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14 雨の音
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外の雨の音は次第に強くなってきた。風と共に雨が建物を叩く。外はもう暗かった。
『ねぇ、サーシャ。僕、あの人好きじゃないかもしれない』
マルカが部屋から出て行くとオースがそう言った。ソファーの背もたれに止まり不満げに言う。
サーシャは先ほどまでのマルカを思い出し、苦笑を浮かべた。
「ユリウス王子は、少し猫舌なの。紅茶は少し薄めが好きで、私が王子の好みの紅茶を入れると、君の入れる紅茶はおいしいね、って言ってくれて」
「着替えもね、手伝おうとするんだけど、大変だからいいよ、って」
「いつだって気にかけてくれて、本当にユリウス王子って優しよね」
キラキラと目を輝かせて、飛び出すいくつものエピソード。頬を染めながら話すその登場人物であるユリウスは、サーシャの知っているユリウスと一致しなかった。絵にかいたような「王子様」で、マルカと相思相愛であるかのようなユリウス像にサーシャは思わず首を傾げた。
ユリウスもマルカに好意を抱いているということも考えられたが、きっとユリウスは私情を挟み、厚遇するということはない。おそらく思い出補正が入っているだろうエピソードにサーシャは苦笑いを浮かべるしかなかった。
『…あれ絶対ユリウスの話じゃないと思う』
「まあ、確かに、ちょっと希望的観測、みたいのが入っている気はしたけどさ、恋は盲目って言うし」
『話、止まらないし』
「可愛いじゃない。誰かを好きで周りが見えなくなるなんて」
『…可愛くはないよね』
「可愛いよ」
『周りが見えないのは、危険だよ』
「危険って。ただ、好きなだけでしょ?そんなに言うことないじゃない」
『でもさ…』
「この話はお終いにしよ」
まだ続けようとするオースの言葉を強引に遮った。サーシャにとってはオースもマルカも大切な友達だ。だから、オースにもマルカを好きになってほしかった。
『…』
どこか不満そうなオースの表情。
「もう、そんなに嫌なら、オースがいるときはマルカさんを招き入れないようにするからさ」
確かに話しを聞いていて、必死で笑顔を作らなければならない時間はきついものがある。それでも、せっかくできた友達を大切にしたかった。
執事やメイドは相変わらずサーシャを遠巻きに見ることしかしない。自分の置かれている環境が特殊であることは十分に理解しているが、それでも、普通に話をしたかった。そんなサーシャに分け隔てなく声をかけてくれるマルカをサーシャは大切にしたいのだ。
『…わかった。嫌わないようにする。だから、部屋に入れるのは、僕がいるときだけにして』
低いトーンの声。オースはどこか険しい顔をする。サーシャしか分からないその表情にサーシャは首を傾げた。
「どうして?」
『…』
「オース?」
『サーシャはマルカのこと好き?』
「え?うん、もちろん」
『そっか』
「それがどうかした?」
『ううん。…ほら、僕もマルカのこと好きになりたいからさ。だから、マルカと会うときは僕と一緒の時にして。マルカが僕を嫌がるなら、今日みたいに離れたところにいるから』
「…なんか、オース変じゃない?」
『……やっぱり、どこか嫉妬してるのかも』
「嫉妬?」
『そう。サーシャの友達の座を奪われそうで。だから、マルカが気になるんだと思う』
「前にも言ったけど、一番の親友はオースだよ」
『ありがとう、サーシャ』
「でも、オースがマルカさんを好きになってくれるなら、それに越したことはないね。わかった。マルカさんと会うときは、オースを呼ぶようにするね」
『約束だよ』
「うん。約束ね」
雨の音が聞こえる。どこか冷たいその音色に、オースの表情が重なった。
『約束だからね』
念を押すようにもう一度そう言ったオースをサーシャは不思議そうに見ていた。
雨が風に流されて、建物を叩く音が響いた。
『ねぇ、サーシャ。僕、あの人好きじゃないかもしれない』
マルカが部屋から出て行くとオースがそう言った。ソファーの背もたれに止まり不満げに言う。
サーシャは先ほどまでのマルカを思い出し、苦笑を浮かべた。
「ユリウス王子は、少し猫舌なの。紅茶は少し薄めが好きで、私が王子の好みの紅茶を入れると、君の入れる紅茶はおいしいね、って言ってくれて」
「着替えもね、手伝おうとするんだけど、大変だからいいよ、って」
「いつだって気にかけてくれて、本当にユリウス王子って優しよね」
キラキラと目を輝かせて、飛び出すいくつものエピソード。頬を染めながら話すその登場人物であるユリウスは、サーシャの知っているユリウスと一致しなかった。絵にかいたような「王子様」で、マルカと相思相愛であるかのようなユリウス像にサーシャは思わず首を傾げた。
ユリウスもマルカに好意を抱いているということも考えられたが、きっとユリウスは私情を挟み、厚遇するということはない。おそらく思い出補正が入っているだろうエピソードにサーシャは苦笑いを浮かべるしかなかった。
『…あれ絶対ユリウスの話じゃないと思う』
「まあ、確かに、ちょっと希望的観測、みたいのが入っている気はしたけどさ、恋は盲目って言うし」
『話、止まらないし』
「可愛いじゃない。誰かを好きで周りが見えなくなるなんて」
『…可愛くはないよね』
「可愛いよ」
『周りが見えないのは、危険だよ』
「危険って。ただ、好きなだけでしょ?そんなに言うことないじゃない」
『でもさ…』
「この話はお終いにしよ」
まだ続けようとするオースの言葉を強引に遮った。サーシャにとってはオースもマルカも大切な友達だ。だから、オースにもマルカを好きになってほしかった。
『…』
どこか不満そうなオースの表情。
「もう、そんなに嫌なら、オースがいるときはマルカさんを招き入れないようにするからさ」
確かに話しを聞いていて、必死で笑顔を作らなければならない時間はきついものがある。それでも、せっかくできた友達を大切にしたかった。
執事やメイドは相変わらずサーシャを遠巻きに見ることしかしない。自分の置かれている環境が特殊であることは十分に理解しているが、それでも、普通に話をしたかった。そんなサーシャに分け隔てなく声をかけてくれるマルカをサーシャは大切にしたいのだ。
『…わかった。嫌わないようにする。だから、部屋に入れるのは、僕がいるときだけにして』
低いトーンの声。オースはどこか険しい顔をする。サーシャしか分からないその表情にサーシャは首を傾げた。
「どうして?」
『…』
「オース?」
『サーシャはマルカのこと好き?』
「え?うん、もちろん」
『そっか』
「それがどうかした?」
『ううん。…ほら、僕もマルカのこと好きになりたいからさ。だから、マルカと会うときは僕と一緒の時にして。マルカが僕を嫌がるなら、今日みたいに離れたところにいるから』
「…なんか、オース変じゃない?」
『……やっぱり、どこか嫉妬してるのかも』
「嫉妬?」
『そう。サーシャの友達の座を奪われそうで。だから、マルカが気になるんだと思う』
「前にも言ったけど、一番の親友はオースだよ」
『ありがとう、サーシャ』
「でも、オースがマルカさんを好きになってくれるなら、それに越したことはないね。わかった。マルカさんと会うときは、オースを呼ぶようにするね」
『約束だよ』
「うん。約束ね」
雨の音が聞こえる。どこか冷たいその音色に、オースの表情が重なった。
『約束だからね』
念を押すようにもう一度そう言ったオースをサーシャは不思議そうに見ていた。
雨が風に流されて、建物を叩く音が響いた。
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