愛のかたち

凛子

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 翌日、野上のオフィスを訪れた彩華は、自分が場違いなところに来てしまったのではないかと戸惑った。
 ビルの高層階にある広々としたワンフロアのオフィスは、まるでお洒落なカフェのような雰囲気だった。インテリア雑貨や家具を扱っているだけあって、室内の照明、テーブル、ソファー、ラック、いたるところにある小物までもが全てお洒落で、彩華は目を奪われた。
 そして何より一番驚いたのは、入ってすぐに目を見張るような大きなキッチンがあったことだ。その周りで、社員と思われる男性数人がノートパソコンを広げてコーヒーカップを傾けていた。ヒーリング系BGMまで流れている。正に、カフェそのものだった。

「ここ、オフィスですよね?」

 彩華は呆気にとられていた。

「そうだよ。なかなかいいだろ?」

 野上が笑う。

「色々拘ってデザインしたんだよ。二十名程の少ない社員だから、アットホームな感じがいいなと思ってさぁ。うちに来てくれた時点で、俺はもう家族だと思ってるからね。隔たりを作りたくないし、コミュニケーションがとりやすいようにワンフロアにしたんだけど、当然ながらここには俺もいるわけで……見通しが良すぎて俺に監視されてるような気になるんじゃ仕事が遣りづらいかな、とかも考えて、所々パーテーションで仕切ったブースなんかも作ってみたりね」

 彩華は頷きながら聞いていた。

「キッチンを作ったのもそうなんだ。キッチンって、自然と人が集まるだろ? 家庭でもそうだと思うんだ。うちの社員も、集中したい時は個室ブースに移動したりバラけて仕事してるけど、結局ここが落ち着くのか、いつの間にかまた自然と集まってるよ」
「へえー」

 と言ったまま、開いた口がなかなか塞がらなかった。社員を一番に考えている辺りが、さすが野上だと感心した。
 キッチンにあるコーヒーメーカーで二杯分淹れると、野上に促されカウンターに二人で腰を下ろした。

「本当に素敵なキッチンですね。すごく綺麗に使われてるみたいだし」

 キッチンを眺めていた彩華が野上に視線を向けると、野上がフッと笑った。

「俺の勝手なイメージでさぁ、ここで社員達と料理して一緒に食事しながら和気あいあいと出来たらな……ってのがあったんだよ」
「そんな会社、素敵ですねぇ」

 楽しそうな光景が目に浮かぶ。

「ところがさぁ……誰も大して料理なんてできないんだよね」

 プッと吹き出した野上が大きな口を開けてケラケラと笑った。

「一応食事代として、一日千円支給してるんだけど、女性社員は弁当作ってきてるみたいだし、うちの男連中は外には食べに行かず、簡単なもんで済ませる奴ばっかりなんだよね。すぐそばにあるコンビニで弁当とかカップ麺なんかを買ってきて、ここで食べてるよ。キッチン使うのは、カップ麺の湯を沸かす時くらいじゃないかな」
「男性は案外みんなそんなものかもしれないですよ」
「そうかなぁ……俺としては、うちの社員には食事で健康管理もしっかりしてほしいんだけどね」

 そう言うと、野上は腕時計に目を遣った。
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