声を聞かせて

はるきりょう

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11 自分を守る術

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 ユリウスの背が向かった先は、宮殿の庭だった。どこか暖かい風が髪を揺らす。湿気交じりのそれは、遠くで雨が降っていることを知らせていた。空を見れば、黒い雲が広がりつつある。こんな天気の日に外に出なくてもいいのに、と前に進む背中を睨みつける。
『何する気だろうね』
 サーシャの肩に止まるオースが呆れたように言った。
「さあね、私にはわかんないよ」
『…ねぇ、サーシャ』
「何?」
『さっき、誰かに会った?』
「え?」
『なんか、不思議な匂いがする』
「…?あ~、さっきマルカさんに会って少し話したよ」
『マルカ?』
「メイドさんだよ。さっき友達になったの!」
『へぇ~』
「もう、へぇって。私は、同年代の友達は初めてできたから、すごく嬉しいのに」
『だからさっき、鼻歌歌ってたの?』
「鼻歌?」
『歌ってたよ。自覚なかった?』
 オースの言葉に思い返してみるが、自分の行動に思い当たらなかった。サーシャが頷くと、オースは呆れたと言いたげな表情を浮かべた。
『そんなに嬉しかったんだね、友達ができて』
「うん。…そうだね。嬉しかったんだと思う」
『…そっか』
「でも、不思議な匂いはわからないな。マルカさん、香水はつけてた気もするけど、いい匂いだな~って思うくらいだし、隣にいて匂いが移るほどでもないと思うよ」
『そっか。じゃあ、マルカじゃないのかな。でも、なんか、気になるんだよね』
「スチャは、鳥の中で特に鼻がいいからね。でも…思い当たらないや。ねぇ、何が気になるの?」
『う~ん、それはわかんない。ただ、…なんとなく、嫌な気がするだけで…』
 サーシャは一瞬だけ立ち止まった。微苦笑を浮かべる。再び歩き出しながら、サーシャは、肩に止まるオースに指を出した。オースはおとなしくサーシャの人差し指に飛び乗る。
 腕を曲げ、サーシャはオースを自分の顔に近づけた。
『なあに?サーシャ』
「オース、もしかして、…ヤキモチ妬いてる?」
『え?』
「私に新しい友達ができたのが寂しいのかな~って」
 どこか茶化すようにサーシャがそう言うと、オースは小さく首を傾げた。
『そう、なのかな?』
「なんかマルカさんのこと気にしてるみたいだったし。でも、もしそうだとしたら心配しなくていいよ。私の一番の友達はオースだから」
『うん。ありがとう、サーシャ』
「どういたしまして」
 サーシャは笑みを浮かべた。それに応えるようにオースは空に飛び上がり、くるくると数回、回る。
『うわ~、雨が降りそうだけど、いい風!ねぇ、サーシャ、僕、ちょっと飛んでくる!』
「わかった」
『ユリウスの傍を離れちゃダメだよ!』
「もう、わかってるって。いってらっしゃい」
『いってきます!』
 ユリウスを信頼するような言葉に、いつの間にそんな仲になったのだろうと思いながら、サーシャは遠くなるオースを見送った。

 穏やかな風がオースを運ぶ。空模様は決して良いとは言えないが、それでも嬉しそうに空を飛ぶオースを見ていると、サーシャまで空を飛んでいる気になった。
「痛っ」
「それはこっちのセリフだ」
 オースを見ていたため、ユリウスが止まったことに気づかなかったようである。顔を上げるとユリウスの広い背中が目の前に広がる。
「前を見て歩け」
 振り返ったユリウスが低い声で言う。サーシャは誤魔化すように苦笑を浮かべた。
「すみません」
「…まあ、いい。お前、ここに立て」
 ユリウスが指さした先にはきれいな薔薇の花が一面に咲いていた。ユリウスに連れられてきたのは薔薇園の前だったようで、薔薇の華やかな香りが鼻孔をくすぐる。
 薔薇園の前には、ゆっくり薔薇が見られるように小さなテーブルと猫足の椅子がおいてあるカフェスペースがあった。
「何をするんですか?」
「護身術を教えてやる」
「え?」
 思いもよらぬ言葉にサーシャは動きを止める。そんなサーシャを急かすように、ユリウスはサーシャの腕を掴んだ。薔薇園と向き合う形で立たせ、サーシャの背に回る。何事かと顔だけ動かし、ユリウスを見た。
「王子…?」
 サーシャと並んだユリウスの背は頭一つ分高い。サーシャの背丈は決して低い方ではなかった。同年代の女性の平均身長よりやや高いくらいだ。そのサーシャが見上げる高さに、結構大きいんだな、とぼんやりとした頭で思う。
 そんなサーシャにユリウスは突然、腕を回した。その反動で顔が前を向く。目の前に薔薇の美しさが広がった。
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