処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第25章「外からの風」

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即位承認から三日後、東国の使者が到着した。
王宮の謁見の間に、使者が通された。
東国の正式な外交官、リー・チェン。
四十代の男。鋭い目。冷たい表情。
セリーヌは父と共に、玉座に座っていた。
評議員も全員、列席している。
「リオネール王国の皆様」
リー・チェンは丁寧に頭を下げた。
だが、その目には敬意はなかった。
「東国皇帝陛下の親書をお届けに参りました」
彼は巻物を取り出した。
従者が受け取り、父王に渡す。
父が開いて読む。
顔色が変わった。
「これは」
「何が書いてあるのですか、父上」
セリーヌが聞いた。
父は巻物をセリーヌに渡した。
セリーヌは読んだ。
「リオネール王国へ。東国皇帝より。貴国はロベルトとの密約を破棄した。これは、我が国への裏切りである。よって、以下を要求する。第一に、東部領土の割譲。第二に、賠償金一千万金貨。第三に、王女セリーヌの東国への人質送還。これらを一ヶ月以内に履行せよ。さもなくば、武力行使も辞さない」
セリーヌは息を呑んだ。
最後通牒だ。
しかも、理不尽な要求。
「リー・チェン」
セリーヌは使者を見た。
「この要求は、受け入れられません」
「ほう」
リー・チェンは眉を上げた。
「なぜですか」
「第一に、密約はロベルトが勝手に結んだものです。王国の正式な合意ではありません」
「ですが、ロベルトは王弟でした。王家の一員です」
「彼は反逆者として逮捕されました。彼の行為は、王国を代表しません」
リー・チェンは肩をすくめた。
「そのような言い訳は、通用しません」
「言い訳ではありません。事実です」
セリーヌは立ち上がった。
「第二に、東部領土を割譲する理由がありません。それは我が国の土地です」
「密約の代償です」
「密約は無効です」
「我が国は、すでに準備を整えました」
リー・チェンは冷たく言った。
「兵を動員し、物資を調達し、全ては侵攻のために。それを無駄にしろと」
「それは、貴国の都合です」
「ならば」
リー・チェンは一歩近づいた。
「戦争ですか」
謁見の間が凍りついた。
セリーヌは怯まなかった。
「もし貴国が侵攻するなら、我々は戦います」
「愚かな」
リー・チェンは笑った。
「貴国の軍は、我が国の半分。勝てるはずがない」
「数だけが、戦争を決めるわけではありません」
「では、何が決めるのです」
「意志です」
セリーヌは真剣な顔をした。
「我々は、自国を守る意志があります。侵略者を許しません」
リー・チェンは鼻で笑った。
「綺麗事を。では、民が死んでも構わないのですか」
「民を守るために、戦うのです」
「矛盾していますね」
「いいえ」
セリーヌは一歩前に出た。
「今、降伏すれば、民は奴隷になります。土地を奪われ、自由を失います。それよりも、戦って自由を守る方が良い」
リー・チェンは沈黙した。
やがて、巻物を懐にしまった。
「わかりました。では、戦争です」
「いつ攻めてくるのですか」
「一ヶ月後」
リー・チェンは答えた。
「最後通牒の期限です。その日、我が軍は国境を越えます」
「わかりました」
セリーヌは頷いた。
「我々も、準備します」
リー・チェンは一礼した。
「では、戦場で会いましょう」
彼は去った。
謁見の間に、重い沈黙が流れた。
「戦争か」
父王が呟いた。
「避けられなかったのか」
「避けられませんでした」
セリーヌは答えた。
「東国は、最初から侵攻するつもりでした。密約は、口実に過ぎません」
ダミアン卿が立ち上がった。
「ならば、すぐに軍を動員しなければなりません」
「どのくらいの兵力を集められますか」
「常備軍が五千。民兵を含めれば、一万まで増やせます」
「東国は」
「ロベルト殿下の情報では、一万」
「同数か」
セリーヌは考えた。
「だが、東国は三方向から攻めてくる。我々も兵を分散させなければならない」
「不利です」
グレン侯爵が言った。
「同盟を求めるべきでは」
「どこと」
「西の王国、南の公国」
「時間がありますか」
「使者を送れば、二週間で返事が来ます」
「では、すぐに」
セリーヌは決断した。
「グレン侯爵、西の王国へ。マルコ、南の公国へ。同盟を求めてください」
「承知しました」
二人は去った。
セリーヌは地図を広げた。
東の国境。三箇所の攻撃予定地。
「ここ、ここ、そしてここ」
セリーヌは印をつけた。
「それぞれに、三千の兵を配置します」
「足りません」
ダミアン卿が言った。
「守るだけでは、勝てません」
「わかっています」
セリーヌは別の場所に印をつけた。
「ここに、予備軍を置きます。敵の主力を見極めて、そこに集中投入します」
「危険な戦略です」
「ですが、他に方法がありません」
セリーヌは真剣な顔をした。
「数で劣る我々は、機動力で勝つしかありません」
ダミアン卿は頷いた。
「わかりました。私が指揮を執ります」
「お願いします」
評議会が終わり、セリーヌは王宮のバルコニーに立った。
再び、民衆が集まっていた。
戦争の噂を聞いて、不安な顔をしている。
「民よ」
セリーヌは声を張り上げた。
「東国が、我々を侵略しようとしています」
ざわめきが起こった。
「彼らは、不当な要求を突きつけてきました。土地を奪い、金を奪い、私を人質にしろと」
怒りの声が上がった。
「ですが、私は拒否しました」
歓声。
「我々は、自由を守ります。土地を守ります。誇りを守ります」
セリーヌは拳を上げた。
「一ヶ月後、東国が攻めてきます。我々は、戦います」
「戦います!」
民衆が叫んだ。
「勝てますか」
誰かが聞いた。
「わかりません」
セリーヌは正直に答えた。
「ですが、全力を尽くします。皆さんの力が必要です」
「何をすれば」
「兵になれる者は、軍に志願してください。それ以外の者は、兵を支えてください。食料を作り、武器を作り、祈ってください」
セリーヌは民衆を見た。
「一人一人の力は小さい。ですが、集まれば大きな力になります。共に、この国を守りましょう」
民衆は歓声を上げた。
「セリーヌ様!」
「女王様!」
セリーヌは微笑んだ。
民は、味方だ。
この力があれば、戦える。
バルコニーを降りると、レオンが待っていた。
「殿下、私も戦場に行きます」
「レオン」
「私は騎士です。戦うのが務めです」
レオンは真剣な顔をした。
「殿下を守るために、敵を倒します」
「気をつけて」
セリーヌは言った。
「約束したでしょう。死なないで」
「覚えています」
レオンは微笑んだ。
「必ず、生きて戻ります」
二人は見つめ合った。
言葉は要らなかった。
互いの気持ちは、わかっていた。
夜、セリーヌは戦争の準備を進めた。
軍の配置。物資の調達。同盟の交渉。
全てを指揮する。
疲れた。
だが、休めない。
一ヶ月後、戦争が始まる。
それまでに、全てを整えなければならない。
窓の外、月が昇っていた。
母の髪飾りを触る。
「母上、見守ってください」
セリーヌは祈った。
「私は、この国を守ります」
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