11 / 28
11 自分を守る術
しおりを挟む
ユリウスの背が向かった先は、宮殿の庭だった。どこか暖かい風が髪を揺らす。湿気交じりのそれは、遠くで雨が降っていることを知らせていた。空を見れば、黒い雲が広がりつつある。こんな天気の日に外に出なくてもいいのに、と前に進む背中を睨みつける。
『何する気だろうね』
サーシャの肩に止まるオースが呆れたように言った。
「さあね、私にはわかんないよ」
『…ねぇ、サーシャ』
「何?」
『さっき、誰かに会った?』
「え?」
『なんか、不思議な匂いがする』
「…?あ~、さっきマルカさんに会って少し話したよ」
『マルカ?』
「メイドさんだよ。さっき友達になったの!」
『へぇ~』
「もう、へぇって。私は、同年代の友達は初めてできたから、すごく嬉しいのに」
『だからさっき、鼻歌歌ってたの?』
「鼻歌?」
『歌ってたよ。自覚なかった?』
オースの言葉に思い返してみるが、自分の行動に思い当たらなかった。サーシャが頷くと、オースは呆れたと言いたげな表情を浮かべた。
『そんなに嬉しかったんだね、友達ができて』
「うん。…そうだね。嬉しかったんだと思う」
『…そっか』
「でも、不思議な匂いはわからないな。マルカさん、香水はつけてた気もするけど、いい匂いだな~って思うくらいだし、隣にいて匂いが移るほどでもないと思うよ」
『そっか。じゃあ、マルカじゃないのかな。でも、なんか、気になるんだよね』
「スチャは、鳥の中で特に鼻がいいからね。でも…思い当たらないや。ねぇ、何が気になるの?」
『う~ん、それはわかんない。ただ、…なんとなく、嫌な気がするだけで…』
サーシャは一瞬だけ立ち止まった。微苦笑を浮かべる。再び歩き出しながら、サーシャは、肩に止まるオースに指を出した。オースはおとなしくサーシャの人差し指に飛び乗る。
腕を曲げ、サーシャはオースを自分の顔に近づけた。
『なあに?サーシャ』
「オース、もしかして、…ヤキモチ妬いてる?」
『え?』
「私に新しい友達ができたのが寂しいのかな~って」
どこか茶化すようにサーシャがそう言うと、オースは小さく首を傾げた。
『そう、なのかな?』
「なんかマルカさんのこと気にしてるみたいだったし。でも、もしそうだとしたら心配しなくていいよ。私の一番の友達はオースだから」
『うん。ありがとう、サーシャ』
「どういたしまして」
サーシャは笑みを浮かべた。それに応えるようにオースは空に飛び上がり、くるくると数回、回る。
『うわ~、雨が降りそうだけど、いい風!ねぇ、サーシャ、僕、ちょっと飛んでくる!』
「わかった」
『ユリウスの傍を離れちゃダメだよ!』
「もう、わかってるって。いってらっしゃい」
『いってきます!』
ユリウスを信頼するような言葉に、いつの間にそんな仲になったのだろうと思いながら、サーシャは遠くなるオースを見送った。
穏やかな風がオースを運ぶ。空模様は決して良いとは言えないが、それでも嬉しそうに空を飛ぶオースを見ていると、サーシャまで空を飛んでいる気になった。
「痛っ」
「それはこっちのセリフだ」
オースを見ていたため、ユリウスが止まったことに気づかなかったようである。顔を上げるとユリウスの広い背中が目の前に広がる。
「前を見て歩け」
振り返ったユリウスが低い声で言う。サーシャは誤魔化すように苦笑を浮かべた。
「すみません」
「…まあ、いい。お前、ここに立て」
ユリウスが指さした先にはきれいな薔薇の花が一面に咲いていた。ユリウスに連れられてきたのは薔薇園の前だったようで、薔薇の華やかな香りが鼻孔をくすぐる。
薔薇園の前には、ゆっくり薔薇が見られるように小さなテーブルと猫足の椅子がおいてあるカフェスペースがあった。
「何をするんですか?」
「護身術を教えてやる」
「え?」
思いもよらぬ言葉にサーシャは動きを止める。そんなサーシャを急かすように、ユリウスはサーシャの腕を掴んだ。薔薇園と向き合う形で立たせ、サーシャの背に回る。何事かと顔だけ動かし、ユリウスを見た。
「王子…?」
サーシャと並んだユリウスの背は頭一つ分高い。サーシャの背丈は決して低い方ではなかった。同年代の女性の平均身長よりやや高いくらいだ。そのサーシャが見上げる高さに、結構大きいんだな、とぼんやりとした頭で思う。
そんなサーシャにユリウスは突然、腕を回した。その反動で顔が前を向く。目の前に薔薇の美しさが広がった。
『何する気だろうね』
サーシャの肩に止まるオースが呆れたように言った。
「さあね、私にはわかんないよ」
『…ねぇ、サーシャ』
「何?」
『さっき、誰かに会った?』
「え?」
『なんか、不思議な匂いがする』
「…?あ~、さっきマルカさんに会って少し話したよ」
『マルカ?』
「メイドさんだよ。さっき友達になったの!」
『へぇ~』
「もう、へぇって。私は、同年代の友達は初めてできたから、すごく嬉しいのに」
『だからさっき、鼻歌歌ってたの?』
「鼻歌?」
『歌ってたよ。自覚なかった?』
オースの言葉に思い返してみるが、自分の行動に思い当たらなかった。サーシャが頷くと、オースは呆れたと言いたげな表情を浮かべた。
『そんなに嬉しかったんだね、友達ができて』
「うん。…そうだね。嬉しかったんだと思う」
『…そっか』
「でも、不思議な匂いはわからないな。マルカさん、香水はつけてた気もするけど、いい匂いだな~って思うくらいだし、隣にいて匂いが移るほどでもないと思うよ」
『そっか。じゃあ、マルカじゃないのかな。でも、なんか、気になるんだよね』
「スチャは、鳥の中で特に鼻がいいからね。でも…思い当たらないや。ねぇ、何が気になるの?」
『う~ん、それはわかんない。ただ、…なんとなく、嫌な気がするだけで…』
サーシャは一瞬だけ立ち止まった。微苦笑を浮かべる。再び歩き出しながら、サーシャは、肩に止まるオースに指を出した。オースはおとなしくサーシャの人差し指に飛び乗る。
腕を曲げ、サーシャはオースを自分の顔に近づけた。
『なあに?サーシャ』
「オース、もしかして、…ヤキモチ妬いてる?」
『え?』
「私に新しい友達ができたのが寂しいのかな~って」
どこか茶化すようにサーシャがそう言うと、オースは小さく首を傾げた。
『そう、なのかな?』
「なんかマルカさんのこと気にしてるみたいだったし。でも、もしそうだとしたら心配しなくていいよ。私の一番の友達はオースだから」
『うん。ありがとう、サーシャ』
「どういたしまして」
サーシャは笑みを浮かべた。それに応えるようにオースは空に飛び上がり、くるくると数回、回る。
『うわ~、雨が降りそうだけど、いい風!ねぇ、サーシャ、僕、ちょっと飛んでくる!』
「わかった」
『ユリウスの傍を離れちゃダメだよ!』
「もう、わかってるって。いってらっしゃい」
『いってきます!』
ユリウスを信頼するような言葉に、いつの間にそんな仲になったのだろうと思いながら、サーシャは遠くなるオースを見送った。
穏やかな風がオースを運ぶ。空模様は決して良いとは言えないが、それでも嬉しそうに空を飛ぶオースを見ていると、サーシャまで空を飛んでいる気になった。
「痛っ」
「それはこっちのセリフだ」
オースを見ていたため、ユリウスが止まったことに気づかなかったようである。顔を上げるとユリウスの広い背中が目の前に広がる。
「前を見て歩け」
振り返ったユリウスが低い声で言う。サーシャは誤魔化すように苦笑を浮かべた。
「すみません」
「…まあ、いい。お前、ここに立て」
ユリウスが指さした先にはきれいな薔薇の花が一面に咲いていた。ユリウスに連れられてきたのは薔薇園の前だったようで、薔薇の華やかな香りが鼻孔をくすぐる。
薔薇園の前には、ゆっくり薔薇が見られるように小さなテーブルと猫足の椅子がおいてあるカフェスペースがあった。
「何をするんですか?」
「護身術を教えてやる」
「え?」
思いもよらぬ言葉にサーシャは動きを止める。そんなサーシャを急かすように、ユリウスはサーシャの腕を掴んだ。薔薇園と向き合う形で立たせ、サーシャの背に回る。何事かと顔だけ動かし、ユリウスを見た。
「王子…?」
サーシャと並んだユリウスの背は頭一つ分高い。サーシャの背丈は決して低い方ではなかった。同年代の女性の平均身長よりやや高いくらいだ。そのサーシャが見上げる高さに、結構大きいんだな、とぼんやりとした頭で思う。
そんなサーシャにユリウスは突然、腕を回した。その反動で顔が前を向く。目の前に薔薇の美しさが広がった。
6
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる