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番外編
1.甥の死
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甥が死んだ。
それも二人も。
なのに全く悲しくない。
これっぽちも心が痛まなかった。
寧ろ、あの場所で半年もよくもった、と感心した。
甘ったれのクソガキ二匹。
一ヶ月も待たずに根を上げると思っていた。
実の甥に対する感情でないことは百も承知だ。
もっとも、甥の二人も叔父である私のことなどなんとも思っていないだろうがな。
私の名前は、フル―ム・シャトール。
シャトール侯爵家の当主だ。
私には五歳上の姉がいる。
病弱な母に代わって家を切り盛りしていた。
そんな姉に、私は幼い頃から憧れていた。
美しくて優しい姉は、私の自慢だった。
私は姉が怒ったり、我が儘を言ったり、泣いたりしている姿を、一度たりとも見たことがなかった。
使用人にも分け隔てなく優しく接する姉は、屋敷の誰からも好かれていた。
幼い頃から淑女として完璧だった姉は、貴族の子女の手本だった。
父が姉に期待をかけるのは当然だった。
姉の婚約は早々に決まった。
相手は、レーゲンブルク公爵家の嫡男だった。
姉より二つ年上。
悔しいが姉の隣に立っても見劣りしない美丈夫だった。因みに頭も良い。スラリと伸びた背は、悔しいが抜くことができなかった。
姉は幼い頃から、婚約者であった公爵令息に恋をしていた。
公爵令息も姉のことを好ましく思っているようで、二人は仲睦まじかった。
二人は両家の親が決めた婚約だったが、幸せそうだった。
姉が幸せならそれでいい。私は姉を心から祝福した。
だからといって、公爵子息の定期的な調査は止めないが。
勿論、姉や公爵子息には秘密だ。
父は気付いているが黙認してくれている。
それが良かったのか悪かったのか……
私的には、知らないでいるよりも知っていた方がずっといい。
公爵子息は、姉を裏切った。
それも最悪の形で。
二十年前――
「こ……これは……」
調査報告書に、公爵子息が友人の妹と関係を持っている、と書かれていた。
「どこの雌だ?……ん?子爵令嬢?」
驚いた。
未婚の令嬢とは。
相手の令嬢に婚約者らしき存在は見当たらない、とあるが。
そういう問題じゃないだろう!?
親は知らないのか!?
それとも子爵家だからか?
今は昔ほど厳しくないとはいえ、貴族令嬢の処女性はかなり重視される。
貞淑な妻を求めている貴族は多い。
まぁ、婚約者同士の場合は「いずれ結婚するのだから」と大目に見られてはいるが。
結婚前の令嬢が未婚の、しかも婚約者でもない男と関係を持つなど言語道断。
私は更に調査報告書を読み進める。
「これは……流石に……」
最悪だ。
子ができた、だと?
相手の令嬢は子供を下ろす気配がない。ということは産むつもりか。
父に報告しなければならない。
婚約者がいながら結婚前に庶子を儲ける。立派な不貞行為だ。
すぐさま父の執務室に向かった。
怪訝な顔で私を迎えた父に、報告書を見せた。
調査報告書を読んでいく父の顔が、険しいものに変わり、次に怒りに染まっていく。
普段は温厚な父だが、怒るととんでもなく怖い。
だが、これで姉と公爵子息との婚約は解消される――――と、この時はそう信じていた。
姉は予定通り結婚した。
レーゲンブルク公爵家の嫡男と。
王都の、それも王族のみが使用できるとまで言われた大聖堂で、盛大な式が執り行われた。
結婚を機に、レーゲンブルク公爵は嫡男に家督を譲り、領地に引っ込んでしまった。
姉は、レーゲンブルク公爵夫人として社交界に君臨した。
結婚生活は順調のようで、姉はすぐに懐妊し、双子の男児を出産した。
「妊娠中に太り過ぎてしまったわ。元の体形に戻すのに一苦労よ」と、姉は笑っていた。
半年後、姉は社交界に復帰した。
ただし、その横で笑っている男性は義兄ではない。
この国で最も高貴なる人。
国王陛下にエスコートされ、嫣然として微笑んでいる姉の姿は誰よりも美しかった。
それも二人も。
なのに全く悲しくない。
これっぽちも心が痛まなかった。
寧ろ、あの場所で半年もよくもった、と感心した。
甘ったれのクソガキ二匹。
一ヶ月も待たずに根を上げると思っていた。
実の甥に対する感情でないことは百も承知だ。
もっとも、甥の二人も叔父である私のことなどなんとも思っていないだろうがな。
私の名前は、フル―ム・シャトール。
シャトール侯爵家の当主だ。
私には五歳上の姉がいる。
病弱な母に代わって家を切り盛りしていた。
そんな姉に、私は幼い頃から憧れていた。
美しくて優しい姉は、私の自慢だった。
私は姉が怒ったり、我が儘を言ったり、泣いたりしている姿を、一度たりとも見たことがなかった。
使用人にも分け隔てなく優しく接する姉は、屋敷の誰からも好かれていた。
幼い頃から淑女として完璧だった姉は、貴族の子女の手本だった。
父が姉に期待をかけるのは当然だった。
姉の婚約は早々に決まった。
相手は、レーゲンブルク公爵家の嫡男だった。
姉より二つ年上。
悔しいが姉の隣に立っても見劣りしない美丈夫だった。因みに頭も良い。スラリと伸びた背は、悔しいが抜くことができなかった。
姉は幼い頃から、婚約者であった公爵令息に恋をしていた。
公爵令息も姉のことを好ましく思っているようで、二人は仲睦まじかった。
二人は両家の親が決めた婚約だったが、幸せそうだった。
姉が幸せならそれでいい。私は姉を心から祝福した。
だからといって、公爵子息の定期的な調査は止めないが。
勿論、姉や公爵子息には秘密だ。
父は気付いているが黙認してくれている。
それが良かったのか悪かったのか……
私的には、知らないでいるよりも知っていた方がずっといい。
公爵子息は、姉を裏切った。
それも最悪の形で。
二十年前――
「こ……これは……」
調査報告書に、公爵子息が友人の妹と関係を持っている、と書かれていた。
「どこの雌だ?……ん?子爵令嬢?」
驚いた。
未婚の令嬢とは。
相手の令嬢に婚約者らしき存在は見当たらない、とあるが。
そういう問題じゃないだろう!?
親は知らないのか!?
それとも子爵家だからか?
今は昔ほど厳しくないとはいえ、貴族令嬢の処女性はかなり重視される。
貞淑な妻を求めている貴族は多い。
まぁ、婚約者同士の場合は「いずれ結婚するのだから」と大目に見られてはいるが。
結婚前の令嬢が未婚の、しかも婚約者でもない男と関係を持つなど言語道断。
私は更に調査報告書を読み進める。
「これは……流石に……」
最悪だ。
子ができた、だと?
相手の令嬢は子供を下ろす気配がない。ということは産むつもりか。
父に報告しなければならない。
婚約者がいながら結婚前に庶子を儲ける。立派な不貞行為だ。
すぐさま父の執務室に向かった。
怪訝な顔で私を迎えた父に、報告書を見せた。
調査報告書を読んでいく父の顔が、険しいものに変わり、次に怒りに染まっていく。
普段は温厚な父だが、怒るととんでもなく怖い。
だが、これで姉と公爵子息との婚約は解消される――――と、この時はそう信じていた。
姉は予定通り結婚した。
レーゲンブルク公爵家の嫡男と。
王都の、それも王族のみが使用できるとまで言われた大聖堂で、盛大な式が執り行われた。
結婚を機に、レーゲンブルク公爵は嫡男に家督を譲り、領地に引っ込んでしまった。
姉は、レーゲンブルク公爵夫人として社交界に君臨した。
結婚生活は順調のようで、姉はすぐに懐妊し、双子の男児を出産した。
「妊娠中に太り過ぎてしまったわ。元の体形に戻すのに一苦労よ」と、姉は笑っていた。
半年後、姉は社交界に復帰した。
ただし、その横で笑っている男性は義兄ではない。
この国で最も高貴なる人。
国王陛下にエスコートされ、嫣然として微笑んでいる姉の姿は誰よりも美しかった。
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