処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第3章「再び目覚める朝」

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評議会堂は静かだった。
円形のテーブルを囲んで、八つの椅子が並ぶ。天井は高く、ステンドグラスから色とりどりの光が差し込む。壁には歴代の王の肖像画。床は白い大理石。
セリーヌは扉の前で息を整えた。
この部屋に入るのは、何度目だろう。いや、数えるのも無意味だ。処刑される前の一年間、セリーヌはこの場所で何度も弁明した。証拠を突きつけられ、反論を封じられ、沈黙を強いられた。
今日は違う。
今日は、まだ何も始まっていない。
扉が開く。
「王女セリーヌ殿下のおなりです」
従者が告げる。セリーヌは背筋を伸ばし、部屋に入った。
全員の視線が集まる。
円卓の奥、正面の席に父王エドワードが座っていた。
セリーヌは息を呑んだ。
父だ。生きている父。
五十歳を過ぎたばかりの男。灰色がかった金髪。深い青の瞳。肩幅の広い体格。王の威厳を纏いながらも、どこか優しさを残した顔。
父はセリーヌを見て、微笑んだ。
「セリーヌ、よく来た。こちらへ」
その声。温かい声。
セリーヌは一歩を踏み出した。足が震える。涙をこらえる。
泣いてはいけない。不自然に思われる。
「父上」
セリーヌは一礼し、父の隣の席についた。
父王の右隣がセリーヌの定位置。その向かい、父王の左隣にはロベルトが座っている。
ロベルトは丁寧に頭を下げた。
「姪御、ご機嫌麗しゅう」
その声。滑らかで、礼儀正しい。表面だけは。
セリーヌは短く頷いた。視線を合わせない。見れば、怒りが溢れそうだ。
この男が全てを壊した。父を殺し、セリーヌを陥れ、国を奪った。
だが、今はまだその時ではない。
他の評議員たちも席についている。
父王の向かい、円卓の反対側中央に座るのが宰相バルド。六十歳。痩せた体。鋭い目。白髪を撫でつけた頭。常に記録簿を持っている。
その両脇に、五人の評議員。
貴族代表のグレン侯爵。商人ギルド代表のマルコ。神殿代表のシスター・アガタ。法務官ダニエル。そして軍代表のギヨーム将軍。
セリーヌは一人一人の顔を見た。
この中で、誰が裏切る?
記憶を辿る。裁判の時、誰が証言した?
グレン侯爵は中立を保った。マルコは沈黙した。アガタは神の裁きに委ねると言った。ダニエルは法に従うと述べた。ギヨームは最後まで疑問を呈していたが、証拠の前に黙った。
つまり、積極的にロベルトに加担したのは——
バルドだけだ。
あとは流された。証拠に、空気に、権力に。
「では、始めよう」
父王が手を叩いた。従者が退出し、扉が閉まる。
バルドが記録簿を開いた。
「本日の議題は三つ。第一に、北方領の税収報告。第二に、東国との通商協定の更新。第三に——」
バルドは一瞬だけ、ロベルトを見た。
「王位継承法の確認について」
セリーヌの心臓が跳ねた。
来た。
父王は眉をひそめた。
「継承法?なぜ今それを」
「陛下」
ロベルトが静かに言った。
「確認をしておくことは、決して無駄ではありません。陛下はまだお若く健康ですが、不測の事態というものは常に起こりうる」
「不測の事態など」
「先日、東の山道で山賊が出たと聞きました。陛下が視察に行かれる際、もし何かあれば——」
「縁起でもない」
グレン侯爵が口を挟んだ。
「陛下の御身に何かあるなど、考えたくもない」
「だからこそです」
ロベルトは穏やかに続けた。
「何もないうちに、法を確認し、手続きを明確にしておく。それが国の安定に繋がります」
父王は腕を組んだ。
「それで、何を確認したいのだ」
バルドが記録簿から一枚の羊皮紙を取り出した。
「継承法第三条。『王位は王の嫡子に継承される。嫡子が複数いる場合は長子を優先する。嫡子が不在の場合、王の兄弟、またはその子に継承権が移る』」
バルドは顔を上げた。
「現在、陛下には嫡子が一人。王女セリーヌ殿下のみです」
全員の視線がセリーヌに集まる。
セリーヌは表情を変えなかった。
「しかし」
ロベルトが言葉を継ぐ。
「継承法には、もう一つ条項があります。第五条。『女子が王位を継承する場合、評議会の承認を必要とする』」
沈黙。
父王が静かに言った。
「それは、形式的なものだ。セリーヌは優秀だ。民からも慕われている。承認に問題があるとは思えん」
「もちろんです」
ロベルトは微笑んだ。
「私もそう思います。ただ、手続きとして、いずれ評議会で正式に承認の決議を取る必要があるということです」
「いずれ、とは」
「陛下がお決めになることです。急ぐ必要はありません」
バルドが記録簿に何か書き込んだ。
セリーヌはその手元を見た。何を書いている?
記憶が蘇る。
裁判の時、バルドは古い記録を持ち出した。過去の事例。女王が即位した例は少なく、その多くが短命だったという記録。民が女王を認めなかったという記述。
全て、偏った解釈だった。
だが、法廷では有効だった。
「セリーヌ」
父王が声をかけた。
「お前はどう思う」
セリーヌは深呼吸した。
何を言うべきか。
前の時間軸では、セリーヌはこう答えた。「評議会の皆様が適切と判断される時に、承認いただければ」と。謙虚で、従順な答え。
だが、それが間違いだった。
主張しなければ、存在しないのと同じだ。
「父上」
セリーヌは父を見た。
「私は王家に生まれ、王の娘として育てられました。継承の責任があることは理解しています。もし評議会の承認が必要ならば、喜んでその手続きに従います」
父王は頷いた。
「よし。では——」
「ただし」
セリーヌは続けた。
「承認の基準は明確であるべきです。私の資質を問うのであれば、どのような資質が求められるのか。それを評議会で定めていただきたい」
ロベルトの目が細くなった。
バルドが顔を上げた。
「資質、ですか」
「はい。統治能力、法の知識、民政の経験。何が必要なのか。それを明確にし、私がそれを満たしているか評価していただく。透明な手続きを望みます」
グレン侯爵が感心したように頷いた。
「殿下のおっしゃる通りだ。曖昧な基準では、誰も納得できん」
マルコも同意した。
「商売でも、契約は明確にするのが基本です」
父王は笑った。
「さすが、セリーヌだ。よく言った」
ロベルトは表情を変えなかったが、その目の奥に何かが光った。
セリーヌは気づいた。
敵に、手の内を見せた。
前の時間軸のセリーヌは、何も抵抗しなかった。だから、ロベルトは油断した。陰謀をゆっくり進めた。
今、セリーヌは主張した。
ロベルトは、警戒するだろう。
だが、それでいい。
怯えて隠れているだけでは、何も変わらない。
バルドが記録簿を閉じた。
「では、次回の評議会で、継承承認の基準について議論するということでよろしいですか」
父王が頷いた。
「そうしよう。他に議題は?」
「ありません」
「では、今日はこれで終わりだ」
全員が立ち上がる。
セリーヌも立ち上がろうとした時、父が咳をした。
小さな咳。
だが、セリーヌの耳には、警鐘のように響いた。
父上。
この咳が、病の始まりだった。
最初は誰も気にしなかった。夏風邪だろうと。だが、それは毒だった。ゆっくりと効く毒。
侍医は気づかなかった。いや、気づかせなかった。
誰が?
セリーヌは父の顔を見た。父は気にした様子もなく、評議員たちと雑談している。
ロベルトが近づいてきた。
「姪御、今日は素晴らしい発言でしたね」
「ありがとうございます、伯父上」
「あなたは本当に聡明だ。父上の誇りでしょう」
その笑顔。完璧な笑顔。
セリーヌは笑顔を返した。
「伯父上のお言葉、身に余ります」
二人の視線が交わる。
一瞬。
ロベルトの目に、何かが走った。
疑念か。警戒か。
そして、消えた。
「では、また」
ロベルトは踵を返し、バルドと共に退出した。
セリーヌは息を吐いた。
始まった。
本当の戦いが、今、始まった。再試行
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