処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第13章「影の同盟」

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夜の王都は、昼とは違う顔を見せる。
裏通りに入ると、松明の光が少なく、影が深い。
セリーヌは黒いマントで顔を隠し、レオンと共に歩いた。
マリーが先導している。彼女は町の出身で、裏通りに詳しい。
「お嬢様、この先です」
細い路地を抜けると、古びた建物があった。
看板には何も書かれていない。だが、扉の前に立つ男が、こちらを見て頷いた。
「ヴィクトルが待っている。入れ」
扉が開く。
中は薄暗い酒場だった。
カウンターに数人の客。奥の席に、一人の男が座っていた。
四十代ほど。痩せた体。鋭い目。商人のような服装。
「ようこそ、王女殿下」
男は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「情報屋ヴィクトルです」
セリーヌはマントを下ろした。
「初めまして。マリーから話は聞きました」
「光栄です。どうぞ、お座りください」
三人は席についた。
ヴィクトルは酒を注いだ。
「まさか王女様がこのような場所に来られるとは」
「情報が必要なのです」
「何について」
セリーヌは慎重に言葉を選んだ。
「王弟ロベルトについて」
ヴィクトルは眉を上げた。
「ほう。危険な話題ですね」
「あなたは、情報を売る商売でしょう。金は払います」
「金はいりません」
ヴィクトルは微笑んだ。
「私は、ロベルト殿下が嫌いなのです」
セリーヌは驚いた。
「なぜ」
「昔、殿下に商売を潰されました。私は密輸業者でした。違法ですが、需要がある。ところが、ロベルト殿下が軍を使って取り締まりを強化した」
ヴィクトルは酒を飲んだ。
「私は捕まり、全てを失いました。牢屋に三年。出てきた時には、家族も去っていた」
「それで、今は情報屋に」
「ええ。復讐のためです」
ヴィクトルは真剣な顔をした。
「ロベルト殿下を引きずり下ろしたい。それが私の望みです」
セリーヌは頷いた。
「ならば、協力できるかもしれません」
「何が必要ですか」
「ロベルトの私室に侵入したい。隠し通路や、警備の配置を知りたい」
ヴィクトルは考え込んだ。
「可能です。私は元密輸業者。王宮の隠し通路は詳しい」
彼は紙を取り出し、地図を描き始めた。
「ここが王宮の東門。ここから地下通路に入れる。警備は少ない。そこを抜けると、ロベルト殿下の私室の近くに出る」
セリーヌは地図を見た。
詳細だ。
「この情報は正確ですか」
「三ヶ月前に確認しました。まだ使えるはずです」
「ありがとう」
セリーヌは地図を受け取った。
「他にも、協力者を紹介できます」
ヴィクトルは立ち上がった。
「ダミアン卿をご存じですか」
「ダミアン卿、貴族ですね」
「ええ。彼もロベルト殿下を嫌っています。領地問題で対立しました」
ヴィクトルは酒場の奥へ案内した。
隠し扉があり、その向こうに小さな部屋。
そこに、一人の男が座っていた。
五十代。がっしりした体格。軍人のような雰囲気。
「ダミアン卿、お待たせしました」
ヴィクトルが紹介した。
「こちらが王女セリーヌ殿下です」
ダミアンは驚いて立ち上がった。
「殿下、本当にご本人ですか」
「はい」
セリーヌは一礼した。
「お会いできて光栄です」
ダミアンは深く頭を下げた。
「こちらこそ。まさか殿下がこのような場所に」
「協力者を探しています」
セリーヌは真剣な顔をした。
「ロベルト伯父の陰謀を止めたい。そのために、力を貸してください」
ダミアンは席に座った。
「殿下、私は殿下を支持します。理由は二つ。第一に、ロベルト殿下は私の領地を奪おうとしました。不当な理由で」
「領地を」
「ええ。私の領地には鉱山があります。金が採れる。それを、ロベルト殿下が欲しがった。だが、私は拒否した。すると、殿下は評議会で私を訴えた。管理不行き届きだと」
ダミアンは拳を握った。
「嘘です。私は領地をきちんと治めています。ですが、バルド宰相が偽の記録を作り、私を有罪にしようとした」
「どうなったのですか」
「父王陛下が介入し、訴えは取り下げられました。ですが、私はロベルト殿下を許していません」
「第二の理由は」
「エリザベート王妃様です」
ダミアンは目を伏せた。
「王妃様は私の恩人でした。昔、私の息子が病に倒れた時、王妃様が最高の医師を手配してくださった。おかげで息子は助かりました」
「母が」
「ええ。王妃様は慈悲深い方でした。その娘である殿下を、私は守りたい」
セリーヌは胸が熱くなった。
「ありがとうございます」
「私にできることがあれば、何でもおっしゃってください」
「ダミアン卿、評議会で私を支持してくれますか」
「もちろんです」
ダミアンは力強く頷いた。
「私は、殿下が次の王にふさわしいと信じています」
「ありがとう」
セリーヌは立ち上がった。
「これから、戦いが激しくなります。危険も増します」
「覚悟しています」
ダミアンも立ち上がった。
「私には軍の経験があります。必要なら、兵を動かすこともできます」
「いえ、まだその時ではありません」
セリーヌは首を振った。
「今は、証拠を集め、法で戦う時です。武力は最後の手段です」
「賢明です」
ヴィクトルが言った。
「武力を使えば、内戦になります。それは避けるべきです」
「ええ」
セリーヌは二人を見た。
「私は法と証拠で戦います。それが、正しい道です」
三人は握手をした。
同盟が、形になった。
情報屋ヴィクトル。貴族ダミアン卿。
そして、セリーヌとレオン。
小さな同盟だが、確かな力だ。
酒場を出る時、ヴィクトルが言った。
「殿下、もう一つ情報があります」
「何ですか」
「ロベルト殿下は、東国と密約を結んでいます」
セリーヌは息を呑んだ。
「密約、とは」
「詳細は不明です。ただ、東国の使者が定期的にロベルト殿下を訪れています。夜、密かに」
「その使者の名前は」
「リー、という商人です」
リー。
マルセル商会に鉱物粉末を供給している商人。
全てが繋がった。
ロベルト、バルド、リー、そしてザイン。
東国を巻き込んだ、大きな陰謀。
「ヴィクトル、その密約の内容を調べられますか」
「試してみます。ただし、時間がかかります」
「構いません。お願いします」
セリーヌは酒場を出た。
夜空に星が輝いている。
レオンが隣を歩いている。
「殿下、大きな一歩ですね」
「ええ」
セリーヌは微笑んだ。
「味方が増えました。情報も増えました」
「ロベルトの私室への侵入も、可能になりました」
「明日の夜、実行します」
セリーヌは決意を固めた。
契約書を手に入れる。
ザインを無力化する。
そして、ロベルトの陰謀を暴く。
全ては、一歩ずつだ。
王宮に戻り、自室に入った。
セリーヌは地図を広げ、侵入ルートを確認した。
東門から地下通路。ロベルトの私室。そして脱出ルート。
全てを頭に叩き込む。
失敗は許されない。
見つかれば、全てが終わる。
だが、やるしかない。
セリーヌは地図を引き出しにしまい、ベッドに横になった。
明日の夜。
運命の夜。
成功すれば、大きく前進する。
失敗すれば、全てを失う。
だが、恐れない。
希望を捨てない。
母の言葉を思い出す。
どんなに辛いことがあっても、月は必ず昇る。
窓の外、月が輝いていた。
セリーヌは目を閉じた。
明日のために、休む。
戦いは、続く。
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