追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第4章:「新時代の試練」

第36話「隣国の影」

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妊娠判明から一週間。
執務室で、私は報告を受けていた。
「エリシア様、これを」
オスカーが、緊急報告書を差し出した。
「フェルディア帝国が――」
「国境付近で、大規模軍事演習を開始しました」
「軍事演習……?」
報告書を読む。
「兵力、三万」
「騎兵、歩兵、魔法部隊――全てを動員」
「演習場所は、我が国との国境から、わずか十キロ」
背筋が、凍った。
「これは……」
「威嚇です」
レオンが、地図を広げた。
「明らかに、我が国を意識しています」
「彼らの狙いは?」
「おそらく――」
オスカーが、別の資料を見せた。
「帝国の情報部によれば」
「『改革で国内が混乱している今こそ、侵攻の好機』」
「そういう意見が、帝国内で強まっているそうです」
「くそ……」
ルシアンが、拳を握った。
「改革が、弱みと見られているのか」
「陛下には?」
「すでに報告済みです」
オスカーが答えた。
「緊急会議が、今夜開かれます」

その夜、王宮の戦略会議室。
国王陛下、カイル王子、軍幹部たち、そして私。
「状況を説明する」
軍の総司令官――老将軍グレンウッドが立ち上がった。
「フェルディア帝国軍、三万が国境付近に集結」
「我が国の国境守備隊は、五千」
「圧倒的に、不利です」
「援軍は?」
カイル王子が訊いた。
「王都から二週間」
「北部から十日」
「間に合わない可能性が、高いです」
場が、重苦しくなった。
「帝国の要求は?」
国王が訊いた。
「まだ、正式な要求はありません」
外務大臣が答えた。
「ただ――」
「非公式のルートで、こういう話が」
大臣が、メモを読み上げた。
「『東部三領を割譲すれば、戦争は回避できる』」
「東部三領……!」
私は、驚いた。
「それは、エルデン、マルケス、バルトリアですか?」
「その通りです」
最も豊かな地域。
商業、農業、鉱業――全てが発展している。
「ふざけるな」
ルシアンが、怒りで震えていた。
「そんな要求、飲めるか」
「でも――」
別の貴族が、弱気な声を出した。
「戦争になれば、もっと失うかもしれない」
「三領だけで済むなら――」
「黙れ!」
ルシアンが、怒鳴った。
「領地は、ただの土地じゃない!」
「そこには、人々が住んでいる!」
「その人々を、帝国に売り渡すのか!?」
「しかし――」
「エリシア」
国王が、私を見た。
「お前の意見を聞かせてくれ」
全員の視線が、私に集まった。
「陛下」
私は、立ち上がった。
「割譲は、認められません」
「理由は?」
「第一に――人々を見捨てることになります」
「第二に――帝国に弱みを見せることになります」
「一度譲歩すれば――」
「次は、もっと大きな要求が来ます」
「では、戦うのか?」
グレンウッド将軍が訊いた。
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「まず、外交で解決します」
「外交……?」
「はい。帝国に、使節団を送ります」
「話し合いで、解決を図ります」
「だが、帝国は既に軍を動かしている」
「話し合いに、応じるか?」
「応じさせます」
私は、断言した。
「必ず、説得してみせます」
国王は、長く考えた後――。
「……わかった」
彼は、決断した。
「エリシア、お前を全権大使として派遣する」
「帝国と、交渉してこい」
「ありがとうございます」
「ただし――」
国王の目が、鋭くなった。
「もし交渉が決裂したら――」
「我々は、戦う」
「承知しました」

会議が終わった後、控室で。
「エリシア、無茶だ」
ルシアンが、私の肩を掴んだ。
「妊娠しているんだぞ」
「帝国まで行くのは、危険すぎる」
「でも――」
私は、彼を見た。
「誰かが、行かなければ」
「なら、私が行く」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「あなたは、軍の指揮が必要です」
「もし交渉が決裂して、戦争になったら――」
「あなたが、兵を率いなければ」
「だが……」
ルシアンの目に、涙が浮かんでいた。
「お前と、子供を失うかもしれない」
「大丈夫」
私は、彼の手を握った。
「必ず、帰ってきます」
「三人で」
その言葉に、ルシアンは――。
「……わかった」
彼は、私を強く抱きしめた。
「絶対に、無事で帰ってこい」
「約束する」

三日後、帝国への使節団が出発した。
私、オスカー、外務大臣、そして護衛の騎士たち。
「行ってきます」
城門で、ルシアンが見送っていた。
「待っている」
「ええ」
馬車が、動き出した。
帝国の首都まで、五日間の旅。
「エリシア様、大丈夫ですか?」
オスカーが、心配そうに訊いた。
「ええ」
私は、お腹を撫でた。
「この子も、一緒に頑張ってくれます」

五日後、帝国の首都に到着した。
「すごい……」
巨大な城壁。
聳え立つ宮殿。
「我が国より、ずっと大きいな」
オスカーが、呟いた。
「軍事大国ですから」
宮殿に案内され――。
謁見の間に通された。
玉座には――。
「ようこそ、ルネサンス王国の使者よ」
中年の男が座っていた。
フェルディア皇帝ヴァレンティン。
鋭い目。
威圧的な雰囲気。
「皇帝陛下」
私は、深く頭を下げた。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「時間の無駄かもしれんがな」
皇帝が、冷たく笑った。
「貴国の答えは、決まっているのだろう?」
「東部三領の割譲を、拒否すると」
「はい」
私は、はっきりと答えた。
「それは、認められません」
「では、戦争だな」
皇帝が、立ち上がった。
「我が軍は、すでに準備万端だ」
「三万の精鋭が、貴国の国境を破るだろう」
「待ってください」
私は、前に出た。
「なぜ、戦争なのですか?」
「なぜ……?」
皇帝が、怪訝な顔をした。
「強い国が、弱い国を征服する」
「それが、当然だろう」
「当然では、ありません」
私は、彼の目を見た。
「戦争は、多くの命を奪います」
「兵士も、民衆も――」
「誰も、幸せになりません」
「綺麗事を」
皇帝が、鼻で笑った。
「では、訊くが――」
「貴国は、改革で混乱していると聞いた」
「身分制度を廃止し、平民に権利を与えた」
「その結果――」
「国は、弱体化したのではないか?」
その言葉に、私は――。
「弱体化?」
微笑んだ。
「逆です」
「何?」
「我が国は、改革で強くなりました」
私は、データを取り出した。
「改革前と改革後の比較です」
「経済成長率――三倍」
「農業生産量――二倍」
「技術革新の数――五倍」
「そして――」
「国民の士気――計測不能なほど向上しています」
皇帝が、データを見た。
「これは……」
「今、我が国の人々は――」
私は、力を込めて言った。
「自分の国のために、戦う意志を持っています」
「なぜなら――」
「この国は、自分たちの国だからです」
「貴族だけの国ではなく」
「全ての国民の国だからです」
「だから――」
「もし貴国が侵攻すれば」
「全国民が、立ち上がります」
「貴族も、平民も、職人も、農民も――」
「全てが、一つになって戦います」
皇帝の顔が、変わった。
「それは……」
「脅しですか?」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「事実です」
「そして――」
「お願いです」
私は、深く頭を下げた。
「戦争を、避けてください」
「我々は、貴国と戦いたくありません」
「共に、繁栄したいのです」
「共に……?」
「はい」
私は、別の提案書を出した。
「経済協力協定です」
「我が国の農業技術、教育制度――」
「貴国と、共有したいのです」
「その代わり――」
「貴国の鉱山技術、魔法研究を」
「我々に、教えてください」
「互いに学び合い、成長する」
「それが――」
「真の強さではないでしょうか?」
皇帝は、長い沈黙の後――。
「……面白い」
彼は、玉座に座り直した。
「その提案、詳しく聞かせてもらおう」

三日間の交渉が、始まった。
毎日、朝から晩まで――。
農業、教育、技術、貿易――。
全てについて、話し合った。
「我が国の小麦生産技術は――」
「温室栽培により、年中生産可能です」
「ほう……」
帝国の大臣たちが、興味を示した。
「それは、我が国でも導入したい」
「では、代わりに――」
「貴国の魔法鋼の製造技術を」
「わかった」
少しずつ、合意が形成されていく。
そして――。
三日目の夜。
「協定書、署名する」
皇帝が、宣言した。
「『フェルディア=ルネサンス経済協力協定』」
「これにより――」
「両国は、協力関係を築く」
「ありがとうございます!」
私は、涙を流した。
「戦争は、回避されました」
皇帝が、私を見た。
「エリシア=ノルディア」
「お前は、面白い女だ」
「妊娠中の身で、ここまで来るとは」
「え……」
「気づいていたさ」
皇帝が、笑った。
「お前の歩き方、座り方――」
「明らかに、妊婦のそれだ」
「だから――」
「感心した」
「自分の身を顧みず、国のために働く」
「それが――」
皇帝の目が、優しくなった。
「真の指導者だ」
その言葉に、胸が熱くなった。
「ありがとうございます」

帰国の日。
「気をつけて帰れ」
皇帝自らが、見送ってくれた。
「また、会おう」
「はい」
馬車に乗り込んだ。
帝国の首都を、後にする。
「やりましたね、エリシア様」
オスカーが、嬉しそうに言った。
「戦争を、回避しました」
「みんなのおかげです」
私は、窓の外を見た。
帝国の街。
人々が、普通に生活している。
「この人たちも――」
「戦争にならなくて、良かった」
お腹に、手を当てた。
「ね?」
小さな命に、語りかける。
「あなたが生まれる世界は――」
「平和な世界よ」

五日後、王都に到着した。
城門には――。
「エリシア!」
ルシアンが、駆け寄ってきた。
「無事だったか!」
「ええ」
私は、微笑んだ。
「約束通り、帰ってきました」
「三人で」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「心配した……」
「ごめんなさい」
「でも――」
私は、協定書を見せた。
「成功しました」
「戦争は、回避されました」
その報告に、ルシアンの顔が輝いた。
「本当か!」
「はい」
城内に入ると――。
仲間たちが、待っていた。
「おかえりなさい、エリシア様!」
ミラが、泣きながら抱きついてきた。
「心配したんだから!」
「ただいま」
オスカー、レオン、ラウラ――。
みんなが、祝福してくれた。
国王陛下も――。
「エリシア、よくやった」
満足そうに頷いた。
「戦争を回避し、協力関係を築いた」
「お前は、本当に――」
「この国の宝だ」
その言葉が、嬉しかった。

その夜、寝室で。
「本当に、無茶するな」
ルシアンが、私の髪を梳きながら言った。
「妊娠中なのに」
「でも、やらなければ」
私は、鏡の中の彼を見た。
「この子のためにも」
「平和な世界を、作りたかった」
「……わかっている」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「でも、心配なんだ」
「お前と、子供を――」
「失いたくない」
「大丈夫」
私は、彼の手を握った。
「私は、強いです」
「この子も、強いです」
お腹を撫でる。
「ね?」
その時――。
「あ……」
小さな動き。
「今……」
「動いた?」
ルシアンが、驚いた顔をした。
「はい」
涙が、溢れた。
「胎動です」
「この子が――」
「応えてくれました」
ルシアンも、お腹に手を当てた。
「すごい……」
「命が、ここにいる……」
二人で、しばらく黙っていた。
幸せな沈黙。
「エリシア」
「はい」
「これから、もっと気をつけてくれ」
ルシアンの声が、優しかった。
「お前は、二人分の命を預かっているんだ」
「わかりました」
私は、微笑んだ。
「少し、セーブします」
「本当か?」
「本当です」
嘘じゃない――。
少しだけ、セーブする。
深い眠りに、落ちていった。
幸せな眠り。
安らかな眠り。
夢の中では――。
子供が、笑っていた。
平和な世界で。
幸せそうに。
「守るわ」
夢の中で、誓った。
「この平和を」
「あなたの未来を」
「必ず」
星が、輝いていた。
優しく、温かく。
未来を照らすように。
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