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16.望まぬ結婚 その一(ソフィアside)
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結婚式の当日。
王都の大聖堂で、私とラヴィル様は結婚式を挙げました。
王族以外がこの大聖堂で挙式をするのはありません。
ラヴィル様のお父様、レーゲンブルク公爵が王族の血を引いているため例外として認められたのです。
なんでも、先代の公爵夫人が元王女様だったとか。ただし、庶子の王女なので気負う必要はないと、お兄様は笑っていました。そんなものでしょうか?庶子でも王族は王族では?と思ったものの、庶子に王位継承権はなく、正式には王族とは認められないそうです。
大聖堂での結婚式。
それも公爵家と縁戚になれると両親を始め親戚一同は大喜び。満面の笑みで、それはそれは嬉しそうに私を見ていました。
公爵家の方々は逆に冷ややかな眼差しを両親達に向けておりました。
何故でしょう?
私にもそのような眼差しを向けているような気がしました。
いえ、きっと気のせいですわ。だって、私が望んだ結婚ではありませんもの。
挙式が終わり、王都の公爵邸での寝室。
これから初夜を迎えるのかと思うと不安しかありません。
今まで交流らしい交流を持てなかったのに、いきなり初夜など……本当に大丈夫なのでしょうか?
その前に、私はラヴィル様のことを何も知りません。
婚約期間の二年。
彼は一度も手紙を送ってくださることはなく、会いにきてくださることもなかった。
初対面ではない。ただそれだけの相手。
初合わせで挨拶をした程度の相手です。
顔見知りですらない。
「ソフィア嬢、これを」
「これは?」
「気分を落ち着かせるのに良い。果実酒だ」
「ありがとうございます」
グラスに入った果実酒。
ラヴィル様はそれを私に手渡すと、ご自分もグラスを持ちました。
「乾杯しよう」
「はい……」
チーンという澄んだ音が部屋に響きます。
お酒を飲み終わると、ラヴィル様は「少し話しをしようか」と言いました。
「はい」と答える以外、私には選択肢がありません。
「ソフィア嬢、私の身分は知っているかい?」
「公爵家のご子息ですわ」
「そうだね。ただし、私は嫡子ではない。庶子だ。本来なら跡取りになれない存在だ。嫡出の弟達の予備として生かされている存在でもない」
淡々と話すラヴィル様の表情は冷ややかなままです。
冷たい眼差しを私に向けています。
なんだか責められているような気分になるのは何故でしょう?
「元々、僕は母の実家で暮らしてね。公爵家とは無縁の生活を送っていたよ。勿論、公爵閣下は父親として養育費は払ってくれた。……でもそれだけだ。金だけ母の実家に渡して、僕は父と交流したことはない。母が言うには僕が幼い頃はそれなりに交流があったらしいが、僕が物心つく頃には全くなかった。だから本当かどうか怪しいと思っているよ。まぁ、その頃には父の正妻が跡取りの弟達を産んでいたからね。もしかしたら本当なのかもしれない」
なんと答えていいのか分かりませんでした。
あまりにも淡々と話されるので、ラヴィル様が悲しんでいるのか、それともただ事実を話しているだけなのか……よく分からなかったのです。
「公爵閣下は母と切れることはなかったようだが、関係を持つのは専らホテルだったようでね。閣下が母の実家に訪れることは僕の知る限りなかったと思うよ。母はね、未婚で公爵の愛人になった。しかも公爵が婚約者の女性と結婚する前に僕を産んでる。僕の存在は貴族の中でありえないことだった。それでも僕は閣下に認知されてはいるけれどね。まぁ、僕は父親によく似ている容貌だからそれも仕方がなかったと思うよ」
どうしましょう。聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がします。
「未婚のまま子供を産んで、公爵の愛人になった子爵令嬢に結婚相手が現れるはずもない。お陰で今も母は独身のままだ。それも未婚の愛人としてね。馬鹿げているだろう?母は選択を間違えた。僕を産んだ後に公爵家に直訴して結婚相手を斡旋してもらうべきだった。そうすれば公爵家の寄子貴族と結婚できたかもしれない。もしくは公爵家の派閥貴族を紹介してもらえたかもしれない。誰であれ、貴族夫人としての地位は確保できただろうし、貴族としてそれなりの暮らしができたはずなんだ。だけどそうはしなかった。母は父に拘ったんだ。きっと子供さえ生めば父が自分を選ぶと思っていたんだろうね。いや、正妻に子供が生まれたら離婚して自分が後釜に座れるとでも思っていたのかもしれない。浅はかだ」
吐き捨てるように言うラヴィル様。
底冷えのする冷たい眼差しは、私に向けられたものでした。
「ラヴィル様……?」
「僕が公爵家を受け継ぐことできたとしても父は母とは結婚しない。それが分ってなかった。父の奥方は母なんかとは比べものにならないくらい綺麗で教養のある方でね。その上、高貴なる方のご寵愛まで受ける身になった。父よりも立場が上になったんだ。笑える話しだ。そのせいで母の実家は没落。僕の養育費は全て伯父一家の生活費と借金返済に消えていったよ。それでも何とか王立大学を主席に卒業したっていうのに。それが突然、公爵家にこい、王家が決めた相手と結婚しろ、だ。全く冗談じゃない」
感情のない声音。
けれど、瞳には憎悪とも……嫌悪とも、とれる感情が宿っていました。
その瞳に射竦められて……私は動けませんでした。
王都の大聖堂で、私とラヴィル様は結婚式を挙げました。
王族以外がこの大聖堂で挙式をするのはありません。
ラヴィル様のお父様、レーゲンブルク公爵が王族の血を引いているため例外として認められたのです。
なんでも、先代の公爵夫人が元王女様だったとか。ただし、庶子の王女なので気負う必要はないと、お兄様は笑っていました。そんなものでしょうか?庶子でも王族は王族では?と思ったものの、庶子に王位継承権はなく、正式には王族とは認められないそうです。
大聖堂での結婚式。
それも公爵家と縁戚になれると両親を始め親戚一同は大喜び。満面の笑みで、それはそれは嬉しそうに私を見ていました。
公爵家の方々は逆に冷ややかな眼差しを両親達に向けておりました。
何故でしょう?
私にもそのような眼差しを向けているような気がしました。
いえ、きっと気のせいですわ。だって、私が望んだ結婚ではありませんもの。
挙式が終わり、王都の公爵邸での寝室。
これから初夜を迎えるのかと思うと不安しかありません。
今まで交流らしい交流を持てなかったのに、いきなり初夜など……本当に大丈夫なのでしょうか?
その前に、私はラヴィル様のことを何も知りません。
婚約期間の二年。
彼は一度も手紙を送ってくださることはなく、会いにきてくださることもなかった。
初対面ではない。ただそれだけの相手。
初合わせで挨拶をした程度の相手です。
顔見知りですらない。
「ソフィア嬢、これを」
「これは?」
「気分を落ち着かせるのに良い。果実酒だ」
「ありがとうございます」
グラスに入った果実酒。
ラヴィル様はそれを私に手渡すと、ご自分もグラスを持ちました。
「乾杯しよう」
「はい……」
チーンという澄んだ音が部屋に響きます。
お酒を飲み終わると、ラヴィル様は「少し話しをしようか」と言いました。
「はい」と答える以外、私には選択肢がありません。
「ソフィア嬢、私の身分は知っているかい?」
「公爵家のご子息ですわ」
「そうだね。ただし、私は嫡子ではない。庶子だ。本来なら跡取りになれない存在だ。嫡出の弟達の予備として生かされている存在でもない」
淡々と話すラヴィル様の表情は冷ややかなままです。
冷たい眼差しを私に向けています。
なんだか責められているような気分になるのは何故でしょう?
「元々、僕は母の実家で暮らしてね。公爵家とは無縁の生活を送っていたよ。勿論、公爵閣下は父親として養育費は払ってくれた。……でもそれだけだ。金だけ母の実家に渡して、僕は父と交流したことはない。母が言うには僕が幼い頃はそれなりに交流があったらしいが、僕が物心つく頃には全くなかった。だから本当かどうか怪しいと思っているよ。まぁ、その頃には父の正妻が跡取りの弟達を産んでいたからね。もしかしたら本当なのかもしれない」
なんと答えていいのか分かりませんでした。
あまりにも淡々と話されるので、ラヴィル様が悲しんでいるのか、それともただ事実を話しているだけなのか……よく分からなかったのです。
「公爵閣下は母と切れることはなかったようだが、関係を持つのは専らホテルだったようでね。閣下が母の実家に訪れることは僕の知る限りなかったと思うよ。母はね、未婚で公爵の愛人になった。しかも公爵が婚約者の女性と結婚する前に僕を産んでる。僕の存在は貴族の中でありえないことだった。それでも僕は閣下に認知されてはいるけれどね。まぁ、僕は父親によく似ている容貌だからそれも仕方がなかったと思うよ」
どうしましょう。聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がします。
「未婚のまま子供を産んで、公爵の愛人になった子爵令嬢に結婚相手が現れるはずもない。お陰で今も母は独身のままだ。それも未婚の愛人としてね。馬鹿げているだろう?母は選択を間違えた。僕を産んだ後に公爵家に直訴して結婚相手を斡旋してもらうべきだった。そうすれば公爵家の寄子貴族と結婚できたかもしれない。もしくは公爵家の派閥貴族を紹介してもらえたかもしれない。誰であれ、貴族夫人としての地位は確保できただろうし、貴族としてそれなりの暮らしができたはずなんだ。だけどそうはしなかった。母は父に拘ったんだ。きっと子供さえ生めば父が自分を選ぶと思っていたんだろうね。いや、正妻に子供が生まれたら離婚して自分が後釜に座れるとでも思っていたのかもしれない。浅はかだ」
吐き捨てるように言うラヴィル様。
底冷えのする冷たい眼差しは、私に向けられたものでした。
「ラヴィル様……?」
「僕が公爵家を受け継ぐことできたとしても父は母とは結婚しない。それが分ってなかった。父の奥方は母なんかとは比べものにならないくらい綺麗で教養のある方でね。その上、高貴なる方のご寵愛まで受ける身になった。父よりも立場が上になったんだ。笑える話しだ。そのせいで母の実家は没落。僕の養育費は全て伯父一家の生活費と借金返済に消えていったよ。それでも何とか王立大学を主席に卒業したっていうのに。それが突然、公爵家にこい、王家が決めた相手と結婚しろ、だ。全く冗談じゃない」
感情のない声音。
けれど、瞳には憎悪とも……嫌悪とも、とれる感情が宿っていました。
その瞳に射竦められて……私は動けませんでした。
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