夜。
一人になってから、私は机に向かった。
魔鉱石を見つめながら、考える。
ルシアン=ノルディア。
冷血王と呼ばれる男。
でも、今日見たのは――違った。
鋭い知性。公正な判断力。そして、部下を評価する目。
「あなたは、どんな人なの?」
小さく呟く。
彼の過去。彼の目的。彼の夢。
何も知らない。
「でも――」
魔鉱石が、青く光る。
「きっと、これから知ることになる」
私とルシアン。
これから、どんな関係になるのか。
敵か、味方か、それとも――。
「わからないけど」
私は、書類に向き直った。
「今は、目の前のことに集中」
やるべきことは、山ほどある。
ペンを取り、計画書を書き始める。
「ノルディア復興計画、フェーズ1――」
夜は、まだ長い。
でも、私は疲れを感じなかった。
なぜなら――。
「これが、私の生きる道だから」
前世で見つけられなかった、本当の生きがい。
それを、今、この瞬間、私は掴んでいる。
窓の外、満月が雪原を照らしていた。
冷たく、美しく、そして――希望に満ちて。
遠くの王都で、私を追放した者たちは、まだ何も知らない。
極寒の辺境で、何が起きているのか。
追放された令嬢が、何を成し遂げたのか。
「いいわ」
私は、月に向かって微笑んだ。
「まだ気づかなくていい。私が本気を出すのは、これからなんだから」
ペンを走らせる音だけが、静かな夜に響いていた。
奇跡の三日間は、終わった。
でも、エリシア=ハーランドの物語は――。
今、本当の意味で、始まったのだ。
私は、できる限り身なりを整えて城へ向かった。
といっても、持っているのは追放時の囚人服と、ミラが調達してくれた古いマントだけ。
「エリシア、本当に今日行くの?」
ミラが心配そうに訊いてくる。
「まだ四日あるのに」
「早い方がいいわ」
私は、手に持った小袋を確認した。
中には、昨夜採取した魔鉱石のサンプル。親指大の青い結晶が三つ。
「それに――」
私は、城の方を見た。
「ビジネスは、タイミングが全てよ」
前世で学んだこと。成果は、最も効果的なタイミングで見せる。
早すぎず、遅すぎず。
そして今が、そのタイミング。
「じゃあ、アタシも――」
「ミラは、鉱山に残って」
私は、ミラの肩を叩いた。
「グレンさんと一緒に、採掘計画を立てておいて。私が戻ったら、すぐに動き出せるように」
「……わかった」
ミラは、不安そうな顔をしている。
「でも、気をつけてね。ルシアン様、怖いから」
「大丈夫」
私は微笑んだ。
「私だって、結構怖いのよ」
冗談めかして言ったが、ミラは笑わなかった。
「本当に、気をつけて」
「ええ」
私は、城へと歩き出した。
城の門を潜ると、衛兵が槍を構えた。
「止まれ。追放者が、何の用だ」
「辺境王に、報告があります」
私は、冷静に答えた。
「エリシア=ハーランド。一週間の試練を受けている者です」
衛兵たちが、顔を見合わせた。
「まだ四日目だろう。期限前に来るとは――」
「失敗した、と報告に来たのか?」
もう一人の衛兵が、嘲笑うように言った。
「いいえ」
私は、まっすぐ彼らを見た。
「成功した、と報告に来ました」
「……何?」
衛兵たちが、呆気にとられた顔をした。
「たった三日で、何を――」
「それは、陛下に直接申し上げます」
私は、動じずに答えた。
「取り次いでいただけますか?」
衛兵たちは迷っていたが、やがて一人が城の中に入っていった。
五分後。
「……陛下が、会うそうだ」
衛兵が、信じられない、という顔で言った。
「入れ」
私は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
城の中を進む。
三日前に通った、あの大広間。
扉が開く。
「エリシア=ハーランド、参りました」
私は、玉座の前で膝をついた。
「顔を上げろ」
ルシアンの声。
顔を上げると、彼は玉座に座ったまま、私を見下ろしていた。
銀色の瞳。
そこには、好奇心と――わずかな警戒が混じっている。
「期限より四日早いな」
「はい」
「失敗を報告しに来たのか?」
「いいえ」
私は、立ち上がった。
「成功を報告しに参りました」
ルシアンの眉が、わずかに動いた。
「三日で、何を成し遂げた?」
「これを」
私は、小袋を取り出し、中身を床に広げた。
三つの青い結晶が、朝日を受けて輝いた。
「……魔鉱石?」
ルシアンが、わずかに身を乗り出した。
「はい。ノルディア第一鉱山の、最深部で発見しました」
「あの廃鉱から?」
「ええ。そして――」
私は、彼の目を見た。
「これは、ほんの一部です。実際の鉱脈は、この千倍以上の規模です」
静寂。
ルシアンは、しばらく魔鉱石を見つめていた。
そして――玉座から立ち上がった。
「詳しく話せ」
私は、三日間の全てを報告した。
グレンとの出会い。二十人の作業員の雇用。採掘計画。そして、鉱脈の発見。
ルシアンは、黙って聞いていた。
「……信じられん」
報告が終わると、彼は呟いた。
「三十年も見つからなかった鉱脈を、たった三日で」
「グレンさんの三十年分のデータがあったからこそです」
私は、謙虚に答えた。
「私は、それを分析し、統合しただけです」
「それができる者が、どれだけいる?」
ルシアンが、私に近づいてきた。
距離が縮まる。
彼の存在感が、圧倒的に迫ってくる。
「エリシア=ハーランド」
低い声で、私の名を呼んだ。
「お前は、何者だ?」
「……追放された、令嬢です」
「嘘をつくな」
ルシアンの目が、私を射抜く。
「貴族令嬢が、鉱山開発の知識を持っているはずがない。地質を読み、人を動かし、三日で結果を出す――そんな人間は、この国に片手で数えるほどしかいない」
鋭い。
この男、本当に鋭い。
「では、陛下は何だと?」
私は、目を逸らさなかった。
「私が、何者だと思いますか?」
ルシアンは、私の顔を見つめた。
長い沈黙。
「……わからん」
彼は、わずかに笑った。
「だが、面白い」
初めて見た、本物の笑顔。
冷血王と呼ばれる男が、本当に笑った。
「エリシア、お前の価値は証明された」
ルシアンは、玉座に戻った。
「一週間の試練は、合格だ」
「ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「では、ここに留まることを許可します。そして――」
ルシアンが、側近に何か指示を出す。
側近が、一通の書類を持ってきた。
「これは?」
「鉱山の開発権だ」
ルシアンが言った。
「お前に、ノルディア第一鉱山の全権を委任する」
「え……」
予想外の展開に、私は言葉を失った。
「ただし」
ルシアンの目が、鋭くなった。
「採掘した魔鉱石の三割は、国庫に納めること。残りは、お前の自由にしていい」
三割。
計算する。それでも、十分すぎるほどの利益になる。
「……ありがとうございます」
「礼を言うのは早い」
ルシアンが立ち上がった。
「これは、試練の続きだ」
「続き?」
「そうだ」
彼は、窓の外を見た。
「鉱石を掘るだけなら、誰でもできる。だが――」
振り返る。
「それを金に変え、この国を豊かにできるか。それが、お前の本当の価値を決める」
なるほど。
これは、経営手腕を試されているのだ。
「わかりました」
私は、書類を受け取った。
「必ず、結果を出してみせます」
「期待している」
ルシアンが、わずかに笑った。
「それと――」
「はい?」
「この城に、部屋を用意させる」
「え?」
「あの廃墟では、仕事にならんだろう」
ルシアンが、淡々と言った。
「これから、お前は鉱山開発の責任者だ。相応の待遇を用意する」
「でも、私は追放者――」
「この国では、私が法だ」
ルシアンが、断言した。
「お前の過去など、どうでもいい。今、お前がこの国に必要な人材であること。それだけが重要だ」
その言葉が――。
不思議と、胸に響いた。
「……ありがとうございます」
私は、心から礼を言った。
城の一室。
案内された部屋は、質素ながらも清潔で、暖炉もある。
「三日前とは、大違いね」
窓から、街が見える。
ノルディア。
極寒の辺境。
でも、もうここは――。
「私の、戦場」
鉱山開発権の書類を、机に広げる。
次にやるべきこと。
リストアップしていく。
採掘体制の確立
品質管理システムの構築
流通ルートの開拓
商人ネットワークの構築
加工技術の開発
やることは山ほどある。
でも――。
「楽しい」
心から、そう思った。
前世では、会社の利益のために働いていた。
でも今は、違う。
この国の人々のため。
そして、私自身のため。
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
扉が開き――ミラが飛び込んできた。
「エリシア! 聞いたよ! 部屋もらえたんだって!?」
「ええ」
私は笑った。
「それに、鉱山の開発権も」
「すごい!」
ミラが飛びついてきた。
「やったね、エリシア!」
「これからよ」
私は、ミラを離した。
「ミラ、あなたに頼みたいことがあるの」
「何?」
「私の秘書になって」
「秘書?」
ミラが、きょとんとした顔をした。
「そう。これから忙しくなる。スケジュール管理、書類整理、連絡調整――全部、あなたに任せたい」
「で、でも、アタシ、字もあんまり読めないし――」
「教えるわ」
私は、ミラの手を取った。
「読み書き、計算、全部。必要なスキルは、全て教える」
「……本気?」
「本気よ」
私は、微笑んだ。
「あなたは、私の最初の仲間。そして、最も信頼できるパートナー」
ミラの目に、涙が浮かんだ。
「エリシア……」
「どう? やってくれる?」
「……うん!」
ミラが、力強く頷いた。
「やる! 絶対、やる!」
「ありがとう」
二人で、笑い合った。
窓の外、雪が降り始めていた。
でも、この部屋の中は――暖かかった。
その夜。
一人になってから、私は机に向かった。
魔鉱石を見つめながら、考える。
ルシアン=ノルディア。
冷血王と呼ばれる男。
でも、今日見たのは――違った。
鋭い知性。公正な判断力。そして、部下を評価する目。
「あなたは、どんな人なの?」
小さく呟く。
彼の過去。彼の目的。彼の夢。
何も知らない。
「でも――」
魔鉱石が、青く光る。
「きっと、これから知ることになる」
私とルシアン。
これから、どんな関係になるのか。
敵か、味方か、それとも――。
「わからないけど」
私は、書類に向き直った。
「今は、目の前のことに集中」
やるべきことは、山ほどある。
ペンを取り、計画書を書き始める。
「ノルディア復興計画、フェーズ1――」
夜は、まだ長い。
でも、私は疲れを感じなかった。
なぜなら――。
「これが、私の生きる道だから」
前世で見つけられなかった、本当の生きがい。
それを、今、この瞬間、私は掴んでいる。
窓の外、満月が雪原を照らしていた。
冷たく、美しく、そして――希望に満ちて。
遠くの王都で、私を追放した者たちは、まだ何も知らない。
極寒の辺境で、何が起きているのか。
追放された令嬢が、何を成し遂げたのか。
「いいわ」
私は、月に向かって微笑んだ。
「まだ気づかなくていい。私が本気を出すのは、これからなんだから」
ペンを走らせる音だけが、静かな夜に響いていた。
奇跡の三日間は、終わった。
でも、エリシア=ハーランドの物語は――。
今、本当の意味で、始まったのだ。
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