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このまま順調に進めば、また同じ結末を迎える ……と、俺は気づいた。
幸福を積みすぎれば、命が尽きる。
だから、俺は“意図的な不幸”を選んだ。
――セリーヌとジュリアンを、くっつける。
一度目の人生で、二人は結婚し、幸せな家庭を築いていた。
その記憶は、今でも鮮明に残っている。
だからこそ、俺の告白がうまくいってしまった今、彼らの未来を取り戻す必要があった。
自分の幸福ポイントを減らさないためにも、そして彼らの幸せのためにも。
ジュリアンには、セリーヌの優しさと芯の強さを語った。
彼女がどれほど周囲に気を配り、どれほど自分の信念を貫いているか―― それを知る者として、彼に伝えた。
セリーヌには、ジュリアンの誠実さと騎士としての覚悟を伝えた。
彼がどれほど真っ直ぐで、誰かを守ることに命を懸けられる男か―― それを、俺の言葉で丁寧に伝えた。
だが、セリーヌは最初、戸惑っていた。
俺と付き合っているという事実が、彼女の心にブレーキをかけていたのだ。
「そんなこと……エドガーくんがいるのに……」
彼女の声は、揺れていた。 俺のことを思ってくれているのが、痛いほど伝わってきた。
だからこそ、俺は笑って言った。
「セリーヌ。俺は、君の幸せを心から願ってる」
「君とジュリアンなら、きっと素敵な未来を築ける。俺のことは……もう気にしなくていい」
「二人が互いを想っていること、俺にはちゃんと伝わってる。だから、遠慮なんてしないでほしい」 「これは、俺が選んだ道なんだ。友達二人が幸せになることが、俺にとっても一番の幸せなんだよ」
その言葉に、彼女はしばらく黙っていた。
そして、静かに頷いた。
二人は、俺の後押しもあって、次第に気持ちをはっきりと自覚していった。
最初は互いに遠慮や戸惑いもあったが、俺が背中を押したことで、ようやく素直になれたのだ。
そして、やがて正式に婚約することになる。
数年後、ジュリアンが伯爵位を継ぎ、セリーヌは、”セリーヌ・ヴァルモン伯爵夫人”となった。
一度目の人生と同じ結末。 だが、今回は違う。
俺は彼女に告白し、受け入れられたにもかかわらず、彼女を手放した。
それが、俺の幸福ポイントを減らさないためにできる最善の選択だった。
彼女の笑顔が、ジュリアンの隣で咲いているなら―― それだけで、俺の心は静かに満たされていた。
* **
そして俺は、己の道を歩き続けた。
騎士として功績を重ねる一方で、文官試験にも挑戦した。
二度目の人生で得た知識を活かし、見事に合格を果たした。
剣と知識――二つの力を併せ持つ俺は、学園内でも異例の存在となった。
騎士としての実力を認められながら、文官としての理論と判断力も兼ね備えている。
その姿は、周囲の生徒や教師たちにとって、まるで“理想の未来像”のように映っていた。
やがて、その活躍は風のうわさとなって王宮にまで届いた。
ある日、重厚な装束を纏った使者が学園を訪れ、俺の名を呼んだ。
「マルヴェール殿。王都騎士団にて、あなたの力をお借りしたい」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が静かに震えた。
驚きよりも、深い感慨が込み上げてくる。
一度目の人生では、誰にも必要とされず、居場所すらなかった。
二度目では、ようやく認められたと思った矢先に命を落とした。
そして三度目――今、俺は“必要とされる”存在になったのだ。
それは、誰かに選ばれることの喜びではない。
自分の歩んできた道が、誰かの目に届き、価値を持ったという証だった。
俺は静かに頷いた。
その瞬間、心の奥に灯ったのは、誇りでも栄光でもなく―― 穏やかな、確かな充足感だった。
幸福を積みすぎれば、命が尽きる。
だから、俺は“意図的な不幸”を選んだ。
――セリーヌとジュリアンを、くっつける。
一度目の人生で、二人は結婚し、幸せな家庭を築いていた。
その記憶は、今でも鮮明に残っている。
だからこそ、俺の告白がうまくいってしまった今、彼らの未来を取り戻す必要があった。
自分の幸福ポイントを減らさないためにも、そして彼らの幸せのためにも。
ジュリアンには、セリーヌの優しさと芯の強さを語った。
彼女がどれほど周囲に気を配り、どれほど自分の信念を貫いているか―― それを知る者として、彼に伝えた。
セリーヌには、ジュリアンの誠実さと騎士としての覚悟を伝えた。
彼がどれほど真っ直ぐで、誰かを守ることに命を懸けられる男か―― それを、俺の言葉で丁寧に伝えた。
だが、セリーヌは最初、戸惑っていた。
俺と付き合っているという事実が、彼女の心にブレーキをかけていたのだ。
「そんなこと……エドガーくんがいるのに……」
彼女の声は、揺れていた。 俺のことを思ってくれているのが、痛いほど伝わってきた。
だからこそ、俺は笑って言った。
「セリーヌ。俺は、君の幸せを心から願ってる」
「君とジュリアンなら、きっと素敵な未来を築ける。俺のことは……もう気にしなくていい」
「二人が互いを想っていること、俺にはちゃんと伝わってる。だから、遠慮なんてしないでほしい」 「これは、俺が選んだ道なんだ。友達二人が幸せになることが、俺にとっても一番の幸せなんだよ」
その言葉に、彼女はしばらく黙っていた。
そして、静かに頷いた。
二人は、俺の後押しもあって、次第に気持ちをはっきりと自覚していった。
最初は互いに遠慮や戸惑いもあったが、俺が背中を押したことで、ようやく素直になれたのだ。
そして、やがて正式に婚約することになる。
数年後、ジュリアンが伯爵位を継ぎ、セリーヌは、”セリーヌ・ヴァルモン伯爵夫人”となった。
一度目の人生と同じ結末。 だが、今回は違う。
俺は彼女に告白し、受け入れられたにもかかわらず、彼女を手放した。
それが、俺の幸福ポイントを減らさないためにできる最善の選択だった。
彼女の笑顔が、ジュリアンの隣で咲いているなら―― それだけで、俺の心は静かに満たされていた。
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そして俺は、己の道を歩き続けた。
騎士として功績を重ねる一方で、文官試験にも挑戦した。
二度目の人生で得た知識を活かし、見事に合格を果たした。
剣と知識――二つの力を併せ持つ俺は、学園内でも異例の存在となった。
騎士としての実力を認められながら、文官としての理論と判断力も兼ね備えている。
その姿は、周囲の生徒や教師たちにとって、まるで“理想の未来像”のように映っていた。
やがて、その活躍は風のうわさとなって王宮にまで届いた。
ある日、重厚な装束を纏った使者が学園を訪れ、俺の名を呼んだ。
「マルヴェール殿。王都騎士団にて、あなたの力をお借りしたい」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が静かに震えた。
驚きよりも、深い感慨が込み上げてくる。
一度目の人生では、誰にも必要とされず、居場所すらなかった。
二度目では、ようやく認められたと思った矢先に命を落とした。
そして三度目――今、俺は“必要とされる”存在になったのだ。
それは、誰かに選ばれることの喜びではない。
自分の歩んできた道が、誰かの目に届き、価値を持ったという証だった。
俺は静かに頷いた。
その瞬間、心の奥に灯ったのは、誇りでも栄光でもなく―― 穏やかな、確かな充足感だった。
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